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第一章 燃え尽きた先に

1-19 魔法の神殿

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 家に戻った俺は浮かれていた。
 俺は、はっきりと言って浮かれていた。

 だって魔法だよ?
 その総本山の見学だよ。

 せっかくこんな世界に来て、あの体質からくるスキルの性能からして、俺って凄く魔力ありそうな感じなのに魔法と縁がないんだもの。

 それが帝都の神殿から要請されて招かれるような、スーパーエリート神官の魔法使いからのお誘いなのだよ。
 絶対いかいでか。

 それなのに、あの馬鹿女が全然来ないんだけど。
 これ、どういう事よ。

 あいつが来ないと俺が出かけられないじゃないか。
 俺のぷりぷりしている状態を見て、アントニウスが笑ってしまっている。

「おいホムラ、落ち着けよ。
 あの子だって仕事が忙しい中で、上司からお前の面倒まで押し付けられたんだ。

 日頃の業務の中、更に厄介な案件の報告書まで早急に書かないといけないんだから。
 まだ来たばっかりじゃないか」

「じゃあ、あいつはもう置いていっていいかな。
 だって、アントニウスが俺の面倒を見てくれるのは明日くらいまでが限度なんだろう?
 なんたって俺は肝心の神殿の場所さえわかんないんだからな~!」

「まあそう言うな。
 忙しい中で見に来て、お前がいなかったら、お前の監督を隊長から任されているあの子だって頭を抱えるだろう」

「そりゃあ、そうなんだけどさ」

「そう心配するな。
 神殿に行けば兄貴はいつでも来てくれる。
 あれも、お前に興味が深い神殿の意向が働いているのさ。
 また神殿と皇帝家は関係も深い。
 皇帝陛下も、お前には興味が尽きないようだしな。
 キャセルに言ったって神殿くらい、いつでも連れていってくれるさ」

「そうなのかあ。でも早く行きたいー」
 そんなこんなで、キャセルを待っていたのだが一向に奴は来ない。

「よし、もう我慢の限界だ。
 ジェストレアス、君に重大任務を与えよう」

「あ、はい」
 そう、今日はこいつをお供に連れてきてあるのだ。
 何故ならば。

「俺達、もう神殿に行くからお留守番はよろしくな。
 ここにお弁当は置いておくから。
 あいつが来たら戸締りして神殿まで連れてきてくれ。

 なんだったら、奴だけ寄越して君はここにいてのんびりしていてもいいからね。
 もし奴が来なくても、俺達は夕方までには戻ってくるからアントニウスと一緒に馬車で屋敷まで帰ればいいし」

「あ、はい。わかりました」
 重大任務もへったくれもない。
 最初から任務内容は決まっているのだから。

 そう、もう待ち切れないのが最初から自分でもわかっていたから、わざわざお留守番の人間を借りてきたのだ。

 さすがに侯爵家ご一家には笑われてしまったのだが。
 神殿への招待主である、当のお兄様まで笑っていたよ。

 お弁当は、特別に日頃は見習いの彼が食べられないような凄く美味しい奴を用意してもらった。

 おまけに美味しいおやつも用意してある。
 我慢ができなくて早弁しても誰も見ていないから大丈夫だ!

 一応、礼儀として一時間くらいはキャセルを待っていたのだが、その間俺はずっと冬眠に失敗した熊のようにうろうろしていて、そしてとうとう辛抱の限界を超えて先程の会話に至ったのだ。

「ジェストレアス、退屈な仕事だろうが、悪いけど頑張ってくれ」

「いえ、勉強のための本も持ってきていますから大丈夫です。
 美味しいお弁当とおやつ、ありがとうございます」

 こういう向学心溢れる優秀な執事見習いは、俺も出世したら是非とも欲しいもんだ。

 この子って、ついでに凄い銀髪美少年なのだ。
 目鼻立ちもくっきりとしていて、やたらとその辺には置いておけないレベルなのだがな。

 まあ相手が脳筋のキャセルなら何の心配もいらんと思うが。

 という訳で十二歳の幼気な美少年を俺の家に一人置き去りにして、俺達は急ぎ神殿へと向かった。

 ちなみに、こういう真似をアメリカでやると親権者が逮捕される。
 あの国って、そういうのを近所の人間が見つけて警察に通報したりするからな~。

 十八歳未満はベビーシッターが要るのだ。
 あの国の、油断しているとジャンキーになっているようなハイスクールあたりの糞餓鬼共にベビーもへったくれもないのだが。

 もっとも幼い子供をしょっちゅう車内に置き去りにしている日本も偉そうな事は言えない。

 日本では、みんな面倒を避けるために、そういうのは見かけても見ぬ振りをするから。
 国際的に見たら、どっちがいいのかって言われたらなあ。

 そして今日は裏口に、というか宮殿の通用口に馬車を用意してくれていたアントニウス。
 それに乗って神殿へ向かった。

 この帝都はやたらと広くて、その上巨大な施設が多い。
 馬車で移動しても、その間を結構歩く羽目になるのだ。

 アメリカにあるラスベガスの巨大ホテルがそうだという。

 体力のない人だとホテル内でもうバテてしまうし、迂闊に街を出歩くと、ホテルが見える場所からだとタクシーに乗車拒否される。

 まだ五百メートルから七百メートルはあるのに。

 辿り着いてから、また巨大ホテルの中を迷いながら、へたをするとそれ以上歩くのだという。

 この帝都ブラスこそは、まさにそれに近似する場所だった。
 だが俺って引きこもりの割には何故か体力があるから、そう苦にはならない。

 だって特異体質のせいで徒歩か自転車しか交通機関がなかったんだもの。

 まだ少年と呼ばれちゃうくらい若いしね。
 この世界だと十五歳でも成人らしいのだが。
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