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第二章 探索者フェンリル

2-56 待望の至福

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 それからなんと、一週間経つか経たないかのうちに、伯爵家から大量の鶏肉が馬車で届けられた。

「うお、これはまた早いな。ちゃんと育っているのか? そんなに慌てなくてもよかったのに。鳥さんもじっくり育てた方が肉は美味しくてよ」

 だがそれを聞いた、肉を届けてくれたマーカスが奇妙な顔をしている。

「いや、それがですね。いやに成長が早くて、これが最高級に成長させたものと遜色がなくて。さらにこの前生まれた世代は繁殖欲が旺盛で、それはもう卵を毎日産みまくっておりましてね。

 今慌てて飼育場を拡張しておる次第でして。また卵も大変美味なのですが、すぐにヒヨコが孵ってしまいますので、卵のままでお持ちする事ができませんでした。卵焼きにして持ってきてありますので、こちらはお早めにお食べください」

 そうだったか、なんという事だ。一転してエロエロ鳥になってしまったというのか。これは遺伝子にそういう物が刷り込まれたとしか言いようがない。

 しかし、卵は欲しかったな。名古屋コーチンの親子丼は凄く美味しかったから、この鳥でも試してみたかったのだが、いつか伯爵家でその料理を堪能したいものだ。

 肉も卵もでかいので俺が食うにも十分だ。卵を割るのが難儀そうだが。やっぱりダチョウの卵サイズらしい。まあ雛の大きさを見ればわかるのだが。

「いよいよですね!」
 そう力強く語る女性の声が背後から聞こえた。

「いよいよですな」
 こいつももちろん誰かはわかっている。騎士団長と副騎士団長御揃いで、満を持してという感じでの発言だ。

「おう、やらずにおくものか。うちの騎士団名物、唐揚げ大会だあ」
 二本足で立ち上がって、一般的な狼とは違う意味で俺は天に向かって吠えた。

「おーっ!」
 と騎士達からは気勢が上がった。

 騎士たるものは、当然遠征した時などは自分達で糧食を調理できないといけない。昔のヨーロッパの騎士などは、鎧の着脱や清掃手入れなども含めての世話をする世話人がいたそうだ。

  かの有名な風車のドラゴンに立ち向かった奴も、有名な奴を連れていたっけな。だが、こいつらは世話人などを連れていくくらいなら、その分頭数を増やせの精神らしい。整備兵とかいう考えなどは端からない脳筋揃いだ。

 まあ、おかげで肉が届くまでの間、唐揚げ演習に勤しませておいたのだが。

 その間毎日、第一王妃や第二王妃の一党が食べに来ていたので、傍から見るとまるで仲がよくなったようにしか見えないのだが、実際にはそんなわけはない。

 まだまだ第一王妃の方は油断も隙もないし、第二王妃の方も俺があれこれ懐柔しておく必要があるだろう。仲良きことは美しきことかな。

 騎士団長と副騎士団長は、その時も食う専門だったのだが、まあ偉い役職なので許されている。

 とにかく、至福の時は来たれり。いや、本当に苦労したわ。ダンジョンくんだりまで出かけて、挿し木作業までしてきたしな。

 そして当然のようにやってきた王妃軍団と、今回は脳筋の国王もやってきた。

「アルカンタラの実家の肉は美味しくて希少な物として有名だからな。皆、本当に楽しみにしているよ。しかし、気味の美味い物探究の精神には感服するよ」

「えー、だって美味しい物は食べたいのに決まっているじゃないですか」

「まあ、そうなのだろうな。では神の子への捧げものとして、デリバードと偉大なる神ロキの一族に乾杯」

 国王が秘蔵のワインの樽を出してくれたので、功労者として招かれているベノムがその傍を離れようとしない。

「うーむ、坊の出してくれる酒も美味いが、こちらの世界の酒もなかなかじゃのう」
「当り前だよ。国王秘蔵の品なんだぜ。それより、この卵焼きもいけるよ」

「何を言うか、卵なんぞがツマミに。うお、美味いな、こいつあ」

「はは、じっちゃんのアレのせいじゃねえの? もう、あの鳥いろいろともう別物になっちまっているわ。あの魔石のせいもあるんだろうけど」

「はっは、坊の美味い物探究の精神にはまいったわい。おお、いい匂いがする。いつもの唐揚げとは一味違うようだのう」

 そして駆け出してくるサリーとルナ姫。
「スサノオどのー、ベノムどのー。この唐揚げはもう絶品ですぞー」

「この唐揚げとっても美味しいの~。早くスサノオ達も食べようよー」

 皿いっぱいの唐揚げを盛って、落とさないように小走りにやってくる二人。俺は可愛いアニメ柄のレジャーシートをアルミシートの上から敷いてやり、お姫様席を作ってやる。

 すかさずそれを発見したサーラ姫もやってきて、さながらチビ姫様達を囲むイベントのようになった。

 酒樽の傍なんだけどね。子供達には子供に人気のジュースやお茶を召喚してやり、フィアも俺の頭のあたりから毛を掻き分けてのこのこと姿を現してあれこれと摘まみ始めた。

 やがて、アルカンタラ王妃様が王の傍を離れてやってきて、俺に向かっていった。

「ありがとう、スサノオ様。実家の方までお世話になっちゃったわね。あなたが来てくれて本当に助かったわ。何よりも、子供達と一緒にいられるのが嬉しいの」

「ふふ、小生こう見えましても神の子にありますれば。風の向くまま気の向くままが、この世界における神の子の常ではあるものの、俺の風はこの王宮に向いたみたいでね。何しろ、ここには俺の大親友がいるのだから」

 俺がそう言って鼻面を摺り寄せると、ルナ姫もやはりぎゅうっと抱きしめてくれた。
「うん、あたしも大好きだよ、スサノオ。あたしのもふもふ、あたしの大親友」

 さて、お次は何をやろうかねえ。またフィアにでも聞いてみるか、ベノムのじっちゃんの『年寄りの知恵』に頼るもよし。

 あるいは、何人いるのか、どこへ行っちまったのかもわからねえ俺の兄弟姉妹捜索の旅に出るのも悪くないが、今しばらくはルナ姉弟を見守っていないとな。

 またダンジョンの上層にも出かけていきたい。あれからダンジョンも大人しいのだが、またきっとガチンコの勝負が待っているのに違いない。せっかく作ってもらった新生草薙も試していないしな。

 俺は愛すべき友達と一緒に熱々の唐揚げを頬張りながら、次なる冒険へと想いを巡らせていったのだった。
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