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第一章 幸せの青い鳥?
1-36 スイーツ・トラップ
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そして、お昼ご飯もわざわざお弁当を所望して、中庭というか屋敷の裏手にある庭園も捜索し、そこの一角に設置されている日当たりのいい素敵なサンルームで超豪華弁当を心行くまで堪能した後、食後のお茶をしながら私はボヤいた。
「見つかりませんね」
「見つかると思う方がおかしいのですが。
サヤ、あなたはどういう頭の構造をしているのですか」
「ベロニカさん、この屋敷のどこかに可愛い魔物の里を隠しているのなら早く出してください」
「私はここの住人じゃありません。
なんで私が上司の家の隠し魔物部屋の管理までしなくちゃいけないのですか」
「していてほしかったのに」
「無理を言わないでください」
そして、ズズっとお茶を啜る音の後に、ふとベロニカさんが言い出した。
「そう言えば、以前にリュールがこんな事を言っていた気がしますね。
『義父の従魔達の中には甘いお菓子が大好きな奴がいるそうだ。
見かけも可愛らしいと言っていたが、見かけに関しては彼の感性はちょっと信用できんな』だそうですが」
「それでは本日の残り時間はお菓子作りで時間を潰しますか。
それからお風呂に入り、夕ご飯にすれば完璧なお留守番になるのではないでしょうか。
その合間に馬どもをモフっておけば、なお完璧」
「まあいいですけどね。
そんな物で魔物が釣れるくらいなら冒険者達だって苦労はしていませんよ」
ドーナツでも釣り竿で垂らしていたら、何かモフモフが釣れないか考えてみたが、さすがに無理だなと思って止めた。
馬なんか案外と甘い物が好きなのだが。
アンパンとか苺大福とか。
「まあ、馬に人参をやるような物だと思えば。
ベロニカさんは何が食べたいですか」
「そうねえ。
私はクリームを使ったお菓子がいいわね」
「私は久しぶりにシュークリームが食べたいな。
自分で作ってみようか。
こっちの世界であれを見た事がないんですよね。
御屋敷でも出た事がないし」
「それは美味しいのですか?」
「あの手の、卵を使ったお菓子の中ではプリンと並んで双璧なんじゃないでしょうかね。
久しぶりに作るので出来に自信はないですがね。」
「へえ、『勇者の国』のお菓子ですか。
それは少し興味がありますね」
「そういう考え方になる訳ですか。
生憎と、こっちはただの女子中学生上がりの女子高生ですから。
お菓子作りの腕前もそこそこのレベルでしかないですよ。
生憎な事に高校は一ヶ月も通えなかったですけど」
という訳なので、屋敷の厨房に籠ってシュークリーム作りを始める事にした。
材料は大体揃っている。
この程度のお菓子に必要な、シンプルな材料ならこの世界でも揃っている。
問題は腕なのだ。
後、こちらの調理器具で日本と同じように作れるものかどうか。
今日は試食の係も密着態勢で待機しているので失敗は避けたい。
いつもならカスタードクリームの他にホイップクリームを入れる、大きめのダブルシューにするのだけど、今日はシンプルにカスタードクリームのみ。
ホイップクリームはここでも作れない事はないし、なんだったら屋敷の料理人に手伝ってもらえばOKだけど、今日はいきなりなのでそれは無し。
こっちには日本みたいに粉末のインスタントなホイップクリームの素はないので、あれは簡単には作れない。
ホイップクリーム自体も見かけないのだし。
シュー皮も冷めてから潰れてしまうと試食人にガッカリされるので、本日は少々野暮ったくなるのは覚悟の上でシュー皮を厚くて硬めな安全牌の物に設定する。
この辺の皮の匙加減が難しい。失敗覚悟で作る美味しい奴はまた今度にして、本日は手堅く行こう。
そうやって、シュークリーム作りに熱中していると、背後から話しかけてくる奴がいた。
『何やってんのー。いい匂いがするー』
「ん? お菓子を作ってるのよ。
こっちの世界にない奴を」
『じゃあ、どこの?』
「いわゆる勇者の国の物ですよ」
『へー、それ甘い?』
「まあ、今日作る物は本格的な物ではないですが十分に甘いですよ」
『なんで本格的な物を作らないの』
「そりゃあ向こうの世界とは設備とかが違うし、久しぶりに作りますからね。
高校受験があったので、しばらくお菓子作りは封印していたのです。
ちょっとブランクがあるのです」
ここの屋敷の設備はお金のかかった魔導式なので、慣れれば日本同様にお菓子作りは可能と思われる。
後は自分の精進次第だなあ。
『早くー』
「待つのです。
焼き菓子だから急かすと失敗して皮が潰れますよ」
『わかったー、待ってるから』
あれ? 今のってベロニカさんじゃないよね。
子供の声みたいな感じだったけど。
