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第二章 探索者フェンリル
2-38 神の子御用達
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そこは郊外の貴族領らしく、いかにもといった趣の田園風景が広がっていた。こんな場所ならば確かに鳥さんも美味いのがいそうだ。
王都から二十キロくらい離れている、ほどよいロケーションだろうか。相変わらずユグドラシルが天空に上っているのがここからも見える。
「あら、アリーナ。どうしたの、いきなり帰ってきて」
「あはは、ただいま。いや、アルカンタラお嬢様のお使いで。アンディ、こちらが例のスサノオ様よ」
アンディと呼ばれた使用人らしき、アリーナさんと同じくらいの年恰好の女性が出迎えてくれた。
まあなんというか、田舎の御婦人といった感じなのであるが、嫌みはなく好感の持てそうな人物だった。
「まあまあ、これはこれは、ようこそおいでくださいました。アルカンタラお嬢様と、ルナ様アルス様をお助けくださった噂の神の子にアスタリカ伯爵家までおいでいただけるなどとは、光栄でございますわ」
だが、俺は尻尾を振りまくって前足で彼女にすがりついた。いきなりで彼女が驚いている。
大きな犬を連れたお客さんが来て、その初対面の犬に突然飛びつかれたら驚くよな。生憎な事に犬自身が客であるわけなのだが。
「ねえねえ、鳥さんは?」
「ええっ」
「落ち着いてください、スサノオ様。ここは本館ですので。彼らは少し離れた場所で放し飼いにされております」
アンディは、俺の舞い上がらんばかりのテンションに不思議そうにしていたが、訳を聞いて笑い出した。
「まあまあ、神の子があの鳥をご所望なのですか。王家御用達に続いて、神様御用達になってしまいますね」
「いいねえ、金看板要る?」
金どころかベスマギルで看板を作ってしまってもいいくらい、今は御機嫌なのよ。
駄目だ、尻尾の動きを押さえられない。習い性ときたもんだ。ついつい鼻息も荒くなってしまう。
「では参りましょうか」
俺は、さながら「私はあなたの忠犬でございますよ」とでもいうかの如くに尻尾を振りながら、彼女アンディの後ろにくっついていった。
足取り確か、そして軽やかなステップを踏みながら。誰が見ても、この犬はウキウキだとしか思えないような、ある意味で締まりのない歩き方だ。
顔の方がもっと締まりのない顔をしていたのだが。もし、この世界に俺の前にフェンリル、おそらくはこの体の前の持ち主がいて、今俺の顔を見られるとしたならば、「やめてくれよ、その品の無さそうな顔は」と言われてしまいそうな体(てい)たらくだ。
そして中庭を通り、連れていかれたのは、離れというにはあまりにも立派過ぎる神殿作りの建物だった。
高さは十分過ぎるほどあり、また広々としている。最高は十分な設計で下は土になっており、草なども生えている。
おそらくは、この下にいる虫なども食べているのだろう。大切に健康そうに育てられているのに違いない。これは味も期待できようというものだ。
「ああ、ほらやってきましたよ、あれがそうです」
「え!」
俺は思わず、そいつをガン見してしまった。なんだ、あの生き物は。
「ねえ、ここの名産の鳥ってバードザウルスなんだよね」
「ええ、元は」
「しかし、こいつは」
なんといったものだろうか。
まずは大きさだ。バードザウルスはミニティラノザウルスといった感じの、鶏に毛の生えた程度の大きさで群れをなしている生き物なのだが。
こいつは身の丈が人の背ほどもある。そして、体形がまったく違う。これが同じ生き物だとでもいうのだろうか。
「これは違う。何かが違う」
強いていうならば、神様系の『ガルーダ』のような顔をした孔雀系の生き物だ。美しい青や紫を基調とした羽根、特に尾羽は孔雀のように広げている。
「まあ、あなたが神の子であるのがわかるのかしらね。敬意を表して羽根を広げてくれているようです。滅多にしない交尾の前の求愛行動でしか見せないのですが」
それ、本当? 俺に欲情しているとかじゃないよね。この異世界にて狼の体で、ビッグサイズの神っぽい感じの顔立ちをした孔雀さんとBLをやるつもりはないのだが。しかも、俺が受けの役だとか。
しかし、本当に敬意を示してくれているのだとすると、弱ったな。非常に食べにくいじゃないか。
頼むから話しかけてきたりしないでくれよ。豚や鶏が人の言葉を喋ったりしたら、食べられなくなる人とか続出しそう。
「なあ、なんでこのような感じにしちゃったの?」
「さあ、何故なのでしょうね。『高貴な味』にすることを目指しておられたようなのですが、ここの遥か以前の御当主様が、自ら鳥達に規範を示し『高貴な者』というものへの進化を促したと言い伝えられています。
そして、そのようには進化したわけなのですが、どうやら高貴なものはやたらと交尾などするものではないという方向にいってしまったもので、なかなか増えないのです。
とても貴重品になってしまって、なかなかご提供できないのです。アルカンタラ様が御輿入れした時とルナ王女が誕生した時には差し上げられたのですが。アルス王子の時は、まあ何というか、あれな状況でございましたので」
またそいつは難儀な奴だな。何故そのような明後日の方向へ行ってしまったものか。ここのご先祖が融通の利かないような爺様だったのに違いない。鳥なんか好き放題に交尾していていいんだぜ。どうせ、そのうち食われちまうんだからよ。
