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第二章 探索者フェンリル
1-43 はずれ
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「おー、この前はここに寄れなかったんだよな」
そんな俺の、二階に建ち並ぶお土産屋さんなどに向けた熱い視線と共に、思わずこぼれる台詞にアレンの鎖がパシンっと鳴った。
「わかった、わかった。そんなに三白眼で凄むなよ。さあ、行くぞ。目指すはテンプテーション魔石だ」
「最初っからそうすればいいものを」
「だってなあ。ここ、本当に楽しいんだよ」
「お前は、お上りさんの観光客か!」
そんな神の子と眷属のコントをしながらも俺達は昇降口を目指した。俺はアレンをひょいっと背中に乗せた。他の奴らは定位置にいるので。
「おい、俺は飛べるんだが」
「まあまあ、俺に乗った方が速いだろ」
「速さ云々言うのなら道草食っているんじゃないよ」
「そう言うな。お楽しみはこれからだ」
そして、俺は軽く一蹴りで空を切り、ほんの数歩で上の階へと辿りついた。ここは昇降口だけが、例の見えない壁からはずされているので、そこへ入らないといけない。
「あらよっと」
ありえないような闖入者に驚いて、一瞬攻撃してこようとする冒険者を尻目に、またジャンプ。それを延々と繰り返して、十五階の入り口に立った。
「ここからが、広い空間だ」
「ああ、来たことはあるが、それが?」
「俺が行くと、とびきりの化け物が出てくるかもしれないから、よろしくな」
それを聞いて嫌そうな顔をするアレン。ここならデカブツ同士でプロレスをするにも、文句なしの広さだ。
「まあ、せいぜい巻き込まれないように頑張るさ」
『じゃあロイ、索敵は頼んだよ』
『はい、お任せください』
ここは大森林の空間だ。中は壮大な、映画で空撮されるような大森林地帯が広がっていた。当然、山っぽい部分もその高さは今までのように百メートルくらいでは利かない。
上の方へ上がると、階層の中にエベレストみたいな物が聳えているのではないだろうか。そして、中に入るとロイはしっかりと探索していたが、あっさりと言った。
『この階にはその手の魔物は現在いないようです』
俺が通訳すると、アレンの奴め。
「ああ、あれはどこにいるのかよくわからないからな。大変な探し物なんだぜ」などと、ちょっと愉快そうに言ったもんだ。
ちっ、この野郎。知っていて黙ってやがったな。そういや、ベノムも特に十五階とは言っていなかったような気がする。
そういや、来る途中にチラっと見たが、ここって標高千七百メートルくらいあるんだよな。結構遠くまで見渡せた気がする。
ろくに景色を楽しむ余裕すらなかったわ。俺は元々それが目的で、この塔にやってきたはずだったのに。
『魔物も今湧いていなくても、後で該当魔物が湧く場合もございますし、特定の魔物を捜したい時にはそのあたりが難しいところです』
『そうかあ』
「ま、大将。気長に行こうぜ。こういう時はよ、焦ったって上手くはいかないもんだ」
「ちぇっ。あの鳥公を早く唐揚げにしてやりたいと思っただけなのよ」
「大体、卵から雛が生まれたって、すぐには肉にはならんだろう」
「早めに出荷する若鳥という手もあるのだが」
「そういうものは、じっくり育てないと質が落ちるんじゃないのか?」
俺は首を竦めて返事に代えた。残念ながら、こいつの言う通りだった。
名古屋コーチンだって上等な奴は、その辺にいるブロイラーなどとは違って、じっくりと倍くらいの期間でゆっくりと育ててから出荷するのだ。
仕方がないので、もう一つ上の階層へと向かった。今度は、大平原だ。遥か彼方に地平線が見える。
全方位ではなく、後ろはちゃんとダンジョンの壁と昇降口及び宿屋があるのだが、見失ったら大変だろうな。
ここへ来るような連中は、出発点を感知するくらいの事はできるのだろう。もっと進めば全方位が地平線という感動が味わえるだろう。
「ここは、まるで狼が群れで走っていそうな平原だなあ。なんとなく狼心を刺激されるよ。どうだ、ロイ」
『はい、それらしき魔物を発見いたしましたが、遠いですねえ。地平線の向こうです。それもかなり遠い』
『そうかあ、じゃあ狼らしく走っていくかな。お前は俺の眷属なんだから、頭の上でも少々のスピードは平気だよな』
『はい、大丈夫だと思います』
『問題があったら言ってくれ』
それから太々しく大平原を見ながら一服つけているアレンに向かって呼び掛けた。
「アレン、お前も俺の背中に乗れ。駄目なようだったら自力で飛んでついてこい。ここもまだ最初の方の階層だから、そう出鱈目に広くはあるまい」
「へいへい」
奴は煙草を捨てて足で踏み消すと、俺の背中に飛び乗った。
「ハイヨー、シルバー!」
「調子に乗るんじゃねえ。じゃあロデオ開始の時間だな」
そう言って、ほぼゼロスタートからの超加速で、疾走を開始した。
「うおー、こりゃあすげえ。こんな速さは未体験だな」
この野郎、涼しい顔をしていやがる。伊達に俺の眷属じゃあないな。その前から手練れな野郎だったのだが。
『ロイ、お前はどうだ?』
『あ、大丈夫です。我々も見かけは可愛らしいですが魔物の一種でありますので。それにあなたの眷属なのですから』
心なしか、小鳥さんが誇らしげに胸を張ったような気がした。もう一人の乗客は相変わらず、俺の頭の上の天然毛皮のベッドでお休み中なのだが。
そんな俺の、二階に建ち並ぶお土産屋さんなどに向けた熱い視線と共に、思わずこぼれる台詞にアレンの鎖がパシンっと鳴った。
「わかった、わかった。そんなに三白眼で凄むなよ。さあ、行くぞ。目指すはテンプテーション魔石だ」
「最初っからそうすればいいものを」
「だってなあ。ここ、本当に楽しいんだよ」
「お前は、お上りさんの観光客か!」
そんな神の子と眷属のコントをしながらも俺達は昇降口を目指した。俺はアレンをひょいっと背中に乗せた。他の奴らは定位置にいるので。
「おい、俺は飛べるんだが」
「まあまあ、俺に乗った方が速いだろ」
「速さ云々言うのなら道草食っているんじゃないよ」
「そう言うな。お楽しみはこれからだ」
そして、俺は軽く一蹴りで空を切り、ほんの数歩で上の階へと辿りついた。ここは昇降口だけが、例の見えない壁からはずされているので、そこへ入らないといけない。
「あらよっと」
ありえないような闖入者に驚いて、一瞬攻撃してこようとする冒険者を尻目に、またジャンプ。それを延々と繰り返して、十五階の入り口に立った。
「ここからが、広い空間だ」
「ああ、来たことはあるが、それが?」
「俺が行くと、とびきりの化け物が出てくるかもしれないから、よろしくな」
それを聞いて嫌そうな顔をするアレン。ここならデカブツ同士でプロレスをするにも、文句なしの広さだ。
「まあ、せいぜい巻き込まれないように頑張るさ」
『じゃあロイ、索敵は頼んだよ』
『はい、お任せください』
ここは大森林の空間だ。中は壮大な、映画で空撮されるような大森林地帯が広がっていた。当然、山っぽい部分もその高さは今までのように百メートルくらいでは利かない。
上の方へ上がると、階層の中にエベレストみたいな物が聳えているのではないだろうか。そして、中に入るとロイはしっかりと探索していたが、あっさりと言った。
『この階にはその手の魔物は現在いないようです』
俺が通訳すると、アレンの奴め。
「ああ、あれはどこにいるのかよくわからないからな。大変な探し物なんだぜ」などと、ちょっと愉快そうに言ったもんだ。
ちっ、この野郎。知っていて黙ってやがったな。そういや、ベノムも特に十五階とは言っていなかったような気がする。
そういや、来る途中にチラっと見たが、ここって標高千七百メートルくらいあるんだよな。結構遠くまで見渡せた気がする。
ろくに景色を楽しむ余裕すらなかったわ。俺は元々それが目的で、この塔にやってきたはずだったのに。
『魔物も今湧いていなくても、後で該当魔物が湧く場合もございますし、特定の魔物を捜したい時にはそのあたりが難しいところです』
『そうかあ』
「ま、大将。気長に行こうぜ。こういう時はよ、焦ったって上手くはいかないもんだ」
「ちぇっ。あの鳥公を早く唐揚げにしてやりたいと思っただけなのよ」
「大体、卵から雛が生まれたって、すぐには肉にはならんだろう」
「早めに出荷する若鳥という手もあるのだが」
「そういうものは、じっくり育てないと質が落ちるんじゃないのか?」
俺は首を竦めて返事に代えた。残念ながら、こいつの言う通りだった。
名古屋コーチンだって上等な奴は、その辺にいるブロイラーなどとは違って、じっくりと倍くらいの期間でゆっくりと育ててから出荷するのだ。
仕方がないので、もう一つ上の階層へと向かった。今度は、大平原だ。遥か彼方に地平線が見える。
全方位ではなく、後ろはちゃんとダンジョンの壁と昇降口及び宿屋があるのだが、見失ったら大変だろうな。
ここへ来るような連中は、出発点を感知するくらいの事はできるのだろう。もっと進めば全方位が地平線という感動が味わえるだろう。
「ここは、まるで狼が群れで走っていそうな平原だなあ。なんとなく狼心を刺激されるよ。どうだ、ロイ」
『はい、それらしき魔物を発見いたしましたが、遠いですねえ。地平線の向こうです。それもかなり遠い』
『そうかあ、じゃあ狼らしく走っていくかな。お前は俺の眷属なんだから、頭の上でも少々のスピードは平気だよな』
『はい、大丈夫だと思います』
『問題があったら言ってくれ』
それから太々しく大平原を見ながら一服つけているアレンに向かって呼び掛けた。
「アレン、お前も俺の背中に乗れ。駄目なようだったら自力で飛んでついてこい。ここもまだ最初の方の階層だから、そう出鱈目に広くはあるまい」
「へいへい」
奴は煙草を捨てて足で踏み消すと、俺の背中に飛び乗った。
「ハイヨー、シルバー!」
「調子に乗るんじゃねえ。じゃあロデオ開始の時間だな」
そう言って、ほぼゼロスタートからの超加速で、疾走を開始した。
「うおー、こりゃあすげえ。こんな速さは未体験だな」
この野郎、涼しい顔をしていやがる。伊達に俺の眷属じゃあないな。その前から手練れな野郎だったのだが。
『ロイ、お前はどうだ?』
『あ、大丈夫です。我々も見かけは可愛らしいですが魔物の一種でありますので。それにあなたの眷属なのですから』
心なしか、小鳥さんが誇らしげに胸を張ったような気がした。もう一人の乗客は相変わらず、俺の頭の上の天然毛皮のベッドでお休み中なのだが。
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