98 / 107
第二章 探索者フェンリル
2-47 神に祈りし者
しおりを挟む
「ああ、助かりました。いや本当にありがとうございます」
その風采の上がらなそうな男は、埃で真っ黒というか土埃や泥塗れになり、人間なのか猿系の魔物なのかも判別がつかないくらいだったので、収納から大量の水をぶっかけて洗い流してやった。
見事にパンツ一丁の裸の猿が出来上がったので、それからアレンに浄化の魔法を唱えさせ綺麗にしてみたら、あちこち怪我や打ち身だらけだった。
仕方がないので高価なポーションを使って治療してやった。幸いにして、致命的な怪我などは負っていないようだった。
俺の体は頑丈な上に、回復力はプラナリア並みなのだが、他人を治療する力はないのでお薬頼みだ。滅茶苦茶に高い薬なので、よく効くがな。
「あんた、何故そんな裸も同然の格好でこんなところにいるんだ」
「ああ、私はマーカス。冒険者をしておったのですが、どうしても大金が必要だったので無理やり上級冒険者を紹介してもらい、このような階層まで一緒に来たまではよかったのですが、パーティの手に負えないような怪物が出現したのです。
そして、ほとんど役に立たない私は身ぐるみ剥がれ、囮として逃げ回る羽目になりました。そして、あそこに落っこちまして、そのままですわ」
うわあ、モブ全開のおじさんだな。よく観察すると、もうすぐ初老と言ってもいいような年頃だ。まあ生きていただけ奇跡やな。
「とりあえず、裸のおっさんとこんなところでお見合いなんて、罰ゲームでしかないのでこれでも着ておいてくれ」
そして、おっさんは礼を言って服を着込みながら、ようやく話している相手がアレンではなく狼の俺なのに気がついたようだ。
「あれまあ、狼さんが喋っておられる。あなたは一体」
俺は礼によってロキの紋章を発動し、自己紹介に代えた。
「おお、あなたは神の子フェンリル様。ありがたや、ありがたや。あの中で動けない間、ずっと神に祈っていた甲斐がありました」
「ちなみにそれ、何の神に?」
「それはもう、ありとあらゆる神に。もちろん、ロキ様にも」
もう節操がないな。まあ、お蔭で神の子が来てくれたわけなのだが。普通は浮かれて疾走中に、か細いおっさんの声なんかに気がつかないよな。
「それにしても、ひでえ話だ。アレン、こういう事はやってもOKなのか」
だが、彼はうんざりしたように言った。
「いいわけがないだろう。そういうものはギルドに報告されたら、かなりの罰則があるぜ。ただ、やられた側とやった側に力の差があると報復を恐れてギルドに言い付けたりはしないケースも多い。やった連中もそのおっさんが生きて帰るなんて想定していないのだろう」
嫌だねえ。俺はあたりを見回したが、件のそのとんでもない怪物の姿はどこにも見当たらない。よかったな。
俺の場合、あの手の奴と一回揉めるとダンジョンがむきになって連鎖的に怪物が湧いてきそうなので。本当はこうやって上の階層に留まるのも、あまりよくない事なのだ。
「俺達は王都へ帰るんだが、一緒に帰るかい」
「ええ、お願いします。もうここにいたってどうしようもないので」
俯いてそう答えるおっさんの声は、そのまま声に引っ張られて暗い海に沈んでいくのではないかというほどに暗い。
そういや、金が要るとか言っていたな。金どころか、身ぐるみ剥がれて命までも無くす羽目になるところだったわけなのだが。
「まあ、命があっただけ儲けものさ。気を落とすな」
俺はアレンに言って、そいつを背に乗せさせると再び疾走した。今度はかなり速度を落として。
このおっさんはアレンのように、俺の速度に耐えられるような技量は持ち合わせてはいないだろうからな。
「ひいー、早い早い」
おっさんの悲鳴を半ば楽しみながら、アレンが笑顔でおっさんの肩を叩いた。
「この狼が本気で走り出したら、お前さんなんか掴まってはいられないぜ。まあ、王都へ行くまでは辛抱しな」
