異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

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第一章 幸せの青い鳥?

1-9 ディナー

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 そしてガルさんは、私とナナさんが冷たい視線で見下ろす中で、反省のポーズで這いつくばらされていた。

 なんというか、ガルーダでは羽根を両側にベタっと広げたままの大地礼のような感じにするらしい。
 要は俯せになった万歳ポーズだ。

「もう、あなたって人は!」

「わあ、助けてくれ、サヤ。
 これは一体どうなっているんだ」

「自業自得ですよ、ガルさん。
 女をこれだけ待たせたんだから当然です。

 お蔭でこっちはお昼ご飯抜きです。
 あなた、さっき口の周りが血で汚れてましたよね?

 待っている私の事は忘れて、一人だけ野生に帰ってお昼を食べていたんですか。
 魔獣じゃなくて、実はただの野獣だったんですか?」

「う。き、記憶にございません」

「鳥頭ですかっ!」

 いや確かに鳥頭なんだけど、ガルーダの女の子の方は賢いから、そんなのはただの言い訳。

 もう許しませんからね。
 ちゃんと食材なんかは収納に持ち歩いているくせに、人に食事の支度を任せておいて自分は長々と遊び惚けていただなんて。

「ふう、もういいです。
 私はお腹が空きました。

 覚えておいてください。
 人間というものは、お腹が空くと怒りっぽくなるのですから。

 という訳で、とっとと本日の獲物を出すのです。

 ちゃんと解体は済ませてきたんでしょうね?
 私の目の前でやらないでくださいよ」

「あうう、二人ともそんなに怒らないでくれよ。
 聞いてくれ。
 今日はスペシャルだぜ。

 滅多に見かけないオオマウシを見つけたんだ。
 これは肉を熟成させた方が美味しいんだが。

 あとスーパーガゼルもそれなりの数を獲ったよ。
 きょ、今日は時間が無いからこっちにしておこうか」

 私は溜息が出てしまいましたが、お腹は減っていますし、まあ将来為になるというか参考になるというか、そういうお話を聞けたという事で仕方がないから勘弁してあげます。

 それからナナさんの巣へ行き、もうどっぷりと暗くなってしまったので、さっそく夕ご飯に取りかかった。

「灯りはない……ですよね」

「暗くなると寝ちゃうからね。
 今日もそいつさえちゃんとしていれば、もう寝る時間だったのですけれど」

 そのような叱責を受けて、また小さくなって縮こまっているガルさん。

 これはこのまま番になったら尻に敷かれそうな勢い。
 そしてまた懲りずに、ガルさんがナナさんを怒らせるのだろうな。

 そんな中、私はガルさんを扱き使いつつ、てきぱきと夕ご飯の支度をしていった。

 当然、昼ご飯抜きになってしまった女の子組が優先です。
 この御飯にはナナさんも感激だった。

「料理なんて物がこの世にあったなんて。
 これは素晴らしいわ。
 人間って凄いわね」

「一応、そこの表六玉には基本のやり方を仕込んでおきましたので、また工夫してください。

 明日もう一日御一緒して、ナナさんにもあれこれ覚えていただきましょう。
 ところで、どうします、あの件は」

 あの件というのは、もちろん求婚の回答の件だ。

「そうねー、どうしようかなー」

 そんな風に焦らしてはいたが、こんな風に御飯を美味しく食べる生活も悪くないと思ったのだろう。

 それにどうせ、他の雄も似たような物なら、せめて一番の優良物件にしておいた方がいいから。

「頼む。我は一生懸命に頑張るから」

 何を頑張るつもりなのか知らないが、まあ頑張って結婚しておくれ。
 この件は私も尽力したんだから。

「しょうがないわね。じゃあOKよ」

「おお、本当か。やったーーーー!」

「よかったじゃない、ガルさん。
 でも、もう今日みたいな事をやっていたら駄目だよ」

「わかっておる、わかっておる。
 明後日はお前を人の里近くまで送っていこう。

 そうだ、巣にある強力な魔物の部位なんかもやろう。
 ああいう物は人間の世界では高く売れるそうだから」

 それ、きっとお肉を食べた余りの、食べ残しというか、ただの残骸片付けてないゴミだよね。

 まあ、たぶん値打ち物なのは確かなんだろうけど。

「じゃあ、サヤ。
 あたしの巣にある奴も持っていきなさいよ。

 そいつと一緒に暮らすなら、もっと大きな巣が要るから、ここは引き払うの。
 いろいろと片付けておかなくちゃ。

 あと収納に入れておいた物もあげるわ。
 そのうちに片付けようと思っていた物ばかりだから遠慮しなくていいのよ」

 ああ、雛が生まれますからね。
 狭い独身用アパートから3LDK以上のマンションや持ち家に引っ越さなくちゃ。

 半ば人型だけど、やっぱり雛でいいんだよね。
 卵から産まれるのかな。

「我らの羽根もあれば渡してやっておくれ。
 生え変わって抜けた物を。
 あれは人間にとっては価値があるのでな」

「え、抜け羽根を⁉」

「ああ、嫌だったら別に。
 彼の羽根を貰える約束になっていますから」

「ううん、別にいいのよ。
 ただ、ゴミみたいな物を友達に上げるのはどうかなと思って」

 まあ自分だって、友達に抜け毛の束をプレゼントするのは躊躇われるからなあ。

「じゃあ、ありがたくいただいておきます」

「そう。こっちよー」

 なんか巣が二つあって、片一方がそういう抜け毛、じゃない抜け羽根置場になっていた。

 結構丁寧に羽根だけってあるのはさすが女の子だな。

 収納していない魔物の部位なんかも、その隣に綺麗に整頓して置かれていた。

 奴の方はへたをすると、全部ゴミ箱みたいになっていそう。

 彼の塒にいた時には、そのあたりまでよく見ていなかったけど、それは大いに有り得るなあ。 
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