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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-62 王都セントス
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そして夕方になった頃、馬車の目前に現れた壮観な都市があった。
俺が生まれて初めて見る大都会だ。
窓から覗いて目の前いっぱいに広がる光景は荘厳で豪奢な佇まいを見せていた。
周りは開けているので、なだらかな地形と相まって大スペクタクルの光景だ。
「うわ、すげえ。
こいつはでかい街だな」
「はは、リクルよ、何を言っている。
ここは我が国の王都セントスだぞ」
「あ、そうか。
地理的にラビワンから北へ行くとそうなるのか」
そうだった。
ダンジョン都市バルバディア聖教国、そこにある聖なる山を国名の由来に持つ、このセントマウンテン王国も王都セントスをその聖地の懐に置くのだった。
いっそ、その聖地を王都にしておいてもよさそうな物だったが、そういうわけにもいかないものらしい。
諸外国にとっても、そこは聖地扱いなので、いくら国内にその聖地を持とうとも独占はよくないという話のようだ。
聖地は公平性と独立性を保つために、そこはバルバディア聖教国と呼ばれ、王国も干渉はできない完全な一種の自治区なのだ。
その代わりに、そこに発生したダンジョンからの『上がり』はセントマウンテン王国の物となる。
無論、一定の割合は税収として自動的にバルバディア聖教国の取り分になるのだ。
そこで聖地からは少し離した、国内にある二つのダンジョンの真ん中あたりに王都を置き、双方からの魔石供給その他を十分に受けられる場所に作ったという事らしい。
知識ではわかっているものの、目の前の壮大な光景と結び付けてパッと出てこないもんだ。
俺は王都なんて行った事などないのだし。
生まれてこの方、近所の村へ用足しに行く以外は一歩も出た事のない自分の村から徒歩でラビワンを目指して旅に出たのだから。
ラビワンの街に入ってすぐ冒険者協会を訪ねたら、そのまま缶詰にされて衣食住付きで講習を受け、俺は優秀な成績を叩き出した。
それから、そのままスカウトされてブライアンのところに引き取られたのだ。
村からは五日の日程で二百キロ歩いただけが俺の人生初の旅の全行程だ。
後は来る日も来る日もダンジョンにて修行の日々。
それが俺の世界のすべてだった。
だが、そこまでトントンといけた俺はまだ幸せだった。
ギルドから見込みがないとされ、あまり面倒を見られなかったような奴は当然、冒険者パーティのマネージャーからも見返られないので、大概はそこでジ・エンドだ。
たいしたスキルに恵まれなかったような大方の奴は、ダンジョンの中であえなく短い最期を迎える。
「つまり、ようやく旅程の半分まで来たという事か。
あれ、先輩は?
さすがに、あの大きな熊を連れていたらマズイんじゃないの~?」
「呼んだかい?」
「うわ、いつの間に戻って来た。
っていうか、そこから突然に顔出さないで。
びっくりするでしょうが」
「リクルよ、その程度で驚いているとは情けない」
「出てくるのが、あんたの顔だから驚くんだ。
いちいち心臓に悪いんだよ」
よく見たら子供達は、いつの間にか車内に戻っていて、窓から半ば乗り出して一心に無言で王都の雄姿を眺めていた。
頼むから落ちるなよ。
まああの子らと妙に仲がいい先輩が屋根の上にいるから、そう心配する必要はないのかもしれないが。
「熊ならもう山に返したが」
「おい、熊が途中で人を襲ったりしないだろうな」
「彼、しばらくは人間が怖くてしょうがないだろうね」
「あ、ああそうなのかも。
あんたが言うと妙に説得力あり過ぎるわ」
「どうでもいいが、クレジネス。
そろそろ馬車に戻れ。王都入場だぞ」
姐御から、普通ならばありえないようなクレームがついた。
そういや、そうだわ。
こんな不審人物を屋根に置いたままで王都入りするのはちょっとな。
「俺はここで構わないんだがな」
「こっちが構う」
きっと姐御はここでも有名人なんだろうからな。
それに、こいつだって成り上がりとはいえ領地まで与えられた貴族、しかも上級貴族たる伯爵なんだから、先輩が屋根の上にいたら確かにマズイのかもしれない。
「王都入場ねえ」
「すぐにわかるわよ」
何故かエラヴィスが悪戯っぽく笑いながら言った。
「へえ?」
だが確かにすぐに理解できた。
そこはよく見ると塀で囲まれていたのだ。
街自体が一種の王城とでもいうべきものなのか?
しかも、だだっ広い道を挟んで左右に分かれて。
「な、なんだい、こりゃあ」
「はは、王都セントスは二つのブロックに分かれている。
往来の激しい街道を遮断しないようにな。
そして、王都も街道の恩恵はしっかり受けられる。
まあお蔭でダンジョン都市間もストレスなくフリーパスも同然だから、カミエのような奴も素通り出来てしまう訳だが」
「うわー、そいつも善し悪しですね」
「まあな。
片や主に王宮と貴族街に神殿と軍隊、片や商業区に工業区、宿屋に歓楽街、そして一般の居住区などだ。
我々はこちら側から見て右側、東の方角にある一般区画へ入る」
「姐御やクレジネスがいるのに?」
もうセラシアは俺が姐御呼びしても文句は言わなかった。
一応は、混浴もした仲だし?
先輩とは混浴しないで済んで幸いであった。
あの先輩の事だから、きっと水中戦も見事にこなすのに決まっている。
今のレベルでは俺が一方的に不利だ。
「はは、一泊して羽根を伸ばすというのに、そんな方へ行きたいのか?
まあ、あちらも入れない事はないが、それはうちの馬車だけだ。
今回はキャラバン隊を引き連れているのでな。
それに子供達の事がある」
「あ、そうか」
「どうせ孤児院に入れるなら、裕福な王都の方がよいかと思って前の街で子供達を下ろさなかったのだ。
ここなら私の顔も利く。
少し寄付を弾んでやれば先方も嫌とは言うまい」
「さすが姐御、言う事が違うなあ」
この姐御、相変わらずの漢っぷりである。
そういや聖女バルバディアの係累って言っていたっけなあ。
『千年前の』聖女様の係累なのかー。
千両役者ではなく軽く千年女王なのだ。
そら貫禄が違うわ。
俺が生まれて初めて見る大都会だ。
窓から覗いて目の前いっぱいに広がる光景は荘厳で豪奢な佇まいを見せていた。
周りは開けているので、なだらかな地形と相まって大スペクタクルの光景だ。
「うわ、すげえ。
こいつはでかい街だな」
「はは、リクルよ、何を言っている。
ここは我が国の王都セントスだぞ」
「あ、そうか。
地理的にラビワンから北へ行くとそうなるのか」
そうだった。
ダンジョン都市バルバディア聖教国、そこにある聖なる山を国名の由来に持つ、このセントマウンテン王国も王都セントスをその聖地の懐に置くのだった。
いっそ、その聖地を王都にしておいてもよさそうな物だったが、そういうわけにもいかないものらしい。
諸外国にとっても、そこは聖地扱いなので、いくら国内にその聖地を持とうとも独占はよくないという話のようだ。
聖地は公平性と独立性を保つために、そこはバルバディア聖教国と呼ばれ、王国も干渉はできない完全な一種の自治区なのだ。
その代わりに、そこに発生したダンジョンからの『上がり』はセントマウンテン王国の物となる。
無論、一定の割合は税収として自動的にバルバディア聖教国の取り分になるのだ。
そこで聖地からは少し離した、国内にある二つのダンジョンの真ん中あたりに王都を置き、双方からの魔石供給その他を十分に受けられる場所に作ったという事らしい。
知識ではわかっているものの、目の前の壮大な光景と結び付けてパッと出てこないもんだ。
俺は王都なんて行った事などないのだし。
生まれてこの方、近所の村へ用足しに行く以外は一歩も出た事のない自分の村から徒歩でラビワンを目指して旅に出たのだから。
ラビワンの街に入ってすぐ冒険者協会を訪ねたら、そのまま缶詰にされて衣食住付きで講習を受け、俺は優秀な成績を叩き出した。
それから、そのままスカウトされてブライアンのところに引き取られたのだ。
村からは五日の日程で二百キロ歩いただけが俺の人生初の旅の全行程だ。
後は来る日も来る日もダンジョンにて修行の日々。
それが俺の世界のすべてだった。
だが、そこまでトントンといけた俺はまだ幸せだった。
ギルドから見込みがないとされ、あまり面倒を見られなかったような奴は当然、冒険者パーティのマネージャーからも見返られないので、大概はそこでジ・エンドだ。
たいしたスキルに恵まれなかったような大方の奴は、ダンジョンの中であえなく短い最期を迎える。
「つまり、ようやく旅程の半分まで来たという事か。
あれ、先輩は?
さすがに、あの大きな熊を連れていたらマズイんじゃないの~?」
「呼んだかい?」
「うわ、いつの間に戻って来た。
っていうか、そこから突然に顔出さないで。
びっくりするでしょうが」
「リクルよ、その程度で驚いているとは情けない」
「出てくるのが、あんたの顔だから驚くんだ。
いちいち心臓に悪いんだよ」
よく見たら子供達は、いつの間にか車内に戻っていて、窓から半ば乗り出して一心に無言で王都の雄姿を眺めていた。
頼むから落ちるなよ。
まああの子らと妙に仲がいい先輩が屋根の上にいるから、そう心配する必要はないのかもしれないが。
「熊ならもう山に返したが」
「おい、熊が途中で人を襲ったりしないだろうな」
「彼、しばらくは人間が怖くてしょうがないだろうね」
「あ、ああそうなのかも。
あんたが言うと妙に説得力あり過ぎるわ」
「どうでもいいが、クレジネス。
そろそろ馬車に戻れ。王都入場だぞ」
姐御から、普通ならばありえないようなクレームがついた。
そういや、そうだわ。
こんな不審人物を屋根に置いたままで王都入りするのはちょっとな。
「俺はここで構わないんだがな」
「こっちが構う」
きっと姐御はここでも有名人なんだろうからな。
それに、こいつだって成り上がりとはいえ領地まで与えられた貴族、しかも上級貴族たる伯爵なんだから、先輩が屋根の上にいたら確かにマズイのかもしれない。
「王都入場ねえ」
「すぐにわかるわよ」
何故かエラヴィスが悪戯っぽく笑いながら言った。
「へえ?」
だが確かにすぐに理解できた。
そこはよく見ると塀で囲まれていたのだ。
街自体が一種の王城とでもいうべきものなのか?
しかも、だだっ広い道を挟んで左右に分かれて。
「な、なんだい、こりゃあ」
「はは、王都セントスは二つのブロックに分かれている。
往来の激しい街道を遮断しないようにな。
そして、王都も街道の恩恵はしっかり受けられる。
まあお蔭でダンジョン都市間もストレスなくフリーパスも同然だから、カミエのような奴も素通り出来てしまう訳だが」
「うわー、そいつも善し悪しですね」
「まあな。
片や主に王宮と貴族街に神殿と軍隊、片や商業区に工業区、宿屋に歓楽街、そして一般の居住区などだ。
我々はこちら側から見て右側、東の方角にある一般区画へ入る」
「姐御やクレジネスがいるのに?」
もうセラシアは俺が姐御呼びしても文句は言わなかった。
一応は、混浴もした仲だし?
先輩とは混浴しないで済んで幸いであった。
あの先輩の事だから、きっと水中戦も見事にこなすのに決まっている。
今のレベルでは俺が一方的に不利だ。
「はは、一泊して羽根を伸ばすというのに、そんな方へ行きたいのか?
まあ、あちらも入れない事はないが、それはうちの馬車だけだ。
今回はキャラバン隊を引き連れているのでな。
それに子供達の事がある」
「あ、そうか」
「どうせ孤児院に入れるなら、裕福な王都の方がよいかと思って前の街で子供達を下ろさなかったのだ。
ここなら私の顔も利く。
少し寄付を弾んでやれば先方も嫌とは言うまい」
「さすが姐御、言う事が違うなあ」
この姐御、相変わらずの漢っぷりである。
そういや聖女バルバディアの係累って言っていたっけなあ。
『千年前の』聖女様の係累なのかー。
千両役者ではなく軽く千年女王なのだ。
そら貫禄が違うわ。
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