88 / 169
第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-1 打ち合わせはお代わりの合間に
しおりを挟む
「ふ、さっきはこの俺とした事が、つい熱くなってしまったな」
そんな事を言いながら、先輩は神殿前にて立ったまま涼しい顔をしていた。
俺はふてくされた表情で、大神殿にある塔へ向かう裏門の石段に座り込み、夕暮れの爽やかな聖都を吹き渡る風に髪をそよがせていた。
「何を抜け抜けと、そんなすっきりしたような顔で言ってやがるんだよ。
よくも、あそこまでボコボコにしてくれたな。
バージョン6.0で手に入れた【すべてのダメージ半分】が今回のバージョン11.0のスキル【全能力×10】で十倍になっているのに、アレなんだもの」
「リクル。
それは、お前の修行が足りないせいだ」
あっさり言いきりやがった、この先輩。
だが、この先輩が何気に発した言葉もある意味では非常に正しかったのだ。
「うるせえよ。
しかも、基本機能の自動重ね掛けがかかる、バージョン9.0の【すべてのダメージ十分の一】もあるんだぞ。
都合、二千二百倍のダメージ軽減力があってアレなのかよ!」
道理で、素手で魔物を粉砕出来るわけだ。
ラビワン・ダンジョンの底にいる最後の番人まで、素手で叩きのめしてきたものに違いない。
くそ、いつか必ずやり返してやる。
「お前は、どうもスキルに頼り過ぎるきらいがあるな。
悪い癖だ」
「くそ、ダメージ軽減系のスキルで無茶苦茶に軽減されているというのに、あの状態だなんて、どれだけ容赦がないんだ。
それに加えて素のスキルでレバレッジされているんだぞ。
普通の人間なら死んでいるからな。
あんたのせいで、回復スキルがどんどん湧いてきているぞ」
結局、混雑していて特殊な条件下での走りとなる塔のコースでは先輩に勝ったものの、障害物のない平地では神殿のゴールまでもたずに先輩に捕まってしまったのだ。
どれだけ凄いんだよ、踏破者って奴は。
くそ、まだ駄目だった。
いつか絶対にこの先輩に勝つぜ。
とりあえず、安全そうな鬼ごっこで。
そこから頭に血が上った先輩に捕まって、遠慮の一つもなくフルボッコにされてしまった。
夕方の時間で祈りの塔から大神殿に向かう人も多く、周囲の人から注視されまくりで、仮にも街を救った勇者たる者にとって決まりが悪い事この上なかった。
まあ回復力が凄まじいので、この夕暮れの時間にはもうすっかり綺麗に治っていたのだが。
それから、俺達は糠に釘に近い感じの問答を繰り返しながら夕餉の場に急いでいた。
あれだけ激しく鍛練すれば、腹だって減るわ。
あの見上げるような塔を、全力で百回も登ったんだからな。
そして今の夕食の時間に至っても、まだ俺達二人は問答を続けていたのだった。
「お前、本当に回復力が凄いな。
俺も、お前の六倍ブーストを受けた経験はあるが、あれの倍以上の力なのか。
その上、あれこれスキルでブーストされているのか。
想像もつかん」
「うるせえよ。
いくら回復するからって痛いのには変わりないんだぞ。
回復力の場合は六倍と十一倍は倍じゃなくって全然違うものだ。
遥かに、もっと凄いんだからね。
今回最後にあんたの頭を踏んだ時に、更に回復力は別で、体の丈夫さも十倍になったはずなんだぞ」
「お蔭で、お前の今の素の固さがわかって満足だ。
リムル、随分と美味しくなってきたじゃないか。
まあ所詮は、まだ三割くらい熟した程度なのだが。
そうか、じゃあ次回はもっとボコボコにしてみよう」
「くそー、回復力増強の基本能力スキルでの重ね掛けスキルが欲しい。
先輩から一発もらう端から治癒していくような凄い奴が~」
「早くそのスキルを手に入れるんだ、リクル。
そうしたら遠慮なく俺が君をボコれるだろう」
「あれでまだ遠慮があったっていうのかよ、この化け物が~」
だが、姐御がジロっと睨んだ。
「お前ら、煩いぞ。
もう飯時だ、少し静かにしろ」
「へーい」
「だってリクルを徹底的にボコボコに出来たから、つい嬉しくてな」
この人非人がー。
だが、俺はもうその馬鹿には関わらないようにして夕食に夢中になっていた。
だって明日から久しぶりにダンジョンへ潜り、しかも今ここのダンジョンはお宝てんこ盛りモードなんだぜ。
たくさん食って精力をつけておかないとなー。
「若い子は元気があっていいですねー」
今日は打ち合わせを兼ねて、一緒に夕食を食べているマイアが楽し気に見ていた。
「若い子って、先輩は」
「まだ十八歳だが、それがどうした」
「嘘!」
見た目はそう見えんのだが。
とっくに二十代半ばくらいなのかと思ってた。
もしかしたらこの人、まだ能力がかなり伸びていくんじゃないの⁉
ヤベエ。
せっかく、良い加減で追いつきだしたと思っていたのに。
ただでさえ、この人と俺じゃ元々の経験値があまりにも違い過ぎるからな。
「本当じゃよ。
まあ、あのイカれた強さの王の息子なのだからな。
その若さで今の地位にあるのも頷けるというものだわい」
「ああ、奇しくも彼の先祖は、私と共に邪神の封印を行なったメンバーだったのだしな。
何代前の奴だったのかまでは忘れてしまったが」
「マ、マジで?」
相変わらず、素で時代ボケしている姐御にスパっといい笑顔で頷かれてしまったので、俺は大人しく今届いたばかりの二枚目のステーキに取り掛かった。
ステーキのお代わりを待つ間、先輩と押し問答していただけなのだ。
この狂人が、おそらく当時の勇者を務めただろう王子様だか現役の王様だかの子孫なのか。
もう世も末だな。
そんな事を言いながら、先輩は神殿前にて立ったまま涼しい顔をしていた。
俺はふてくされた表情で、大神殿にある塔へ向かう裏門の石段に座り込み、夕暮れの爽やかな聖都を吹き渡る風に髪をそよがせていた。
「何を抜け抜けと、そんなすっきりしたような顔で言ってやがるんだよ。
よくも、あそこまでボコボコにしてくれたな。
バージョン6.0で手に入れた【すべてのダメージ半分】が今回のバージョン11.0のスキル【全能力×10】で十倍になっているのに、アレなんだもの」
「リクル。
それは、お前の修行が足りないせいだ」
あっさり言いきりやがった、この先輩。
だが、この先輩が何気に発した言葉もある意味では非常に正しかったのだ。
「うるせえよ。
しかも、基本機能の自動重ね掛けがかかる、バージョン9.0の【すべてのダメージ十分の一】もあるんだぞ。
都合、二千二百倍のダメージ軽減力があってアレなのかよ!」
道理で、素手で魔物を粉砕出来るわけだ。
ラビワン・ダンジョンの底にいる最後の番人まで、素手で叩きのめしてきたものに違いない。
くそ、いつか必ずやり返してやる。
「お前は、どうもスキルに頼り過ぎるきらいがあるな。
悪い癖だ」
「くそ、ダメージ軽減系のスキルで無茶苦茶に軽減されているというのに、あの状態だなんて、どれだけ容赦がないんだ。
それに加えて素のスキルでレバレッジされているんだぞ。
普通の人間なら死んでいるからな。
あんたのせいで、回復スキルがどんどん湧いてきているぞ」
結局、混雑していて特殊な条件下での走りとなる塔のコースでは先輩に勝ったものの、障害物のない平地では神殿のゴールまでもたずに先輩に捕まってしまったのだ。
どれだけ凄いんだよ、踏破者って奴は。
くそ、まだ駄目だった。
いつか絶対にこの先輩に勝つぜ。
とりあえず、安全そうな鬼ごっこで。
そこから頭に血が上った先輩に捕まって、遠慮の一つもなくフルボッコにされてしまった。
夕方の時間で祈りの塔から大神殿に向かう人も多く、周囲の人から注視されまくりで、仮にも街を救った勇者たる者にとって決まりが悪い事この上なかった。
まあ回復力が凄まじいので、この夕暮れの時間にはもうすっかり綺麗に治っていたのだが。
それから、俺達は糠に釘に近い感じの問答を繰り返しながら夕餉の場に急いでいた。
あれだけ激しく鍛練すれば、腹だって減るわ。
あの見上げるような塔を、全力で百回も登ったんだからな。
