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第二章 探索者フェンリル

2-53 後始末諸々

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 そこにいた二十人ほどのならず者達は、得物を手にして一斉に飛び掛かってきたが、この無敵のフェンリル様に敵うはずなどもない。

 次々と吹っ飛び、壁にめり込んだり天井に頭を突っ込んでぶら下がったりと、次々戦闘不能になっていく。ほぼゴキブリ退治に近い。

 こいつらの性根はまさにそれ以外の何物でもないのだが。最後の一人のスキンヘッドで小太りのいい体をしてやがったボスらしき奴が、踵を返して逃げようとしたが俺の前足で押さえつけられた。どうだい、この特級の極上肉球で踏まれる気分はよ。

「くそ、卑怯だぞ、マーカス。こんな助っ人を連れてきやがって」
「おい、こいつの借金の証書はどこだ」

「し、知らん。こんな真似してただで済むと思うなよ。王都の役人には知り合いも多い。このままじゃすま」

 俺は台詞の途中でさらに遠慮なく踏んだ。
「ぐわああ」

「生憎無駄だな。俺は神の子フェンリル。この国の王は俺を丁重に扱ってくれるぞ。よくも神の鳥関係者に手を出してくれたな。お前らは王宮に直接しょっぴくぜ。役人が何だ。逆に汚職役人の摘発をしてくれるわ。お前の尋問は、あの脳筋の国王自らが果たすだろう。以上」

 男は予想だにしていなかった窮地に目を見開いたが、逃げようとしてジタバタしたが、もう一回強烈に踏んでおいたら気絶した。

 体重一トンもある狼様に、全体重かけるような感じで思いっきり踏まれましたからね。

「アレン、家探し」
「へえへえ。そういうものはだな、例えばこういうところに。ほらビンゴ」

 どうしてわかるものか、奴は見回しただけで、ある場所の床の石版をすっと一枚剥がして、秘密の隠しスペースをあっさりと見つけ出した。

「また怪しいやっちゃな、お前も」
「へ、大きなお世話だ。蛇(じゃ)の道は蛇ってね」

 まあ眷属が使える男だっていうのは悪い事じゃあないのだが。とりあえず、俺は念話でグレンに連絡を取り、うちの騎士団を寄越させるようにした。

「さあ、とりあえず友人君を開放しよう」
 俺達は奥の方へ進んだが、そこは座敷牢のようになった場所で、そこにはマーカスと似たような年恰好のおっさんが力なく座り込んでいた。

「ライアス!」
「おお、マーカス。期限に間に合うように来てくれたのか」

「すまぬ、迷惑をかけたな。もう大丈夫だ」
「そうなのか? しかし、こいつらは第一王妃の一派と繋がりがあるのでは」

 彼は心配そうな顔をしつつ、マーカスの差し出した手に掴まり、立ち上がった。しばらく幽閉されていたので、足にあまり力が入らないらしくよろけていた。まあ歳なのに運動も碌にさせてもらえないのではな。

「ああ、わしらの知らないうちに第一王妃派は跡目争いから転げ落ちた。今は王太子として認められた第三王妃の時代なのだそうだ。時代は変わったもんだわい」

 まあ、やってしまったのは俺なのだが。いいよね、神の子の仕業なのだから。できれば、人の子だけで頑張った方がよかったのかもしれないのだが、全然頑張れてなかったしねえ。

 久しぶりの再会に、お互いの事を話すのに夢中な二人。この世界では初老といってもいい男達が談笑する姿は、あれほどまでの酷い目に遭わされたばかりとは思えないような和やかさだ。昔からの信頼できる知己同士なのだろう。

 それからほどなく駆け付けた騎士団の連中は金属鎧着用で、やたらと息を弾ませていた。ここは王宮からそう遠くない場所にあったようだ。

「いや、ついでだから訓練しながら来ようと思ってな」

「ええい、この脳筋め。まあ早く着いたからよしとしよう。仔細は残してきたグレンに伝えてあるから。一切の容赦は無用だ。唐揚げのためだから頑張れ」

「よくはわからんのだが、唐揚げのためならばそうしよう」

 そして、その場所にいた悪そうな連中は全員が唐揚げ騎士団によってしょっぴかれていった。

 枷によって魔法も封じられているから、魔法を使える奴がいても反撃はできない。悪態を吐きながらも、きりきりと引き立てられていった。

「さて、もう一件落とし前をつけに行くぞ」
「はて、一体どこへ」

 マーカスは不思議そうにしていたが、アレンはニヤニヤしている。これから起こる事がよくわかっているのだ。俺は表へ出ると、一声吠えて連中を呼び寄せた。

「さあ、出かけようか。お前らは、あいつらに乗ってくれ」
 俺はグレンに言ってグリーどもを呼んでおいたのだ。

『おい、お前ら。いっちょ冒険者ギルドまで頼む』
『へい、わかりやした。殴り込みですかい?』

『何でそう思う』
『だって、あっしらが呼ばれたんだし、何よりも旦那がそんなに楽しそうだ』

 いやあ、俺ってやっぱり顔に出ちゃうタイプなんだよねえ。俺は豪快に狼式の笑い声を立て、真っ黒な体を震わせた。
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