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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-6 木賃宿のルール
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しばらく、街外れを所在投げにぶらぶらして過ごした。
もう一度軽くスライム目当てで潜ったってよかったのだが、また遅番のエリッサさんと顔を合わせるかもしれないと思うと、行くのが非常に億劫になったのだ。
そして、人生に覇気を失くしてしまった老人のように、しばらく小広場に置かれたベンチに座ってぼんやりとしていた。
やがて気が付くと、夕暮れの少し肌寒い風に吹かれ、美しい夕焼けに広場は照らし出されていた。
今は、いつもならばその心に灯りが点るような光景に対してさえも、妙に後ろめたいというか、思わず俯いてしまうような情けない気持ちだった。
そして街を覆う夕闇が迫る中、あたりは薄暗くなってきたので、目当ての宿へと重い足取りを石畳に引きずりながら向かう。
今夜は、いつもは目もくれないような安宿に泊まった。
料金はたったの大銅貨五枚で、質はもちろん全てにおいて最低だ。
これ以下の宿は、ここラビワンには存在しない。
いわゆる木賃宿っていう奴だろう。
自炊施設はないが、食い物は外でいくらでも買える。
当座の間、食い物の質も落とさざるを得ないのが、まだ食べ盛りの俺には一番辛い。
この街に着いた時には協会が食事や寝床を提供してくれていたし、それからそう間を置かずにブライアンにスカウトされたのだ。
今までは上級冒険者チームの一員として、遥かにマシな並み以上の宿に泊まっていたのだが、これからはこういう安宿が俺の常宿になるだろう。
ここでは体を拭くお湯さえない。
宿の外で安くて美味いのが取り柄の、野菜の具だけの薄焼きパン(お値段は大銅貨一枚)を二枚買ってきて齧ってお終い。
とりあえずパンと野菜を食っていりゃあ死にはしないが、育ち盛りを終えていない俺にとっては、まったくもって寂しい限りだ。
食事の量が少なかったり、肉を食わなかったりすると、俺のような冒険者はすぐに体が衰えてしまう。
そうなると仕事もまともに出来なくなってしまうからな。
飲み物は、協会で叩き込まれた生活魔法で出した水だけだ。
これで体を拭く事も可能だが、今日はとてもじゃないがそんな気になれない。
生活魔法の浄化で体の埃を落とし、油分の大半を落としておくに留めた。
これだと綺麗にさっぱりというわけにはいかないが、そういう気分じゃないのだから仕方がない。
俺みたいに落ちぶれた奴らはもう面倒になって体を清めるのもサボるので、どんどんと薄汚れていく。
中には協会でしっかりと講習を受けずに生活魔法すら使えない奴なんかもいるので、そいつらなんかあっという間に臭いまくりだ。
ああなるともうお終いだ。
やる気もなくなってくるからな。
そういう奴は俺も大勢見た。
俺も今のうちになんとかするとしよう。
まあ冒険者の場合、そういう奴は途中参入のおっさんとかの食い詰め者だから、大概はすぐに死ぬ。
協会もそういう見込みのなさそうな奴に講習などの金をかけたりはしないのだ。
俺はもう一度、スキルを頭の中に思い浮かべてみたが、やはり1・1の数字は変わらない。
「一体どういう意味なのか」
もしかすると、今日スキルが発現した後にスライムを狩ったからだろうか。
明日は別のもう少し強い奴と戦ってみるか。
今夜は雑魚寝で見知らぬ奴と十人くらい一緒なので、あれこれ警戒しつつ眠りにつく。
こういうのは新人冒険者にとっては当たり前の事だ。
魔物の襲撃を受けて寝こけていたらパーティから叩き出される。
結果的に、寝こけていなくても叩き出される破目になったのだが。
そして、夜中に何やら気配を感じて飛び起きると、浮浪者みたいな恰好をしている男が俺の懐を漁ろうとしていた。
俺はその手を押さえ、大声で怒鳴りつけた。
「手前、この泥棒があ!」
男はビクっとして、夜目にもわかるほど怯えた目で逃げようとしたが、ここは逃がすと、またこの宿でやられる可能性がある。
俺は手に力を入れて、そいつを逃がさないように拘束したまま待機していた。
「なんだ、うるせえな、夜中に騒ぐな」
「ち、物盗りか」
周りの連中も飛び起きて怒号が湧き、起きて来た宿の人間がランプを手にやってくる。
そして隣の男が犯人の顔を見て顔を顰める。
「またそいつか。
他の宿でもやっていたな」
そして宿の屈強な体付きの主人は、そいつの首根っこを押さえて摘まみ出しにいった。
いちいち街の警備隊など呼ばれない。
こんなところだと、警備隊もなかなか来てくれないし、こういう宿ではそんな事をしていたらキリがないのだ。
そして残った面子は何事もなかったかのように再び眠りについた。
これが木賃宿における、物盗りにあった時の正式な作法だ。
とにかく現行犯で押さえる。
そして、でかい声で騒ぐ。
犯行が見つかった奴はその場で叩き出され、今後一切その宿には出入り禁止となる。
間抜けにも気づかずに金を盗まれた奴は、後で騒いでも馬鹿にされるだけだから、己の至らなさに悶々としつつも大人しく黙っている。
こういう事があるので、今日の稼ぎは協会に預けてあるのだ。
これからしばらくは、こういう宿が俺の寝床となる予定なのだ。
稼いだ金は装備購入に回さないといけないのだし。
あー、やだやだ。
早くいっぱい稼げるようにならないとな。
もう一度軽くスライム目当てで潜ったってよかったのだが、また遅番のエリッサさんと顔を合わせるかもしれないと思うと、行くのが非常に億劫になったのだ。
そして、人生に覇気を失くしてしまった老人のように、しばらく小広場に置かれたベンチに座ってぼんやりとしていた。
やがて気が付くと、夕暮れの少し肌寒い風に吹かれ、美しい夕焼けに広場は照らし出されていた。
今は、いつもならばその心に灯りが点るような光景に対してさえも、妙に後ろめたいというか、思わず俯いてしまうような情けない気持ちだった。
そして街を覆う夕闇が迫る中、あたりは薄暗くなってきたので、目当ての宿へと重い足取りを石畳に引きずりながら向かう。
今夜は、いつもは目もくれないような安宿に泊まった。
料金はたったの大銅貨五枚で、質はもちろん全てにおいて最低だ。
これ以下の宿は、ここラビワンには存在しない。
いわゆる木賃宿っていう奴だろう。
自炊施設はないが、食い物は外でいくらでも買える。
当座の間、食い物の質も落とさざるを得ないのが、まだ食べ盛りの俺には一番辛い。
この街に着いた時には協会が食事や寝床を提供してくれていたし、それからそう間を置かずにブライアンにスカウトされたのだ。
今までは上級冒険者チームの一員として、遥かにマシな並み以上の宿に泊まっていたのだが、これからはこういう安宿が俺の常宿になるだろう。
ここでは体を拭くお湯さえない。
宿の外で安くて美味いのが取り柄の、野菜の具だけの薄焼きパン(お値段は大銅貨一枚)を二枚買ってきて齧ってお終い。
とりあえずパンと野菜を食っていりゃあ死にはしないが、育ち盛りを終えていない俺にとっては、まったくもって寂しい限りだ。
食事の量が少なかったり、肉を食わなかったりすると、俺のような冒険者はすぐに体が衰えてしまう。
そうなると仕事もまともに出来なくなってしまうからな。
飲み物は、協会で叩き込まれた生活魔法で出した水だけだ。
これで体を拭く事も可能だが、今日はとてもじゃないがそんな気になれない。
生活魔法の浄化で体の埃を落とし、油分の大半を落としておくに留めた。
これだと綺麗にさっぱりというわけにはいかないが、そういう気分じゃないのだから仕方がない。
俺みたいに落ちぶれた奴らはもう面倒になって体を清めるのもサボるので、どんどんと薄汚れていく。
中には協会でしっかりと講習を受けずに生活魔法すら使えない奴なんかもいるので、そいつらなんかあっという間に臭いまくりだ。
ああなるともうお終いだ。
やる気もなくなってくるからな。
そういう奴は俺も大勢見た。
俺も今のうちになんとかするとしよう。
まあ冒険者の場合、そういう奴は途中参入のおっさんとかの食い詰め者だから、大概はすぐに死ぬ。
協会もそういう見込みのなさそうな奴に講習などの金をかけたりはしないのだ。
俺はもう一度、スキルを頭の中に思い浮かべてみたが、やはり1・1の数字は変わらない。
「一体どういう意味なのか」
もしかすると、今日スキルが発現した後にスライムを狩ったからだろうか。
明日は別のもう少し強い奴と戦ってみるか。
今夜は雑魚寝で見知らぬ奴と十人くらい一緒なので、あれこれ警戒しつつ眠りにつく。
こういうのは新人冒険者にとっては当たり前の事だ。
魔物の襲撃を受けて寝こけていたらパーティから叩き出される。
結果的に、寝こけていなくても叩き出される破目になったのだが。
そして、夜中に何やら気配を感じて飛び起きると、浮浪者みたいな恰好をしている男が俺の懐を漁ろうとしていた。
俺はその手を押さえ、大声で怒鳴りつけた。
「手前、この泥棒があ!」
男はビクっとして、夜目にもわかるほど怯えた目で逃げようとしたが、ここは逃がすと、またこの宿でやられる可能性がある。
俺は手に力を入れて、そいつを逃がさないように拘束したまま待機していた。
「なんだ、うるせえな、夜中に騒ぐな」
「ち、物盗りか」
周りの連中も飛び起きて怒号が湧き、起きて来た宿の人間がランプを手にやってくる。
そして隣の男が犯人の顔を見て顔を顰める。
「またそいつか。
他の宿でもやっていたな」
そして宿の屈強な体付きの主人は、そいつの首根っこを押さえて摘まみ出しにいった。
いちいち街の警備隊など呼ばれない。
こんなところだと、警備隊もなかなか来てくれないし、こういう宿ではそんな事をしていたらキリがないのだ。
そして残った面子は何事もなかったかのように再び眠りについた。
これが木賃宿における、物盗りにあった時の正式な作法だ。
とにかく現行犯で押さえる。
そして、でかい声で騒ぐ。
犯行が見つかった奴はその場で叩き出され、今後一切その宿には出入り禁止となる。
間抜けにも気づかずに金を盗まれた奴は、後で騒いでも馬鹿にされるだけだから、己の至らなさに悶々としつつも大人しく黙っている。
こういう事があるので、今日の稼ぎは協会に預けてあるのだ。
これからしばらくは、こういう宿が俺の寝床となる予定なのだ。
稼いだ金は装備購入に回さないといけないのだし。
あー、やだやだ。
早くいっぱい稼げるようにならないとな。
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