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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-75 地獄の釜の底の天使
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「あの巨大蜘蛛にどれくらいの力があるのかなあ。
邪神の格納庫を破壊できるようだと困るんだが。
まあそいつは確かめる方法は、あるにはあるんだけど」
「へえ? どうやって?」
ようやく腕が千切れた人をかろうじて繋いでみせたのだが、今度は足が一本千切れていて、腕が肩ごとざっくりと体から外れそうになっている人がきた。
かろうじてポーションで命を繋いでいるようで、それを見て本来は専門外の人種であるエラヴィスが、話の途中で顔を引き攣らせていた。
時には盗賊などの人間をバッサリと情け容赦なく切り裂く事もある彼女なのだが、治療で血塗れになっている人間はまた別なものだ。
さすがに頭に来た俺はマグナム・ルーレットを起動し、しかし出目は冷静に三を引き当てた。
クールタイムは短く十分間だ。
ちゃんと他の人にもスキルはお裾分けしておく。
今姐御が、両手で重傷者を強引に一息に治療してのけたので、まるで姐御に殺されるかのような凄まじい悲鳴が救護所中に響き渡った。
やめなよ、それ。
他の人が皆ビビっているじゃないの。
でもそれくらいしないと、かなりヤバイような、体の中からはみ出して千切れかけていた腸や、内臓を突き破っていて折れた骨をなんとかできなかったらしい。
そういう人は時間をかけると死んでしまうので姐御も腹を括って、マグナム・ルーレットの恩恵タイムに敢えて荒療治した模様。
はあ、セルフコントロール、セルフコントロール。
俺の担当していた人は、ちゃんと取れた足も届いていたのでよかった事だ。
もし足が届いていなかったら、俺は六の出目を強制的に呼び出して、『足の再生』に挑むところだった。
この人は、この街に来て以来いつも親切にしてくれる人で、俺は大好きな人だったのだ。
絶対に死なせはせんから!
足も必ず付ける。
そこまで治療はやめないからな。
そして会話を再開した。
「そいつは簡単さ。
あの格納庫の一部を、うちの大蜘蛛モンスパーに部分的に壊せるかどうか試してみればいいのさ」
「馬鹿ね、リクル。
そんな事をして、もしそのまま格納庫が全部壊れたら邪神が外に出てきちゃうでしょうに」
「まあそれの可能性があるから、ちょっと提案しにくいんだけど」
「絶対に却下よー!」
「とりあえず、大神殿はあいつらに守らせておくか。
俺も宝箱探索に行きたいしさ。
というか行かないと、またお金が足りないんじゃないの。
また酷い事になったもんだ」
「そうねー。
また聖都の修理代が嵩むわ~」
「お金がどんどん飛んでいくから、なんとか経済だけは回りそうだけどね」
「せめて、そうだといいわね」
「あああ、お前達の会話を聞いているだけで頭が痛くなるのお」
姐御も、俺の担当している患者の次に重症な人達を、またしても三人まとめて治療していた。
そうしないと間に合わないと判断したようで、マグナム・ルーレットがまだ効いているおかげで、それがみるみるうちに回復していく。
さすがに千年物の聖女様は年季が違った。
だが自分の頭の痛いのを治療している余裕はないようだ。
「姐御も回復魔法かける?」
「いやよい。
まだまだ怪我人は大勢おるゆえ、そちらへ使ってくれ」
仲間とリズムよく会話をしながら、俺はなんとか知り合いの彼の命と手足を繋ぐ事に成功した。
もしかしたら彼も、治療されながら俺達の話を聞いていたので、ここで死んでいる場合じゃないと思って、心と治癒能力が奮起したのかもしれない。
俺は治療と同時に派生スキルで支援していたりもした。
補助支援スキル【縁の下の向こう側】はクールタイムがないので、かけては十分間で効力が切れるとまたかけてと、延々とかけっぱなしにしている。
おかげで患者の治癒力や、各種の治療などの効力は常時二十パーセントほど上昇していたはずだ。
これって、こんなデスマーチの状態で役に立つスキルだったんだなあ。
なんと、このバルバディア聖教国を丸ごと二十パーセントも常時ブーストしているのだ。
他の回復魔法持ちの神官さんもいたが、本人もそれなりの怪我をしている上に、次から次へと回復治療デスマーチに巻き込まれていき、魔力が切れて過労でバタバタと倒れている。
そこまで行くと回復薬を飲んでから、しばらく自分も寝ているしか出来なくなるのだが、今神殿の救護所はそれも止む無しの、白衣の戦士達の戦場と化していた。
俺達のような最前線組の戦士も何故かその戦場で引き続き戦っていた。
そこまでしないと、死んでしまいそうな重傷者を捌けないので。
酷い切傷や擦過傷、骨折などの中軽症者は、一般の神官が治療しているが、さすがに治癒魔法の使い手のようにはいかなかった。
一般市民の被害者を優先しているので、酷い人になると通常なら真っ先に診てもらえるような傷を自力で呻きながら手当てしていた。
中でも自力で手が動かせない人などは、隣にいる足は動かないが手の動く人が、またしても自分が呻きながら手当てをしてあげていたりする。
もはや、地獄の惨状であった。
勇者といえども、鎧を白衣に脱ぎ替えて救護所から一歩も出られないような酷い状態だ。
いや脱ぎ替える白衣さえ不足していた。
もう血塗れで殆ど白衣が赤衣と化しており、浄化の魔法に振り分ける魔力さえも存在しない、赤衣の天使が舞い続けるデスパレード。
まさに地獄の釜の底であった。
まあ自分が寝ている羽目になるよりはいいのだけれどね。
邪神の格納庫を破壊できるようだと困るんだが。
まあそいつは確かめる方法は、あるにはあるんだけど」
「へえ? どうやって?」
ようやく腕が千切れた人をかろうじて繋いでみせたのだが、今度は足が一本千切れていて、腕が肩ごとざっくりと体から外れそうになっている人がきた。
かろうじてポーションで命を繋いでいるようで、それを見て本来は専門外の人種であるエラヴィスが、話の途中で顔を引き攣らせていた。
時には盗賊などの人間をバッサリと情け容赦なく切り裂く事もある彼女なのだが、治療で血塗れになっている人間はまた別なものだ。
さすがに頭に来た俺はマグナム・ルーレットを起動し、しかし出目は冷静に三を引き当てた。
クールタイムは短く十分間だ。
ちゃんと他の人にもスキルはお裾分けしておく。
今姐御が、両手で重傷者を強引に一息に治療してのけたので、まるで姐御に殺されるかのような凄まじい悲鳴が救護所中に響き渡った。
やめなよ、それ。
他の人が皆ビビっているじゃないの。
でもそれくらいしないと、かなりヤバイような、体の中からはみ出して千切れかけていた腸や、内臓を突き破っていて折れた骨をなんとかできなかったらしい。
そういう人は時間をかけると死んでしまうので姐御も腹を括って、マグナム・ルーレットの恩恵タイムに敢えて荒療治した模様。
はあ、セルフコントロール、セルフコントロール。
俺の担当していた人は、ちゃんと取れた足も届いていたのでよかった事だ。
もし足が届いていなかったら、俺は六の出目を強制的に呼び出して、『足の再生』に挑むところだった。
この人は、この街に来て以来いつも親切にしてくれる人で、俺は大好きな人だったのだ。
絶対に死なせはせんから!
足も必ず付ける。
そこまで治療はやめないからな。
そして会話を再開した。
「そいつは簡単さ。
あの格納庫の一部を、うちの大蜘蛛モンスパーに部分的に壊せるかどうか試してみればいいのさ」
「馬鹿ね、リクル。
そんな事をして、もしそのまま格納庫が全部壊れたら邪神が外に出てきちゃうでしょうに」
「まあそれの可能性があるから、ちょっと提案しにくいんだけど」
「絶対に却下よー!」
「とりあえず、大神殿はあいつらに守らせておくか。
俺も宝箱探索に行きたいしさ。
というか行かないと、またお金が足りないんじゃないの。
また酷い事になったもんだ」
「そうねー。
また聖都の修理代が嵩むわ~」
「お金がどんどん飛んでいくから、なんとか経済だけは回りそうだけどね」
「せめて、そうだといいわね」
「あああ、お前達の会話を聞いているだけで頭が痛くなるのお」
姐御も、俺の担当している患者の次に重症な人達を、またしても三人まとめて治療していた。
そうしないと間に合わないと判断したようで、マグナム・ルーレットがまだ効いているおかげで、それがみるみるうちに回復していく。
さすがに千年物の聖女様は年季が違った。
だが自分の頭の痛いのを治療している余裕はないようだ。
「姐御も回復魔法かける?」
「いやよい。
まだまだ怪我人は大勢おるゆえ、そちらへ使ってくれ」
仲間とリズムよく会話をしながら、俺はなんとか知り合いの彼の命と手足を繋ぐ事に成功した。
もしかしたら彼も、治療されながら俺達の話を聞いていたので、ここで死んでいる場合じゃないと思って、心と治癒能力が奮起したのかもしれない。
俺は治療と同時に派生スキルで支援していたりもした。
補助支援スキル【縁の下の向こう側】はクールタイムがないので、かけては十分間で効力が切れるとまたかけてと、延々とかけっぱなしにしている。
おかげで患者の治癒力や、各種の治療などの効力は常時二十パーセントほど上昇していたはずだ。
これって、こんなデスマーチの状態で役に立つスキルだったんだなあ。
なんと、このバルバディア聖教国を丸ごと二十パーセントも常時ブーストしているのだ。
他の回復魔法持ちの神官さんもいたが、本人もそれなりの怪我をしている上に、次から次へと回復治療デスマーチに巻き込まれていき、魔力が切れて過労でバタバタと倒れている。
そこまで行くと回復薬を飲んでから、しばらく自分も寝ているしか出来なくなるのだが、今神殿の救護所はそれも止む無しの、白衣の戦士達の戦場と化していた。
俺達のような最前線組の戦士も何故かその戦場で引き続き戦っていた。
そこまでしないと、死んでしまいそうな重傷者を捌けないので。
酷い切傷や擦過傷、骨折などの中軽症者は、一般の神官が治療しているが、さすがに治癒魔法の使い手のようにはいかなかった。
一般市民の被害者を優先しているので、酷い人になると通常なら真っ先に診てもらえるような傷を自力で呻きながら手当てしていた。
中でも自力で手が動かせない人などは、隣にいる足は動かないが手の動く人が、またしても自分が呻きながら手当てをしてあげていたりする。
もはや、地獄の惨状であった。
勇者といえども、鎧を白衣に脱ぎ替えて救護所から一歩も出られないような酷い状態だ。
いや脱ぎ替える白衣さえ不足していた。
もう血塗れで殆ど白衣が赤衣と化しており、浄化の魔法に振り分ける魔力さえも存在しない、赤衣の天使が舞い続けるデスパレード。
まさに地獄の釜の底であった。
まあ自分が寝ている羽目になるよりはいいのだけれどね。
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