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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-76 春草や、強者どもが戦いの後(字あまり)
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そして、その回復業務は夜半遅くまでかかってしまった。
姐御から要請が入る度に、俺はマグナム・ルーレットを起動し、もう一つあったマグナム・スキルブースターもバニッシュのところから姐御の元に届けられていた。
そして彫像のように立ち尽くす、俺の巨大な新眷属二十一体は勤勉に警護の任についていた。
元々は、全ての惨劇があの連中の仕業かと思うと、それを目にする戦士も治療士も怪我人たちも脱力するしかないのであるが、あれが今も敵であり邪神の格納庫の破壊に邁進しているかもしれないと思ったら、誰も文句は言えないらしい。
あれの、現在の主として俺もちょっと申し訳ない気分だな。
だがこの街へ到着して早々にドラゴンと戦闘して街を救い、しかもその対価は全額街に寄附し、探した宝箱の中身も必要なもの以外は概ね全て寄附した俺。
今回も大蜘蛛を退治して街を救い、その後も身を粉にして回復治療に邁進した俺に対して、文句を言う人は一人もいないようだった。
これ、冒険者だと中にはあれこれと言う奴がいるんだ。
もちろん、それを聞いた他のみんなもウンザリしちゃうんだけどね。
この街の住人は神官揃いなので徳の高い人も多い。
まあ冒険者は数に入れない方がいいのだが、中には自分の命も顧みずに決死で戦ってくれた冒険者達もいるので、そいつは言いっこなしさ。
そもそも、この俺自身だって冒険者なのだし、何よりもこの街の象徴であるような聖女自身が冒険者なのだからな。
「リクルー、はい夜食。
夜食っていうか、夕飯が無かったけどね。
こんな物くらいしかないけど。
これも神官さん達の炊き出しなの。
あたしの手持ちのお弁当は、もうとっくにあちこちへ寄附してきちゃった」
ああ、この暖かい銅貨三枚相当の食事がありがたい。
もう腹が減って動けないくらいなんだ。
あれだけの戦闘の後に専門外の回復治療で休む間もなかったからな。
俺の手持ちの食い物も全部、ダンジョン飯すら寄附に回しちまっていたんでね。
そこまで酷い状況だった。
「俺、晩飯代わりに総菜パンを一個もらったよ。
食べさせてくれていたのが、足が一本無くなっていた、俺が治療中の患者さんなんだけど。
俺が燃料切れでふらふらしていたから。
他に誰も世話をしてくれそうな人がいなくてね……」
隣で治療をしていた姐御達も似たような状態だったからなあ。
他の神官さんも誰も愚痴一つこぼしたりはしない、ほぼ精神修行の間と化していた。
「うわあ……凄まじい修羅場ねえ」
リナが持ってきてくれた、新人冒険者御用達である総菜入りの大盛り薄焼きパン包みと、収納から出した前に店でもらった果実水の残りで、惨劇の日を締めくくる晩餐を始めた。
「いやあ、なんかもう酷い一日だったなあ」
「でも半日っていうか、出だしだけは幸せだったよね」
とりあえず、幸せな記憶に縋っておこう。
本日は、リナに始まりリナに終わるみたいな日だったなあ。
まあ、こんな可愛い子が一緒だったのだから、まだいい方なのかな。
「まあね。
美味しかったな、限定雲海ランチ。
あ、それで思い出した。
聖山で請け負った仕事の後金で白金貨一枚もらったから、これ残りのお金」
「いいよ。
そいつは寄付金に回しておいてちょうだい」
「わかった。
後金は丸々寄附に回しておこう」
「いやあ、今日は頑張ったなー。
今までの人生で一番頑張った気がするわあ」
「ほんと、ほんと。
なあ、リナ」
「なあに、リクル」
「疲れたよ」
「ふふ、あたしもよ。
お疲れ様、リクル」
俺達は神殿の隅っこの壁を背にお互いを枕にして、おやすみなさいの挨拶も交わさずにそのまま眠ってしまった。
「ウォン!」
「あ、おはようシリウス1。
そっか、お前が番をしていてくれたのか。
ありがとうよ」
いつの間にか、朝日はそれなりの高さにまで登っていた。
