異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-50 強敵

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 しばしの休憩の後、私達は再び王宮内を進軍した。

 予想外に人数が増えたので分配量も増え、アイテムも収納にある物は手持ち量の半分を切った。

 前に作った物もまだかなり残っていたから、今回作った物と合わせて結構な量があったのにな。

 あまりにも消耗が激し過ぎるせいだ。
 おかげで、まだ一緒にいる人達の中に死者は出ていないのだが。

 望外の戦力が増強出来たのはいいが、その辺りが割引となる状況だった。

「魔物一体を撃破しましたので、それは向こうのテイマーには理解出来たでしょうから、一体は第二王子の部屋まで後退したと推定します。

 残りの魔物がどこにいるか、またリュール隊長が率いる部隊がどこにいるものか。

 おそらく積極的に第二王子を攻めに行っているのではないかと思うのですが、おそらく守りには一番手強い魔物を守りに付けている事が予想されます」

 ハッサン小隊長の見解は、そういうものだった。

 なるほど奇襲を食らった不利な状況だから、普通はそうするわけか。
 あの王子も自分が父である国王から完全に見捨てられた事を知った訳だから。

「じゃあ我々もそっちへ行って、リュール隊長達の補給やケアをしつつ、共に協力してそこにいる魔物を撃破してから第二王子を討った方がいいという訳ですか?」

「あくまで推定ですがね。
 それは行ってみないとなんとも。

 あと、残りの一体を先に倒しておかないといけないかもしれません。
 迂闊に強力な魔物の挟撃を食らって全滅しても嫌ですしね」

「そろそろ応援部隊が来る頃かしら」

「かもしれませんが、現在時刻的にも過大な期待はよしましょう。
 とりあえず偵察を出しつつ行ってみましょう」

 通常の兵士などはむやみに寄越さないはずだ。
 強力な魔物が相手なので、むしろ高位の冒険者の方がいいらしいし。

 もうB級映画の世界だなあ。
 軍の精鋭部隊か騎士団の方がまだいいんだろう。

 夜間の極秘電撃作戦、しかも王家主催の王族暗殺だったので、情報も秘匿されていた。

 そういう人員を、事前に通達もなくある日突然、いきなり真夜中に急遽動かそうというのは絶対に無理がある。

 少なくとも、分単位では動かないだろう。
 やる事がやる事だけあって、王宮でかなり人払いが出来ていただけ、まだマシな状態だ。

 他の王族は戦闘に巻き込まれないように前もって避難していたろうし。

 私達は真っ直ぐに第二王子の居室を目指したが、突如として背後の石の天井が一瞬にして崩れた。

 振り向いた回復魔法士の女性連から悲鳴が上がった。
 なんともう一体の魔物が王宮の天井を突き抜けてバックを取ったのだ。

「ええい、非常識な奴め。
 魔物のくせにダンジョンの壁を壊して背後に回り込むんじゃない」

 だが、私が地球の常識からそんな事を言ったって無駄だ。
 ここは、ただの王宮であって不破壊オブジェクトで構成されるゲームの中のダンジョンではないのだ。

 こちらがイニシアチブを握っていたため、少々殿の守りが薄かった。

 今度はこっちが奇襲を食らって、奴のまるで触手のような細いが丈夫そうな妖怪のような手が、二人の殿を務めていた騎士を薙ぎ払って吹き飛ばした。

 殺すためではなく、瞬間的に戦闘力を奪うようなやり方だ。
 こいつは戦いという物を知っている!

 あの触手は、まさにこういう戦いをするために備わっているものだった。

 さっきの魔物は、どちらかというと実直なタイプで、敵を探し求めて狩り、真正面から叩き潰すタイプだった。

 だが、こいつは違う。
 特殊部隊のワンマンアーミーみたいに手強い奴だ。

 突如として無防備に敵の奇襲に晒された後方の非戦闘員。
 思わず私も顔を引き攣らせたが、だが前方の騎士が動くよりも先にチュールが動いた。

『下がって、サヤ』

 そして奴の触手が、前に躍り出たチュールを払いのけ……られなかった。
 弾いたのだ。

 これはチュールのスキル!
 そう、この子は防御スキルの使い手である、一種の盾魔物。

 続いて飛んできた、さっきの魔物のものよりも強力なブレス。
 こんな物を背後から真面に食らったら、回復魔法士が全滅しちゃう!

 だが、チュールの盾はそれをあっさりと防いだ。
 熱波さえも通さない。

 その間に精鋭の騎士がズラっと待機して時を待った。
 指示されなくても戦い方は心得ている。
 さすがは精鋭だけの事はある。

 かなりの時間放射されたブレスも、必然的に止んだ。
 文字通りクールタイムの訪れだ。

 そこでチュールは盾を解除し、後方の私の頭の上にポンっと飛んだ。

 それを合図に飛び出していく騎士達。
 この空気の読みは、いかにも精鋭らしくて素晴らしい。

 チュールも人間との連携には慣れており、わかりやすく行動で示して、初めて組む人間に上手にタイミングを読ませる。

 だが、殺到した騎士達から苦渋の声が滲む。
 なんとか魔物を少しは押し込んだものの、文字通り刃が立たない。

 こちらが攻めている間は敵のブレスは牽制できる。
 しかし!

「くそ、なんという硬さだ。
 まるでドラゴンじゃないか。
 駄目だ、我々は基本対人用の武器しか持ってきていないのだからな!」

「高位の冒険者に来てもらいたいところだが、連中だっていきなり呼ばれたってこれやせん」

 くー、つくづく面倒な魔物だな。
 どうしよ、これ。

 リュール達だって、アイテム切れを起こしていたら全滅しちゃう。
 一番強い本命チームがね~。

 だが、なんかいきなり野太い裂帛の気合が、あらぬ方向から響いてきた。
 それは即ち……。

「ふんっ」

 いきなり、猿蟹合戦のうすのように落ちて来た『騎士団長』が奴の脳天に刺さっていた。

 それは弱点を守るかの如くに小さく、また一際堅固な代物だったが、その固そうなヘルメット状の頭部を大きな剣で貫いていた。

 というか、騎士団長ったら自分の体重をかけてピンポイントでそこに大剣を捻じ込んでいたのだ。

 そして逞しきその体重を落下の勢いに乗せてかけながら、さらに圧倒的な筋肉量から溢れ出る剛力で無理やりに捩じった。

 まるで、ヤクザの親分をチンピラがドスでぶっ刺して、捩じって止めを刺すが如くに。

 なるほど、確かにこいつ相手には有効な手立てだわ。
 それをやれる強力な武器と、それを操る強力な戦士の組み合わせという限定条件が必要だけど。

 しかも、それに奇襲というトッピングを添えてくれたのが、このバルカム・グランダースという、髭の似合うイケオジなおっさんなのだった。

 髭渋オジ、やる時はやるじゃん。
 伊達に騎士団長なんか務めているんじゃないんだなあ。

「「「騎士団長」」」

「済まん、お前ら。遅くなったな」

 いやいや、最高のタイミングでしたわ。

 哀れ、その魔物は自分で開けた大穴から奇襲を食らって仕留められるという無様過ぎる最期を遂げたのだった。

 いやいや、あんたマジで十分に強かったよ。
 少なくとも、思わずうちら数十人のチームが全員死を覚悟して絶望するくらいには。
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