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第一章 燃え尽きた先に

1-25 皇女の騎士

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 そして使者さんと一緒に出かけたら、皇族の住む立派なゾーンへと案内された。

 そこはエリーセル皇女の自室で、他にキャセル以外の女性隊員が詰めていた。

 それにしても相変わらず愛想のない連中じゃのう。
 見た目は結構綺麗な感じの人が多いのに。

 鍛えているから、みんなスタイルも悪くないのが、殆ど肌の見えない服の上からでもわかる。

 まあ俺から見たら少し年上の人ばっかりなんだけど。
 彼女達から見たら、所詮俺なんか子ども扱いなんだろうな。

 部屋はかなり広くて立派なものだ。
 俺の部屋と比べると、ビジネスホテルのシングルと高級ホテルのロイヤルスイートくらい違いそうだ。

 もっとも、自由に出歩ける俺なんかとは違って、今お姫様は警備隊員と一緒に缶詰状態なのだろう。

 そして、なんとエリーセル皇女が俺に仕事の依頼をくれたのだった。

「突然あなたを呼んだので驚いたかもしれませんが、あなたに一つお願いがあるのです。

 ホムラ、暫定で私の騎士になってくださいませんか?」

 これには俺も驚いたが、そういや神殿でそのような縁の話も聞いたっけ。

 彼女の話を聞けば、エリーセルもこの間の騒ぎのお蔭で一歩も外に出してもらえないらしい。

 そして子供の頃からずっと一緒にいてくれた母親のように慕っていた侍女を失ってしまい、気持ちも塞ぎがちのようなのだ。

「それでね、あなたが一緒なら外出許可が出るかもと思って。

 警備隊は何かあったら責任問題になるので、私の外出にはいい顔をしていないの。

 それは下っ端のキャセル達にもどうしようもない事だしね。
 私、どうしてもすぐに行きたいところがあるのよ」

「そうかあ、そうかもしれないな。お姫様の警護については難しいんだろうなあ」

 それほど、あの事件は関係者にとっても衝撃だったのだろう。

 よりにもよって、帝都の御膝元で皇女様が白昼堂々と有り得ないほど大規模な襲撃を受けたのだ。

 あの忙しそうな隊長が自ら騎馬隊を率いて猛然と駆けつけてきていたものな。

 それにエリーセルは少し特別な存在らしいし。

「皇族はね、十五歳で成人すると自分の騎士を持つの。

 十三歳の私には正式な騎士を持つ事は出来ないけれど、今みたいな非常事態の中で暫定の一時的な契約なら可能なのよ。

 だから、あなたに臨時の騎士として私に雇われてほしいの。
 お願い、私の騎士になって」

「へえ、すると俺はずっと四六時中、君の警護をするっていう事?」
 だが、彼女は首を振った。

「外出する時だけ来てくれればいいの。
 宮殿には警護隊がいてくれるもの。

 さすがに宮殿に籠ってばかりいては気が滅入ってしまうわ。
 でも、落ち人のあなたが一緒なら警備隊からも許可が下りるかもしれない。

 お給料は一ヶ月で金貨十枚。
 あと何かあれば、その分の報酬は別払いで。

 たとえば、この前のような敵襲を防いでくれたなら当然ボーナスが出るわ」

「へえ、そいつはありがたいなあ」

「この事は父も了承しています。
 父自身はあなたと一緒なら外出してもよいと言ってくれたし。

 今は市中の警備も強化されていますから、そうそうあんな事もないわ。
 キャセル達もいてくれるし」

「やります!」
 もう即答だった!

