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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-40 北方の不穏
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「おーい、アルビン。
ちょっと、おいで」
アルビンと呼ばれた使用人のおじさんが小走りでやってきた。
「なんでございましょう、奥様」
「ああ、何か北方の冒険者向きの話題は入荷していないかい」
「ああ、それならば二週間くらい前からの、ごく最近の話でございますが、遺跡の地下迷宮で凄い魔法武具が出たそうで、冒険者達が沸いておるようで。
ですが」
そこで彼は少し声を潜めた。
「そこから帰ってこない冒険者の方も同時に急増しまして、現地の冒険者協会では中級未満の初級の冒険者は当座ダンジョンに入ってはならないと、入場審査を強めたと言う話でございます」
「ほう、それはまた珍妙な。
それで?
向こうに異変が見られると言う話は、知人から早馬でもらった手紙で知っており、それで私も様子を伺いに行くところなのだが」
セラシアも眉を顰めた。
あれ、そういう話だったのか。
おそらく、長命な彼女の経験からすればこの話はあまり良くない何かの兆候なのだろう。
この俺にしても凶兆のように思える。
俺の表情の変化を彼女もチラっと見ていた。
新人ながら思慮深く、あっという間に中級になるほどとはいえ、まだペーペーの俺でさえ憂慮を示すものと認識したようだ。
こういう事は直感的なものなのだ。
その事に敏感でない冒険者は長生きできないとは、ご存知ブライアン先生の教えだった。
「それでも一攫千金を夢見て中に入りたがる初級の冒険者は後を絶たず、彼らは殆ど帰ってこないそうで。
中には上級冒険者でさえも帰ってこない方もいらしたとか」
「そいつはまた剣呑な話だな。
おい皆の者、この話についてどう思う。
私としては様子見もありという感じなのだがな。
私は現地の情勢を知りたいだけだから、現地での詳しい情報次第で探索は無しでもよい」
それについては他のメンバーも思う所はあったようで、慎重な意見が相次いだ。
「そうさな。
まあ出たとこ勝負じゃろ。
なんとも物騒な話じゃ。
なんにせよ、命あっての物種じゃわい。
わしは向こうで武器が打てれば、それでええ。
セラシアに同意する」
「そうだな。
俺はそういうのも面白いからダンジョンへ行ってみたく思うが、さすがに少し様子がおかしいようだな。
現地で情報を集めてから判断したいので、一応は探索に賛成だが、現地の情報を得るまで返事は保留だ。
途中でも情報を耳にする事もあるだろう。
どうせ向こうでも情報は錯綜しているのではないか」
「悩ましいなあ。
魔法武具の話、何がどれだけ出たのか、どういう経緯で入手されたのか。
リスクとリターンを天秤にかけて、見返りに比べて危なそうならパスしたい……ところだけど。
まあ一応は賛成にしておくかな」
あれ、エラヴィスは何か含むところがあるのだろうか。
何か、どうしても探索に行かねばならないような理由でも?
少しセラシアの方をチラっと見ながら話していた気がするのだが。
「ほお?
