異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-19 お買い物

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 サンドラさんが作ってくれたのは、なんと冒険者カードなる物だった。

 それは何かの特殊な青みがかったスマホサイズの金属製の薄い板状の物で、結構丈夫そうな感じがした。

 少なくとも落としてしまったらダメージを受けるスマホよりは遥かに。
 ノコギリクワガタの顎と喧嘩したら、どっちが勝つだろうか。

「わ、私も今日から冒険者⁉」

 なんというか、ちょっとドキドキしましたね。
 一応、回復魔法は使えますけど⁉

 アンデッドとかが相手だと、大量に持っているらしい魔力で無双できたりするのかしら。

 ダンジョンなんかでプレーするのなら、やっぱり神官スタイルあたりかな?

「ああ、まあ便宜上作ってみただけだけど。
 間違っても本当に冒険者稼業なんてするんじゃないわよ。
 あんたなんか、一日で墓に埋まるのが落ちだから。

 あんたの事は、うちでもギルマス預かりにしておくから。
 そのための冒険者ギルドへの強制加入ね」

 ガーン。ただの犬の首輪でした~。
 ちぇっ、ちょっとだけ心が躍ったのに。

 まあガルさんの野性的な食事風景には耐えられそうになかったので、冒険者なんて最初から無理ですね。

 あ、でもテイマーには少し憧れます。
 会話による条件交渉で、このミス・ドリトルの足元にひざまずくような奴しかティム出来ませんがね。

 どちらかというと、従魔的な契約ではなく、契約書による雇用契約みたいな感じになってしまいそう。

 どこかに可愛い魔獣の赤ちゃんとかが捨てられていたりしないものだろうか。

 ああ、ガルさんとナナさんの赤ちゃんを見てみたかったなあ。
 本当に綺麗な種族だったもの。

「ちぇえ、まあこれで身分証が二つも貰えたんだから、良しとしておきますかあ。

 じゃあベロニカさん、お買い物に行きましょう。
 上から下まで一揃い買いたいですね。

 公爵家行きになるらしいので、それなりの奴を。
 お金は金貨百二十枚で足りますかね」

 だがサンドラさんは呆れた顔で言った。

「お前はお姫様か何かなのか?
 平民が普通の生活をするなら金貨一枚で一ヶ月は暮らせるぞ。

 副騎士団長のところなら、そう格式張ったところではないから、小綺麗にしていればそれでいい。

 跡取り息子が騎士団の幹部をやっているくらいだからな。
 そういう感じの家だ」

「十分ですよ。
 あなたの今の格好だって十分上等ですけれど、おそらくそれほどお金はかかっていませんよね。
 あなたの雰囲気を見ていればわかります」

「まあ素材は素晴らしい物だけど、大量生産品ですからね。
 せいぜい銀貨五枚から十枚っていうところじゃないですか」

 たぶん、金貨一枚で日本円にして十万円くらいかな。
 この大きさだと純粋に貴金属として換算すると、それくらいかなあ。

 となると手持ちのお金は、ざっと千二百万円くらいになる勘定か。
 まあ十分足りるはずだよね。

「そんなもんで十分よ」

 そういう訳で、ガイドさん付きで異世界の街へとお買い物に出かける事と相成った。
 相変わらず、ベロニカさんに手を繋がれたままで。

 今の私の目標は、この地方よりは治安が良さそうな王都を一人で歩けるようになる(許可を貰える)事ですね。

 ここは王都。
 自分が思っていたよりは随分と華やかな場所だった。

 まるで映画か、小道具大道具に拘って昔の世界を描いた海外のドラマか何かのように。

 今はCGで何でもやれてしまう時代だが、何十年か前の海外ドラマなど、たっぷりと小道具やセットにお金がかけてあって本当に凄いのだ。

 ここではリアルで、それを体験出来るテーマパークのようなもの。

 ここには地球と変わらないような大きな透明ガラスがあった。
 これは相当高い技術なのだ。

 ガラスの製作は難しいくらいの事は子供の私だって知っている。
 均質で厚みも揃って透明な美しいガラスは、製作にそれなりの技術が必要だ。

 ここでは一体どうやって作っているものか。
 そして高級そうな店先に飾られた、数々のガラスの向こうの逸品達。

 日本でも中学生なんかには手の届かないそれらを、よく眺めていたりはしたものだが。
 しかし、今日の私は結構御大尽なのだ。

 それらの、今なら手が届く商品達の行列に夢中になり、小さな子供のようにはしゃいで目を輝かせる私に彼女は訊いてきた。

「あなたって、今いくつになるんだっけ」

「あ、十五歳です。
 やっと義務教育が終了したばかりですね」

「義務教育?」

「ああ、国の法律で決められている、子供が絶対学校に行かないといけない教育期間の事ですね。
 親の都合で行かせないと、親が罰せられます。

 まあ、子供が自分の意思で引き籠っちゃっている場合はよくありますけど。
 その場合は、学校や自治体と話し合いですかねえ」

「よくわからんな。
 つまりお前は、お前の国ではかなりのヒヨッコ扱いという訳だな」

「ヒヨッコどころか、法律上は『ただの児童扱い』ですね。

 それを過ぎると、なんとか一人前として認められますが、今はまだあと四年以上経たないと成人として認められません。

 もうすぐ法律が変わって十八歳で大人扱いになりますけど。
 こっちでは何歳から成人扱いです?」

「十五歳だ。お前もこっちではとっくに成人扱いだな。
 もっとも、とてもそうは扱えぬが」

「やっぱりですか。
 まあそのような、大人としての自覚なんて物は欠片もありませんがね。

 今までは二十歳でようやく大人扱いだったのに、私の時代からは途中でいきなり高校在学中に成人してしまいますので思いっきり動揺していましたが、それを更に上回る異常な事態に遭遇してしまいましたしね」

「むう、お前の立ち居振る舞いを見ていると、もう三つくらい歳が下の子供でさえ、もっと大人っぽく見える。

 孤児院の子など、十二歳で孤児院を出ないといけないから目つきそのものがお前なんかとは全然違うぞ」

「ふ、返す言葉さえありませんね。
 とりあえず、お金と住むところがあって、その上護衛兼ガイドのお姉さんまでいてくれて私的には大変幸せな状況です」

 少なくとも、あの森で在る筈のない帰り道を捜しまくり、野垂れ死にするよりはよっぽどマシ。

 あの青い鳥、今度会ったら絶対にただじゃおかない。
 鳥の捕獲用具や、あの鳥サイズの鳥籠なんかを収納に用意しておくといいかも。

 もしあの鳥が悪戯で私をこっちへ連れてきていたというのなら、そのあたりで私を観察して、物蔭から数々の醜態を笑っている可能性さえあります。

 どこかで機を見て何かの動物を手下にし、あの鬼畜鳥を捜索するのも一つの手かもしれません。
 どうせやる事も特にないのですしね。
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