お菓子作りに集中していたので、軽く聞き流していましたが。
「ねえ、ベロニカさん。今のって誰?」
「さ、さあ。なんかいましたか? お菓子作りの見学に集中していたもので」
「騎士の集中力って凄いっすね」
「見つかりませんね」
「見つかると思う方がおかしいのですが。
サヤ、あなたはどういう頭の構造をしているのですか」
「ベロニカさん、この屋敷のどこかに可愛い魔物の里を隠しているのなら早く出してください」
「私はここの住人じゃありません。
なんで私が上司の家の隠し魔物部屋の管理までしなくちゃいけないのですか」
「していてほしかったのに」
「無理を言わないでください」
そして、ズズっとお茶を啜る音の後に、ふとベロニカさんが言い出した。
「そう言えば、以前にリュールがこんな事を言っていた気がしますね。
『義父の従魔達の中には甘いお菓子が大好きな奴がいるそうだ。
見かけも可愛らしいと言っていたが、見かけに関しては彼の感性はちょっと信用できんな』だそうですが」
「それでは本日の残り時間はお菓子作りで時間を潰しますか。
それからお風呂に入り、夕ご飯にすれば完璧なお留守番になるのではないでしょうか。
その合間に馬どもをモフっておけば、なお完璧」
「まあいいですけどね。
そんな物で魔物が釣れるくらいなら冒険者達だって苦労はしていませんよ」
ドーナツでも釣り竿で垂らしていたら、何かモフモフが釣れないか考えてみたが、さすがに無理だなと思って止めた。
馬なんか案外と甘い物が好きなのだが。
アンパンとか苺大福とか。
「まあ、馬に人参をやるような物だと思えば。
ベロニカさんは何が食べたいですか」
「そうねえ。
私はクリームを使ったお菓子がいいわね」
「私は久しぶりにシュークリームが食べたいな。
自分で作ってみようか。
こっちの世界であれを見た事がないんですよね。
御屋敷でも出た事がないし」
「それは美味しいのですか?」
「あの手の、卵を使ったお菓子の中ではプリンと並んで双璧なんじゃないでしょうかね。
久しぶりに作るので出来に自信はないですがね。」
「へえ、『勇者の国』のお菓子ですか。
それは少し興味がありますね」
「そういう考え方になる訳ですか。
生憎と、こっちはただの女子中学生上がりの女子高生ですから。
お菓子作りの腕前もそこそこのレベルでしかないですよ。
生憎な事に高校は一ヶ月も通えなかったですけど」
という訳なので、屋敷の厨房に籠ってシュークリーム作りを始める事にした。
材料は大体揃っている。
この程度のお菓子に必要な、シンプルな材料ならこの世界でも揃っている。
問題は腕なのだ。
後、こちらの調理器具で日本と同じように作れるものかどうか。
今日は試食の係も密着態勢で待機しているので失敗は避けたい。
いつもならカスタードクリームの他にホイップクリームを入れる、大きめのダブルシューにするのだけど、今日はシンプルにカスタードクリームのみ。
ホイップクリームはここでも作れない事はないし、なんだったら屋敷の料理人に手伝ってもらえばOKだけど、今日はいきなりなのでそれは無し。
こっちには日本みたいに粉末のインスタントなホイップクリームの素はないので、あれは簡単には作れない。
ホイップクリーム自体も見かけないのだし。
シュー皮も冷めてから潰れてしまうと試食人にガッカリされるので、本日は少々野暮ったくなるのは覚悟の上でシュー皮を厚くて硬めな安全牌の物に設定する。
この辺の皮の匙加減が難しい。失敗覚悟で作る美味しい奴はまた今度にして、本日は手堅く行こう。
そうやって、シュークリーム作りに熱中していると、背後から話しかけてくる奴がいた。
『何やってんのー。いい匂いがするー』
「ん? お菓子を作ってるのよ。
こっちの世界にない奴を」
『じゃあ、どこの?』
「いわゆる勇者の国の物ですよ」
『へー、それ甘い?』
「まあ、今日作る物は本格的な物ではないですが十分に甘いですよ」
『なんで本格的な物を作らないの』
「そりゃあ向こうの世界とは設備とかが違うし、久しぶりに作りますからね。
高校受験があったので、しばらくお菓子作りは封印していたのです。
ちょっとブランクがあるのです」
ここの屋敷の設備はお金のかかった魔導式なので、慣れれば日本同様にお菓子作りは可能と思われる。
後は自分の精進次第だなあ。
『早くー』
「待つのです。
焼き菓子だから急かすと失敗して皮が潰れますよ」
『わかったー、待ってるから』
あれ? 今のってベロニカさんじゃないよね。
子供の声みたいな感じだったけど。
お菓子作りに集中していたので、軽く聞き流していましたが。
「ねえ、ベロニカさん。今のって誰?」
「さ、さあ。なんかいましたか? お菓子作りの見学に集中していたもので」
「騎士の集中力って凄いっすね」
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