19 / 50
第一章 燃え尽きた先に
1-19 魔法の神殿
しおりを挟む
家に戻った俺は浮かれていた。
俺は、はっきりと言って浮かれていた。
だって魔法だよ?
その総本山の見学だよ。
せっかくこんな世界に来て、あの体質からくるスキルの性能からして、俺って凄く魔力ありそうな感じなのに魔法と縁がないんだもの。
それが帝都の神殿から要請されて招かれるような、スーパーエリート神官の魔法使いからのお誘いなのだよ。
絶対いかいでか。
それなのに、あの馬鹿女が全然来ないんだけど。
これ、どういう事よ。
あいつが来ないと俺が出かけられないじゃないか。
俺のぷりぷりしている状態を見て、アントニウスが笑ってしまっている。
「おいホムラ、落ち着けよ。
あの子だって仕事が忙しい中で、上司からお前の面倒まで押し付けられたんだ。
日頃の業務の中、更に厄介な案件の報告書まで早急に書かないといけないんだから。
まだ来たばっかりじゃないか」
「じゃあ、あいつはもう置いていっていいかな。
だって、アントニウスが俺の面倒を見てくれるのは明日くらいまでが限度なんだろう?
なんたって俺は肝心の神殿の場所さえわかんないんだからな~!」
「まあそう言うな。
忙しい中で見に来て、お前がいなかったら、お前の監督を隊長から任されているあの子だって頭を抱えるだろう」
「そりゃあ、そうなんだけどさ」
「そう心配するな。
神殿に行けば兄貴はいつでも来てくれる。
あれも、お前に興味が深い神殿の意向が働いているのさ。
また神殿と皇帝家は関係も深い。
皇帝陛下も、お前には興味が尽きないようだしな。
キャセルに言ったって神殿くらい、いつでも連れていってくれるさ」
「そうなのかあ。でも早く行きたいー」
そんなこんなで、キャセルを待っていたのだが一向に奴は来ない。
「よし、もう我慢の限界だ。
ジェストレアス、君に重大任務を与えよう」
「あ、はい」
そう、今日はこいつをお供に連れてきてあるのだ。
何故ならば。
「俺達、もう神殿に行くからお留守番はよろしくな。
ここにお弁当は置いておくから。
あいつが来たら戸締りして神殿まで連れてきてくれ。
なんだったら、奴だけ寄越して君はここにいてのんびりしていてもいいからね。
もし奴が来なくても、俺達は夕方までには戻ってくるからアントニウスと一緒に馬車で屋敷まで帰ればいいし」
「あ、はい。わかりました」
重大任務もへったくれもない。
最初から任務内容は決まっているのだから。
そう、もう待ち切れないのが最初から自分でもわかっていたから、わざわざお留守番の人間を借りてきたのだ。
さすがに侯爵家ご一家には笑われてしまったのだが。
神殿への招待主である、当のお兄様まで笑っていたよ。
お弁当は、特別に日頃は見習いの彼が食べられないような凄く美味しい奴を用意してもらった。
おまけに美味しいおやつも用意してある。
我慢ができなくて早弁しても誰も見ていないから大丈夫だ!
一応、礼儀として一時間くらいはキャセルを待っていたのだが、その間俺はずっと冬眠に失敗した熊のようにうろうろしていて、そしてとうとう辛抱の限界を超えて先程の会話に至ったのだ。
「ジェストレアス、退屈な仕事だろうが、悪いけど頑張ってくれ」
「いえ、勉強のための本も持ってきていますから大丈夫です。
美味しいお弁当とおやつ、ありがとうございます」
こういう向学心溢れる優秀な執事見習いは、俺も出世したら是非とも欲しいもんだ。
この子って、ついでに凄い銀髪美少年なのだ。
目鼻立ちもくっきりとしていて、やたらとその辺には置いておけないレベルなのだがな。
まあ相手が脳筋のキャセルなら何の心配もいらんと思うが。
という訳で十二歳の幼気な美少年を俺の家に一人置き去りにして、俺達は急ぎ神殿へと向かった。
ちなみに、こういう真似をアメリカでやると親権者が逮捕される。
あの国って、そういうのを近所の人間が見つけて警察に通報したりするからな~。
十八歳未満はベビーシッターが要るのだ。
あの国の、油断しているとジャンキーになっているようなハイスクールあたりの糞餓鬼共にベビーもへったくれもないのだが。
もっとも幼い子供をしょっちゅう車内に置き去りにしている日本も偉そうな事は言えない。
日本では、みんな面倒を避けるために、そういうのは見かけても見ぬ振りをするから。
国際的に見たら、どっちがいいのかって言われたらなあ。
そして今日は裏口に、というか宮殿の通用口に馬車を用意してくれていたアントニウス。
それに乗って神殿へ向かった。
この帝都はやたらと広くて、その上巨大な施設が多い。
馬車で移動しても、その間を結構歩く羽目になるのだ。
アメリカにあるラスベガスの巨大ホテルがそうだという。
体力のない人だとホテル内でもうバテてしまうし、迂闊に街を出歩くと、ホテルが見える場所からだとタクシーに乗車拒否される。
まだ五百メートルから七百メートルはあるのに。
辿り着いてから、また巨大ホテルの中を迷いながら、へたをするとそれ以上歩くのだという。
この帝都ブラスこそは、まさにそれに近似する場所だった。
だが俺って引きこもりの割には何故か体力があるから、そう苦にはならない。
だって特異体質のせいで徒歩か自転車しか交通機関がなかったんだもの。
まだ少年と呼ばれちゃうくらい若いしね。
この世界だと十五歳でも成人らしいのだが。
俺は、はっきりと言って浮かれていた。
だって魔法だよ?
