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第二章 探索者フェンリル

2-46 我はセントバーナード

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 俺はドライアドの彼女に名を進呈した。
『碧(みどり)』

 見ため、そのまんまだわ。鳥が葵だったので、なんとなく和風人名の色シリーズで。だってこれ以上似合いそうな名前もないしな。

 次はどんな色合いの奴が出てくるだろうか。さすがに、このドライアドを眷属にしてしまう訳にはいかないのだが、名前をつけてやるとこの手の連中は力が増すらしいので、次に来た時にいい魔石がもらえたらなという下心を込めて。

 お互いの利害が一致したので、次回の再会を約束しあい、俺達は別れた。行きよりも遥かに軽やかに俺は駆けた。やはり狼には大平原がよく似合うぜ。

「しかし、旦那が来た割には平穏だったね。てっきり見上げるような雲を突くかのような怪物でも見物できるかと思ったんだが」

「その時は代理でお前に戦わせてやろう」
「冗談言うな。お前の力に合わせてダンジョンが作り出す怪物なんだぜ。俺が叶う相手かよ。俺は雑用しについてきているだけだからな」

「この根性無しめ」
「ふざけるな。やっぱり、お前はあのロキの息子だな」

「父は、ずる賢い、英知の塊と言われ、多くの信徒を獲得しているのだが」
「そりゃあ、そうなんだがなあ」

「お前のお小遣いも、その信徒からいただいたお布施だのお賽銭だのから出ているんだからな」
「へえへえ、感謝して使わせていただいてますよ」

 俺とアレンは軽口を叩きながら戻っていたのだが、どこかで声がする気がした。俺はふと足を止めて耳を澄ませた。

「ん? 今何か聞こえなかったか、アレン」
「別に。俺が耳であんたに叶う訳がないだろう。これ以上ないくらい立派なケダモノ耳をつけているくせに」

「そりゃあそうだ。ロイ、何か近くにいるか」
『ああ、いますね。でもこれは魔物ではなくて人間ですね。どうやら遭難しているようです』

『なんだと。この階層でそんな間抜けな奴がいるとはな』
 俺は想った。ここは冬のアルプス、雪に塗れた山岳地帯。男達は雪洞を掘って凌いでいた。

「寝るなあ、寝たら死ぬぞお」
 そう言って眠ってしまいそうな相棒の頬を叩く。そこへ現れたのは山岳救助犬。

 強引に雪洞にその大きな体をねじ込んで、首にぶらさげた樽から無理やりにブランデーを飲ませる。むせかえって目を白黒させる男。

「あ、いや。そんなにいっぺんに飲まされては」
『なんだと、俺の酒が飲めないと言うのか』
 そして、さらにグビグビと飲まされる男達。

 ああ、やってみてえ。俺はアポックスを操作し、高級ブランデーの樽型瓶に入ったバージョンを召喚した。

 ベノムに見つかると横からかっさらって、「わし、今遭難しそうじゃから!」などとのたまいそうだ。

 そして器用に自分で首に取りつけると、アレンに言った。
「じゃあ、遭難者の救助に行くから」

「え、旦那も物好きだな。あんたの事だから、魔石が手に入ったから、そんな事には構わずにさっさと帰るのかと思ったぜ」

「いや、ちょっとしたお遊びよ」
「旦那にかかったら、ダンジョンの大怪物を相手にするのも、お遊びの範疇に入っちまうからな」

「一応、警戒だけはしておけよ。相手が血迷って俺を攻撃してこないとも限らん」

 そして、ロイのナビに従って辿り着いたのは、何かの割れ目のようなところだ。狭くて俺は入れないのだが、器用に嵌まってしまっているようだ。

「おーい、お前。大丈夫なのか」
「おお、誰か来てくれたのか。助けてくれ、頼む。魔物に追われて、ここへ落ちてしまった。魔物は行っちまったんだが、体がすっぽりと落ち込んでしまって出られないんだ」

 俺はロイに言って中を見させたが、かなり出るのは難しいようだ。

『これは多分、巨大な魔物が作った割れ目。下の方は人間がちょうど嵌ってしまう大きさで、そこに負傷した人間の男性が嵌まりこんでしまっていますので、掘り返さないと救出できないのでは』

『そうか、どうしようかな』
 フェンリルマンになって巨大化するといいのだが、それだとダンジョンの奴を刺激して、ここが地獄の修羅場になってしまうかもしれない。

 そうなると、このおっさんは間違いなく生き埋めになってしまうはずだ。山岳救助犬のロールプレーを楽しんでいる最中の俺としては困った事になってしまうかもしれない。俺はしょうがないので、ある物を召喚した。

 それはパワーショベルだった。これも気を付けないとおっさんが生き埋めになってしまうが、そこは注意深くやって、おおまかにやった後は、小型の物を召喚してもいいのだけれどな。

 こいつは俺も操縦した事がないし、狭いコックピットの中で細いレバーがいっぱいあるので俺向きじゃない。

「アレン、お前は器用な奴だから、ちょっとこれを操縦してみろ。ちょっとそこの空いたスペースで練習してから」

「え、こんな生まれて初めて見るものを、どうやって動かすというんだ」

 俺はパワーショベルのエンジンをかけて、適当にレバーを動かしてみて使い方を教えてみたのだが、野郎、しばらく動かしていたらコツをつかんだとみえて、結構上手に動かしている。

 本当に器用な野郎だ。だが、せっかく掘り返した後が、どんどんと修復していく。駄目だ、ダンジョンの再生機能が働いて掘り起こせない。

「なあ、今思ったんだが、この亀裂というか地割れと言うか、この割れ目自体は修復されてしまわないんだな」

「ああ、そいつは多分、ここの魔物が作ったものという事で、地形に認定されたんじゃないのか。なんとなくで、こういう風に地形として固定化する事があるらしい。

 だから崩しても、この形になるだけだから無駄だ。どうにかして、あのおっさんを引き上げないと駄目なんだが。この機械にロープをつけて引き上げるというのはどうだ」

「そうだな。駄目だったら今度はクレーンでも召喚するか」

 亀裂は狭いので、気をつけないと機械パワーでごりごりと体をこすって傷つけてしまった挙句にロープがちぎれてまた落下するという感じになりかねない。

 だが幸いにして、深さは五メートル程度だったので、まず下ろしたロープに嵌ったままの手をなんとか捕まらせて強引に体を浮かせた。

「アイタタタタ」
 少々擦って痛い目に遭わせてしまったが、奴も我慢していた。

 どの道、こんなところで嵌まっていては死んでしまう。どれだけここにいるものか知らないが、だいぶ体が弱っていたようだ。

 体自身が割れ目からはずれたので、今度はなんとか下ろしたホイストに捕まらせて自分でロープと保護具を巻き付けるようにさせて引っ張り出すことができた。

 しかし、アレンの野郎、よくこんな見知らぬ複雑な操作を必要とする機械をいきなり扱えるもんだ。俺にだって無理だというのに。

 まあ一回ミスって俺の頭をショベルで思いっきり殴ってしまったのは許してやろう。そいつにはこう書かれていたのだ。

『旋回範囲に侵入禁止』

 いや近くで見ないと、奴が操作している具合がよくわからなかったものでな。こんなものでも不意打ちで食らうと結構きつかったね。
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