外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-29 ジャイアントキリング

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 先輩は、のたうつそいつに二撃目をぶちこんだが、そいつも素早く攻撃に出た。

 その強大な前足の打ち打擲を弾いた先輩の槍が、またしても直角に穂先を捻じ曲げる。

 そして突如、猛然と、まるで光線であるかのように超強烈に吐かれたブレス!

 先輩がスパっと、まるでその攻撃を予期していたかのように避けた背後のダンジョンの壁が、なんと激しく溶けて大穴が開いていた。

 これはダンジョンの壁さえぶち壊すスキルなのか、こんな凄い物は見た事がないぞ。

 ダンジョンの壁、それこそ不破壊属性と言ってもいいくらい壊せないもんなのだが。

 それをやれてしまえたら、床や壁をぶち抜いて進めてしまえて、冒険者がズルをし放題だからな。

 そういや、あの虫糞ガスの爆発は何だったのか!

 もしかしたら、あれも隙間あるいは謎の開閉式密閉空間に詰まった糞というかガスが爆発しただけで、実はダンジョンの壁自体は壊れていないのかもしれない。

 いずれにせよ、あれは謎だ。
 もしかしたら天然のトラップの一種なのだろうか⁇

 もしここから生きて帰れたらラビワン・ダンジョン七不思議のひとつとして協会に報告しよう。

 ああいかん、俺の脳内で現実逃避が始まっている。

 しっかりしろ、俺。
 地上では可愛いミモザたんが『リクルにーたん』を待っていてくれているぞ。

 しかし、冗談じゃねえー。
 俺は慌てて奴の動きに注視した。

 あのブレスが撃ち込まれた現場付近にいただけで、いきなりバージョンが5.2に上がったぞ。

 先輩もまたスキルを乗せて槍をぶち込んだ。
 あの槍でなかったら、とっくに粉々になっているな。

 彼らは、このまださして広くもない上層の階層入り口ホールにて、目まぐるしく位置を変え、そして激しい攻防を繰り返した。

 俺は流れ弾を食らわないようにするだけで手いっぱいだ。

 魔物は凄い毒を仕込んでいそうな魔爪を繰り出し、ブレスを吐いた。

 しかも槍の攻撃を受けても致命傷を食らわないとガンガンと身体が再生していき、その動きはいささかも衰えない。

 これはヤバイ、いくら先輩が凄い踏破者だとしても魔物と人間の持久力は等質ではない。

 ましてや、この怪物の持久力は底なしレベルだろう。

 そしてマグナム・ルーレットのブーストが切れた。

 だが先輩は顔色一つ変えずに優雅な立ち回りを見せた。

 そいつの爪なんかが掠るだけでも、何か致命傷な痛手を被りそうなのだが、紙一重の攻防を楽しんでいる。

 絶対に正気の沙汰じゃないと思うのだが、その元々端から狂気を宿していた先輩の顔には明らかにこの状況を楽しむ余裕さえもあった。

 魔物もなんだか戦いに夢中のようだった。
 まるで猫科の猛獣のペットをじゃらす貴族の子弟か何かのようだ。

 こんな剣呑過ぎる猫を飼うのは、俺なら絶対に御免だけどね。
 実に先輩向きのペットだ。

 そして次はマグナム・ルーレット三倍が出た。
 もう少しいい出目が出てもよかった。

 ベストは四倍か。
 だがクールタイムを考えればこんなものか。

 あまりクールタイムが長いと、先輩が長時間のノンブースト状態で持ち堪えられずに死ぬ。

「おーい、先輩。
 今度は三倍ブースト出ました。

 でもこいつが切れると、今度はクールタイム十分になりますから。
 ブーストの効果が切れるまでの制限時間は十分です」

 先輩は返事も返さずに、更なる猛攻で管理魔物を攻め立てたが、またしても十分では決着がつかなかった。

 首を狙っているようだが、相変わらず背中にしか打ち込めていない。

 魔物がそのように立ち回っているのだ。

 そうか、こいつはそのずんぐりむっくりで、どこにあるのかも判然としないような首の部分が弱点なのか。

 おそらく、そこにこの怪物の根源たる『魔核』が収められているのだろう。

 そいつを見事に抉り出せたなら先輩の、いや俺達の勝ちだ。

 先輩は、あいつとやりあいながら、それを見抜き、また相手はそこを攻めさせない。

 このハイレベルな戦いを観戦させていただいて、俺の洞察力もレベルが上がっていくかのようだった。

 観戦料は自分の命で払う羽目になるかもしれないのだが。

 しかし、このバトルジャンキーな蜥蜴、そして明らかに先輩に加勢しているだろうとわかっているはずの俺には目もくれない。

 なんて奴だ。
 怪物離れした思考の持ち主だ。

 俺としては助かる以外の何物でもないのだが。

 そして次に訪れた、先程よりは少し長めのクールタイムの残り十秒といった感じの最終局面、何かが、そう何かが僅かに狂った。

 それは髪の毛一本ほどのずれ、しかしボタンを一つ掛け違うほどに明確な形で。

 あれだけ華麗に敵の攻撃を躱していた先輩は、奴の爪を食らってしまったのだ。

 タイミングを見て、奴にスキルをぶちこんだ次の瞬間に、ほんの少し皮膚の表面を掠っただけのようなのだが、しかしそれだけでも致命的だった。

 一瞬にして先輩の顔色は失われ、死人のようにその場に俯せに倒れ伏した。
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