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第二章 探索者フェンリル
2-45 御代は
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「いやあ、まいったなあ。お姉さん、凄く好みなんだけど、僕は雌狼ちゃんの方がいいかな」
「あら、それは残念。それでテンプテーションが効かないのかしらね」
ん? そういうスキルを使っていたのか。ふと見ると、アレンの奴が随分向こうに立っていた。
「おーい、旦那。そいつはテンプテーションのスキルを持っているから気をつけるんだ。テンプテーションの魔石由来の能力だからな。それゆえにミイラ取りがミイラになる奴が後を絶えんのだ」
「そういう事は早く言え、この馬鹿もんが」
このドライアド、可愛く笑顔で話しかけながら人(狼)を肥料にしようとしていたらしい。油断も隙もありゃあしない。そういうやり取りをくすくす笑いながら見ていたドライアドが口を開く。
「楽しそうな人たちね。ねえ、ちょっと遊んでいかない? ずっと、ここに生えているだけだから退屈しちゃって。私たちは精霊系の存在だから知性がある分余計に退屈しちゃうのよ」
そうだったか。確かにマンガの本もラノベもスマホもテレビもないから退屈しちゃうよな。
「なあ、お前の魔石って倒す以外にもらえる方法はないの?」
「あるわよ」
「本当?」
俺は彼女の周りを三回くるくると回ってから、ワオーンと吠えておいた。
別に三回回ってワンと鳴けとは言われたわけじゃないが、嬉しくて小躍りしてしまっただけだ。
「ええ、でもそうね。ただではあげられないから、何か肥料になるものが欲しいわ。この私の担当の階層って土地が痩せていて困るわ。この近所は少し草地に代えたんだけどれど。何かいいものが欲しいわね。神の子ならなんとかならないかしら」
俺はちょっと考えたが、彼女の前へとことこと歩いて行って後ろ足を片側上げた。
「ちょっと! 犬のおしっこは禁止よ!」
「犬じゃなくて狼ですが」
「似たようなもんでしょうに。とにかくおしっこ禁止」
「そうかあ、じゃあ」
召喚ボックス、アポックス希望。出してみたものは、文字通りの肥料の山だ。片に担ぐような大袋に入っている。
どうやらホムセンとかグリーンセンターみたいなところから召喚されたものらしい。各種肥料があったが、使い方は難しいな。プロの農家の人じゃないと失敗してしまいそうだ。
「どう、異世界の肥料なんだけど。使い方がちょっと難しいのだが」
「いいえ、大体わかるわ。欲しい成分は全部入っているわね。使い方なんかもわかるの。これは素晴らしい肥料ね」
「量は足りるかな」
「そうね、当分は足りそうよ。ちょっとお手伝いしてくれるなら、魔石も結構量をあげられるわよ。もうここに生えて随分経つから、それなりの量は溜まっているの」
「へえ、そいつはありがたいな。それでお手伝いというのは」
そして彼女は地面の中から根っこらしき物を出して何かを持ち上げた。そこにはピンク色の結晶と言うか、宝石の原石のような水晶の塊のような物、大小様々な魔石がザクザクと並んでいた。
「これがテンプテーションの魔石。私達がこうやってダンジョンのために働くと、ダンジョンから供給される魔力がスキルの結晶となって、この魔石になるわ。
これを埋めて挿し木をすると仲間が増えるのだけれど、肥料が足りなくてさ。よかったら挿し木を手伝ってくれない。魔石は半分譲るわよ。
当面、お喋りができる人数だけ増やせればいいし。あと定期的に肥料をプレゼントしてくれるなら見返りに魔石をあげるわ。あなたのおしっこは要らないから、そいつはそのあたりの普通の草にあげてちょうだいな」
「そうか。神の子の排出する肥料は馬鹿にはできんのだがな。ちょっと試してみない?」
だが彼女は思いっきり顔を顰めて「いーっ」をしてきた。
「そういうのは気分的に嫌なの。妙な誘惑をしないでちょうだい。あなたもテンプテーションの魔石を持っているんじゃないの。私達ドライアドは半精霊だから、そういうのは必要ないわ」
