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第二章 探索者フェンリル

2-52 殴り込み

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 俺は走った。義憤に燃えて。第三王妃の名誉なんて、くっそくらえだ。このおっさん、マーカスの友人? そんな事は知った事か。
 
 いや、鳥絡みの人らしいから、少しは配慮しよう。何よりも、今この異世界で俺の一大関心事、デリバードに仇を為した奴らはぜーったいに許さん。

 こういうのは義憤って言わないって? まあそう堅い事は言いなさんな。

「いいけど、旦那。暴れるんならほどほどにしないと、またギルマスに文句を言われるのが関の山だぜ」
 横手を飛んで移動しているアレンから茶々が入った。

「馬鹿だな、アレン。あのカラスよりも口煩そうな女を黙らせるアイテムなら、もうすぐ手に入るだろうが」

 それを聞いて呆れたような顔をしているアレンだったが、少し間を開けてポツっと言った。
「デリバードか、うーん楽しみだな」

「おお、まずは唐揚げからだな。ふふ、バリスタとサリーがさぞかし煩いだろうな」

「王室御用達の、とびっきりの鶏肉なんだぜ。串焼きや焼き鳥も、きっとたまらないのに違いねえな。あんたお得意のビールにもよく合うんじゃねえかと思うんだが」

「言うな、アレン。まだ現物は手元にはないのだぞ。無性に食いたくてたまらなくなってきたではないか、じゅるり。ああ、まだ見ぬデリバード料理の数々」

「くそ、ブーメランで帰ってきた。俺も食いたくなってきたぜ、旦那」

 とても今から殴り込みに行くとは思えないような食欲に塗れた主と眷属の会話が聞こえているのだろうが、鞍上のマーカスは無言だ。友の事が大事なのだろう。

 かなり速めのスピードで駆ける。一応、背中の住人に影響が出にくいように気を使った走法で。

 全身の筋肉をそのように制御するので疲れるのだが、ここは仕方あるまい。そうしないと、道案内のおっさんが脱落してしまうのでな。

 石塀に囲まれた王都の正門を、一声吠えて挨拶して飛び越え、マーカスの案内に従い、飛ぶように駆けていく。

 俺のいつもとは違う緊迫した様子に何事かと門番がこちらを見ていたが、今日は構ってなどはおれん。

「スサノオ様、あそこの路地の奥です」
「よしきたあ」

 俺は俊敏なフットワークで直角にターンし、狭い路地へと飛び込んだ。危うく、背中のお荷物であるおっさんが振り落とされそうになったが、すかさず脇に寄ったアレンが片手で押さえてくれていた。いかん、いかん。どうも気が急いて。

 そこにあったのは、いかにも怪しいと思うような感じに古びた、ごつい堅そうな木でできた扉だった。

 何かの紋章のようなマークがついているが、何なのかよくわからない。たぶん怪しげな連中が所属する団体か何かのシンボルマークではないだろうか。

「ここか?」
「はい、しかし大丈夫でしょうか」

「大丈夫かどうかは知らない。主に相手の奴らとか、周りの建物なんかがな。しかし、中が狭そうで嫌だな。表に出ろとか言っても出てこないだろうし」

 だが行かないわけにもいかない。マーカスはドアを叩き、中の人間を呼んだ。
「マーカスだ。ここを開けてくれ」

 だがまったく応えはない。どうするかと言った感じで彼が振り向いたので、俺は前足に神の子のパワーを込めた。

 敵の襲撃などを想定していたと思われる必要以上に頑丈そうに見えたドアは見事に粉砕されて粉々になった。

「こ、この馬鹿狼、ちったあ力の加減を考えろよ」
「はっはっは。戦いのゴングを神の子自ら鳴らしてやったまでだ」

 目を白黒しているマーカスを連れて、中へ踏み込むと、どやどやと男達がやってくる気配がする。仲は案外と広いので助かるな。通路の幅はざっと三メートルほどはある。

「なんだ、こりゃあ。げ、なんだこのでかい狼は。従魔?」
「マーカス、てめえ妙な連中を連れてきやがって」

 だが、俺はふっと優しく息を吹きかけたが、男達は見事に吹っ飛んでいった。

 いや、巨大狼の大肺活量から強烈な空気の槍を吹き付けてやっただけだ。優しくしてやる義理なんかないからね。鉄砲魚みたいに水面から鼻先を出して虫魔物とか取れそうだよな。

 それから、アレンに後方を任せ、ロイに訊いてみた。
『このマーカスの友人とやらの居場所はわかるか』

『個体の判別はつきませんが、奥の方に人間が固まっている部屋があり、その奥にポツンと一人だけ人間がいますので、多分それではないですかね』

『ああ、そいつだろうな。じゃあ行くぞ』

 俺達はずんずんと進んでいき、たまに後ろの部屋から出てきた奴がいると、アレンが昏倒させていく。

 名高いマルーク兄弟の頭にしては退屈な仕事だろう。野郎、欠伸なんぞしていやがる。

 件の大部屋の中へ踏み込むと、性質がよくなさそうな風体の男達が集まって酒を飲んでいた。俺達を見ると、口汚く罵った。

「なんだ、手前らは」
「さっきの騒ぎはお前らの仕業か。それにマーカス、金はできたのか。戻ってくるとは馬鹿な奴め。そんな狼なんか連れてきたって無駄だぞ」

「さっき様子を見に行った、アレックスとベイルはどうした」
 しかし、静かにマーカスは前に進み出ると懇願した。

「お願いだ、ライアスを返してくれ」
「金を持ってこないなら返せねえな。殺すと言ったはずだ」

 そしてそれを聞いた俺は言った。
「おい、金っていうのは、こういうものか」

 そして見せつけたのは、金の延べ棒をズラリと詰めた鞄。そして、もう一つのボストンバッグには金貨が詰まった袋がびっしりと。

 その耀きに思わず息を呑む男達。そのうちの一人が、思わず手を伸ばしながらニヤついた。

「へ。へっへっへ、なかなか話のわかる狼ちゃんじゃあないか。それならそうと最初から、ぐべっ」

 男は急に浮かべ出した愛想笑いを吹き飛ばしながら、自らも吹っ飛んでいった。狼パンチ炸裂。

 どっちかというと猫が気まぐれに、前足で何か気に入らなかった物を吹き飛ばすかのようなポーズで。そして金の類を収納に仕舞いながら、宣言する。

「遊びの時間は終わりだ。さあ手前ら、根性据えてかかってこい!」
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