外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

文字の大きさ
上 下
164 / 169
第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-76 春草や、強者どもが戦いの後(字あまり)

しおりを挟む
 そして、その回復業務は夜半遅くまでかかってしまった。

 姐御から要請が入る度に、俺はマグナム・ルーレットを起動し、もう一つあったマグナム・スキルブースターもバニッシュのところから姐御の元に届けられていた。

 そして彫像のように立ち尽くす、俺の巨大な新眷属二十一体は勤勉に警護の任についていた。

 元々は、全ての惨劇があの連中の仕業かと思うと、それを目にする戦士も治療士も怪我人たちも脱力するしかないのであるが、あれが今も敵であり邪神の格納庫の破壊に邁進しているかもしれないと思ったら、誰も文句は言えないらしい。

 あれの、現在の主として俺もちょっと申し訳ない気分だな。

 だがこの街へ到着して早々にドラゴンと戦闘して街を救い、しかもその対価は全額街に寄附し、探した宝箱の中身も必要なもの以外は概ね全て寄附した俺。

 今回も大蜘蛛を退治ティムして街を救い、その後も身を粉にして回復治療に邁進した俺に対して、文句を言う人は一人もいないようだった。

 これ、冒険者だと中にはあれこれと言う奴がいるんだ。

 もちろん、それを聞いた他のみんなもウンザリしちゃうんだけどね。

 この街の住人は神官揃いなので徳の高い人も多い。

 まあ冒険者は数に入れない方がいいのだが、中には自分の命も顧みずに決死で戦ってくれた冒険者達もいるので、そいつは言いっこなしさ。

 そもそも、この俺自身だって冒険者なのだし、何よりもこの街の象徴であるような聖女自身が冒険者なのだからな。


「リクルー、はい夜食。
 夜食っていうか、夕飯が無かったけどね。

 こんな物くらいしかないけど。
 これも神官さん達の炊き出しなの。

 あたしの手持ちのお弁当は、もうとっくにあちこちへ寄附してきちゃった」


 ああ、この暖かい銅貨三枚相当の食事がありがたい。

 もう腹が減って動けないくらいなんだ。
 あれだけの戦闘の後に専門外の回復治療で休む間もなかったからな。

 俺の手持ちの食い物も全部、ダンジョン飯すら寄附に回しちまっていたんでね。

 そこまで酷い状況だった。


「俺、晩飯代わりに総菜パンを一個もらったよ。

 食べさせてくれていたのが、足が一本無くなっていた、俺が治療中の患者さんなんだけど。

 俺が燃料切れでふらふらしていたから。

 他に誰も世話をしてくれそうな人がいなくてね……」


 隣で治療をしていた姐御達も似たような状態だったからなあ。

 他の神官さんも誰も愚痴一つこぼしたりはしない、ほぼ精神修行の間と化していた。

「うわあ……凄まじい修羅場ねえ」

 リナが持ってきてくれた、新人冒険者御用達である総菜入りの大盛り薄焼きパン包みと、収納から出した前に店でもらった果実水の残りで、惨劇の日を締めくくる晩餐を始めた。

「いやあ、なんかもう酷い一日だったなあ」

「でも半日っていうか、出だしだけは幸せだったよね」

 とりあえず、幸せな記憶に縋っておこう。

 本日は、リナに始まりリナに終わるみたいな日だったなあ。

 まあ、こんな可愛い子が一緒だったのだから、まだいい方なのかな。


「まあね。
 美味しかったな、限定雲海ランチ。

 あ、それで思い出した。
 聖山で請け負った仕事の後金で白金貨一枚もらったから、これ残りのお金」


「いいよ。
 そいつは寄付金に回しておいてちょうだい」

「わかった。
 後金は丸々寄附に回しておこう」

「いやあ、今日は頑張ったなー。
 今までの人生で一番頑張った気がするわあ」

「ほんと、ほんと。
 なあ、リナ」

「なあに、リクル」
「疲れたよ」

「ふふ、あたしもよ。
 お疲れ様、リクル」

 俺達は神殿の隅っこの壁を背にお互いを枕にして、おやすみなさいの挨拶も交わさずにそのまま眠ってしまった。

「ウォン!」

「あ、おはようシリウス1。
 そっか、お前が番をしていてくれたのか。
 ありがとうよ」

 いつの間にか、朝日はそれなりの高さにまで登っていた。

 街の守りは、相変わらず、あの高さ数十メートルに聳えている連中が担っていた。

 その姿はまるで神話の中の巨神兵であるかのようだった。

 伝説とは違って足が八本もあるけれども。

 もう他の人達はヤケクソで、あいつらに防衛を任せて寝てしまっていただろう。

 片付けの作業をしていた人達も、その場で力尽きて爆睡している状態だな。

 あいつらも、せめてデザインがもう少しアレでなければいいのだが、所詮は元々邪神のアシスタントなのだからな。

 あまり可愛くても連中と戦うのに困る。

 俺は忠実な愛犬一号の頭を撫でてやり、思いっきり伸びをしながら起き上がった。

 よく見たら、いつの間にかナタリーも主を守る態勢で軍隊の歩哨のように立っていた。

 俺も前はよくやっていたっけ。

「あ、おはよ。
 もう朝かー。
 二人とも、あのまま寝ちゃったのねー」

「まあ、みんなあちこちの床で寝落ちてるんじゃないのかな」

 俺達は姐御を捜して神殿を歩いていたが、いきなりエラヴィスから声がかかった。

「あ、リクル。
 こっちこっち」

 彼女に招かれたので行ってみたら、よく見れば、そこは夕べの救護所だった。

 思わず噴いてしまったが、招かれるまま入った。

 なるほど、昨日は重傷者ばかりだったから、今日は中軽症者の御世話なのね。

 姐御はもう黙々と治療を始めていた。

「リナ、悪いけど」

「わかってるって。
 じゃあ飯の調達に行ってくるわ」

「リナちゃあん」
「はい」

「御免、こっちも十人前頼むわ。
 みんな、ここで寝落ちて晩飯から抜きなの。

 あと患者さんの分も欲しいわ。

 その悪いんだけど、あれこれ人手が足りないから、その後もよろしくね~」

「任せてー」

 そして笑顔で手を振り、リナは駆けていった。

 そして、それを一緒に見送って何故かニヤニヤしているエラヴィス。

「ねえ、いい子じゃないの、リクル」

「まあね」

「可愛い子なんだし、あの子をお嫁さんにしたら?
 あんたら、絶対に気が合っていると思うわ」

「そうかもしれないね」

 やらかすところも一緒だしね。
 あの子となら一生楽しくやれそうだ。

 その前に邪神さんを封じておかないと駄目かしらね。

 俺も、もうちょい精進しますか。
 邪神のアシスタント風情を相手にこれじゃなあ。

 本番があったら非常に心許ないわ。
 まあ勇者として不足のない仕事はしたつもりなのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた

アタラクシア
ファンタジー
 人生で数度もない貴重なイベントである修学旅行。この風鈴高校に通う二年二組の生徒たちも、長い間待ち望んでいた修学旅行に胸を躍らせていた。  はしゃぐバスの中――突然周りが黒く染まり、生徒たちは下へ下へと落下してしまう。  目が覚め、見えた景色は――現実の法則が意味をなさない、まさに『異世界』であった。  クラス全員ハズレスキル!?前代未聞の異世界転移に少年少女らは立ち向かう。 ――根源に至る『四騎士』 ――世界征服を企む『ナイトメア』 ――新世界を作ろうとする『ネビュラ教』  異世界の様々な情勢に振り回されながらも奔走する。目指すは「クラスメイト全員の合流」と「元世界への帰還」。  はたして彼らは全員合流し、元の世界へと帰れるのか。  長くも奇妙な修学旅行が今始まる――。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...