跳ねっ返りのお前にしては殊勝な意見じゃないか。
絶対に行きたいと言うかと思ったのだが」
「姐御、さすがにヤバイよ。
特に上級の話なんかは。
とにかく今はなんとも言えないってとこね。
別にお金に困っているっていうわけでもないんだしさ。
まあ怖い物見たさで行ってみたくはあるけれど。
これで、一応の反対派が二名、非積極的な賛成派兼様子見が二名か。
リクル、あんたはどう思う?」
おっと員数外の俺にお鉢が回ってきたか。
俺はしばし考えるような形で、少し呼吸を置いて勿体ぶってみせた。
まあ『姐御』には俺の本音などバレているんだろうけど。
「そうですね。
もしどうしても鉈で割ったように二択の回答をというのなら、俺はダンジョンへ行ってみたいです」
「ほう、そいつは何故だ」
「若者だからに決まっているじゃないですか。
まあ慎重な生き方はしていますけど。
だって、お宝ですよ。
俺達が何故冒険者と呼ばれているのか。
少なくともアドベンチャーという意味じゃない」
このメンバーの中では一番俺に歳が近く、また血気盛んそうなエラヴィスが満面の笑顔を顔に張り付けた。
「リスキーアタント。
『危険な試み』『危ない橋を渡る』でしょ。
わかっているわ、そんな事」
俺は彼女に頷いて、さらに続けた。
「かといって無用なリスクを冒すのは冒険者ではなく、ただの馬鹿者です。
危険と冒険の境目は準備がよく出来ているか、正確な情報が十分集められていて、それがきちんと整理されているかですので」
「あなた、歳の割には賢いわね。
この先も長生きできそうよ」
「ありがとうございます。
とにかく俺達は危険者ではなくて冒険者なんだから。
という訳で、俺は非積極的な賛成派兼様子見ですね」
「決まりだな。
それに私には損得以外にも行くだけの理由があるのだから。
だからこその今回の北遠征だ」
最後に笑顔で姐御が締めくくった。
「ああ、やっぱりそういう話だったんですね」
他の皆も口々に感慨を漏らしていった。
「まあそうなるわよね」
「まあ、うちのパーティの事だからな。
俺は別に構わないよ」
「ほう、あの者達からの報せもあった訳じゃな。
そいつはまた面白い風向きじゃのう」
本当はセラシアも積極的に行きたいんだな。
それはわかっていたんだ。
でもパーティの責任者たるマネージャーだからなあ。
これを言うのはパーティの外部にいる若輩たる俺の責務だったのだ。
一番渋い事を言っていたはずのバニッシュさえ笑っている。
彼が何故冒険者になったのか。
きっかけは自分が見つけたお宝で自ら鍛冶をしたかったんじゃないのだろうか。
ドワーフの中にはそれが鍛冶の醍醐味だとか言っちゃう強者も中にはいるそうだし。
それにこの人達には、なんだか他に訳がありそうな雰囲気だ。
ついでにキャナルさんも笑っていた。
「あんたら、やっぱり冒険者なんだね。
おや、次のキャラバンが来たね。
ここも手狭になるから、そろそろ行こうかね。
先に来たものは多少休憩時間が短くなるもんさ。
まあ出遅れれば余計な経費がかかるから、これで正解なのさ」
ちょっと、おいで」
アルビンと呼ばれた使用人のおじさんが小走りでやってきた。
「なんでございましょう、奥様」
「ああ、何か北方の冒険者向きの話題は入荷していないかい」
「ああ、それならば二週間くらい前からの、ごく最近の話でございますが、遺跡の地下迷宮で凄い魔法武具が出たそうで、冒険者達が沸いておるようで。
ですが」
そこで彼は少し声を潜めた。
「そこから帰ってこない冒険者の方も同時に急増しまして、現地の冒険者協会では中級未満の初級の冒険者は当座ダンジョンに入ってはならないと、入場審査を強めたと言う話でございます」
「ほう、それはまた珍妙な。
それで?
向こうに異変が見られると言う話は、知人から早馬でもらった手紙で知っており、それで私も様子を伺いに行くところなのだが」
セラシアも眉を顰めた。
あれ、そういう話だったのか。
おそらく、長命な彼女の経験からすればこの話はあまり良くない何かの兆候なのだろう。
この俺にしても凶兆のように思える。
俺の表情の変化を彼女もチラっと見ていた。
新人ながら思慮深く、あっという間に中級になるほどとはいえ、まだペーペーの俺でさえ憂慮を示すものと認識したようだ。
こういう事は直感的なものなのだ。
その事に敏感でない冒険者は長生きできないとは、ご存知ブライアン先生の教えだった。
「それでも一攫千金を夢見て中に入りたがる初級の冒険者は後を絶たず、彼らは殆ど帰ってこないそうで。
中には上級冒険者でさえも帰ってこない方もいらしたとか」
「そいつはまた剣呑な話だな。
おい皆の者、この話についてどう思う。
私としては様子見もありという感じなのだがな。
私は現地の情勢を知りたいだけだから、現地での詳しい情報次第で探索は無しでもよい」
それについては他のメンバーも思う所はあったようで、慎重な意見が相次いだ。
「そうさな。
まあ出たとこ勝負じゃろ。
なんとも物騒な話じゃ。
なんにせよ、命あっての物種じゃわい。
わしは向こうで武器が打てれば、それでええ。
セラシアに同意する」
「そうだな。
俺はそういうのも面白いからダンジョンへ行ってみたく思うが、さすがに少し様子がおかしいようだな。
現地で情報を集めてから判断したいので、一応は探索に賛成だが、現地の情報を得るまで返事は保留だ。
途中でも情報を耳にする事もあるだろう。
どうせ向こうでも情報は錯綜しているのではないか」
「悩ましいなあ。
魔法武具の話、何がどれだけ出たのか、どういう経緯で入手されたのか。
リスクとリターンを天秤にかけて、見返りに比べて危なそうならパスしたい……ところだけど。
まあ一応は賛成にしておくかな」
あれ、エラヴィスは何か含むところがあるのだろうか。
何か、どうしても探索に行かねばならないような理由でも?