そして今の夕食の時間に至っても、まだ俺達二人は問答を続けていたのだった。
「お前、本当に回復力が凄いな。
俺も、お前の六倍ブーストを受けた経験はあるが、あれの倍以上の力なのか。
その上、あれこれスキルでブーストされているのか。
想像もつかん」
「うるせえよ。
いくら回復するからって痛いのには変わりないんだぞ。
回復力の場合は六倍と十一倍は倍じゃなくって全然違うものだ。
遥かに、もっと凄いんだからね。
今回最後にあんたの頭を踏んだ時に、更に回復力は別で、体の丈夫さも十倍になったはずなんだぞ」
「お蔭で、お前の今の素の固さがわかって満足だ。
リムル、随分と美味しくなってきたじゃないか。
まあ所詮は、まだ三割くらい熟した程度なのだが。
そうか、じゃあ次回はもっとボコボコにしてみよう」
「くそー、回復力増強の基本能力スキルでの重ね掛けスキルが欲しい。
先輩から一発もらう端から治癒していくような凄い奴が~」
「早くそのスキルを手に入れるんだ、リクル。
そうしたら遠慮なく俺が君をボコれるだろう」
「あれでまだ遠慮があったっていうのかよ、この化け物が~」
だが、姐御がジロっと睨んだ。
「お前ら、煩いぞ。
もう飯時だ、少し静かにしろ」
「へーい」
「だってリクルを徹底的にボコボコに出来たから、つい嬉しくてな」
この人非人がー。
だが、俺はもうその馬鹿には関わらないようにして夕食に夢中になっていた。
だって明日から久しぶりにダンジョンへ潜り、しかも今ここのダンジョンはお宝てんこ盛りモードなんだぜ。
たくさん食って精力をつけておかないとなー。
「若い子は元気があっていいですねー」
今日は打ち合わせを兼ねて、一緒に夕食を食べているマイアが楽し気に見ていた。
「若い子って、先輩は」
「まだ十八歳だが、それがどうした」
「嘘!」
見た目はそう見えんのだが。
とっくに二十代半ばくらいなのかと思ってた。
もしかしたらこの人、まだ能力がかなり伸びていくんじゃないの⁉
ヤベエ。
せっかく、良い加減で追いつきだしたと思っていたのに。
ただでさえ、この人と俺じゃ元々の経験値があまりにも違い過ぎるからな。
「本当じゃよ。
まあ、あのイカれた強さの王の息子なのだからな。
その若さで今の地位にあるのも頷けるというものだわい」
「ああ、奇しくも彼の先祖は、私と共に邪神の封印を行なったメンバーだったのだしな。
何代前の奴だったのかまでは忘れてしまったが」
「マ、マジで?」
相変わらず、素で時代ボケしている姐御にスパっといい笑顔で頷かれてしまったので、俺は大人しく今届いたばかりの二枚目のステーキに取り掛かった。
ステーキのお代わりを待つ間、先輩と押し問答していただけなのだ。
この狂人が、おそらく当時の勇者を務めただろう王子様だか現役の王様だかの子孫なのか。
もう世も末だな。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
異世界にクラス転移したら全員ハズレスキルを持たされた
アタラクシア
ファンタジー
人生で数度もない貴重なイベントである修学旅行。この風鈴高校に通う二年二組の生徒たちも、長い間待ち望んでいた修学旅行に胸を躍らせていた。
はしゃぐバスの中――突然周りが黒く染まり、生徒たちは下へ下へと落下してしまう。
目が覚め、見えた景色は――現実の法則が意味をなさない、まさに『異世界』であった。
クラス全員ハズレスキル!?前代未聞の異世界転移に少年少女らは立ち向かう。
――根源に至る『四騎士』
――世界征服を企む『ナイトメア』
――新世界を作ろうとする『ネビュラ教』
異世界の様々な情勢に振り回されながらも奔走する。目指すは「クラスメイト全員の合流」と「元世界への帰還」。
はたして彼らは全員合流し、元の世界へと帰れるのか。
長くも奇妙な修学旅行が今始まる――。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる