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第一章 幸せの青い鳥?
1-17 魔獣とは
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「まず、ちょっといいかな、サヤ」
「はい?」
「駄目だよ、サンドラ。
この子は何もわかっていない。
まず、七色ガルーダという存在が何なのかすら、まったくわかっていないから。
あんたから魔獣のあれこれなんかを説明してやってくれ。
うちの騒動の事は知っているね」
「ええ、その七色ガルーダの羽根の話よね。
あの馬鹿王子の一派め、無茶を言うわ」
「その幻の希少な素材である羽根を、本日騎士団にドッサドサに持ち込んだのが、その子よ。
お蔭でうちの頗る厄介な懸案事項は解決したのだけれど」
「なるほど。それで、リュール様が……」
それから、二人で私を挟み込むようにして言い放った。
「いいですか、サヤ。
これは普通の人間に獲ってこれるような獲物ではないし、通常はそいつがいる場所へ辿り着くだけで冒険譚が一つ出来てしまうようなものなのです」
「つまり、何が言いたいかというと、これだけいっぺんに獲ってこれたら問題なく余裕でAランク冒険者になれてしまうほどだという事です」
よくわからない。
少なくとも私は、Aランクどころかおそらく最低ランクの冒険者にすらなれない。
「えーとですね、まず魔獣と魔物の違いがわかりますか?」
私はぶんぶんと首を振った。
「七色ガルーダに会ったのですね。
あれが特級の魔獣というものです。
高い知能を持ち合わせ、美しく、また強大な力を持っています。
魔物のような単なる怪物ではないものとでも思っておいてください。
彼らは時には人と交わったりもします。
無闇に人を攻撃したりもしません。
その逆ならありますが、冒険者ギルドでは魔獣への理由なき攻撃は禁じられています」
「魔物は?」
サンドラさんは、私が床に並べた残骸を示し、少し厳しい顔をした。
「魔物は無条件で人を襲い、また醜い姿をしている物が多いです。
まあ例外もあって、中には力が弱く人に懐いたりするものもいます。
またドラゴンなどは魔物であったり、また高位の魔獣としての存在などもあったりと紛らわしいです。
まあ大概のドラゴンはヤバイ存在だと考えておけば間違いないです。
ドラゴンと人の関わり合いなんて神話の中の出来事なのよ」
それからベロニカさんが続きを引き継いだ。
「とにかく、こういう物はやたらと出さない事、また七色ガルーダのような上位魔獣と仲良くしていたなどとは大っぴらに言ったりしない事。わかったかな?」
「はーい」
「そもそも、どうやって彼らと知り合ったのです。
というか、どうやって魔獣とコミュニケーションを取ったの?」
「いや、普通に出会って普通に会話して」
「え?」
「あ、私の特技なんです。
動物や魔獣と普通にお話出来るので」
二人の眼が点になった。
「「えーーーー」」
「なんか、ユニークスキルっていう奴らしいですよ。
その代わりに、そっちの方へ能力が振られているので、攻撃魔法とかは上手く使えなくて回復魔法とかしか真面に使えないらしいです。
あと使えるのは水出しと浄化と火起こしの魔法だけですねー。
そっちは何故か覚えるのに大変苦労しました」
うーんという感じで、二人とも腕組みをして天井や床を見つめていたが、二人してズイっと私に迫って言った。
「いい? そういう話はやたらとしちゃ駄目だからね?」
「悪い連中に、誘拐されたって知らないからね。あと貴族なんかからも。
ああ、それで副団長が私に護衛につけと……もう大変に頭が痛いです」
「ところで、あのう」
「なあに」
「そっちの素材の買取は?
実はまだ収納にだいぶ残っているんですけど。
もうここじゃ狭くて床に並べきれなくて。
とりあえず魔獣さんの収納に入っていた奴も、結婚して引っ越すついでの物品整理という事でいただいてきましたので」
サンドラさんは、またしてもおでこに手を当てて、しばし考えていたのだが、やがて床の素材の場所を移動させていた。
「済まないが、素材が高価過ぎるので、これら全部はまとめて買い取れない。
残りも一旦封印しておきな。
いっぺんに出すとまた要らぬ騒動になるかもしれない。
とりあえずギルドのカードを作ってちょうだい。
そこに金を入れておくから。
それでも結構な額になるから。
少々裕福に暮らしても、残りの一生を遊んで暮らせるくらいにはね」
「はあ」
何しろ、ここのお金の価値がよくわからない。
とりあえず、指示された素材以外の物を収納に仕舞い込んで、お金の計算をしてくれるのを待った。
それからまたソファに座らされて説明をしてくれた。
「全部で金貨三千百二十枚よ。
うち三千枚はカードに入金しておくけど、絶対にカードをここの窓口には出すな。
誰かに見られたら命の保証はしないからね。
お金を下ろしたかったら、直接あたしのところへ来なさい。
いい?」
「はあ、そんなものですか」
「もう。
これは冗談で言ってないから。
残りの金貨は収納に入れておいて、必要な時に収納から出したとバレないようにそっと出しなさい。
この王都にもスリが多いから、あんたは絶対に小銭以外を財布に入れておかないようにね」
なんか非常にマズイ事だらけだったらしい。
ガルさんにとっては普通の事なので特に詳しく言ってくれなかったけど、これが高位の魔獣と人間の意識の差って奴なのかあ。
まあ彼も人間の事情がよくわかっていなかったんだろうなあ。
「あと、ここであなたが高額の素材を卸したとか言わないで。
たぶん、出所を探る奴がいそうだから。
