外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-33 地上への帰還

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 それから、俺は齷齪あくせくと残りの売れそうな素材をかき集めた。

 余分な物は外に出して、例の椅子のような形の岩にお供えしておいた。
 必要な方は使ってくださいな。

 高価な素材で背嚢をパンパンに膨らませて、両手で持てるだけ皮で包んで、それに持ち手まで付けて二つずつ両手に持ち、槍先にまで大量に括り付けていたので先輩が冷やかしてくる。

「ふ。貧乏くさいな、お前」

「やかましいわ。
 俺は新人なんだよ。
 あんたと違って、俺はいい武器や防具も揃えないといけないんだから!
 こんな事になったのは一体誰のせいだと思っているんだ」

「お前、自己責任っていう言葉を知っているか?
 ああ、可哀想な管理魔物。
 いやー、見事なまでのバラバラ死体だな」

「ううっ、それだけ軽口を叩く元気があるならもう帰りましょうよ。
 もう一度回復のためにブーストもかけますから。
 さっきまで死にかけていたくせに、なんて元気なんだ。
 上級冒険者って、どんな身体をしているんですか」

 もうなんで、こんな人を助けちゃったかな。
 この人、真正のサディスト体質だわ。

「お前も人の事は言えまい。
 日に日に身体さえも頑丈になっていくのだろう?

 そのうちに、この俺が殺そうとしても死にそうにないくらい強くなっていくかと思うと、お前を殺す日を夢見て、毎朝射精しそうだ」

「やめろっ、この変態め」

 なんで、俺はこんな胡乱で剣呑で妖しげな人物と関わり合いになってしまったのだろう。

 せめて、この素材を高く売らない事には割に合わないわ。

 俺達がルーレットの出目による三倍ブーストの恩恵で、先輩のためにゆっくりと歩いても十分間足らずで地上に帰りつく間、他の冒険者の顔は殆ど見なかった。

 もしや、この先輩出現の方を聞いて、めぼしい冒険者が軒並み逃げ出してしまったとか。

 そしてたまに見かけた奴は、まるで死神にでも遭遇したかのような蒼白な顔で逃げ出していきやがった。

 また俺の悪い噂が一つ広がりそうな嫌な予感がする。
 このイカれまくった狂人冒険者とコンビみたいな。

 い、いいがかりだああ~っ。
 俺だってこのイカれた和郎わろの被害者なんだからな。

「あんた、冒険者からは滅茶苦茶に嫌われているなあ」

「ふん。
 世紀の外れスキルを引き当てて、今までいたパーティからも追い出され、街中の噂の種になっている奴が良くぞ言う」

「先輩!
 あんた絶対に碌な死に方はしないぜ。
 なんて性格が悪いんだ」

「お前も人の事は言えないぞ。
 俺とこのダンジョン、どっちが先にお前を仕留めるのか競争だな」

「この~」

 俺は誓った。
 もう見えてきた、希望に満ちた地上の光に賭けて。

 いつか絶対にこのイカレた先輩を力づくで打ち倒し、その頭を踏んづけながら高笑いを響かせてやるのだと。

 それを当座の人生の目標としよう。
 先輩もその日まで絶対に死ぬなよ。

「リクル!」
「リクル君」
「お帰り、リクルにーたん」
「おお、生きておったのかね」

 そして俺達が地上に姿を現した時、何人もの顔見知りがダンジョン出入り口の付近で出迎えてくれた。

 ああ、ミモザたん、ただいま!
 だが、そのすぐ後から顔を見せた先輩のお蔭で、その笑顔はすべて台無しになった。

「ク、クレジネス!」
「リクル君!?」
「へんたい⁇」
「なんとまあ……」

 先輩、協会の方々からも大反響だね。

 ミモザたんだけは可愛く手を振ってくれて、何故か幼女様から笑顔を添えた的確な言葉で軽く罵られた先輩も、それに対して怪しい笑顔を浮かべて小さく手を振り返していた。

 なんなの、あんた。
 そして俺の両手に持った大量の包みや、背中に背負った二つの背嚢のパンパンになった物や、槍にぶら下げた戦利品を見て、皆も微妙な顔をしている。

 そりゃまあ、この旦那と関わって無事に帰ってきただけでも僥倖なのに、そんな具合に御土産を両手いっぱいに持って旅行から帰ってきましたみたいな格好じゃなあ。

「ただいまあ」
「あの、リクル君。
 あなた、大丈夫?」

 狐耳のエリッサさんは若干気兼ねするような声で、おずおずと訊ねてきた。

 あれから、俺が大外れスキルを引いたという話を耳にしたのだろう。

 俺を気遣ってくれる、その瞳の憂いが今の俺には何よりも嬉しかった。

 外れスキルを引いた人間がこのように優しくしてもらえる事はなかなか無いのだから。

 まあ外れスキル呼ばわりは濡れ衣なんだけど。

 ミモザたんの、お帰りなさいも沁みるぜ。
 あの子は俺の事をよく「にーたん」と呼んでくれる。

「あ、エリッサさん。
 俺は全然大丈夫っす。
 後ろの死神先輩の事は気にしないでください。

 これ、御土産の素材です。
 いっぱいありますので。

 ああ、猛毒の爪に気を付けてください。
 これは触っただけで確実に死にます。
 それより、ちょっとご相談したい事が」

「あら、なあに?」

 彼女は、傍にダンジョン内の騒動を聞きつけて駆けつけてきたらしい職員が何人かいたので、彼らにその山盛りの素材を任せるように対応してくれた。

 俺は一旦大荷物を地面に降ろすとあれこれと『戦利品』を見せた。

「いや、これなんですけどね。
 お金にアイテムに武器防具に魔石と。

 実は俺の槍を奪おうと、中級冒険者パーティの連中が大挙して襲ってきまして。

 十六パーティほどを、全部返り討ちにしてやって逆に奪ってやったのですが、その量がね。
 これって普通は俺が貰えますよね?」

 それを聞いて呆れ返ったエリッサさん。
 そしてライザさんが楽しそうに言ってくれる。

「あらあら、リクル君も逞しくなったわねえ」

「リクルにいたん、偉い!」
 そうかい? そいつは嬉しいね。

 ミモザたんには後で何か買ってあげようっと。

「まあ、そうなりましたか。
 はっはっは。
 それは返さなくても大丈夫ですよ。

 協会でもよくある事でね。
 そういう物はペナルティとして返却不要です。
 そして、その連中はどうしました」

『お値打ちショップ』のライアンおじさんか。
 眼鏡をキラリと光らせた、いい笑顔だなあ。
 くそ、この人はやっぱり。

 はあ、やっぱり【槍を守り切るところまで】が、あの槍の購入条件だったんだな。
 へたをすると、この槍の元の持ち主の遺言の時点で……。

 今までにも槍を受け取ったはいいが、奪われてしまった新人もいたりして。

 そして、後でおじさん自ら指一本で回収してきたとかねー。
 いやあ、この方ならありうるかも……。

「ああ、そこの先輩の顔を見たら、悲鳴を上げて全員が逃げていっちまいましたよ」

「クレジネスか。
 まあそんなもんだね。
 この槍を腕づくで取り上げようなんて考える奴らのやる事なんて。

 中級の中ともなれば、それなりの実績があり責任も持つ人が多いから、そんな真似はしないだろうが」

 いや、それ以外の人達も悲鳴を上げて逃げ出したと思うな。
 この先輩、もう本当に箆棒べらぼうなまでに滅茶苦茶なんだもの。
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