異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-47 合流

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「魔物はどういう動きをしているのかな。

 襲われた側の第二王子の防衛に徹するために魔物を使って付近の通路を潰して、態勢の立て直しを図っているのか。
 それとも」

 私としても本当に困ってしまう。
 この状態では私が全部隊の命綱みたいなものなんだけど、無理な事をしようとしてもこの非戦闘を前提にしたチームではなんともならない。

 隠れて応援を待ってもいいのだけれど、それも……。

「あるいは、積極的に魔物を動かして襲撃部隊を全滅させようとしているのか。
 それならば、まだ迂回して他のチームに合流する手もあるが。
 却って、じっとしていると狩られる事になりかねないが」

「とにかく、うちみたいな非戦闘員を主体にした集団は辛いよね。
 騎士さんも人数が少ないのに非戦闘員を守らないといけないから、逃げ出す時に盾になるのが精一杯だろうし。

 それも強力な回復魔法を自前で使え、騎士達に持たせる聖水も収納に持っているサヤがいるからこそ強引に出来る話で」

「ああ、うちはまだサヤがいるからいいが、他の襲撃チームはもう回復アイテムが切れかかっているんじゃないのか」

「ええ、それがあるから私も早く彼らと合流したいのだけど。
 収納に聖水なんかのアイテムを持っている私が後方から動けないと彼らも困ってしまう。

 こうなると聖水以外の補給も必要になるのだし。
 一応、そういう準備もある程度は私が自主的にしてきましたが。
 基本的に今夜は電撃作戦だから、みんな持久戦は想定していないと思うよ」

 とにかく情報が欲しい。
 状況がどうなっているのか。
 他の部隊や増援部隊の動向など。

「ああ、こんな事態は誰も想定していないし、まさか王宮の中で体制側が困窮する事になるのは想定外だ」

「近衛部隊も、アレが相手じゃ迂闊に出られないわよ。
 あの人達にサヤの聖水は供給されていないんだもの。
 冒険者達にもね。
 まずうちと合流して、特製の聖水を受取ってからでないと、あの人達にはどうしようもない」

 だが、騒ぎは向こうからやってきた。
 悲鳴と苦名が入り混じり、こちらへ近づいてくる。

「う、ワンチームが追われてこちらへ戻ってきたか。
 魔物の奴め、これは守りではなく明らかに攻めにかかってきているな」

「情報の方から攻めて来ましたね。
 ようし、ここは一つ試してみるかあ」

「サヤ、何をする気だ?」

「あの人達をうちのチームにスカウトしましょう!
 少しリスクを負います。
 ブレスを呼び込んでしまうといけないので、他の方はそこの角の向こうに下がってください。

 ここは狭いので、そっちまで入れないでしょう。
 流れブレスがいったら、なんとか耐えて回復して生き延びて」

「おいおいサヤ。
 それにお前はどうするつもりだ⁉」

「彼らを援護します。
 リジェネート・エクスペリエンス!
 そして、もう一発!」

 私は持続魔法を自分とチュールにかけた。

「チュール、私を魔物やブレスから護れる?」

『がんばる! これくらいの奴なら。
 さすがにドラゴンなんかはちょっと無理~』

「頼りにしてるわよー。じゃあ、いきます」

 そして、まず回復魔法の曲射撃ちを試した。
 集中して作りだした光の奔流がSF映画のビーム砲のようにグビーっと回って通路のあちこちに炸裂した。

 ちゃんと人間に命中するようにイメージしたはずだが、上手く出来ただろうか。

 通路から感嘆の響きがいくつか届いたので、少なくとも複数は上手く着弾してくれたみたいだ。

 私は意を決して飛び込んだが一名の騎士が倒れ伏しており、一人がその人に付き添い、残りの四人、リジェネート・エクスペリエンスを光の鎧のように纏った騎士達が魔物に立ち向かっていた。

 うわー、自分がアレをやれって言われたら泣くなあ。
 よし、一旦撤収しよう。

「チュール、あの人達を撤収させたいから、自分がやられないような感じで魔物を牽制できる?」

『大丈夫、任せて』

 私はまず倒れている騎士と、本人も怪我をしていそうな、その世話をしている騎士にホーリー・エクスライトを放った。

 そして敵の攻撃により消耗して、光が弱まり出した四人の騎士にリジェネート・エクスペリエンスを追加で放った。

「みなさーん、一旦撤収しますよー。
 ついてきてください。
 補給して出直しましょう」

「おう、サヤ殿か。かたじけない。
 もう聖水が切れて困窮していたところだ。
 よし、者共。ここは一旦撤収だ」

 私はチュールと自分にもリジェネート・エクスペリエンスを追加してから騎士達を案内した。

 その間、チュールはピョンピョンと飛び回り、奴の動きをけん制してくれている。

 おかげでブレスが止まった。
 横道から更に奥へいった通路をさらに右に曲がってから、チュールを呼んだ。

「もういいわよー」

 あっという間に戻ってきたチュール。

「ご苦労さん、はいご褒美のシュークリーム。
 あ、皆さんもどうぞ。
 甘いものを食べると回復しますよ。
 戦闘していた騎士さん達は二個ずつどうぞ」

『僕も二個がいい』

「はいはい、えらいえらい。
 よくできました」

 その様子を見て、合流したチームの小隊長さんが感心したような声を出した。

「いや、サヤ殿は魔物の言葉がわかるのですなあ」

「それが私の本来の能力ですから。
 聖女パワーは只のオマケですよ」

「ちなみに、あいつは何て言っていますか?」

「ああ、あの雄叫びみたいな咆哮ね。
 あれは、なんというか意味不明」

「というと?」

 その質問には他の騎士が答えてくれた。

「おそらく、魔物単体で敵を蹴散らすよう指令を受けているので、強引に興奮状態にさせられているのでしょう。

 それは本来の魔物の使い方ではないですが、向こうも奇襲を食らいましたから止むを得ずというところですな」

「そうみたいね。
 残念だけど、あの魔物達から情報は取れないわ」
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