まあアルス王子が生まれた時は、鳥さんを献上するどころじゃなかっただろうなあ。お祝いするなんて言ったら、あのジル王妃に第三王女一派が実家ごと、一族郎党が全員ぶち殺されそうな勢いだったろうから。
王都から二十キロくらい離れている、ほどよいロケーションだろうか。相変わらずユグドラシルが天空に上っているのがここからも見える。
「あら、アリーナ。どうしたの、いきなり帰ってきて」
「あはは、ただいま。いや、アルカンタラお嬢様のお使いで。アンディ、こちらが例のスサノオ様よ」
アンディと呼ばれた使用人らしき、アリーナさんと同じくらいの年恰好の女性が出迎えてくれた。
まあなんというか、田舎の御婦人といった感じなのであるが、嫌みはなく好感の持てそうな人物だった。
「まあまあ、これはこれは、ようこそおいでくださいました。アルカンタラお嬢様と、ルナ様アルス様をお助けくださった噂の神の子にアスタリカ伯爵家までおいでいただけるなどとは、光栄でございますわ」
だが、俺は尻尾を振りまくって前足で彼女にすがりついた。いきなりで彼女が驚いている。
大きな犬を連れたお客さんが来て、その初対面の犬に突然飛びつかれたら驚くよな。生憎な事に犬自身が客であるわけなのだが。
「ねえねえ、鳥さんは?」
「ええっ」
「落ち着いてください、スサノオ様。ここは本館ですので。彼らは少し離れた場所で放し飼いにされております」
アンディは、俺の舞い上がらんばかりのテンションに不思議そうにしていたが、訳を聞いて笑い出した。
「まあまあ、神の子があの鳥をご所望なのですか。王家御用達に続いて、神様御用達になってしまいますね」
「いいねえ、金看板要る?」
金どころかベスマギルで看板を作ってしまってもいいくらい、今は御機嫌なのよ。
駄目だ、尻尾の動きを押さえられない。習い性ときたもんだ。ついつい鼻息も荒くなってしまう。
「では参りましょうか」
俺は、さながら「私はあなたの忠犬でございますよ」とでもいうかの如くに尻尾を振りながら、彼女アンディの後ろにくっついていった。
足取り確か、そして軽やかなステップを踏みながら。誰が見ても、この犬はウキウキだとしか思えないような、ある意味で締まりのない歩き方だ。
顔の方がもっと締まりのない顔をしていたのだが。もし、この世界に俺の前にフェンリル、おそらくはこの体の前の持ち主がいて、今俺の顔を見られるとしたならば、「やめてくれよ、その品の無さそうな顔は」と言われてしまいそうな体(てい)たらくだ。
そして中庭を通り、連れていかれたのは、離れというにはあまりにも立派過ぎる神殿作りの建物だった。
高さは十分過ぎるほどあり、また広々としている。最高は十分な設計で下は土になっており、草なども生えている。
おそらくは、この下にいる虫なども食べているのだろう。大切に健康そうに育てられているのに違いない。これは味も期待できようというものだ。
「ああ、ほらやってきましたよ、あれがそうです」
「え!」
俺は思わず、そいつをガン見してしまった。なんだ、あの生き物は。
「ねえ、ここの名産の鳥ってバードザウルスなんだよね」
「ええ、元は」
「しかし、こいつは」
なんといったものだろうか。
まずは大きさだ。バードザウルスはミニティラノザウルスといった感じの、鶏に毛の生えた程度の大きさで群れをなしている生き物なのだが。
こいつは身の丈が人の背ほどもある。そして、体形がまったく違う。これが同じ生き物だとでもいうのだろうか。
「これは違う。何かが違う」
強いていうならば、神様系の『ガルーダ』のような顔をした孔雀系の生き物だ。美しい青や紫を基調とした羽根、特に尾羽は孔雀のように広げている。
「まあ、あなたが神の子であるのがわかるのかしらね。敬意を表して羽根を広げてくれているようです。滅多にしない交尾の前の求愛行動でしか見せないのですが」
それ、本当? 俺に欲情しているとかじゃないよね。この異世界にて狼の体で、ビッグサイズの神っぽい感じの顔立ちをした孔雀さんとBLをやるつもりはないのだが。しかも、俺が受けの役だとか。
しかし、本当に敬意を示してくれているのだとすると、弱ったな。非常に食べにくいじゃないか。
頼むから話しかけてきたりしないでくれよ。豚や鶏が人の言葉を喋ったりしたら、食べられなくなる人とか続出しそう。
「なあ、なんでこのような感じにしちゃったの?」
「さあ、何故なのでしょうね。『高貴な味』にすることを目指しておられたようなのですが、ここの遥か以前の御当主様が、自ら鳥達に規範を示し『高貴な者』というものへの進化を促したと言い伝えられています。
そして、そのようには進化したわけなのですが、どうやら高貴なものはやたらと交尾などするものではないという方向にいってしまったもので、なかなか増えないのです。
とても貴重品になってしまって、なかなかご提供できないのです。アルカンタラ様が御輿入れした時とルナ王女が誕生した時には差し上げられたのですが。アルス王子の時は、まあ何というか、あれな状況でございましたので」
またそいつは難儀な奴だな。何故そのような明後日の方向へ行ってしまったものか。ここのご先祖が融通の利かないような爺様だったのに違いない。鳥なんか好き放題に交尾していていいんだぜ。どうせ、そのうち食われちまうんだからよ。
まあアルス王子が生まれた時は、鳥さんを献上するどころじゃなかっただろうなあ。お祝いするなんて言ったら、あのジル王妃に第三王女一派が実家ごと、一族郎党が全員ぶち殺されそうな勢いだったろうから。
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