街の守りは、相変わらず、あの高さ数十メートルに聳えている連中が担っていた。
その姿はまるで神話の中の巨神兵であるかのようだった。
伝説とは違って足が八本もあるけれども。
もう他の人達はヤケクソで、あいつらに防衛を任せて寝てしまっていただろう。
片付けの作業をしていた人達も、その場で力尽きて爆睡している状態だな。
あいつらも、せめてデザインがもう少しアレでなければいいのだが、所詮は元々邪神のアシスタントなのだからな。
あまり可愛くても連中と戦うのに困る。
俺は忠実な愛犬一号の頭を撫でてやり、思いっきり伸びをしながら起き上がった。
よく見たら、いつの間にかナタリーも主を守る態勢で軍隊の歩哨のように立っていた。
俺も前はよくやっていたっけ。
「あ、おはよ。
もう朝かー。
二人とも、あのまま寝ちゃったのねー」
「まあ、みんなあちこちの床で寝落ちてるんじゃないのかな」
俺達は姐御を捜して神殿を歩いていたが、いきなりエラヴィスから声がかかった。
「あ、リクル。
こっちこっち」
彼女に招かれたので行ってみたら、よく見れば、そこは夕べの救護所だった。
思わず噴いてしまったが、招かれるまま入った。
なるほど、昨日は重傷者ばかりだったから、今日は中軽症者の御世話なのね。
姐御はもう黙々と治療を始めていた。
「リナ、悪いけど」
「わかってるって。
じゃあ飯の調達に行ってくるわ」
「リナちゃあん」
「はい」
「御免、こっちも十人前頼むわ。
みんな、ここで寝落ちて晩飯から抜きなの。
あと患者さんの分も欲しいわ。
その悪いんだけど、あれこれ人手が足りないから、その後もよろしくね~」
「任せてー」
そして笑顔で手を振り、リナは駆けていった。
そして、それを一緒に見送って何故かニヤニヤしているエラヴィス。
「ねえ、いい子じゃないの、リクル」
「まあね」
「可愛い子なんだし、あの子をお嫁さんにしたら?
あんたら、絶対に気が合っていると思うわ」
「そうかもしれないね」
やらかすところも一緒だしね。
あの子となら一生楽しくやれそうだ。
その前に邪神さんを封じておかないと駄目かしらね。
俺も、もうちょい精進しますか。
邪神のアシスタント風情を相手にこれじゃなあ。
本番があったら非常に心許ないわ。
まあ勇者として不足のない仕事はしたつもりなのだが。
姐御から要請が入る度に、俺はマグナム・ルーレットを起動し、もう一つあったマグナム・スキルブースターもバニッシュのところから姐御の元に届けられていた。
そして彫像のように立ち尽くす、俺の巨大な新眷属二十一体は勤勉に警護の任についていた。
元々は、全ての惨劇があの連中の仕業かと思うと、それを目にする戦士も治療士も怪我人たちも脱力するしかないのであるが、あれが今も敵であり邪神の格納庫の破壊に邁進しているかもしれないと思ったら、誰も文句は言えないらしい。
あれの、現在の主として俺もちょっと申し訳ない気分だな。
だがこの街へ到着して早々にドラゴンと戦闘して街を救い、しかもその対価は全額街に寄附し、探した宝箱の中身も必要なもの以外は概ね全て寄附した俺。
今回も大蜘蛛を退治して街を救い、その後も身を粉にして回復治療に邁進した俺に対して、文句を言う人は一人もいないようだった。
これ、冒険者だと中にはあれこれと言う奴がいるんだ。
もちろん、それを聞いた他のみんなもウンザリしちゃうんだけどね。
この街の住人は神官揃いなので徳の高い人も多い。
まあ冒険者は数に入れない方がいいのだが、中には自分の命も顧みずに決死で戦ってくれた冒険者達もいるので、そいつは言いっこなしさ。
そもそも、この俺自身だって冒険者なのだし、何よりもこの街の象徴であるような聖女自身が冒険者なのだからな。
「リクルー、はい夜食。
夜食っていうか、夕飯が無かったけどね。
こんな物くらいしかないけど。
これも神官さん達の炊き出しなの。
あたしの手持ちのお弁当は、もうとっくにあちこちへ寄附してきちゃった」
ああ、この暖かい銅貨三枚相当の食事がありがたい。
もう腹が減って動けないくらいなんだ。
あれだけの戦闘の後に専門外の回復治療で休む間もなかったからな。
俺の手持ちの食い物も全部、ダンジョン飯すら寄附に回しちまっていたんでね。
そこまで酷い状況だった。
「俺、晩飯代わりに総菜パンを一個もらったよ。
食べさせてくれていたのが、足が一本無くなっていた、俺が治療中の患者さんなんだけど。
俺が燃料切れでふらふらしていたから。
他に誰も世話をしてくれそうな人がいなくてね……」
隣で治療をしていた姐御達も似たような状態だったからなあ。
他の神官さんも誰も愚痴一つこぼしたりはしない、ほぼ精神修行の間と化していた。
「うわあ……凄まじい修羅場ねえ」
リナが持ってきてくれた、新人冒険者御用達である総菜入りの大盛り薄焼きパン包みと、収納から出した前に店でもらった果実水の残りで、惨劇の日を締めくくる晩餐を始めた。
「いやあ、なんかもう酷い一日だったなあ」
「でも半日っていうか、出だしだけは幸せだったよね」
とりあえず、幸せな記憶に縋っておこう。
本日は、リナに始まりリナに終わるみたいな日だったなあ。
まあ、こんな可愛い子が一緒だったのだから、まだいい方なのかな。
「まあね。
美味しかったな、限定雲海ランチ。
あ、それで思い出した。
聖山で請け負った仕事の後金で白金貨一枚もらったから、これ残りのお金」
「いいよ。
そいつは寄付金に回しておいてちょうだい」
「わかった。
後金は丸々寄附に回しておこう」
「いやあ、今日は頑張ったなー。
今までの人生で一番頑張った気がするわあ」
「ほんと、ほんと。
なあ、リナ」
「なあに、リクル」
「疲れたよ」
「ふふ、あたしもよ。
お疲れ様、リクル」
俺達は神殿の隅っこの壁を背にお互いを枕にして、おやすみなさいの挨拶も交わさずにそのまま眠ってしまった。
「ウォン!」
「あ、おはようシリウス1。
そっか、お前が番をしていてくれたのか。
ありがとうよ」
いつの間にか、朝日はそれなりの高さにまで登っていた。
街の守りは、相変わらず、あの高さ数十メートルに聳えている連中が担っていた。
その姿はまるで神話の中の巨神兵であるかのようだった。
伝説とは違って足が八本もあるけれども。
もう他の人達はヤケクソで、あいつらに防衛を任せて寝てしまっていただろう。
片付けの作業をしていた人達も、その場で力尽きて爆睡している状態だな。
あいつらも、せめてデザインがもう少しアレでなければいいのだが、所詮は元々邪神のアシスタントなのだからな。
あまり可愛くても連中と戦うのに困る。
俺は忠実な愛犬一号の頭を撫でてやり、思いっきり伸びをしながら起き上がった。
よく見たら、いつの間にかナタリーも主を守る態勢で軍隊の歩哨のように立っていた。
俺も前はよくやっていたっけ。
「あ、おはよ。
もう朝かー。
二人とも、あのまま寝ちゃったのねー」
「まあ、みんなあちこちの床で寝落ちてるんじゃないのかな」
俺達は姐御を捜して神殿を歩いていたが、いきなりエラヴィスから声がかかった。
「あ、リクル。
こっちこっち」
彼女に招かれたので行ってみたら、よく見れば、そこは夕べの救護所だった。
思わず噴いてしまったが、招かれるまま入った。
なるほど、昨日は重傷者ばかりだったから、今日は中軽症者の御世話なのね。
姐御はもう黙々と治療を始めていた。
「リナ、悪いけど」
「わかってるって。
じゃあ飯の調達に行ってくるわ」
「リナちゃあん」
「はい」
「御免、こっちも十人前頼むわ。
みんな、ここで寝落ちて晩飯から抜きなの。
あと患者さんの分も欲しいわ。
その悪いんだけど、あれこれ人手が足りないから、その後もよろしくね~」
「任せてー」
そして笑顔で手を振り、リナは駆けていった。
そして、それを一緒に見送って何故かニヤニヤしているエラヴィス。
「ねえ、いい子じゃないの、リクル」
「まあね」
「可愛い子なんだし、あの子をお嫁さんにしたら?
あんたら、絶対に気が合っていると思うわ」
「そうかもしれないね」
やらかすところも一緒だしね。
あの子となら一生楽しくやれそうだ。
その前に邪神さんを封じておかないと駄目かしらね。
俺も、もうちょい精進しますか。
邪神のアシスタント風情を相手にこれじゃなあ。
本番があったら非常に心許ないわ。
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