36 / 104
第一章 幸せの青い鳥?
1-36 スイーツ・トラップ
しおりを挟む
そして、お昼ご飯もわざわざお弁当を所望して、中庭というか屋敷の裏手にある庭園も捜索し、そこの一角に設置されている日当たりのいい素敵なサンルームで超豪華弁当を心行くまで堪能した後、食後のお茶をしながら私はボヤいた。
「見つかりませんね」
「見つかると思う方がおかしいのですが。
サヤ、あなたはどういう頭の構造をしているのですか」
「ベロニカさん、この屋敷のどこかに可愛い魔物の里を隠しているのなら早く出してください」
「私はここの住人じゃありません。
なんで私が上司の家の隠し魔物部屋の管理までしなくちゃいけないのですか」
「していてほしかったのに」
「無理を言わないでください」
そして、ズズっとお茶を啜る音の後に、ふとベロニカさんが言い出した。
「そう言えば、以前にリュールがこんな事を言っていた気がしますね。
『義父の従魔達の中には甘いお菓子が大好きな奴がいるそうだ。
見かけも可愛らしいと言っていたが、見かけに関しては彼の感性はちょっと信用できんな』だそうですが」
「それでは本日の残り時間はお菓子作りで時間を潰しますか。
それからお風呂に入り、夕ご飯にすれば完璧なお留守番になるのではないでしょうか。
その合間に馬どもをモフっておけば、なお完璧」
「まあいいですけどね。
そんな物で魔物が釣れるくらいなら冒険者達だって苦労はしていませんよ」
ドーナツでも釣り竿で垂らしていたら、何かモフモフが釣れないか考えてみたが、さすがに無理だなと思って止めた。
馬なんか案外と甘い物が好きなのだが。
アンパンとか苺大福とか。
「まあ、馬に人参をやるような物だと思えば。
ベロニカさんは何が食べたいですか」
「そうねえ。
私はクリームを使ったお菓子がいいわね」
「私は久しぶりにシュークリームが食べたいな。
自分で作ってみようか。
こっちの世界であれを見た事がないんですよね。
御屋敷でも出た事がないし」
「それは美味しいのですか?」
「あの手の、卵を使ったお菓子の中ではプリンと並んで双璧なんじゃないでしょうかね。
久しぶりに作るので出来に自信はないですがね。」
「へえ、『勇者の国』のお菓子ですか。
それは少し興味がありますね」
「そういう考え方になる訳ですか。
生憎と、こっちはただの女子中学生上がりの女子高生ですから。
お菓子作りの腕前もそこそこのレベルでしかないですよ。
生憎な事に高校は一ヶ月も通えなかったですけど」
という訳なので、屋敷の厨房に籠ってシュークリーム作りを始める事にした。
材料は大体揃っている。
この程度のお菓子に必要な、シンプルな材料ならこの世界でも揃っている。
問題は腕なのだ。
後、こちらの調理器具で日本と同じように作れるものかどうか。
今日は試食の係も密着態勢で待機しているので失敗は避けたい。
いつもならカスタードクリームの他にホイップクリームを入れる、大きめのダブルシューにするのだけど、今日はシンプルにカスタードクリームのみ。
ホイップクリームはここでも作れない事はないし、なんだったら屋敷の料理人に手伝ってもらえばOKだけど、今日はいきなりなのでそれは無し。
こっちには日本みたいに粉末のインスタントなホイップクリームの素はないので、あれは簡単には作れない。
ホイップクリーム自体も見かけないのだし。
シュー皮も冷めてから潰れてしまうと試食人にガッカリされるので、本日は少々野暮ったくなるのは覚悟の上でシュー皮を厚くて硬めな安全牌の物に設定する。
この辺の皮の匙加減が難しい。失敗覚悟で作る美味しい奴はまた今度にして、本日は手堅く行こう。
そうやって、シュークリーム作りに熱中していると、背後から話しかけてくる奴がいた。
『何やってんのー。いい匂いがするー』
「ん? お菓子を作ってるのよ。
こっちの世界にない奴を」
『じゃあ、どこの?』
「いわゆる勇者の国の物ですよ」
『へー、それ甘い?』
「まあ、今日作る物は本格的な物ではないですが十分に甘いですよ」
『なんで本格的な物を作らないの』
「そりゃあ向こうの世界とは設備とかが違うし、久しぶりに作りますからね。
高校受験があったので、しばらくお菓子作りは封印していたのです。
ちょっとブランクがあるのです」
ここの屋敷の設備はお金のかかった魔導式なので、慣れれば日本同様にお菓子作りは可能と思われる。
後は自分の精進次第だなあ。
『早くー』
「待つのです。
焼き菓子だから急かすと失敗して皮が潰れますよ」
『わかったー、待ってるから』
あれ? 今のってベロニカさんじゃないよね。
子供の声みたいな感じだったけど。
お菓子作りに集中していたので、軽く聞き流していましたが。
「ねえ、ベロニカさん。今のって誰?」
「さ、さあ。なんかいましたか? お菓子作りの見学に集中していたもので」
「騎士の集中力って凄いっすね」
「見つかりませんね」