これでもインターネットの速度なんかだったら映画の再生とかができなくて、利用者がぶちきれるほどスピードを落としているんだけどね。
おっさんの悲鳴を後方に流しながら、俺は軽やかに逆十倍速で駆けていったのだった。まあ魔石は手に入れたし、偶然とはいえ神の信徒は救出したしで、俺は大変御機嫌であった。
神を信奉する物に手を差し伸べるのは、神の子として功徳を積むことになると言われていたので、こういう時には力を惜しまない事にしている。
力を惜しむというか、貢献したのは特技的な内容だけであまり何もしていないのだが。器用な眷属がいてよかったことだ。
今度は黒小人に頼んでオープンタイプに屋根をとっぱらわせて、自分で操作してみるかな。こういう作業に使うのならクレーンの方がいいかもしれない。
ホイストでアレンあたりを救助員として送り込むのもいいな。ヘリがあるといいが、あれは操縦が難しいし、俺が乗り込むのは無理がありそうだ。さしずめ、ミドガルド救助隊とでも名乗っておくか。
やがて、階層からのスカイダイビングの時間がやってきたので、お手本としてアレンが飛んだ。
「なあ、おっさんも楽しんでみる?」
「け、結構です。私、あなたのお背中が大好きですなあ」
「そうかあ、滅多に体験できないアトラクションなんだがなあ」
なんというか、両側からアレンと俺で手を繋いでやって、輪になって降下するスカイダイビングの真似事をしてみたかったのだが。いつかルナ姫とこれで遊ぶかな。
その風采の上がらなそうな男は、埃で真っ黒というか土埃や泥塗れになり、人間なのか猿系の魔物なのかも判別がつかないくらいだったので、収納から大量の水をぶっかけて洗い流してやった。
見事にパンツ一丁の裸の猿が出来上がったので、それからアレンに浄化の魔法を唱えさせ綺麗にしてみたら、あちこち怪我や打ち身だらけだった。
仕方がないので高価なポーションを使って治療してやった。幸いにして、致命的な怪我などは負っていないようだった。
俺の体は頑丈な上に、回復力はプラナリア並みなのだが、他人を治療する力はないのでお薬頼みだ。滅茶苦茶に高い薬なので、よく効くがな。
「あんた、何故そんな裸も同然の格好でこんなところにいるんだ」
「ああ、私はマーカス。冒険者をしておったのですが、どうしても大金が必要だったので無理やり上級冒険者を紹介してもらい、このような階層まで一緒に来たまではよかったのですが、パーティの手に負えないような怪物が出現したのです。
そして、ほとんど役に立たない私は身ぐるみ剥がれ、囮として逃げ回る羽目になりました。そして、あそこに落っこちまして、そのままですわ」
うわあ、モブ全開のおじさんだな。よく観察すると、もうすぐ初老と言ってもいいような年頃だ。まあ生きていただけ奇跡やな。
「とりあえず、裸のおっさんとこんなところでお見合いなんて、罰ゲームでしかないのでこれでも着ておいてくれ」
そして、おっさんは礼を言って服を着込みながら、ようやく話している相手がアレンではなく狼の俺なのに気がついたようだ。
「あれまあ、狼さんが喋っておられる。あなたは一体」
俺は礼によってロキの紋章を発動し、自己紹介に代えた。
「おお、あなたは神の子フェンリル様。ありがたや、ありがたや。あの中で動けない間、ずっと神に祈っていた甲斐がありました」
「ちなみにそれ、何の神に?」
「それはもう、ありとあらゆる神に。もちろん、ロキ様にも」
もう節操がないな。まあ、お蔭で神の子が来てくれたわけなのだが。普通は浮かれて疾走中に、か細いおっさんの声なんかに気がつかないよな。
「それにしても、ひでえ話だ。アレン、こういう事はやってもOKなのか」
だが、彼はうんざりしたように言った。
