外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-49 外人部隊メンバー・スカウトの旅と根性論

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「リクルよ。
 お前の混沌の扉内での修行は、もう終えたとみていいのじゃな」

「マロウスの鍛錬みたいに、際限なくお代わりが来るような追加の修行が無けりゃあね」

「では、そっちは俺が受け持とう」

「ねえ、マロウス。
 お手柔らかにお願いしますね。

 鍛練にも、程度という物があると思うのです。
 俺はあんたと違って人族なのですから」

「そんな、そよ風の囁きなど俺にはまったく聞こえんな。
 それにな、リクルよ。
 そこにまだ、お前を食いたがっている奴がいるのだぞ」

 そして、ハッと気がつくと、じーっと俺を見ている先輩がいた。

 あ、ヤバイ。
 あれはもしかして、そろそろ俺が食べ頃なのか本気で勘案している顔じゃないのか?

 そして案の定、真剣な表情で先輩から問い合わせが飛んでくる。

「リクル、今どこまで強くなった」

「バージョン14.8までですね。
 いや強烈にバージョンが丸々一つ上がりましたわ」

「数字で言われても、よくわからんなあ」

 そう言いつつも、久しぶりに先輩の目に狂気の炎がくべられている気がした。

「そ、それよりも、蜘蛛狩りの御伴はいかが?」

「ほお。
 蜘蛛を気前よく俺に譲るのだと?」

「その代わり、条件があるのさ」

「ほお、どんな条件だ。
 お前を食うなという話だけは聞けんなあ」

「いえいえ、蜘蛛の指揮官は俺がやるので、あんたに露払いをしてほしいだけさ」

「どういう事だ」

「蜘蛛の指揮官は殺さない事。
 条件はただそれだけだ。
 そいつを殺さない程度に痛めつけるまではやっていいよ」

 そして先輩は眼球だけを、そこで寛いで伸びをしながら大欠伸みたいなポーズをしているターワンへと動かした。

「いいだろう。
 そいつに、さっさと扉を捜させろ」

「いいけど、勝手に一人で扉に引っ張り込まれていないでくれよ、肉壁先輩」

「もしそうなったら、俺が全部いただくまでだ」

「もう、先輩。
 指揮官ラスターは、レアだから貴重品なんだからね」

 レッツ、ダンスタイム。

 俺の『精鋭ラスター部隊』を作る日がとうとうやってきたのだ。
 いつか敵の大群とぶつかる日がやってくるかもしれないのだし。

 聖女の肉壁たる勇者の、そのまた肉壁が必要なのであった。

【レバレッジ少しだけ優雅な14.0】は、こんな感じだった。

 基本能力は【英雄の鍛冶場のなんとか】

 今まで頑張った分だけ、緊急時にリミッター開放的なパワーが出るスキルだった。

 普通の人の鍛冶場の馬鹿力とはまるで比べ物にならない圧倒的なパワーだ。

 まるで今までの徳が試されるかのような、いざという時に自動的に発動する底力スキルなのだ。

 俺はスパルタな勇者養成講座の講師陣のお蔭で、これに関しては完璧にクリヤできているはずだから最大パワーであると思われる。

 なおパワー係数は不明だ。
 どうやら根性次第であるらしい。

 嫌だなあ。
 気合次第でどこまでも頑張れちゃうスキルなんて、使った後の反動がかなりキツイのと違うか? 

 勝手に発動しちゃうのも結構キツイ。

 そういう場合って、きっと頑張らないと自分が死ぬとか、世界が滅んじゃうとかの絶対に限界一杯までいくシーンだよな。

 そんな時は、とことんやらざるを得ないのに決まっているのだから。
 どの辺が少し優雅なんだよ。

 特種技能は【お姫様と一緒】だと!
 これって、「お母さんと一緒」の間違いじゃねえのか!? 

 このあたりが優雅?
 あのお姫様と一緒にいたって、日頃あまり優雅な雰囲気とかない気がするのだが。

 うちでお姫様といえば、いざとなったら邪神相手に「やあやあ我こそは」と名乗りを上げるような、あのお方しかいないよな。

「それ、リクル。
 邪神が出よったぞ。
 今こそ、あのスキルを使う時じゃ!」

 う、軽く死ねそうだ。

「お前の命が稼いでくれた三秒間、決して無駄にはせぬぞ」的なスキルだったら嫌だな。

 姫様と呼ばれるような方と一緒だと通常の全ての力がありえないほど増幅され、それは最大十倍程度と思われるが、根性次第でレバレッジがかかる。

 とんでもない勇者殺しのスキルだ。

 補助スキルは【根性付与】……あのなあ。
 どんどん、俺のスキルの根性論が露骨になってきたぞ。

 勇者とか聖女の世界って、普通では通用しないような根性論が非常に有効な世界っていうか、根性を見せないと人類が滅ぶとかいう、崖っぷちの世界観に満ちているのだ。

 実際に人類、邪神様に一度滅ぼされているのだし。

 まあ全然優雅じゃない事だけはわかった。
 ああ、だから『少しだけ優雅』なんだな。

 優雅なのは、お姫様っていう単語だけじゃねえか。

 このスキルは仲間達に素晴らしい根性が与えられ、実力以上に頑張れるようにするという。

 とうとう、パーティ丸ごとで根性論の世界に突入なのか。
 だが注意点がいくらかあるようだ。

『ブライアンの教え』
『先輩の期待』
『エルフ姫の平常運転』

 これらの、あまり日常的ではないエッセンスの含有量が半端ではないようだった。
 付与されても、仲間がそれに耐えられない場合ありだと⁉

 もはや名実共に完全な根性論スキルとなっている。
 うちの鬼教官達はともかく、狼や蜘蛛がどうかだな。

 精霊アイドル部隊は常に平常運転だから、あいつらに根性論など説くだけ始めから無駄な工数だ。
 
 しかし、だいぶ根性論的なスキルが増えてきていないか。

 師匠達だけではなく、自分のスキルまでスパルタになってきているような気がするのだが、気のせいだろうか。

 俺は、あの人達にかなり感化されてきているのかもしれない。

 あの連中は、初めから【対邪神特殊部隊】のような感じに姐御がスカウトしてきた肉壁英雄部隊なので、俺のような一介の勇者の小僧が同じ土俵で物事を考えるのは少し無謀だと、最近はとみに実感する毎日だ。

「じゃあ、なるべく根性のありそうな蜘蛛を捜しにいくか」

「根性だと?」

 さすがに先輩も妙な顔をしていたが、無視。

 あんたは根性論どころか、最高の苦難だろうが危険だろうが厭わずに、美味しい強敵を屠る喜びのためには、死の淵さえも楽しむ事しかしない異端の者。

 生物の生存本能に逆らって生きるような狂人なのは、最初からわかっているのだ。
 自らクレジネスを名乗るとは、よくぞ言ったものだ。

 武器防具も碌に持たずにダンジョンを一人で、うろうろしやがって。
 その状態で出会った冒険者が皆、悲鳴を上げて逃げ出すのだからなあ。

 俺の眷属としては、根性は持っていて必要な時にはとことん頑張れるが、命はちゃんと大事にする奴しか雇いたくない。

 そうバタバタと死なれては、せっかく鍛えた部下の補充が大変過ぎて話にならんわ。
 
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