「見つかると思う方がおかしいのですが。
サヤ、あなたはどういう頭の構造をしているのですか」
「ベロニカさん、この屋敷のどこかに可愛い魔物の里を隠しているのなら早く出してください」
「私はここの住人じゃありません。
なんで私が上司の家の隠し魔物部屋の管理までしなくちゃいけないのですか」
「していてほしかったのに」
「無理を言わないでください」
そして、ズズっとお茶を啜る音の後に、ふとベロニカさんが言い出した。
「そう言えば、以前にリュールがこんな事を言っていた気がしますね。
『義父の従魔達の中には甘いお菓子が大好きな奴がいるそうだ。
見かけも可愛らしいと言っていたが、見かけに関しては彼の感性はちょっと信用できんな』だそうですが」
「それでは本日の残り時間はお菓子作りで時間を潰しますか。
それからお風呂に入り、夕ご飯にすれば完璧なお留守番になるのではないでしょうか。
その合間に馬どもをモフっておけば、なお完璧」
「まあいいですけどね。
そんな物で魔物が釣れるくらいなら冒険者達だって苦労はしていませんよ」
ドーナツでも釣り竿で垂らしていたら、何かモフモフが釣れないか考えてみたが、さすがに無理だなと思って止めた。
馬なんか案外と甘い物が好きなのだが。
アンパンとか苺大福とか。
「まあ、馬に人参をやるような物だと思えば。
ベロニカさんは何が食べたいですか」
「そうねえ。
私はクリームを使ったお菓子がいいわね」
「私は久しぶりにシュークリームが食べたいな。
自分で作ってみようか。
こっちの世界であれを見た事がないんですよね。
御屋敷でも出た事がないし」
「それは美味しいのですか?」
「あの手の、卵を使ったお菓子の中ではプリンと並んで双璧なんじゃないでしょうかね。
久しぶりに作るので出来に自信はないですがね。」
「へえ、『勇者の国』のお菓子ですか。
それは少し興味がありますね」
「そういう考え方になる訳ですか。
生憎と、こっちはただの女子中学生上がりの女子高生ですから。
お菓子作りの腕前もそこそこのレベルでしかないですよ。
生憎な事に高校は一ヶ月も通えなかったですけど」
という訳なので、屋敷の厨房に籠ってシュークリーム作りを始める事にした。
材料は大体揃っている。
この程度のお菓子に必要な、シンプルな材料ならこの世界でも揃っている。
問題は腕なのだ。
後、こちらの調理器具で日本と同じように作れるものかどうか。
今日は試食の係も密着態勢で待機しているので失敗は避けたい。
いつもならカスタードクリームの他にホイップクリームを入れる、大きめのダブルシューにするのだけど、今日はシンプルにカスタードクリームのみ。
ホイップクリームはここでも作れない事はないし、なんだったら屋敷の料理人に手伝ってもらえばOKだけど、今日はいきなりなのでそれは無し。
こっちには日本みたいに粉末のインスタントなホイップクリームの素はないので、あれは簡単には作れない。
ホイップクリーム自体も見かけないのだし。
シュー皮も冷めてから潰れてしまうと試食人にガッカリされるので、本日は少々野暮ったくなるのは覚悟の上でシュー皮を厚くて硬めな安全牌の物に設定する。
この辺の皮の匙加減が難しい。失敗覚悟で作る美味しい奴はまた今度にして、本日は手堅く行こう。
そうやって、シュークリーム作りに熱中していると、背後から話しかけてくる奴がいた。
『何やってんのー。いい匂いがするー』
「ん? お菓子を作ってるのよ。
こっちの世界にない奴を」
『じゃあ、どこの?』
「いわゆる勇者の国の物ですよ」
『へー、それ甘い?』
「まあ、今日作る物は本格的な物ではないですが十分に甘いですよ」
『なんで本格的な物を作らないの』
「そりゃあ向こうの世界とは設備とかが違うし、久しぶりに作りますからね。
高校受験があったので、しばらくお菓子作りは封印していたのです。
ちょっとブランクがあるのです」
ここの屋敷の設備はお金のかかった魔導式なので、慣れれば日本同様にお菓子作りは可能と思われる。
後は自分の精進次第だなあ。
『早くー』
「待つのです。
焼き菓子だから急かすと失敗して皮が潰れますよ」
『わかったー、待ってるから』
あれ? 今のってベロニカさんじゃないよね。
子供の声みたいな感じだったけど。
お菓子作りに集中していたので、軽く聞き流していましたが。
「ねえ、ベロニカさん。今のって誰?」
「さ、さあ。なんかいましたか? お菓子作りの見学に集中していたもので」
「騎士の集中力って凄いっすね」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?


逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!

(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる