外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-41 お客さん

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 再びキャラバンは進みだした。

 うちは先頭を行くベーゼル隊長の馬車の直後にいて、後方の気配も確認しながら行く。

 今のところ薬のお蔭か、俺も特に馬車酔いはしていない。

 それなりに揺れはするものの、ダンジョン都市間を結ぶ街道は、たくさんお金の落ちる街道なのでよく整備されており、まだ道はいいという話だ。

 それでも初の馬車旅の旅行者にとっては、やはりかなり揺れるように感じる。
 だが鍛え上げた俺の肉体は簡単には悲鳴を上げたりはしない。

 さらに俺の肉体は常時レバレッジで強化されているのだから。

「北方まではラビワンから約四百キロですよね。
 全行程何日でしたっけ。
 一応、テントまで持ってきていますが」

「ああ、それでお前は大荷物なのだな。
 一応は中日に丸一日休憩を入れて、全部で九日の予定だ。

 不測の事態が起きれば、また行程は伸びる。
 夜はちゃんと宿に泊まるよ」

「何かありそうですか?」

「さあな、よくあるのが馬車の車軸折れだ。
 予備はあるが、交換は大掛かりになるのでなあ。
 まあみんなでやって一日がかりだな。

 そういう話もあるので馬車単独での都市間移動は滅多にやらん。
 よっぽど金をかけた特殊な馬車なら別だが、それこそ貴族の乗物だな」

 だが、エラヴィスが横から混ぜっ返した。

「貴族の場合は護衛の冒険者が付くから却って単独行ではないわね。
 でも、うちは別よ。
 エルフの魔法使いと、力持ちのドワーフとビーストベアーがいるのだからね」

「おまけに魔法剣で不要なパーツなんかあれば一瞬でバラバラだしのう」

 御者台のマロウスからも声がかかる。
「うちは金属性の車軸だからねえ。
 このメンツなら比較的簡単に修理は可能なのさ」

 だが俺は不思議に思ったので訊いてみた。

「それだと、殆どキャラバンの護衛をしていく必要ありませんよね。
 お金にもそう困っているわけでもないでしょうし」

「何を言う、旅は道連れというではないか。
 旅は賑やかな方がよい」

「なるほど、いかにもこのパーティらしいや」

 だが、しばらく行った先で何かに引っかかった。

 少し地形的に死角が多そうで、遠目に見ても警戒をすべき感じであったので少し注意していたのだが、何かこう非常に心がざわつく。

 まるでダンジョンの中でトラップが先にあるのを感じ取るかのような、あるいは魔物が隠れて待ち伏せしている気配であるかのような。

 何度も死線を潜った冒険者の勘という奴なのだが、それが妙に強く感じられる。

 今は五感さえもレバレッジされているのだ。

 聴覚と、あと皮膚感覚で大気の各種情報を含んだ囁きに身を委ねてみる。
 嗅覚さえも、何かの違和感を捉えた気がする。

「あれ、何だろうな、この感じは。
 今まで感じた事のないようなものだ」

「どうした、リクル」

「えーと、何ていうのか、敵の気配のようなものが。
 待ち伏せ?
 それとも気のせいかな」

「あはは。
 この子、よく盗賊団に気が付いたじゃない。
 とても新人とは思えないわ」

 なるほど、盗賊団の待ち伏せだったのか。
 さすがに、そいつはダンジョンにはいないからな。

 追い剥ぎなら大勢いたが、あれはあれでまた少し違う気配のものなのだ。

「だから中級になれたんじゃろう」
「十六パーティを一人で返り討ちにしたくらいだから、まあこのくらいは気が付くだろうな」

「やっぱり何かいましたか」
 皆は一様に頷いた。

 そして馬車は止まり、後続馬車達も順次停車する。

 マロウスからの合図を受けて先頭を行く隊長馬車も停車した。

 これで、こちらが気付いた事は先方にバレたが、どうという事もあるまい。

 相手は下層の強大な魔物などではない、ただの人間に過ぎないのだから。

 その代わりに奴らにはない知恵を持った、狡猾な生き物だから油断はできないのだ。

「さて、諸君。戦闘準備だ。
 ルーキー、お前は殿しんがりを守れ。

 バニッシュは隊長の馬車の前で。
 私が魔法で支援する。

 マロウスは馬車の上でキャラバンの側面を監視。

 エラヴィス、この程度ならばお前が全部仕留めてこい。
 撃ち洩らしは全部こちらでやる」

「ちょっと待ってください。
 一つ試してみたい事があって」

 これから超物騒らしい北のダンジョンへ行くのだ。
 いい機会だし、この上級者パーティでどれだけ俺の支援が有効なのか試しておきたい。

「ほお?」

「俺は他人を支援してブーストをかけられる力があります。
 そいつは二倍から六倍の範囲で効力は十分間続きます。

 ただしクールタイムがあるので連続使用は不可です。
 ラビワンの管理魔物も、クレジネスと組んで倒したんです」

「なんと」
「それは面白いのう」
「へえ、本当に面白いじゃない」

「本来なら盗賊相手に不要でしょうが、本番に備えて試しておきたくて」

 それを聞いて全員が不敵にニヤリと笑った。
「小僧、遺跡のダンジョンへ行く気満々じゃのう」

「一番行きたいのがあんたでしょ、じっちゃん。
 なんたって素材が欲しいんだもんね」

 それには戦いの直前だと言うのに全員爆笑した。
 元々、あそこは魔法金属の鉱山跡系のダンジョンなので、お宝の筆頭がそれなのだから。

 本当はバニッシュが一番行きたくて行きたくてたまらないのだ。
 おそらくは彼がサブ責任者なので、そこまで我は通せないのだろう。

「確かにねえ。
 よかったわね、バニッシュ。
 活きのいい若い子と一緒で」

「お前も人の事を言えないだろう、エラヴィス。
 うちのメンバーの中では一番若くて血の気が多いのだから」

「ふふ、あんたこそね、脳筋ビーストのマロウス」
 
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