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第一章 燃え尽きた先に

1-17 ようやく異世界二日目の朝

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 そして、俺は他にも『星へ行く船』の話などをした。

 それは衛星軌道へ商業衛星を打ち上げる廉価なロケットの話ではなく、また宇宙ステーションへ補給物資を届ける低コストの無人補給ロケットの話でもなく、人類の夢を乗せた、いつか俺の故郷の世界で叶うだろう他の星系へと旅立つ星船の話を。

 光子ロケットやワープエンジン、そしてUFOの話などもした。

 そして夜になって空に見つけた、まるで地球の衛星かと思うような佇まいのレモン色の月に纏わる話を数えきれないほど夢中でしたし。

 俺はきっと、アポロ宇宙船の名やキャプテン・アームストロングの名前を伝えた、この世界で初めての落ち人かもしれない。
 もちろん、ガガーリンの名もね。

 ジュール・ベルヌや糸山博士やフォン・ブラウン博士の話はしたが、無粋な大陸間弾道弾の話はやめにしておいた。

 少なくとも、そんなくだらない話は今宵していい話ではないのだ。
 少なくとも、愛すべき彼らの名の下にはね。

 そんな風に故郷の話に夢中な俺と、それに夢中な両親の姿は今宵のアントニウスにとっては、いいつまみにしかならなかっただろう。

 あいつもいい顔をして酒を飲んでいた。
 俺もいつの日か大人になったら、あんな顔をして懐かしい故郷を想い、この世界の酒を飲んだりする事もあるのだろうか。

 そして、いつしか寝てしまった俺は侯爵家のメイドさんに起こされた。
 金髪青い目で、どこのモデルさんか女優さんかと思うような綺麗な人で、思わずドキドキしてしまった。

「おはようございます、落ち人様。
 間もなく朝食の準備が整いますので、御支度なさいませ」
 そう言って、下着や服を置いていってくれた。

 ふっと気が付いたら、そこは広くて物凄く綺麗な部屋だった。

 やたらと豪華で俺などが泊ったら気後れするような部屋などではなく、なんというか落ち着くけれど素晴らしいのが伝わってくるというのか。

 いつの間にベッドで寝ていたのかなあ。
「ああ、こういうのがセンスってもんなんだなあ」

 その気遣いに感謝しながら、着替えを済ませ顔を洗った。

 宮殿の部屋にも、そういう設備は標準で整っていたのだが、ここはまた別格だった。

 なんというか、風呂というか水浴用の超豪華な水槽の部屋があり、その隣に洗顔専用の立派な場所がある感じだ。

「なんか凄いな。
 洗顔スペースのためだけに、ホテルの貴賓室の広すぎるお風呂一個分を使ってみましたみたいな。
 これで何故お風呂が無いんだ⁇」

 これが、おそらくは『貴族家に泊まる事に気兼ねするタイプの客専用』の施設なのだろう。

 通常のVIP用にはまた別のタイプの客間があるのだ。

 なんというか、おそらくはこれがこの世界の一般的な様式なのではなく、このラシオン侯爵家の在り様を示すものなのだ。

 たぶん、これって他の貴族家には理解されないタイプの気遣いというか精神というか。

 だが、それでもこの家は己を貫くというか、そういう精神。

 なんか笑ってしまうな。
 あのアントニウスっていう男は、こういう家で育った人間なのだ。

 なんだかこう、それだけであいつの事が昨日よりも好ましく思えてくる。

 おもてなしっていうのは所詮、自分の事をどれだけ相手に伝えられるかっていう、そういう話なんだなあ。

 そして部屋を出ると、執事見習い? そんな感じのピシャンと糊の利いたような格好をした、まだ十二歳くらいの少年が待ってくれていた。

「おはようございます、落ち人様」

「おはようございます。
 なあ、君。

 この家の使用人さんは、皆俺の事をそう呼ぶように言いつけられているのかい」

 だが少年はその俺の戯言を一笑に付し、それよりも凄い、とんでもない事を言ってのけた。

「いえ、だって伝説の中の存在である落ち人様が、我が家に客人として滞在なされ、執事見習いに過ぎない僕がその御世話を任されているのですから、それはもう痛快です。

 それに一説によれば、皇帝陛下の家系にもその血が混じっているとかいないとか。
 たとえ嘘かもしれなくても、それを喧伝する事が皇帝家の権威となる。
 それが、この世界における落ち人様という存在なのですから」

「おうっ、マジなのかよ」

 あの皇帝陛下、もしかして俺を取り込んだのは、そういう効果をも狙っているんじゃないのか?

 いや、この強大そうな国のトップが俺に良くしてくれるんなら別にそれでもいいんだけどさ。

 何しろ、他に行くところもなければ、何がどうなっているのさえかもよくわからないんだからな。

 あの皇女様、今頃どうしているのかね。

 何しろあれだけ派手に命を狙われた上、親しかった従者まで失ってしまったみたいだし。きっとトラウマになっているんだろうなあ。

「ま、それよりも俺としては朝飯の内容が気になるかな!」

 そう言って若干重めの話を終わらせた俺の軽口に、まだ幼い年下の彼も笑ってくれた。

「そういや君の名前、なんていうんだい」
「ジェストレアスと申します」

 なんか、この家はギリシャっぽいようなローマっぽいような感じの名前が多いな。
 まあいいのだけれども。

 ギリシャからローマへと続く文明の軌跡。
 この異世界の大帝国もそのような系譜を継いできたのだろうか。
 少なくともこの国は、この首都は文化的な場所だった。

「そうか、じゃあジェストレアス。
 俺の事はホムラと呼んでくれ。
 呼びにくかったら名字のライデンでもいいが、親しい人はホムラと呼び捨てだから、そう呼んでくれると嬉しい」

「わかりました。ではホムラ様、よろしくお願いいたします」
「ああ」
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