異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-11 王都パルマ

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「ふう、やっと着いた。
 さすが真昼間に、あのどうやっても目立ちまくりのガルさんに門の前まで送ってもらう訳にはいかないもんね」

 彼は、かなり手前の街道沿いの木々の間に私をさっと下ろすと、笑顔でウインクすると目にも止まらない速度で一気に高空まで垂直方向に飛び去った。

 希少な魔獣が王都至近で目撃されて、いらぬ懸念を持たれたくないのだろうな。

 空から追撃されたり魔法で撃たれたりしたら堪らないものね。

 それでも彼は、そんな危険を冒してまで約束通り私を街まで送ってくれたのだ。

 彼の律義さに、ただただ感謝感謝。だが、足元で踏み締める街道は石畳のような物だった。

 私は少々嫌な予感がしてきた。

 現代のヨーロッパなどでは、昔ながらの石畳舗装になっているところもあるし、日本だって何かの施設で、そういう物を模してわざわざ建築する場合もある。

 しかし空から見た感じでは、ここも現代地球の大都会のようではなかったように思えたのだが、さすがにはっきりとは見えなかった。

 そして、それを裏付けるような物が前方にいた。
 そして、後方からも何台もやってきて呆然と立ち尽くす私を追い越していった。

 ちょっとヒッチハイクは躊躇われる代物だ。

 油断していると、そのまま袋に詰め込まれてどこかへ売り飛ばされかねない。

 人間という奴は、魔獣ほど紳士的な生き物ではないのだ。

「馬車だ。
 しかも古臭そうなタイプだなあ。
 徒歩の人はいるけど、自動車は一台も無しと。
 こ、こりゃあ駄目だあ」

 無論、徒歩の人達もファッションなどから察する限りは、なんとなく昔の外国のような雰囲気を纏っていらっしゃる。

 私は何か、今まで抱いていた希望のような物が、音を立てるかのように激しく萎んでいくのを感じていた。

 心が軋むのを押さえられない。

 街に入ったとしても、非常時に対応できるスキルの低い、女子高生になったばかりの人間には厳しい展開が待っていそうだった。

 片側が幅六メートルくらいで、出る方と入る方の二区画に別れた石作りのやや厳めしい門を潜り、通りすぎる人達が兵士らしき人に何かを見せている。

 どうやら槍を持っているみたいだし。
 大型の馬車に対応して広めに作られた門は大きな扉で閉鎖出来るようになっているらしい。

「ああいう人が持っている武器も、アサルトライフルとかカービン銃じゃないんだなあ。
 やっぱりアレな世界なのかあ。

 もしかして、マスケット銃や普通の火縄銃とかの原始的な銃器もないのかな。
 魔法がある世界という事で半ば予想はしていたんだけどね」

 そして、もっと近づいていくとマズイ事が判明した。

「う、あれってもしかして出入りに身分証とかがいるんじゃないのかな。
 まさかの街への入場拒否も有り得る⁉」

 今更そんな事になったら目も当てられない。

 もう自力で他の街へ行くなんて不可能だ。
 諦めて、私は自ら兵士の人に挨拶をした。

 少し年配で、笑顔を浮かべている優しそうなおじさんのところへ、ささっと寄ってみた。

 思いっきり笑顔で愛想よく。
 こう見えて、私だってなかなか可愛かったりするのだ。

 もし一クラスに女の子が十五人いたら、容姿でいえば三番目くらいのレベルかな。
 為せば成る、女は愛嬌!

「こんにちは~」

「はい、こんにちは。
 おや、何か変わった服装だね」

「えー、この辺じゃ見ないでしょうけど、外国じゃ流行っているんですよ」

 別に嘘は言っていない。

 日本という名の外国で、しかも流行っているどころか、普通に学校の制服であるチェックのスカートとセットの、ここでは少々目立つ色合いのブレザーなのだ。

 これはなかなか可愛い制服で気に入っているんだけど、確かにここじゃ目立つかもしれない。

 無事に中に入れたら、ここの服を買わなくちゃ。
 それもガルさんやナナさんのくれた物の値打ち次第なのだけれど。

 思った通り、ちゃんと言葉が通じてる。

 これ、実はガルさんの時と同じで『スキル・ミスドリトル』の恩恵なんだよね。

 ごく自然に意思の疎通が出来るので、相手もそれに気が付かないらしい。

「それじゃ身分証を見せて」
「あ、持ってないです」

「おや、そうかい。
 じゃあ、ここに名前とデポジットで金貨一枚徴収だね。

 街で問題を起こさなければ、街を出る時に言ってくれれば返すよ。
 預かり証もあげるから」

 そのようなシステムになっていたとは!
 なんとか街には入れてもらえそうな按排だ。

 しかし、弱った。
 なんといっても一文無しなので。

 金貨って日本円にして幾らくらいなんだろう。

「あー、すいません。
 現金を持っていないんですよ。

 その代わり、値打ち物なら持っています。
 デポジットは物納では駄目ですか?

 確実に金貨一枚以上の値打ちはありますので」

 親切な兵士さんは驚いたようだったが、後ろから凄いイケメンが出て来た!

 金髪青い目、整った顔立ちはまるで映画俳優、いや王子様のようだ。

 絶対に貴族か王族! みたいなオーラをどばっと出しているし。

(すっごい。
 マジで王子様みたい。
 イケメン、イケメン、イケメン、イケメン…………)

 私が硬直して、じっとガン見していたので、不審そうに思ったものか彼は老兵士に訊ねた。

「その娘、一体どうしたのだ。
 何か私を見て固まってしまっているようだが」

 だが兵士さんは笑いを堪えて彼に言った。

「そりゃあ、副騎士団長殿が男前過ぎるからでさあ。
 こんな枯れた爺の後に、あなたみたいな方に出てこられたのでは若い娘なんて皆こうなりますわ」

「そ、そういうものなのか⁉」

 どうやら本人はその自覚が無いらしいのだが、私は慌ててぶんぶんと頷いておいた。

「あと、身分証が無くてデポジット用の現金も持ち合わせが無いそうで、物納にしてくれと」

「そうか。
 では、その物品を見せてみなさい」

「あー……」

 あれを人前で見せるのはさすがになあ。
 ガルさんにも、無闇に人に見せないように言われていたし。

 私が少し困っていると、老兵士さんが助け舟を出してくれた。

「ああ、それが高価な物らしいので、往来で見せたくないのでしょう。

 リュール殿が対応してくださればよいのではないでしょうか。
 そういう案件なら、わしらみたいな平兵士が扱うよりも、その方がいいでしょう」

「そうだな。
 では娘、ついてきなさい」

 そして慌てて後をついていくと、去り際に老兵士さんがウインクしてくれた。

 うわー、大サービスだあ。
 おじさん、グッジョブ。

 という訳で、街に着くなり凄いイケメンさんとお知り合いになったのでした。
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