「いいわけがないだろう。そういうものはギルドに報告されたら、かなりの罰則があるぜ。ただ、やられた側とやった側に力の差があると報復を恐れてギルドに言い付けたりはしないケースも多い。やった連中もそのおっさんが生きて帰るなんて想定していないのだろう」
嫌だねえ。俺はあたりを見回したが、件のそのとんでもない怪物の姿はどこにも見当たらない。よかったな。
俺の場合、あの手の奴と一回揉めるとダンジョンがむきになって連鎖的に怪物が湧いてきそうなので。本当はこうやって上の階層に留まるのも、あまりよくない事なのだ。
「俺達は王都へ帰るんだが、一緒に帰るかい」
「ええ、お願いします。もうここにいたってどうしようもないので」
俯いてそう答えるおっさんの声は、そのまま声に引っ張られて暗い海に沈んでいくのではないかというほどに暗い。
そういや、金が要るとか言っていたな。金どころか、身ぐるみ剥がれて命までも無くす羽目になるところだったわけなのだが。
「まあ、命があっただけ儲けものさ。気を落とすな」
俺はアレンに言って、そいつを背に乗せさせると再び疾走した。今度はかなり速度を落として。
このおっさんはアレンのように、俺の速度に耐えられるような技量は持ち合わせてはいないだろうからな。
「ひいー、早い早い」
おっさんの悲鳴を半ば楽しみながら、アレンが笑顔でおっさんの肩を叩いた。
「この狼が本気で走り出したら、お前さんなんか掴まってはいられないぜ。まあ、王都へ行くまでは辛抱しな」
これでもインターネットの速度なんかだったら映画の再生とかができなくて、利用者がぶちきれるほどスピードを落としているんだけどね。
おっさんの悲鳴を後方に流しながら、俺は軽やかに逆十倍速で駆けていったのだった。まあ魔石は手に入れたし、偶然とはいえ神の信徒は救出したしで、俺は大変御機嫌であった。
神を信奉する物に手を差し伸べるのは、神の子として功徳を積むことになると言われていたので、こういう時には力を惜しまない事にしている。
力を惜しむというか、貢献したのは特技的な内容だけであまり何もしていないのだが。器用な眷属がいてよかったことだ。
今度は黒小人に頼んでオープンタイプに屋根をとっぱらわせて、自分で操作してみるかな。こういう作業に使うのならクレーンの方がいいかもしれない。
ホイストでアレンあたりを救助員として送り込むのもいいな。ヘリがあるといいが、あれは操縦が難しいし、俺が乗り込むのは無理がありそうだ。さしずめ、ミドガルド救助隊とでも名乗っておくか。
やがて、階層からのスカイダイビングの時間がやってきたので、お手本としてアレンが飛んだ。
「なあ、おっさんも楽しんでみる?」
「け、結構です。私、あなたのお背中が大好きですなあ」
「そうかあ、滅多に体験できないアトラクションなんだがなあ」
なんというか、両側からアレンと俺で手を繋いでやって、輪になって降下するスカイダイビングの真似事をしてみたかったのだが。いつかルナ姫とこれで遊ぶかな。
0
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく
かたなかじ
ファンタジー
四十歳手前の冴えない武器屋ダンテ。
彼は亡くなった両親の武器屋を継いで今日も仕入れにやってきていた。
その帰りに彼は山道を馬車ごと転げ落ちてしまう。更に運の悪いことにそこを山賊に襲われた。
だがその落下の衝撃でダンテは記憶を取り戻す。
自分が勇者の仲間であり、賢者として多くの魔の力を行使していたことを。
そして、本来の名前が地球育ちの優吾であることを。
記憶と共に力を取り戻した優吾は、その圧倒的な力で山賊を討伐する。
武器屋としての自分は死んだと考え、賢者として生きていくことを決める優吾。
それは前世の魔王との戦いから三百年が経過した世界だった――。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる