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第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】
1-3 崖っぷち進路の選択
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ブライアンも、性格なんかはあまり良いとは言えないのだが、冒険者というかパーティのマネジメントを行うマネージャーとしての腕は非常に確かな物であった。
日頃はやたらと殴るし、口も悪いが、時には励ましてくれた事もあった。
それはいかにも冒険者らしい『どやしつけ』といった感じの乱暴なやり方なのだが。
それに今まで世話した者にこんな形でスキルを外されるなんて事は一度もなかったらしい。
ブライアンは新人教育も上手く、一度も失敗した事はないと言っていた。
それも俺の件で、その輝かしい経歴に味噌を付けた格好になってしまった。
彼は自分の実績にこれ以上ないほど泥を塗りたくった俺を、生涯決して許さないだろう。
協会の示したレーティングでは、俺は当初、今回の協会正規の新規募集である新成人クラスの新人の中では三番目に当たる非常に優れた冒険者適性を示し、ブライアンはそこを買ってくれていた。
数百人の中での三本指の人材なのだから相当な素質であった。
だから俺をスカウトという形で、いきなり上級冒険者パーティに迎え入れてくれたのだ。
これはなかなか無い事で、他の新人たちからも物凄く羨ましがられたものだ。
そんな風に期待していた人間に裏切られた格好になったのも、彼の怒りに拍車をかけた。
逆にシグナは新人レーティングが今一つで、女子のためもあってか体力的にも農家出身で体格のいい俺に比べれば大きく劣る。
他に有望な新人がスカウトできなかったため御情けでパーティに加入できた、どちらかといえばあまり期待されていなかった者だった。
それなのに、彼女の方が凄くレアで有用なスキルを示したのだから、ブライアンも余計に怒った事だろう。
彼は俺に徹底的にあれこれと叩き込んでくれた。
魔物と戦う技術、そして技量、それに決してソロでは一朝一夕には身につかない、各種の蓄積された技巧。
そして冒険者として一番必要な物であるガッツ。
日々の実務の中で厳しく教えられ、またそれは主に拳の来冦によって鍛えられたのだが、それは裏を返せば俺を非常に買ってくれていたという事なのだ。
彼の拳は俺への期待の表れでもあった。
立派な冒険者になれるようにという薫陶でもあったのだ。
最終的にスキル刻印の前に協会が課した最終適性試験でも、一年間にわたり努力に努力を重ねてきた俺は、並みいる有望な新人冒険者の中にあって、パーフェクトな成績で見事にダントツ一位の成績を獲得してみせた。
滅多に笑顔を見せないブライアンも、その時ばかりは屈託のない笑顔を見せて、こう言ってくれたものだった。
「よくやった、リクル。
後は良いスキルを手に入れるだけだな」
それが、この体たらくなのだから、もう笑える以外の何物でもない。
俺は落伍者だ。
すべての人の期待を裏切ってしまった。
リーダーのブライアンやパーティメンバーの先輩達も、協会の先生方も、この日のために切磋琢磨してきた同じ新人のシグナさえも。
俺は何か驕っていたのだろうか。
俺には優れた冒険者適性があるのだから、ブライアンの厳しい指導の下、努力し邁進していさえすれば、勝手に素晴らしいスキルが生まれてくるのだと。
そんな物はくだらない幻想妄想に過ぎなかった事を、本日俺は見事に証明してしまった。
もう、いっそダンジョンの底にでも消え入りたい気分でいっぱいだったが、俺はそこまで行って朽死するほどの力さえもない無力な新人冒険者なのだった。
だが、そんな俺でも生きていかねばならない。
ここで朽損するわけにもいかないのだから。
最後まで、俺が村を出る事を反対していた父は、俺を村から送り出す時にこう言ってくれた。
「ここを出て、どんな人生を送るのかはお前の自由だが、ここの畑の不倒の麦穂にさえ負けるような人生は送るな。
それは、お前の心と身体にこの十五年叩き込んでおいたはずだ。
頑張って信じた道を生きろ。
そして、たまには母さんに顔を見せに帰って来い」
だから、俺はこの一年間頑張ってこれたのだ。
まだ俺は折れてはいない。
家族皆と収穫の喜びを分かち合った、あの日の黄金の穂波のように。
本来は俺が受け継ぐはずだった農家の主よりも大きな成功を手にして、きっといつか凱旋者となって、土産をたくさん持ってあの村に帰るのだ。