俺は魔石を受け取り、その品質を確かめた。美しく、磨けば光る原石とはまさにこの事。これは宝石に加工しても映えるのではないだろうか。
もっぱら寝室に飾るか、大富豪のおっさんが首からかけて、なかなか靡かない女を落とすのに使用するものか。
「そうか、そいつは残念だ。埋める場所を指示してくれよ。あと挿し木用の枝を頂戴」
そして、彼女は下半身の木から若枝を伸ばし、優しく手折った。
「魔石は大きいのは半分あげるわ。小さいのは全部どうぞ。大きい奴の方が、しっかりした子が育つからね」
「そいつは助かる。小さいのはギルドに収めて、大きいのは笹の花を咲かせる用に使おう」
「笹の花? あの滅多に咲かない」
「ああ、そいつがあると、何故か交尾を始める鳥がいるのだ。堅物な奴らでな、鳥の分際で普段は交尾を嫌がるのだ。手間をかけさせやがって」
ドライアドは頭痛がするかのように片手で緑色の頭を押さえていた。
「さすがに、今までこの魔石でそんな使い方をしたがる人間はいなかったわねえ」
「まあまあいいじゃないか。そいつらは、とびきり美味いんだとさ。もう楽しみで仕方がないのよ」
「わかった、わかった。魔石の使い方はお任せするわ。色と欲望のテンプテーション、今日も魅惑の夜が始まるのよ!」
なんかドライアドっていうと大人しく生えている奴とか人を取って食う邪悪な魔物とか、そういうイメージがあるのだが、こいつは何かのショーを仕切るエンタテイナーみたいに陽気だな。
まあテンプテーションなんて厄介なスキルを持っているのだから、当たり前なのかもしれないが。
「じゃあ、まずあそことあそこと、あそこね。根っこで示したところへ埋めてちょうだい。そして挿し木をしてね。この枝はむきがあるから間違えないで。私が折った側が下になるように挿してね」
根っこで器用に挿し木をする場所を指し示すドライアド。もしかすると、こいつの根っこって俺の前足や尻尾よりも器用なのかもしれない。
これなら一人で肥料とか撒けそうだな。俺はアレンも呼び寄せて手伝わせ、どんどん魔石を埋め、次々と挿し木をしていった。
なんか、こういう作業って異世界情緒に欠けるよな。まるで地方で農家の手伝いでもやっている気分だ。まあ魔石が手に入ったんでよしとしますか。
「あら、それは残念。それでテンプテーションが効かないのかしらね」
ん? そういうスキルを使っていたのか。ふと見ると、アレンの奴が随分向こうに立っていた。
「おーい、旦那。そいつはテンプテーションのスキルを持っているから気をつけるんだ。テンプテーションの魔石由来の能力だからな。それゆえにミイラ取りがミイラになる奴が後を絶えんのだ」
「そういう事は早く言え、この馬鹿もんが」
このドライアド、可愛く笑顔で話しかけながら人(狼)を肥料にしようとしていたらしい。油断も隙もありゃあしない。そういうやり取りをくすくす笑いながら見ていたドライアドが口を開く。
「楽しそうな人たちね。ねえ、ちょっと遊んでいかない? ずっと、ここに生えているだけだから退屈しちゃって。私たちは精霊系の存在だから知性がある分余計に退屈しちゃうのよ」
そうだったか。確かにマンガの本もラノベもスマホもテレビもないから退屈しちゃうよな。
「なあ、お前の魔石って倒す以外にもらえる方法はないの?」
「あるわよ」
「本当?」
俺は彼女の周りを三回くるくると回ってから、ワオーンと吠えておいた。
別に三回回ってワンと鳴けとは言われたわけじゃないが、嬉しくて小躍りしてしまっただけだ。
「ええ、でもそうね。ただではあげられないから、何か肥料になるものが欲しいわ。この私の担当の階層って土地が痩せていて困るわ。この近所は少し草地に代えたんだけどれど。何かいいものが欲しいわね。神の子ならなんとかならないかしら」
俺はちょっと考えたが、彼女の前へとことこと歩いて行って後ろ足を片側上げた。
「ちょっと! 犬のおしっこは禁止よ!」
「犬じゃなくて狼ですが」
「似たようなもんでしょうに。とにかくおしっこ禁止」
「そうかあ、じゃあ」
召喚ボックス、アポックス希望。出してみたものは、文字通りの肥料の山だ。片に担ぐような大袋に入っている。
