異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
上 下
5 / 104
第一章 幸せの青い鳥?

1-5 岩塩

しおりを挟む
 とりあえず彼に連れられて、彼が塩分を補給するための、地上に露出したピンク色っぽい感じの大きな岩塩に案内してもらった。

 うん、ホームセンターなんかでよく見かける定番の奴だ。
 これなら、あれが出来るかもしれない。

「わあ、岩塩っていうだけあって固そうだなあ」

「なに、こうすればよい」

 そう言うや、彼はその鉤爪のついた強力な腕でそれを砕いた。

 それをさらに手で握り潰し、手頃な大きさにしてくれた。

 たくさん用意してもらったので、収納に大切に仕舞い込んでおいた。
 これの使い方も習ったのだ。

 七色ガルーダって、見かけの美しさだけでなく持っている魔法やスキルも凄い。

「これで塩味の肉やサラダが食べられる~」

「さて、では行くとするか」

「待って、御飯が先だよ。
 お腹が空いていたら、ちゃんと交渉出来ないし」

「そうか。
 それでは仕方がない、我も食事にするか」

 そして私は久々に味付きのご飯にありついたのだが、彼の食事は豪快だった。

 骨付きで皮付きの生肉を片手で持って豪快に齧っていた。
 う、口の周りが血塗れだー。

「焼いて食おうとは思わないの。
 火魔法を使えるくせに」

 だが彼は妙な顔をしてみせた。

「我らは昔から、このようにして食ってきたのだが」

「ちょっと思い付いたんだけど、ちょっと料理してみない?

 なんていうかさ、人間の場合は女の子を口説く時に美味しい物を御馳走したりするんだよ。

 その方が幸せに感じるでしょう。
 ガルーダは違うの?」

 だが、彼は間髪入れずに答えた。

「無論、美味しい獲物を取ってくるのは雄として当然の役割りだ」

 駄目だ。
 全然話が噛み合っていない。

 種族誕生以来、ずっと肉の生食をメインにしてきたろう方に、お料理の話をしても駄目だったか。

「でもさー、それで口説けていないんでしょう?
 だったら、新しい要素を付け加えてみたらどうかっていう話よ。
 どうせ、駄目元企画なんだし。

 正直に言って、私が普通に話したって、せいぜい彼女の退屈凌ぎになるくらいのもので、この話に何の進展もないと思うの」

「そう言われてしまえば返す言葉もないのだが……」

「物は試しで、簡単にお料理してみない?」

「まあ、やってみてもよいのだが、そんな事はやった事がない」

「とりあえず、とっても簡単な奴ね。
 そこにちょうど岩塩があるじゃない。

 それをあなた達が食べる肉を置けるくらいのサイズの板状に何枚か切り出してみて。

 厚さはこれくらいで均一に、綺麗に平たい板の形にしてね」

 私は女の子の指二本分くらいの厚さを指定した。

 要は岩塩焼きのステーキにしようと思ったのだけれど、焼く肉が大きいので火力が強くて爆ぜて割れてしまわないように岩塩のプレートは厚くしてみた。

 あれは火加減が難しい。
 網があるといいんだけど、ここでは岩のプレートで代用してみるか。

「ほお、それはこんな感じかな」

 彼は何かをやって、岩塩が見事にスライスされていった。

「凄い、今何をやったの⁉」

「ん? ただの魔法で、風の刃というものだが。
 これも覚えてみるか?」

「是非とも!」

 彼が何回か岩塩を切り出すために使ってくれたので、やり方はなんとなくわかった。

 でも結局、私はそいつを習得できなかった。

 なんというかな、魔法の形にはなるのだが、鋭く収束されないというか。

 刃物で言うと完全に鈍らというか、刃引きされたような感じだろうか。

 強い風自体は起きるので、木なんかに当てると、パーっと葉っぱは散ったりするのだが。

 そういう攻撃魔法のような強い魔法は使えないものらしい。

 練習すると使えるかもしれないのだが。

 いわゆるエアバレットみたいな敵を吹っ飛ばす程度のスキルくらいなら編み出せるかもしれない。

「はっはっは、お前さんはインテリジェンスな能力に力を寄せておるみたいなので、そういう物の習得にはあまり向かないようだな」

「ふああ、無理だったー。
 ちぇ、せっかくだから格好いい魔法を覚えてみたかったのに」

「そういう奴は回復魔法なんかを覚えやすいタイプだと思うのだが」

「そうですか、精進します……」

 それから今度は竈として使う岩を板状に切り出し、それを載せるための竈に使う四点支柱のパーツも切り出してもらった。

 空中に浮かべる魔法の火を使うので、こんな感じで十分だろう。

 うまく火力が岩塩プレートに伝わらないようならば、下の岩板に穴を空けてみてもいい。

「あとねえ、塩窯焼きも試してみたいから、塩の粉末をたくさん作ってくれる?
 さっき岩塩プレートを作った時の余りがあったよね」

「なんだか知らぬが承った」

 こいつは魚でやるべき料理なんだけど、川にこれ向きの美味しい魚とかあるものか。

 まあ、とりあえず肉で試してみてもいいけれど。
 後は、あるかどうか知らないけれど。

「ねえ、このあたりに香りのいい草みたいな物はないの。
 そういうもので風味付けをすると、なんとなく料理っぽくなるのだけれど」

「香り草か。
 無い事もない。
 何種類かあったような気がするから集めよう」

「私も一緒に行くよ。
 あなただけを行かせると何か不安。
 そういや、あなたって名前ないの」

「我が名は******」

「わ、わからない。
 じゃあ暫定でガルさん!」

「まあ、仇名のようなものという事でよいか。
 お前も、そういう特殊な発音の種族固有名みたいな物は苦手なのだな。
 そういえば、お前の名も聞いておらんかったな」

「愛土小夜、こちら風に言えば多分サヤ・アドだよ。
 サヤでいい」

「そうか。
 ではお前の事はサヤと呼ぶ事にしよう」

 そして、なんとか草集めを完了して、あれこれと試す事とした。

 岩塩が割れてしまうかもしれないので、補充用の入手も兼ねて岩塩の近くでやる事にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

処理中です...