それにしても、先立つものがないので、どうしようもない。
今までは生活費などはパーティが面倒を見てくれていたが、今日からは一人で生きていかねばならない。
とりあえず財布代わりの革袋の中の金を数えてみた。
「ふう、銀貨が十二枚に銅貨が三十二枚か。
仕方がない、低装備のソロだがダンジョンへ行こう。
他に今すぐ金を稼ぐ方法はない。
手持ちの金がこれじゃ、とてもじゃないが生活できない」
幸いな事にブライアンも御情けで装備は残してくれたので、今すぐにダンジョンへは行ける。
派手さは欠片もないが、よく体にフィットして軽くて動きやすく、比較的よく体を防御してくれる革の装備。
やや暗めのダンジョンの中で目立たないように黒で統一された、革の帽子・革の上下に革のブーツなど。
修行が終わると言う事で慎重してもらったばかりなので助かった。
この一年間で体も少し大きくなったので手直しも限界があったのだ。
案外と真っ黒に染め上げた装備は通常の革よりも高かったりする。
ブライアンは通称『黒のブライアン』と呼ばれるほど、それに拘っていた。
だがブライアン・パーティの育てあげた多くの冒険者の中には、それを好む者も少なからずいた。
少し暗めな場所で、その中で目立つ色合いと人間と目立たない人間がいたら、どっちが先に魔物から狙われるかという単純な話なのだった。
誰の物か、すぐわかるように個人的なワンポイントは入っていたのだが。
俺の場合は、帽子と上衣とズボンの前側にRWの目立たない意匠のワッペンを縫い付けてある。
RWはリクル・ワイルドウエストの事だ。
農民なのだから特に姓はないのだが、そういう場合は出身村がその代用品だ。
くそ、お蔭で村の名前までが恥晒しになってしまったわ。
愛用の黒鞘に黒い柄の鋼の長剣と、サブウエポンの短剣の整備はパーティの金で済ませたばかりなのでありがたい。
あと槍か弓くらいは揃えたいところだ。俺の得意な得物は槍だった。
ああ、槍が欲しい。
槍は間合いを取って戦え、しかもいろいろ使い方が出来る最高の武器だ。
「この装備類ばかりは、叩き込んでもらった技術と合わせて、ここは素直にブライアンにありがとうと言っておくシーンなんだろうなあ」
そうでなければ、何の能もない奴がいきなり無一文に等しい状態で放り出されただろうから。
新人の扱いなどは他のパーティなんかも、そう変わらないのだ。
俺は退職金代わりに、培った根性と装備と技術をもらったと考えていい。
「根性・装備・技術のリストラ新人冒険者三原則か。
やれやれだな」
日頃はやたらと殴るし、口も悪いが、時には励ましてくれた事もあった。
それはいかにも冒険者らしい『どやしつけ』といった感じの乱暴なやり方なのだが。
それに今まで世話した者にこんな形でスキルを外されるなんて事は一度もなかったらしい。
ブライアンは新人教育も上手く、一度も失敗した事はないと言っていた。
それも俺の件で、その輝かしい経歴に味噌を付けた格好になってしまった。
彼は自分の実績にこれ以上ないほど泥を塗りたくった俺を、生涯決して許さないだろう。
協会の示したレーティングでは、俺は当初、今回の協会正規の新規募集である新成人クラスの新人の中では三番目に当たる非常に優れた冒険者適性を示し、ブライアンはそこを買ってくれていた。
数百人の中での三本指の人材なのだから相当な素質であった。
だから俺をスカウトという形で、いきなり上級冒険者パーティに迎え入れてくれたのだ。
これはなかなか無い事で、他の新人たちからも物凄く羨ましがられたものだ。
そんな風に期待していた人間に裏切られた格好になったのも、彼の怒りに拍車をかけた。
逆にシグナは新人レーティングが今一つで、女子のためもあってか体力的にも農家出身で体格のいい俺に比べれば大きく劣る。
他に有望な新人がスカウトできなかったため御情けでパーティに加入できた、どちらかといえばあまり期待されていなかった者だった。
それなのに、彼女の方が凄くレアで有用なスキルを示したのだから、ブライアンも余計に怒った事だろう。
彼は俺に徹底的にあれこれと叩き込んでくれた。
魔物と戦う技術、そして技量、それに決してソロでは一朝一夕には身につかない、各種の蓄積された技巧。
そして冒険者として一番必要な物であるガッツ。
日々の実務の中で厳しく教えられ、またそれは主に拳の来冦によって鍛えられたのだが、それは裏を返せば俺を非常に買ってくれていたという事なのだ。
彼の拳は俺への期待の表れでもあった。
立派な冒険者になれるようにという薫陶でもあったのだ。