そういう奴らは碌な連中じゃない。
あんたって、そうなったらどうしようもなくなるだろうし。
ベロニカ、リュール様にはあなたからあれこれ説明しておいてちょうだい」
「はい?」
「駄目だよ、サンドラ。
この子は何もわかっていない。
まず、七色ガルーダという存在が何なのかすら、まったくわかっていないから。
あんたから魔獣のあれこれなんかを説明してやってくれ。
うちの騒動の事は知っているね」
「ええ、その七色ガルーダの羽根の話よね。
あの馬鹿王子の一派め、無茶を言うわ」
「その幻の希少な素材である羽根を、本日騎士団にドッサドサに持ち込んだのが、その子よ。
お蔭でうちの頗る厄介な懸案事項は解決したのだけれど」
「なるほど。それで、リュール様が……」
それから、二人で私を挟み込むようにして言い放った。
「いいですか、サヤ。
これは普通の人間に獲ってこれるような獲物ではないし、通常はそいつがいる場所へ辿り着くだけで冒険譚が一つ出来てしまうようなものなのです」
「つまり、何が言いたいかというと、これだけいっぺんに獲ってこれたら問題なく余裕でAランク冒険者になれてしまうほどだという事です」
よくわからない。
少なくとも私は、Aランクどころかおそらく最低ランクの冒険者にすらなれない。
「えーとですね、まず魔獣と魔物の違いがわかりますか?」
私はぶんぶんと首を振った。
「七色ガルーダに会ったのですね。
あれが特級の魔獣というものです。
高い知能を持ち合わせ、美しく、また強大な力を持っています。
魔物のような単なる怪物ではないものとでも思っておいてください。
彼らは時には人と交わったりもします。
無闇に人を攻撃したりもしません。
その逆ならありますが、冒険者ギルドでは魔獣への理由なき攻撃は禁じられています」
「魔物は?」
サンドラさんは、私が床に並べた残骸を示し、少し厳しい顔をした。
「魔物は無条件で人を襲い、また醜い姿をしている物が多いです。
まあ例外もあって、中には力が弱く人に懐いたりするものもいます。
またドラゴンなどは魔物であったり、また高位の魔獣としての存在などもあったりと紛らわしいです。
まあ大概のドラゴンはヤバイ存在だと考えておけば間違いないです。
ドラゴンと人の関わり合いなんて神話の中の出来事なのよ」
それからベロニカさんが続きを引き継いだ。
「とにかく、こういう物はやたらと出さない事、また七色ガルーダのような上位魔獣と仲良くしていたなどとは大っぴらに言ったりしない事。わかったかな?」
「はーい」
「そもそも、どうやって彼らと知り合ったのです。
というか、どうやって魔獣とコミュニケーションを取ったの?」
「いや、普通に出会って普通に会話して」
「え?」
「あ、私の特技なんです。
動物や魔獣と普通にお話出来るので」
二人の眼が点になった。
「「えーーーー」」
「なんか、ユニークスキルっていう奴らしいですよ。
その代わりに、そっちの方へ能力が振られているので、攻撃魔法とかは上手く使えなくて回復魔法とかしか真面に使えないらしいです。
あと使えるのは水出しと浄化と火起こしの魔法だけですねー。
そっちは何故か覚えるのに大変苦労しました」
うーんという感じで、二人とも腕組みをして天井や床を見つめていたが、二人してズイっと私に迫って言った。
「いい? そういう話はやたらとしちゃ駄目だからね?」
「悪い連中に、誘拐されたって知らないからね。あと貴族なんかからも。
ああ、それで副団長が私に護衛につけと……もう大変に頭が痛いです」
「ところで、あのう」
「なあに」
「そっちの素材の買取は?
実はまだ収納にだいぶ残っているんですけど。
もうここじゃ狭くて床に並べきれなくて。
とりあえず魔獣さんの収納に入っていた奴も、結婚して引っ越すついでの物品整理という事でいただいてきましたので」
サンドラさんは、またしてもおでこに手を当てて、しばし考えていたのだが、やがて床の素材の場所を移動させていた。
「済まないが、素材が高価過ぎるので、これら全部はまとめて買い取れない。
残りも一旦封印しておきな。
いっぺんに出すとまた要らぬ騒動になるかもしれない。
とりあえずギルドのカードを作ってちょうだい。
そこに金を入れておくから。
それでも結構な額になるから。
少々裕福に暮らしても、残りの一生を遊んで暮らせるくらいにはね」
「はあ」
何しろ、ここのお金の価値がよくわからない。
とりあえず、指示された素材以外の物を収納に仕舞い込んで、お金の計算をしてくれるのを待った。
それからまたソファに座らされて説明をしてくれた。
「全部で金貨三千百二十枚よ。
うち三千枚はカードに入金しておくけど、絶対にカードをここの窓口には出すな。
誰かに見られたら命の保証はしないからね。
お金を下ろしたかったら、直接あたしのところへ来なさい。
いい?」
「はあ、そんなものですか」
「もう。
これは冗談で言ってないから。
残りの金貨は収納に入れておいて、必要な時に収納から出したとバレないようにそっと出しなさい。
この王都にもスリが多いから、あんたは絶対に小銭以外を財布に入れておかないようにね」
なんか非常にマズイ事だらけだったらしい。
ガルさんにとっては普通の事なので特に詳しく言ってくれなかったけど、これが高位の魔獣と人間の意識の差って奴なのかあ。
まあ彼も人間の事情がよくわかっていなかったんだろうなあ。
「あと、ここであなたが高額の素材を卸したとか言わないで。
たぶん、出所を探る奴がいそうだから。
そういう奴らは碌な連中じゃない。
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