異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-12 小夜のイケメン・ラプソディ

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 事務室というか、中へ入ってすぐ横手にあるちょっとしたオフィスのような場所へ連れていかれ、彼は私に椅子を進めてくれた。

 ここは詰所のような場所であり、特に応接室のようなところではないので、ソファのような物ではなく、ただの古い木の椅子だった。

 あまり意匠には凝っていない、本当に木材を組み合わせて作っただけの、丈夫が取り柄なだけのただの椅子だ。

 同じく、似たような代物の机があって、イケメン副騎士団長様がその上で手をお組みになられている。

 お部屋に、このようなスーパー・イケメンと二人っきりだなんて~。
 これは緊張するう。

「さて、では品物を見せていただこうか」
「はい、これです」

 私が机の上に出した物は、当然のようにガルさんの羽根、しかも新しい奴ではない抜け毛っぽい古い奴だ。

 でも、それとて特にみすぼらしい訳でもなく、なかなかの見栄えなのだ。

 だが、今度は何故かイケメンさんの方が固まってしまった。
 あれ? どうしたのかな。

「あのう、何かまずかったのでしょうか。
 もし金貨の方が良かったのなら、中へ入れていただければ換金して持ってきますが。

 これは高く売れるはずだって、くれた人が言っていましたから」

 いや、くれたのは人じゃないけどね。
 そもそも、自分の体に生えていた物なのだし。

 だが彼は突然再起動してくるや否や、椅子から跳び上がるような感じで、机を回り込んで私に迫ってきた。

 こ、これは! 壁ドンならぬ机ドン⁉

 彼は私の横手に立ち、片手を机について体をぐっと前に折り曲げ、まるでキスせんばかりに顔を近づけてきた。

「近い! 近いですからっ」

「も、貰ったのだと。
 一体どこの誰から⁉」

「あー、この羽根の持ち主からですが」

 どうしてしまったものだろう。
 彼は心なしか息まで荒いような。

 こっちまでドキドキしてしまったのだが、少なくとも私にロマンスを感じているのでないのは明白な事実だった。

 もてているのは残念ながら、あのガルさんの古い羽根(抜け毛相当)のようだった。

「だから、その持ち主が誰か知りたいのだ。
 頼む、教えてくれ。

 そうだ、身分証がないと言っていたな。
 教えてくれたなら、うちで身分証を発行してやろう。

 王都パルマ騎士団の発行だから信用度は高いぞ」

 おお、なんか知らないが、勝手にありがたい事になっている。

 しかし、このイケメンさん、何か盛大に勘違いしていらっしゃる。

 少々残念度が上がったので、評価を5点満点から4.7にそっと下げておいた。

「いえ、だからその羽根をくれたのは、その羽根を生やしている魔獣の七色ガルーダさん本人ですよ。
 ちなみにそれは一番価値が無さそうな古い抜け毛の方です」

 それを聞いて、彼がまたフリーズしてしまった。
 机ドン状態のままで。

 よし、今のうちにいっぱい鑑賞しておこう。

 なんという眼福である事か。
 しかも、かなりの至近距離で。

 もふもふは無条件で大好きなんですけど、このような眼福なイケメンも結構好きなのです。

 そのような贅沢を言っているから、この歳になって彼氏の一人も出来ていないのでありますがね。

 副騎士団長か、やっぱり格好いいなあ。
 何歳くらいなのかな。

 二十代前半くらいに見えるけど、西洋人風の顔は年齢が掴みにくい。

 案外と若いのかもしれないが、凄そうな役職が付いているからなあ。

 何か柄や鞘に凄い装飾や何かの紋章の入った剣を提げていらっしゃる。

 もしかしたら、結構いい家柄の人なのかな。
 なんで、こんな門の詰所なんかにいるんだろう。

 だが私が至福の時間を過ごしていたのは、どうやら僅か五秒くらいの事だったらしい。

 かなり時間が拡張していたようだ。
 この現象を『イケメンによる乙女の時間拡張効果』と呼ぼう。

「馬鹿な、幻の魔獣・七色ガルーダから直接貰ったのだと。
 そんな事があるはず……」

 だが彼の言葉は、私が並べ出した羽根のコレクションによって遮られた。

「この羽根って、値打ちはどう決まるのでしょうか。
 大きさ? 色合い? 新しさ?
 それとも程度の良さ?
 あるいは手触りか何か?
 個人的には、この小さめで新しい奴が一押しなんですが」

 彼は何と言ったものか少々困ったようだったが、すぐに解説してくれた。

「基本的に大きくて色鮮やかな物だな。
 済まないが、私には古い物と新しい物の区別がよくつかないのだが。
 それと、何故小さい物の方がいいのだね」

 ふ、リュール副騎士団長閣下、君もまだまだだね。

 ではこの七色ガルーダの羽根評論家の小夜さんが君に解説してしんぜよう。

「これらは二人の七色ガルーダさんの羽根なんです。
 同じタイプの羽根でも大きい方が旦那さんで小さい方が奥さんのです。

 ただ、旦那さんの方はちょっとだらしがなくって、特に古い物はゴミ箱にぶち込んであったも同然の保管状況でして」

「ゴミ箱……この貴重な羽根が⁉」

「ああ、ただしくは古い巣みたいなところですね。

 奥さんの方はしっかり者で、きちんと手入れをしていたというか、畳んで箪笥に仕舞ってあったみたいな感じで保管状態が良いのです」

 そこまで説明して、彼もなんとなく理解出来てきたらしい。

「なるほどなあ。
 しかし、新しい物でも小さい方がいいのかね?」

「それはもう。
 私は実際に彼らの翼を布団代わりにして寝心地を比べてきましたので。

 やはり奥さんの方が柔らかくて上等な羽根ですねー。
 少なくとも羽毛布団にするのなら。

 それで、どういたしましょう。
 ちゃんと教えてさしあげたんですから、身分証をいただけますよね」

 だが、絶句している彼はすぐに返答が出来なかった。

「おーい、副騎士団長様ー」

 だが、次の瞬間に彼は私の両手を取って、その場に片膝をついて跪いた。

「きゃっ、何です!?」

「頼む、古い物で構わん。
 是非その羽根を譲ってくれ!
 我が騎士団には、今どうしてもそれが必要なのだ!」

 今度は私が目を白黒する番だった。

 だって、こんなイケメンが私の手を取って哀願しているのですよ。

 い、いけない。
 涎が垂れても、この態勢じゃ絶対に拭けないじゃないの。

 ここは死んでも耐えろっ、小夜。
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