その総本山の見学だよ。
せっかくこんな世界に来て、あの体質からくるスキルの性能からして、俺って凄く魔力ありそうな感じなのに魔法と縁がないんだもの。
それが帝都の神殿から要請されて招かれるような、スーパーエリート神官の魔法使いからのお誘いなのだよ。
絶対いかいでか。
それなのに、あの馬鹿女が全然来ないんだけど。
これ、どういう事よ。
あいつが来ないと俺が出かけられないじゃないか。
俺のぷりぷりしている状態を見て、アントニウスが笑ってしまっている。
「おいホムラ、落ち着けよ。
あの子だって仕事が忙しい中で、上司からお前の面倒まで押し付けられたんだ。
日頃の業務の中、更に厄介な案件の報告書まで早急に書かないといけないんだから。
まだ来たばっかりじゃないか」
「じゃあ、あいつはもう置いていっていいかな。
だって、アントニウスが俺の面倒を見てくれるのは明日くらいまでが限度なんだろう?
なんたって俺は肝心の神殿の場所さえわかんないんだからな~!」
「まあそう言うな。
忙しい中で見に来て、お前がいなかったら、お前の監督を隊長から任されているあの子だって頭を抱えるだろう」
「そりゃあ、そうなんだけどさ」
「そう心配するな。
神殿に行けば兄貴はいつでも来てくれる。
あれも、お前に興味が深い神殿の意向が働いているのさ。
また神殿と皇帝家は関係も深い。
皇帝陛下も、お前には興味が尽きないようだしな。
キャセルに言ったって神殿くらい、いつでも連れていってくれるさ」
「そうなのかあ。でも早く行きたいー」
そんなこんなで、キャセルを待っていたのだが一向に奴は来ない。
「よし、もう我慢の限界だ。
ジェストレアス、君に重大任務を与えよう」
「あ、はい」
そう、今日はこいつをお供に連れてきてあるのだ。
何故ならば。
「俺達、もう神殿に行くからお留守番はよろしくな。
ここにお弁当は置いておくから。
あいつが来たら戸締りして神殿まで連れてきてくれ。
なんだったら、奴だけ寄越して君はここにいてのんびりしていてもいいからね。
もし奴が来なくても、俺達は夕方までには戻ってくるからアントニウスと一緒に馬車で屋敷まで帰ればいいし」
「あ、はい。わかりました」
重大任務もへったくれもない。
最初から任務内容は決まっているのだから。
そう、もう待ち切れないのが最初から自分でもわかっていたから、わざわざお留守番の人間を借りてきたのだ。
さすがに侯爵家ご一家には笑われてしまったのだが。
神殿への招待主である、当のお兄様まで笑っていたよ。
お弁当は、特別に日頃は見習いの彼が食べられないような凄く美味しい奴を用意してもらった。
おまけに美味しいおやつも用意してある。
我慢ができなくて早弁しても誰も見ていないから大丈夫だ!
一応、礼儀として一時間くらいはキャセルを待っていたのだが、その間俺はずっと冬眠に失敗した熊のようにうろうろしていて、そしてとうとう辛抱の限界を超えて先程の会話に至ったのだ。
「ジェストレアス、退屈な仕事だろうが、悪いけど頑張ってくれ」
「いえ、勉強のための本も持ってきていますから大丈夫です。
美味しいお弁当とおやつ、ありがとうございます」
こういう向学心溢れる優秀な執事見習いは、俺も出世したら是非とも欲しいもんだ。
この子って、ついでに凄い銀髪美少年なのだ。
目鼻立ちもくっきりとしていて、やたらとその辺には置いておけないレベルなのだがな。
まあ相手が脳筋のキャセルなら何の心配もいらんと思うが。
という訳で十二歳の幼気な美少年を俺の家に一人置き去りにして、俺達は急ぎ神殿へと向かった。
ちなみに、こういう真似をアメリカでやると親権者が逮捕される。
あの国って、そういうのを近所の人間が見つけて警察に通報したりするからな~。
十八歳未満はベビーシッターが要るのだ。
あの国の、油断しているとジャンキーになっているようなハイスクールあたりの糞餓鬼共にベビーもへったくれもないのだが。
もっとも幼い子供をしょっちゅう車内に置き去りにしている日本も偉そうな事は言えない。
日本では、みんな面倒を避けるために、そういうのは見かけても見ぬ振りをするから。
国際的に見たら、どっちがいいのかって言われたらなあ。
そして今日は裏口に、というか宮殿の通用口に馬車を用意してくれていたアントニウス。
それに乗って神殿へ向かった。
この帝都はやたらと広くて、その上巨大な施設が多い。
馬車で移動しても、その間を結構歩く羽目になるのだ。
アメリカにあるラスベガスの巨大ホテルがそうだという。
体力のない人だとホテル内でもうバテてしまうし、迂闊に街を出歩くと、ホテルが見える場所からだとタクシーに乗車拒否される。
まだ五百メートルから七百メートルはあるのに。
辿り着いてから、また巨大ホテルの中を迷いながら、へたをするとそれ以上歩くのだという。
この帝都ブラスこそは、まさにそれに近似する場所だった。
だが俺って引きこもりの割には何故か体力があるから、そう苦にはならない。
だって特異体質のせいで徒歩か自転車しか交通機関がなかったんだもの。
まだ少年と呼ばれちゃうくらい若いしね。
この世界だと十五歳でも成人らしいのだが。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる