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第二章 探索者フェンリル

2-41 枯れ木に? 花を咲かせましょう

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 という訳で、俺は駄目元でベノムのじっちゃんの工房へ向かった。

「笹の花、笹の花ねえ」
 そんな事をブツブツ言いながら、とことこ歩いているとアリーナさんに出会った。

「お帰りなさい。ちょうどよかった。ちょっと聞きたいことがあって」
「あら、何かしら」

「いやね、今王妃様から聞いたのですが、あの澄ました聖人面の鳥公どもは笹の花が咲くと発情するんですって?」

「ああ、そうは言われていますがねえ。何しろ笹の花が咲くなんて事は滅多にありませんので、なかなか検証は進まないらしいですよ。別に笹の花が咲かなくたって雛は生まれてくるわけですし」

「そういや、そうですよね。そうでなきゃあ絶滅しちゃうんだし」

 やっぱり、この異世界でも笹の花はなかなか咲かないのか。くそう、なんとかあの澄ました聖人面を性人面に変えてやる方法はないものだろうか。そいつも含めてベノムに相談だな。

 ベノムのところに顔を出すと、何やら妙な道具を作っていた。なんというか、ポットのようなものだ。
「それは何?」

「ああ、こいつは興奮剤のような物を中に入れて、その香りを広範囲にまき散らすための道具だ。生き物は異性を引き付けるために、何かの物質を出しているようだしの。

 ほれ、人間も女子のよい香りに弱いじゃろ。問題はそれがどんな物がよいかなのじゃが。これはその匂いの元を見ずに溶かして使うものじゃ」

「ははあ、なるほど」
 こいつはアロマポットの魔道具なのだ。だが、奴らに効きそうな笹の花が手に入らない。

「ねえ、じっちゃん」
「なんじゃい」

「笹の花って強引に咲かせる方法はないかな」
「ない事もないが」
「え、あるの?」

 やだなあ、そんな物があるのなら早く言ってくれないと。俺はずいっと前のめりの状態になったお座りの姿勢で、ありがたいお話を拝聴する事にした。

「そいつは、特別な魔石じゃな。テンプテーション、誘惑のスキルを使う魔物の魔石を用いれば、強引に植物さえも魅了され花を咲かせずにはいられん。

 その花ないしはそれから抽出した香料をこのポットに浸しておけば、たぶんその鳥とやらもイチコロなのではないかのう。またその魔石を、一緒に浸しておけば効果は抜群ではないか。今回はどの成分が効くのかよくわからんから、花びらを浸けてやってみてはどうじゃ」

 俺は尻尾を千切れんばかりに振りまくると、鼻息荒くベノムに迫った。
「して、その魔石はどこに?」

「あれはそこのユグドラシルの上層、拡張階層へ行かないと手に入らない貴重品でな。誘惑のスキルを持つ魔物から取れると言われる。しかも市場に出ればすぐに無くなってしまう幻の品じゃ。その理由は坊もわかるよな」

 そいつはまた。まずは貴族の夜の生活、跡継ぎ作りに必要なアイテムとして必須なのでは。世話役の上級貴族に下級貴族が捧げたりとか、あるいは逆に世話をしている自分の派閥の下級貴族のために世話役が金に糸目をつけずに手配したりとか。

 はたまた犯罪組織や性質のよくない金持ちの遊び人の男が女性を意のままにするために欲しがるとかだな。案外とヤバイ代物でした!

「う、それじゃあまたユグドラシルへ行って来ないといかん訳か。うーん」

 ベノムは俺が差し入れしたウイスキーをラッパ飲みしながら、楽しそうにその悩ましいポーズを取ってうろうろしている俺を眺めている。

「まあ、お前ならば上層で後れを取る事はあるまいて」

「いや、俺が上の方に行くとまた騒ぎになったりしない? 俺ってなんかこう、あのダンジョンの管理者みたいな奴に目をつけられているぽい感じだしな」

「そうなるじゃろうな。ほれ、草薙を寄越せ、新機能をつけてやろう」
「ああ、この間言っていた奴か」

「きっと坊ならそのうちに入用になるじゃろ」
 そう言って、けたけたとドヴェルグの棟梁は大口を開けて笑った。

「うわあ、気にしている事を」
 だが、備えあれば憂いなし。新機能を付けておいてくれるのなら、それに越したことはないさ。

 ベノムも口は悪いが、腕は超一級なのだから。だから他の神も父を羨ましがっている。でもオーディンの野郎がベノムを取り上げたりしないのは、言う事を聞かせるのが難儀で仕方がないからだろう。

 まだ父に言って何かを作らせるようにした方がまだマシなのだから。その場合も高くつくのは当然の事だ。特に酒などで奴らの御機嫌を取るのが上手い俺がいるので、それもなおさらそうなっている。

「よし。じゃあ明日さっそく出かけてくるかな。騎士団長のバリスタを私用で連れていくのはなんだから、アレンの奴を連れていくとするか。あいつなら飛べるから役に立つだろう」

 俺の心は既に、デリバードの唐揚げや串焼きに囚われていて、若干涎が垂れ気味だ。おっと、神の子ともあろうものがはしたないぜ。
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