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第二章 探索者フェンリル
2-34 帰還の時
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やがてやってきました、お待ちかねのメガロのステーキ。じゅうじゅうと音を立て、湯気の立ち上る様は食欲をそそる。
また美味そうな匂いを立てているのだ。さっそく齧り付く面々。俺もしっかりといただいた。犬食いだけどね。
「うーん、やっぱり美味い。熟成されているから蕩けるような舌触りと味と香り、こいつは堪らないわあ」
感激のあまり涙を浮かべているシンディ。パッと見には、このような肉食人種には見えない可憐な少女といった感じなのだが。
「なんで、お前そんなに肉に拘ってるの」
「だって、おうちが格闘技の道場だったじゃん。門下生が多くてさあ、なかなか肉が子供にまで回ってこないんだよ。大きくなったら絶対に冒険者になろうとか思ってた。あたしは一生肉だけで生きていける」
こいつの肉好きは家庭の事情から来ていたのか。ここは、そんな奴にぴったりの職場環境だよな。
「まあ、五階層の肉は食い切れないほど獲れたしね。余ってたお肉はロイが新しい宿まで運んでくれたから、六階でも食べられるしさ。ねえ、ロイはもう帰っちゃうの。荷物も運べるし、この子が魔物を探知してくれるから助かるんだ。特に六階は毒魔物が多いしね」
「そうだなあ。ロイは俺の眷属なんだから、いつまでもここにはおいておけないのだが、ベルバードはいた方がいいよな。
ではこうしよう。今度ベルバードを手に入れられるまで、ロイはそのままで。うちは今、それほどロイの力を必要としているわけではないからな。
旅の間は生命線というほどに活躍してくれたが。収納は諦めろ。そいつはどこのチームも同じなのだから」
もう一羽眷属を作ってやれば済む話なのだが、フィアからは無闇に眷属を作るなと言われているので、さすがにほいほいとやってしまうわけにもいかない。
今までもやむを得ない場合以外は眷属など作っていないのだ。それに眷属となった者は、なるべく主の傍にいたいものなのだ。あの三馬鹿はともかくとして。
「やったあ、助かるわ。この子達がいてくれるかどうかで生存率や狩りの効率がまったく違うからね」
「じゃあ、一階下界に降りない? せっかく結構稼いだのだし、王都のバーゲンに行きたいわ」
「賛成!」
女達は、さっきまでの湿っぽい話はもう忘れたかのようにはしゃいでいる。どこの世界でも、女はバーゲンセールなるものに弱いんだな。
「逞しいな、お前ら。じゃあ、俺はそろそろ戻るから。ベルバードを買いに行く時はギルドから王宮に使いを出してくれれば、すぐ行くし。ああ、そのロイに言ってくれれば、連絡してくれる。じゃあ、ロイ。もう少しその連中の事を頼む」
そしてロイの頭をひょいと撫でてから、可愛い返事に見送られて俺は下へ向かった。フィアは一緒に帰って来た。
「いやー、枕(狼の頭)が変わるとよく眠れなくて」
嘘つけ、いつでもどこでもよく寝ているだろうとか思ったのだが、まあそれもよし。
いや、それにしてもこの迷宮内ミニスカイダイビングは楽しくてちょっと癖になるんだよな。道中は透明な壁があるのに、ここの各階の出入り口付近はそれがないのだ。
その代わりに頑丈な手すりがついている。ショートカットコースとして認められているのだろうか。
というか、そのような真似ができる強者には大渋滞などは回避して、さっさと上に上がってこいというダンジョンの意思の表れなのだろう。ちまちました近道は認めない、男ならどんとこいや、という感じなのだろうか。
二階に戻ったらルナ姫たちはもう起きていて、おやつの時間になるようだった。
「あ、スサノオどこに行っていたの」
「ああ、ちょっと知り合いのところへな」
「あれ、フィアがいる。お帰りー」
「ただいまー。迷宮はどう?」
「楽しい!」
幼女姫様のお答えは大変にシンプルだった。
「ねえ、スサノオ。上の方に行ってきたの?」
「ん? ああ」
なんとなく嫌な予感がする。
「上の景色は綺麗だった?」
「ああ、とってもな」
そして上目遣いで見上げる幼女がいた。キラキラした目が眩しいというか、なんというか。さすがに無理だ。
「うーん、連れていってあげたいところなんだが、またこの前みたいな化け物が出てくると困るしな。俺が行くと、ダンジョンの奴め、やたらとむきになるみたいなのでな」
「えー、つまんないなあ」
「それに騎士団も行かないといけなくなるから時間がかかり過ぎる。ルナはもっとお勉強もしないとな。お母さんにもっと魔法を習うと行ける日がくるかもな」
「うん、頑張る! 今日からまた魔法をいっぱい習おうっと」
何しろ、あの第三王妃は脳筋国王と二人で、この塔で逢引きしていたそうだからな。一体何階に行っていたのだろう。
上の方が人は少なくて邪魔が入らないからな。さぞかし魔法も冴えていたのだろう。冒険者と違って恋に命をかけていたのだ。
