外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-44 新しいペット

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 だが先輩が俺ごと、その蜘蛛の死体を胡乱そうに睨んでいる。

「敵を倒しても扉が開かないだと?
 もしかして、そいつはまだ生きているんじゃないのか?」

「え? そうかな。
 どう見ても死んでいるようにしか見えないのだが」

 そいつは、なんというか抜け殻みたいな感じだよな。

「や、やあね。
 もしかしたら、そいつ死んだふりをしているのかしら」

「エラヴィス、そいつを回復させろ」

「何を言ってんのよ、このバトルジャンキー。
 そんな事が出来るはずないじゃないのさ。
 うっかりとこいつが逃げ出したりしたらどうするのよ」

 だが、聖女のお許しは出た。

「エラヴィス、いいからやってみろ」

「ええっ。正気なの、姐御」

「我々はそいつが生きているのか死んでいるのか確かめる必要がある。
 もしそいつが本当に死んでいるのなら、蜘蛛を全員倒したとしても、リクルのような奇天烈なスキルでも持っていない限りは、件の扉から誰も出てこられまい」

「だから、やれと言ったのだ」

 先輩は、やはり頭がいい。
 それに曲がりなりにも王の息子であり、その勅命を受けた手前もある。

 俺達とは考える視点が違う。
 聖女たる姐御と同じ視点で物を見ているのだ。

「事態は深刻なのだぞ。
 もしそうであるならば、もはや我々ですら探索が苦しくなってしまう」

「わ、わかったわ。
 確かにそうね。

 じゃあみんな行くわよ。
 でも心してね。
 こいつ、物凄く素早いから、もし本当に生きていたら」

「わかった、やってくれ」

「そいつは俺の獲物だ!」

「はいはい、先輩。
 お好きなように。
 そいつが生きているかどうかまでは知らないですがね」

 そして、エラヴィスの聖光の魔法剣が輝いた。

 彼女はこういう回復系の魔法も使えるが、あくまで魔法剣として使用する。

 その制約のお蔭で、彼女は器用貧乏にならずに圧倒的な種類と力の魔法を魔法剣として使用できるのだ。

 そして皆が注目する中、蜘蛛は突然立ち上がるとプハーっという感じに足を全開にして蘇生した。

 一瞬にして立ち上がって、そのでかい足を全部広げたので、凄まじくでかく感じる。

 あまりにも急に復活したので、先輩でさえもビクっとして出遅れた。

「待て、この蜘蛛野郎が」

 もう先輩から見て、こいつらは天敵扱いだな。
 まあ、踏破者たる先輩が何度も無様にぐるぐる巻きにされちまっていたからなあ。

 だが奴は先輩の踏み込みなど待たずに、さっと回り込み、素早く俺の後ろに器用に隠れた。
 そいつの図体が大きすぎるので隠れ切れていないのだが。

 しかし、なんだか様子が変だ。
 こいつは、まるで俺が奴の庇護者か何かであるように振る舞っている。

 本来ならば、ラスターなんて問答無用で人間を襲ってくるはずなのに。
 これはもしや!

「なあ、先輩。
 ちょっと待ってくれないかな。
 七尺の虫にも一尺の魂」

 そいつの長い足まで入れると通常で、縦横がその倍、足を思いっきり伸ばすとさらに一.五倍の大きさになるけどね。

 蜘蛛って本体はあまり大きくない。
 こいつはその本体が約七尺、つまりニメートルくらいあるのだけれども。

 こいつは普段はパッと見に全長ならびに幅が四メートルの高さ二メートル、そして威嚇するつもりなら足を全力で伸ばして縦横で六メートルくらいまでに見せかけれる。

 今はちぢこまっているので、縦横約ニメートルちょいかな。
 蹲ると本体だけなら幅一メートルで高さは八十センチほどの可愛いサイズだ。

 動きは台所によく出るアレよりも素早いのだが。

「なんだ。
 お前だって、さっき好きにしろと言っただろうが。
 そこをどけ、リクル」

 だが俺は既に茹蛸と化している先輩を無視すると、くるりと向きを変えてそいつの前にしゃがんで座り、こう言ってやった。

「蜘蛛ちゃん、お手」

 彼? は即座に畳まれていた右前足を差し出し、俺が差し出した右の手の平に、その毛だらけでトゲトゲな足先をそっと乗せてくれた。

 どうやら俺の手を傷つけない配慮まで出来る子のようだ。
 さすがは指揮官クラスのラスターだな。

 俺は振り向いて、ペットの飼育に関して決定権を持つだろう、うちのお母さんに聞いてみた。

「姐御、この子って凄く賢いですよ。
 俺が飼ってもいいっすか」

 姐御は片手で顔を覆ってしまっており、エラヴィスは片手で口を押さえながら笑いを堪えていた。

「あははは、リクル。あんたって最高ねー」

「お前は本当に……まあよかろう。
 わざわざ、そのような物を入手したのだ。
 お前にも何か考えという物があるのだろうし」

「イエス、マム!」

「うむ、やはり俺の踊りは最高だな」

 そして先輩は両手で槍を肩口まで振り上げたまま、珍妙な顔で見事に固まってしまっていた。

 そして精霊どもは好き放題な事を言っていた。

「やっぱり、勇者ってこういう奴ばっかりなんだなあ」

「でも面白いでありんす」
「まさに、その一言に尽きるよ」

「これは僕も当分楽しめそうだにょ」

「なあ先輩とやら。
 あー、駄目だ。
 この人間には何故だか知らないが、うちらの話がまったく聞こえていないようだぞ」
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