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第二章 探索者フェンリル

2-55 驚愕の生態

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 あれから、どうなったかというと、なんと可愛い雛達が大量に生まれていた。傍には色んな意味で満足そうな顔をして雛を見守るデリバードの番がいたのである。

 雛は全体がふかふかで、親とは違いまん丸っぽい感じの体形で可愛くちょろちょろしており、これまた可愛らしい黄色い声で鳴いている。色合いもはっきり言ってただのヒヨコだ。おやまあ。

「そんな馬鹿な。出かける時にはまだ交尾をしている最中だったじゃないか」

「ええ、この鳥は交尾してからすぐ卵を産むのです。雛が孵るまでの期間が異常に短いのが特徴なのですがねえ。やはり魔物だからですかね。それにしても今回は異様に早過ぎますわ。いつもは卵が産まれてから孵化するまで三日くらいかかるのですが」

 それにしたって物には限度ってものがあるのだが。どれだけ卵の成長が早いんだよ。これはどうみても、ベノムのじっちゃんが作ったアレのせいではないのだろうか。

 それとも例の魔石で強引に笹の花を咲かせたので普段と違って妙なパワーが籠ったものか、あるいはその両方なのか。

 鳩の雛を見た人は少ないが、あれは鳩ミルクという物凄く栄養価の高い食事を親が与えるためすくすくと育ち、二週間ほどで親とほぼ変わらないような姿にまでなってしまうため、子供の鳩が混じっていても気がつかないのだ。そんな感じに育ってしまう可能性があるな。

 今のうちにルナに見せておいてやるか。見たがるだろうしな。いきなり肉と対面というのもなんだ。

 これが普通に日本なら肉になる前の可愛い姿を見せると、食べるのを嫌がる子もいるのでよくないかもしれないが、この世界ではごく普通の事なのだ。

「これはいい雛ですな。今まで見た中でも最高の物だ。しかも、このように大量にいるとは。この鳥はあまり数が生まれてこないのですが、体は丈夫で滅多に雛が死んでしまう事はなく大人になりますので」

 まあ、元があのティラノっぽい奴だからねえ。槍で突かれたら死んでしまうわけなのだが、ここでは大事に育てられるのだから。

 この雛達には、これから地鶏としての優雅な時が与えられる。美味しく育ってくれる事を切に願う。あれだけ苦労して産ませた奴なのだからな。

 俺はすでに王宮のグレンに呼び掛けて、グリーどもにルナ姫を乗せてくるように頼んであるので、もうすぐやってくるだろう。

 サリーとアレン達がついてきてくれることになっている。サーラ姫も一緒についてくるだろう。あとアルカンタラ王妃も一緒だ。

 王宮にもグリーはいるので、早く来たいだろうから馬車ではなくそいつらを借りてくるように言っておいた。

 やがて一団がやってくるのが感じられたので出迎えに出た。おや、アルカンタラ王妃様が自ら手綱を握っておられるのか、娘を乗せて。

 なんとアルス王子までがサリーに抱かれてやってきている。乳母のアリーナがサーラ姫を乗せており、一行はかなりの人数になっていた。

 出迎えのメンツの中には、アルカンタラ王妃の両親も混じっていた。苦労して嫁に出て以来、初めて返ってくる苦労人の娘と初めて見る孫達の顔を迎えるために。

 先頭を軽やかに駆け抜けて、猛禽を扱ってやってきた王妃様。ひらりっと娘を抱えたまま飛び降りると、はち切れそうな零れんばかりの笑顔で言った。

「ただいま戻りました、お父様、お母様。娘のルナ王女ですわ。そして王太子のアルスです」

「おお、おお。お前の子供時代のようで可愛いのう。おやおやアルス殿下も可愛らしい事よ」

 初めて会うのだが、赤ん坊でも本能的に肉親だとわかるものか、あうあうと手を伸ばして抱っこをせがむアルス王子。そしてルナ姫がご挨拶を。

「お初にお目にかかります。お爺様、お婆様、ルナです。あ、これ御土産なの。大きな牛さんのお肉で、美味しいんだよ。ところで、可愛い鳥のヒヨコさんはどこに?」

 そう言って、お土産のメガロのお肉を渡すしっかり者のルナ姫。

 厳しい経験の数々がこの子を大人びさせているのだが、子供の群れに放り込めば年相応の笑顔を見せてくれるのは知っているので特に問題はない。

 お姫様なのだから、しっかり者でちょうどいいのだ。あのヘル王女の域にまでいってしまうと、しっかりし過ぎていて逆にあれなのだが。

 またバカンスには、あのローム村にでも連れていってやるとするかな。ベリーヌや他の子達も喜ぶだろう。

 一度も会う事すらなく異国へと送られてしまうところだったので、諦めていた孫達との邂逅に爺さん婆さんが二人して涙に頬を濡らしていた。

 乳母のアリーナも、アンディとそれを楽し気に見ている。苦労人マーカスも男泣きだ。

 そして常に命の危機にあり、苦労の連続だった愛娘を抱きしめる両親。

 生憎な事にお子様達は、そのような感動的な対面よりも実家の鳥さんの方が気になるらしくて、うろうろしていた。アルス王子も乳母さんの腕の中で落ち着かずにじたばたしている。

「ささ、感動の対面も終わった事だし、鳥さんを拝みに行こうぜ。子供達がお待ちかねだ」

 そして歩きながら久しぶりの親子の歓談に夢中な母親と、俺の背中で久々に楽しむルナ王女とサリーに抱かれながら同乗するアルス王子。

 フェンリルマンだけでなく狼形態における背中の乗り心地も、お世継ぎの王子様には気に入っていただけたようだ。

 お出迎えに来た伯爵家の子供や使用人の子供なども俺の背に乗って、子守り狼再びといった感じだった。後でまたおやつ会でも開くとするかね。

 親が巨大なダチョウクラスの鳥なので、それなりの大きさである雛達だったが非常に懐っこく、子供達にピーピーと鳴きながら纏わりついていく。

 抱っこしたり頬を摺り寄せたりして、皆で可愛がっていた。まあ、そのうちにお肉になってしまわれる子達なのですがね。

 この鳥飼育場は広い土のスペースなので、子供達が走り回るのにもピッタリなのであった。狼としてもどちらかといえば快適な感触だ。ふと気がつくと、マーカスが傍に立っていて、頭を下げていた。

「ありがとうございます。スサノオ様、生きてこのような光景を見られるなどとは、まるで夢のようですわ」

「ふふ、その借りは美味しい鶏肉で返してもらうぞ」
「もちろんですよ。このマーカス、腕に依りをかけて育て上げてみせますとも」
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