最終的にスキル刻印の前に協会が課した最終適性試験でも、一年間にわたり努力に努力を重ねてきた俺は、並みいる有望な新人冒険者の中にあって、パーフェクトな成績で見事にダントツ一位の成績を獲得してみせた。
滅多に笑顔を見せないブライアンも、その時ばかりは屈託のない笑顔を見せて、こう言ってくれたものだった。
「よくやった、リクル。
後は良いスキルを手に入れるだけだな」
それが、この体たらくなのだから、もう笑える以外の何物でもない。
俺は落伍者だ。
すべての人の期待を裏切ってしまった。
リーダーのブライアンやパーティメンバーの先輩達も、協会の先生方も、この日のために切磋琢磨してきた同じ新人のシグナさえも。
俺は何か驕っていたのだろうか。
俺には優れた冒険者適性があるのだから、ブライアンの厳しい指導の下、努力し邁進していさえすれば、勝手に素晴らしいスキルが生まれてくるのだと。
そんな物はくだらない幻想妄想に過ぎなかった事を、本日俺は見事に証明してしまった。
もう、いっそダンジョンの底にでも消え入りたい気分でいっぱいだったが、俺はそこまで行って朽死するほどの力さえもない無力な新人冒険者なのだった。
だが、そんな俺でも生きていかねばならない。
ここで朽損するわけにもいかないのだから。
最後まで、俺が村を出る事を反対していた父は、俺を村から送り出す時にこう言ってくれた。
「ここを出て、どんな人生を送るのかはお前の自由だが、ここの畑の不倒の麦穂にさえ負けるような人生は送るな。
それは、お前の心と身体にこの十五年叩き込んでおいたはずだ。
頑張って信じた道を生きろ。
そして、たまには母さんに顔を見せに帰って来い」
だから、俺はこの一年間頑張ってこれたのだ。
まだ俺は折れてはいない。
家族皆と収穫の喜びを分かち合った、あの日の黄金の穂波のように。
本来は俺が受け継ぐはずだった農家の主よりも大きな成功を手にして、きっといつか凱旋者となって、土産をたくさん持ってあの村に帰るのだ。
それにしても、先立つものがないので、どうしようもない。
今までは生活費などはパーティが面倒を見てくれていたが、今日からは一人で生きていかねばならない。
とりあえず財布代わりの革袋の中の金を数えてみた。
「ふう、銀貨が十二枚に銅貨が三十二枚か。
仕方がない、低装備のソロだがダンジョンへ行こう。
他に今すぐ金を稼ぐ方法はない。
手持ちの金がこれじゃ、とてもじゃないが生活できない」
幸いな事にブライアンも御情けで装備は残してくれたので、今すぐにダンジョンへは行ける。
派手さは欠片もないが、よく体にフィットして軽くて動きやすく、比較的よく体を防御してくれる革の装備。
やや暗めのダンジョンの中で目立たないように黒で統一された、革の帽子・革の上下に革のブーツなど。
修行が終わると言う事で慎重してもらったばかりなので助かった。
この一年間で体も少し大きくなったので手直しも限界があったのだ。
案外と真っ黒に染め上げた装備は通常の革よりも高かったりする。
ブライアンは通称『黒のブライアン』と呼ばれるほど、それに拘っていた。
だがブライアン・パーティの育てあげた多くの冒険者の中には、それを好む者も少なからずいた。
少し暗めな場所で、その中で目立つ色合いと人間と目立たない人間がいたら、どっちが先に魔物から狙われるかという単純な話なのだった。
誰の物か、すぐわかるように個人的なワンポイントは入っていたのだが。
俺の場合は、帽子と上衣とズボンの前側にRWの目立たない意匠のワッペンを縫い付けてある。
RWはリクル・ワイルドウエストの事だ。
農民なのだから特に姓はないのだが、そういう場合は出身村がその代用品だ。
くそ、お蔭で村の名前までが恥晒しになってしまったわ。
愛用の黒鞘に黒い柄の鋼の長剣と、サブウエポンの短剣の整備はパーティの金で済ませたばかりなのでありがたい。
あと槍か弓くらいは揃えたいところだ。俺の得意な得物は槍だった。
ああ、槍が欲しい。
槍は間合いを取って戦え、しかもいろいろ使い方が出来る最高の武器だ。
「この装備類ばかりは、叩き込んでもらった技術と合わせて、ここは素直にブライアンにありがとうと言っておくシーンなんだろうなあ」
そうでなければ、何の能もない奴がいきなり無一文に等しい状態で放り出されただろうから。
新人の扱いなどは他のパーティなんかも、そう変わらないのだ。
俺は退職金代わりに、培った根性と装備と技術をもらったと考えていい。
「根性・装備・技術のリストラ新人冒険者三原則か。
やれやれだな」
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