今日の話に出ていたギガントくらい魔法で倒せていたのでは。案外と、送りつけられていた暗殺者のほとんどを自力で倒していたのかもしれない。子連れの猛獣には手を出してはならないのだ。
また美味そうな匂いを立てているのだ。さっそく齧り付く面々。俺もしっかりといただいた。犬食いだけどね。
「うーん、やっぱり美味い。熟成されているから蕩けるような舌触りと味と香り、こいつは堪らないわあ」
感激のあまり涙を浮かべているシンディ。パッと見には、このような肉食人種には見えない可憐な少女といった感じなのだが。
「なんで、お前そんなに肉に拘ってるの」
「だって、おうちが格闘技の道場だったじゃん。門下生が多くてさあ、なかなか肉が子供にまで回ってこないんだよ。大きくなったら絶対に冒険者になろうとか思ってた。あたしは一生肉だけで生きていける」
こいつの肉好きは家庭の事情から来ていたのか。ここは、そんな奴にぴったりの職場環境だよな。
「まあ、五階層の肉は食い切れないほど獲れたしね。余ってたお肉はロイが新しい宿まで運んでくれたから、六階でも食べられるしさ。ねえ、ロイはもう帰っちゃうの。荷物も運べるし、この子が魔物を探知してくれるから助かるんだ。特に六階は毒魔物が多いしね」
「そうだなあ。ロイは俺の眷属なんだから、いつまでもここにはおいておけないのだが、ベルバードはいた方がいいよな。
ではこうしよう。今度ベルバードを手に入れられるまで、ロイはそのままで。うちは今、それほどロイの力を必要としているわけではないからな。
旅の間は生命線というほどに活躍してくれたが。収納は諦めろ。そいつはどこのチームも同じなのだから」
もう一羽眷属を作ってやれば済む話なのだが、フィアからは無闇に眷属を作るなと言われているので、さすがにほいほいとやってしまうわけにもいかない。
今までもやむを得ない場合以外は眷属など作っていないのだ。それに眷属となった者は、なるべく主の傍にいたいものなのだ。あの三馬鹿はともかくとして。
「やったあ、助かるわ。この子達がいてくれるかどうかで生存率や狩りの効率がまったく違うからね」
「じゃあ、一階下界に降りない? せっかく結構稼いだのだし、王都のバーゲンに行きたいわ」
「賛成!」
女達は、さっきまでの湿っぽい話はもう忘れたかのようにはしゃいでいる。どこの世界でも、女はバーゲンセールなるものに弱いんだな。
「逞しいな、お前ら。じゃあ、俺はそろそろ戻るから。ベルバードを買いに行く時はギルドから王宮に使いを出してくれれば、すぐ行くし。ああ、そのロイに言ってくれれば、連絡してくれる。じゃあ、ロイ。もう少しその連中の事を頼む」
そしてロイの頭をひょいと撫でてから、可愛い返事に見送られて俺は下へ向かった。フィアは一緒に帰って来た。
「いやー、枕(狼の頭)が変わるとよく眠れなくて」
嘘つけ、いつでもどこでもよく寝ているだろうとか思ったのだが、まあそれもよし。
いや、それにしてもこの迷宮内ミニスカイダイビングは楽しくてちょっと癖になるんだよな。道中は透明な壁があるのに、ここの各階の出入り口付近はそれがないのだ。
その代わりに頑丈な手すりがついている。ショートカットコースとして認められているのだろうか。
というか、そのような真似ができる強者には大渋滞などは回避して、さっさと上に上がってこいというダンジョンの意思の表れなのだろう。ちまちました近道は認めない、男ならどんとこいや、という感じなのだろうか。
二階に戻ったらルナ姫たちはもう起きていて、おやつの時間になるようだった。
「あ、スサノオどこに行っていたの」
「ああ、ちょっと知り合いのところへな」
「あれ、フィアがいる。お帰りー」
「ただいまー。迷宮はどう?」
「楽しい!」
幼女姫様のお答えは大変にシンプルだった。
「ねえ、スサノオ。上の方に行ってきたの?」
「ん? ああ」
なんとなく嫌な予感がする。
「上の景色は綺麗だった?」
「ああ、とってもな」
そして上目遣いで見上げる幼女がいた。キラキラした目が眩しいというか、なんというか。さすがに無理だ。
「うーん、連れていってあげたいところなんだが、またこの前みたいな化け物が出てくると困るしな。俺が行くと、ダンジョンの奴め、やたらとむきになるみたいなのでな」
「えー、つまんないなあ」
「それに騎士団も行かないといけなくなるから時間がかかり過ぎる。ルナはもっとお勉強もしないとな。お母さんにもっと魔法を習うと行ける日がくるかもな」
「うん、頑張る! 今日からまた魔法をいっぱい習おうっと」
何しろ、あの第三王妃は脳筋国王と二人で、この塔で逢引きしていたそうだからな。一体何階に行っていたのだろう。
上の方が人は少なくて邪魔が入らないからな。さぞかし魔法も冴えていたのだろう。冒険者と違って恋に命をかけていたのだ。
今日の話に出ていたギガントくらい魔法で倒せていたのでは。案外と、送りつけられていた暗殺者のほとんどを自力で倒していたのかもしれない。子連れの猛獣には手を出してはならないのだ。
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