どうやらホムセンとかグリーンセンターみたいなところから召喚されたものらしい。各種肥料があったが、使い方は難しいな。プロの農家の人じゃないと失敗してしまいそうだ。
「どう、異世界の肥料なんだけど。使い方がちょっと難しいのだが」
「いいえ、大体わかるわ。欲しい成分は全部入っているわね。使い方なんかもわかるの。これは素晴らしい肥料ね」
「量は足りるかな」
「そうね、当分は足りそうよ。ちょっとお手伝いしてくれるなら、魔石も結構量をあげられるわよ。もうここに生えて随分経つから、それなりの量は溜まっているの」
「へえ、そいつはありがたいな。それでお手伝いというのは」
そして彼女は地面の中から根っこらしき物を出して何かを持ち上げた。そこにはピンク色の結晶と言うか、宝石の原石のような水晶の塊のような物、大小様々な魔石がザクザクと並んでいた。
「これがテンプテーションの魔石。私達がこうやってダンジョンのために働くと、ダンジョンから供給される魔力がスキルの結晶となって、この魔石になるわ。
これを埋めて挿し木をすると仲間が増えるのだけれど、肥料が足りなくてさ。よかったら挿し木を手伝ってくれない。魔石は半分譲るわよ。
当面、お喋りができる人数だけ増やせればいいし。あと定期的に肥料をプレゼントしてくれるなら見返りに魔石をあげるわ。あなたのおしっこは要らないから、そいつはそのあたりの普通の草にあげてちょうだいな」
「そうか。神の子の排出する肥料は馬鹿にはできんのだがな。ちょっと試してみない?」
だが彼女は思いっきり顔を顰めて「いーっ」をしてきた。
「そういうのは気分的に嫌なの。妙な誘惑をしないでちょうだい。あなたもテンプテーションの魔石を持っているんじゃないの。私達ドライアドは半精霊だから、そういうのは必要ないわ」
俺は魔石を受け取り、その品質を確かめた。美しく、磨けば光る原石とはまさにこの事。これは宝石に加工しても映えるのではないだろうか。
もっぱら寝室に飾るか、大富豪のおっさんが首からかけて、なかなか靡かない女を落とすのに使用するものか。
「そうか、そいつは残念だ。埋める場所を指示してくれよ。あと挿し木用の枝を頂戴」
そして、彼女は下半身の木から若枝を伸ばし、優しく手折った。
「魔石は大きいのは半分あげるわ。小さいのは全部どうぞ。大きい奴の方が、しっかりした子が育つからね」
「そいつは助かる。小さいのはギルドに収めて、大きいのは笹の花を咲かせる用に使おう」
「笹の花? あの滅多に咲かない」
「ああ、そいつがあると、何故か交尾を始める鳥がいるのだ。堅物な奴らでな、鳥の分際で普段は交尾を嫌がるのだ。手間をかけさせやがって」
ドライアドは頭痛がするかのように片手で緑色の頭を押さえていた。
「さすがに、今までこの魔石でそんな使い方をしたがる人間はいなかったわねえ」
「まあまあいいじゃないか。そいつらは、とびきり美味いんだとさ。もう楽しみで仕方がないのよ」
「わかった、わかった。魔石の使い方はお任せするわ。色と欲望のテンプテーション、今日も魅惑の夜が始まるのよ!」
なんかドライアドっていうと大人しく生えている奴とか人を取って食う邪悪な魔物とか、そういうイメージがあるのだが、こいつは何かのショーを仕切るエンタテイナーみたいに陽気だな。
まあテンプテーションなんて厄介なスキルを持っているのだから、当たり前なのかもしれないが。
「じゃあ、まずあそことあそこと、あそこね。根っこで示したところへ埋めてちょうだい。そして挿し木をしてね。この枝はむきがあるから間違えないで。私が折った側が下になるように挿してね」
根っこで器用に挿し木をする場所を指し示すドライアド。もしかすると、こいつの根っこって俺の前足や尻尾よりも器用なのかもしれない。
これなら一人で肥料とか撒けそうだな。俺はアレンも呼び寄せて手伝わせ、どんどん魔石を埋め、次々と挿し木をしていった。
なんか、こういう作業って異世界情緒に欠けるよな。まるで地方で農家の手伝いでもやっている気分だ。まあ魔石が手に入ったんでよしとしますか。
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