異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
上 下
25 / 104
第一章 幸せの青い鳥?

1-25 公爵風呂

しおりを挟む
 そんなこんなで、ホルデム公爵家にて御世話になる事になった私。

 ベロニカさんは、明日私を騎士団本部まで連れていくので一緒に泊る事になった。

 リュールさんも、明日は門へは行かずに団旗の具合を見に行く予定であるらしい。

 まあ、あのしっかり者のサリタスさんがついているので団旗は大丈夫だと思うのだけれど、二人とも実物を確認しないと安心できないようだった。

 まあ、あの団長さんの暴走ぶりを見ていると、それも無理もないのだろうけど。
 あの御方は、いつもあんな感じであるものらしい。

 それから少し遅めの昼食を、軽食スタイルでサロンにていただいた。
 それはサンドイッチっぽい物で、結構美味しかった。

 そして何が嬉しいって、このお屋敷には素敵なお風呂があったので。

 さっそくベロニカさんと一緒に、夕食前にゆっくりとお風呂をいただいてしまう事にした。

 この世界で初めてのお風呂体験は物凄く素敵なものになった。

「ひゃああ、お風呂も凄く広い」

 なんというか、まるでローマ帝国のお風呂のように広く、またそれと同じく石で出来た彫像のような物が多く飾られていた。

 よくあるように、それを通してお湯が流れ出てくるようになっているものもあった。

 また石鹸やシャンプー・リンスなども上等な物が常備されているみたい。

 それらは体に優しい天然成分で出来ているようで、もしかしたらこれも稀人女性の先達が残してくれた遺産なのかもしれない。

 しっかりと身体を洗ってから、広大な湯船に身を任せた。
 はあ、身も心も蕩けそう。

 ここに来るまではガルさんやナナさんの塒で御世話になっていただけだものな~。

 一人だったら、それすらもない完全な野宿で、浄化の魔法すらなかった訳なのですがね。
 ああ、あの超高級天然羽毛布団の寝心地が懐かしい。

「ふう、ここのお風呂は最高です。
 もう音に聞こえた武門の一族が、金に飽かせて作らせたものですからね。
 その割に御当主とかは、なかなか家に帰ってこないらしいのですが」

「そうですかあ。もったいないなあ」

「まあ、あの妹さんよりはいいですけどね。
 私、前に一度サンドラと一緒に極秘の任務で彼女のいるところまで出かけた事がありますが、あれは大変過ぎました。

 何を好き好んで、こんな快適な屋敷を捨ててまでダンジョンに引き籠らねばならないのか理解に苦しみますが、まあ人には人の生き方があるのですから」

「まあ確かに、人間には一人一人自分に合った生き方があるのですから。
 って、ああっ!」

「どうしました、サヤ」

 彼女は、私が何か大事な用でも忘れていたのかというような、訝しい目を私に向けてきた。

「しまった。
 馬をもふもふして遊ぶ予定だったのに。
 ちゃんと人参もいっぱい買ってきたのにな。

 今から馬と遊ぶと風呂上がりに馬臭くなってしまいますから、さすがにちょっと」

「へえ、サヤでもそういう事を気にするのですね。
 意外です」

 彼女は艶めかしい腕をお湯で撫でながら、のんびりとそのような感想をぶつけてきた。

「これが自分の家ならば、何も気にしないですけどね。
 自分の家じゃ犬猫その他を寝床で抱っこしながら寝ていましたので。
 犬猫臭くない小夜など、そんなものは私ではありませんよ」

「まあ、それでこそサヤというものですね。
 そう慌てなくたって、当分ここの住人となるのですから、いくらでも馬とは遊べますよ。
 確か、他の動物もいると思いましたが」

 他の動物とやらには興味があったのだが、私は少々警戒していた。

「それって、食用とかいうんじゃないですよね」

 それだけは願い下げなのですが。

 日本では朝引きの新鮮な鶏の刺し身などという料理もあったので、この屋敷でも食べる直前に料理するという可能性が捨てきれないのだった。

「安心なさい。
 こんな身分の高い公爵家の使用人が、いちいち自分で豚や鶏を絞めたりなどしていませんよ。
 ちゃんと信用できる業者が処理して新鮮な食材を届けてくれますから」

「それなら安心ですね」

 だが彼女は大きく伸びをして、その豊かで形のいいバストを露わにすると、悪戯っぽくこう付け加えてきた。

「でも、市場には気を付けなさい。
 鶏なんかは〆てから羽根を毟って吊るしてある物が殆どだけど、生きのいい肉をと客から言われて、わざわざ市場で鳥を〆る店も中にはあったりするから。
 あれがまたギャアギャアと鳥が騒ぐのよね」

「ひいいいい。
 それ、絶対に断末魔の悲鳴じゃないですかあ。
 うっかりと聞いてしまったりしたら鶏肉が食べられなくなるう」

「安心なさい。
 大物の牛や豚なんかは肉を熟成させるので、市場では殺したりはしないから。
 ただ、子牛や子豚なんかは売られたりしているわね」

 私の脳裏で、『あの歌』が物悲しく再生されていった。

「う、それもまた聞きたくない話ですねえ……」

「難儀な子ねえ。
 それ、聞けないように自分の意思でコントロールできないのかしら」

「さあ、どうなんでしょう。
 そんな事はやった事がないので」

 普通の人だって、耳から入ってくる音を勝手に遮断したりは出来ないもんね。
 結局は耳を塞ぐしかないのだ。

「まあいいわ。またしっかり背中を流してあげるから湯船から上がりなさい。
 髪も洗ってあげるわ」

「はあい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

処理中です...