少しセラシアの方をチラっと見ながら話していた気がするのだが。
「ほお?
跳ねっ返りのお前にしては殊勝な意見じゃないか。
絶対に行きたいと言うかと思ったのだが」
「姐御、さすがにヤバイよ。
特に上級の話なんかは。
とにかく今はなんとも言えないってとこね。
別にお金に困っているっていうわけでもないんだしさ。
まあ怖い物見たさで行ってみたくはあるけれど。
これで、一応の反対派が二名、非積極的な賛成派兼様子見が二名か。
リクル、あんたはどう思う?」
おっと員数外の俺にお鉢が回ってきたか。
俺はしばし考えるような形で、少し呼吸を置いて勿体ぶってみせた。
まあ『姐御』には俺の本音などバレているんだろうけど。
「そうですね。
もしどうしても鉈で割ったように二択の回答をというのなら、俺はダンジョンへ行ってみたいです」
「ほう、そいつは何故だ」
「若者だからに決まっているじゃないですか。
まあ慎重な生き方はしていますけど。
だって、お宝ですよ。
俺達が何故冒険者と呼ばれているのか。
少なくともアドベンチャーという意味じゃない」
このメンバーの中では一番俺に歳が近く、また血気盛んそうなエラヴィスが満面の笑顔を顔に張り付けた。
「リスキーアタント。
『危険な試み』『危ない橋を渡る』でしょ。
わかっているわ、そんな事」
俺は彼女に頷いて、さらに続けた。
「かといって無用なリスクを冒すのは冒険者ではなく、ただの馬鹿者です。
危険と冒険の境目は準備がよく出来ているか、正確な情報が十分集められていて、それがきちんと整理されているかですので」
「あなた、歳の割には賢いわね。
この先も長生きできそうよ」
「ありがとうございます。
とにかく俺達は危険者ではなくて冒険者なんだから。
という訳で、俺は非積極的な賛成派兼様子見ですね」
「決まりだな。
それに私には損得以外にも行くだけの理由があるのだから。
だからこその今回の北遠征だ」
最後に笑顔で姐御が締めくくった。
「ああ、やっぱりそういう話だったんですね」
他の皆も口々に感慨を漏らしていった。
「まあそうなるわよね」
「まあ、うちのパーティの事だからな。
俺は別に構わないよ」
「ほう、あの者達からの報せもあった訳じゃな。
そいつはまた面白い風向きじゃのう」
本当はセラシアも積極的に行きたいんだな。
それはわかっていたんだ。
でもパーティの責任者たるマネージャーだからなあ。
これを言うのはパーティの外部にいる若輩たる俺の責務だったのだ。
一番渋い事を言っていたはずのバニッシュさえ笑っている。
彼が何故冒険者になったのか。
きっかけは自分が見つけたお宝で自ら鍛冶をしたかったんじゃないのだろうか。
ドワーフの中にはそれが鍛冶の醍醐味だとか言っちゃう強者も中にはいるそうだし。
それにこの人達には、なんだか他に訳がありそうな雰囲気だ。
ついでにキャナルさんも笑っていた。
「あんたら、やっぱり冒険者なんだね。
おや、次のキャラバンが来たね。
ここも手狭になるから、そろそろ行こうかね。
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