 年収千二百万円、しかも常時一緒にいなくてもいいって言うし。

 これは事実上の最終学歴が小学校の俺にとっては、日本では有り得ないような凄い好条件だー。

 段々と話が繋がってきたな。
 実はこの話もあったので、ディクトリウスが大司祭から命令を受け、神殿に招いてくれたのだ。

 彼の弟のアントニウスも関係者として、あえて俺の監視に抜擢されていたのだろう。

 出来れば、皇女の警護を頼みたい俺に魔法を覚えさせるように。

 もしかすると、依り代の巫女と落ち人の伝説から、皇女を襲撃してきた相手方の国に政治的なプレッシャーをかけようとしているのかもしれない。

 もちろん、俺だけに警護を任せるような間抜けな事はしないだろうけど。

 襲撃を受けたこの皇女様には、監視というか隠れ護衛もいるはずだ。

 おそらく、本来は神殿から俺のところへ招待の使者が行く手はずだったのだが、たまたまアントニウスが意図せずにいい仕事をしたので、ああなったのだろう。

 多分本来なら完全に外野の立ち位置にあるアントニウスは舞台裏を知らされていなかったはずだ。

 お兄さんの方は話を聞いていたんだろうけど、そこに特に悪意はないはず。

 むしろ人格者のディクトリウスの事だから、まだ幼いエリーセルの事を憐れんでいたのかもしれない。

 あの依り代の巫女という立場故に幸が薄いのではないかという彼女の事を。

 その依り代の巫女という奴が、俺にはまだなんだかよくわからないのだけれど。

 仕事にあぶれたら神殿に来いといったのも、こっちの仕事を紹介してくれるつもりだった可能性もある。

「それでね。
 ホムラ、悪いんだけど、さっそく明日行きたいところがあるの」

「ああ、それは構わないけど、あの、君に対する口の利き方ってこれでよかったのかな」

「ええ、構いません。
 だってあなたは私が騎士に任命した人だから、それでいいわ。

 私はまだ子供で、あなたも正式な騎士じゃないのだし。

 それに、そういう風に親しくしてくれるのも、今は特に嬉しいわ。

 それにもしあの時、あなたが来てくれなかったらと思うと今でも膝が震えてしまうの」

「わかった。えーと、一応、剣を捧げる儀式とかいる?」

 だが、彼女は可愛らしい右の拳を口に当てて年相応の少女のように笑っていた。

「ああっ、ごめーん。
 俺ってば、剣なんか最初から持っていなかったわー!」

 後ろで警護の女連中が頭を振っているのが見なくてもわかった。

 くそ、電光ビームや炎なんかの高火力な飛び道具はあるんだけどな~。

「じゃあ、逆に私からこの剣をあなたに。

 これは魔法剣になるタイプの剣で、おそらくはあなたの雷や炎を纏わせられるから、頑張ってね。

 それはあげるから騎士を辞める時にも返さなくてもいいわよ」

 そして彼女が差し出してくれたものは、素晴らしい装飾で彩られた普通サイズの剣だった。

 長剣ではない、日本刀でいえば大刀と脇差の中間くらいなのか。
 いわば中剣とでもいった方がいいようなサイズだ。

 日頃持つにはあまり邪魔にならなくていい。
 鞘は金属と革の非常によく仕上げられた逸品で、金属で彩られた模様も素晴らしい意匠だ。

 鞘の先端には魔石とでもいうのだろうか、不思議な輝きを放つ石が嵌められていた。

 これ、俺が力を込めるとまた砕けそうで嫌だな。
 鞘の装飾は凝った感じに掘られており、そして何かの紋章が掘られていた。

 おそらく、それは皇帝家の紋章で、俺が皇族の騎士である事の証も兼ねているはずだ。

「おおっ、すげえ。
 へえ、もしかしたらこれ魔法金属みたいな奴かな。

 鉄の剣だと俺のスキルなんか受けたら一瞬にして消えてなくなるから。

 う、でもやっぱり自信がないなあ。
 こいつに俺のパワーを込めたら一瞬にして壊れそうだ。

 実は神殿で凄くパワーアップしてきちゃったんだ」

「大丈夫よ、その剣は魔法力には凄く耐性があるんだから」
「魔法力にはねー」

 そうか、やっぱアカンな。

 本当に魔法かどうかもよくわからん物理的な力なので、おそらくそういう破壊不能オブジェクトみたいな物も問答無用で破壊してしまうに違いない。

 それに俺の魔法力自体も半端じゃねえみたいだし。

 まあ、そもそも剣なんて使えないから儀礼的に持つだけ持っておこう。

 さすがに皇女様の騎士が剣の一本も持っていないなんて格好がつかないよな。

 だから皇帝陛下が、わざわざ用意してくれた物なんだろうから。
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