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第二章 探索者フェンリル
2-32 心境の変化
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チビ姫様達がお昼寝に入ったので、俺は予定通りの行動に移った。あの連中のところへ肉の宅配に行くのだ。
俺は王族の護衛は騎士団とうちの連中に任せて、俺はひょいひょいと空気の階段を駆け上がり、上の連中の様子を見に行った。
昇降通路の出入り口前にある街のあの宿を訪ねたのだが、驚く事に彼女達はここを引き払ったらしい。
「よお、親父さん。あいつらは?」
「ああ、ミルちゃん達かい。あの子達は今六階に行っているよ」
「あれ? 毒の魔物が出るから行かないって言っていなかったか」
「ああ、少し心境が変わったらしいね。まあいい事さ。あんたの眷属の小鳥も一緒だから大丈夫そうじゃないかね」
「へえ」
この前の、あの神話の中の戦いのような戦闘を見て何か思ったものかね。まあロイがついているのなら、そうそうおかしな事にはなっていまい。
俺が行くと、また変な魔物が湧くといけないので気が引けるのだが、ちょっと様子を見に行くとするか。
「ああ、親父さん。それとこれ、メガロの肉。もう熟成させてあるから気をつけて」
ギルドの職員の中には『肉の熟成』を行える者もいるので、あれから更に美味くなったメガロ肉なのだ。その代わり、やたらと収納から出し入れしていると肉が痛みやすくなる。
「おお、こりゃあ結構な量があるな。小分けにしておいたら大丈夫だろう。嬢ちゃんたちもまだ昔の装備は置いたままで、ダンジョン探索自体はここをベースにしていて、そのうちに戻ってくるはずだから、その時に食わせてやろう」
「そうか。じゃあ俺は上まで行って見てくるよ」
挨拶すると、また空気階段ワープにより空中を駆けあがり、一階上へと上がった。
他の地道に三十キロ歩いて登っている奴らが「何だあれ」と言った感じに見ている。
上の階層は森やなだらかな山といった感じの完全な森林層だった。
「さて、ロイの気配はと」
ミル達の気配も魔力紋探査で読めるが、一緒にいるのなら眷属の方を捜した方がわかりやすい。
「お、いたいた。あそこに見える山のあたりか」
慎重な奴らだから、ここのベースゾーンである街からあまり離れたりはしないだろう。俺は魔物を刺激したりしないように、そっと近寄っていった。
「おーい、そっちへいったぞー」
「任せてー、そりゃあ」
声を掛け合って魔物を狩っているようだ。いかにも毒をもっていそうな、けばけばしい色合いの長物の虫のような奴を囲んで狩っている。シンディがスタッフの頭で殴り潰していた。
さすがに手で触るのは嫌なようだ。あいつのスタッフって、そういう時に魔物を殴るためだけに持っているんじゃないのか。
「よお、お前ら。元気そうじゃねえか」
狩り終わった獲物の剥ぎ取りをやっていた連中の前に、のそっと現れて声をかける。
「あ、狼。やっと来たのか~」
「肉~!」
「お前なんかより、この眷属の小鳥のほうが役に立つんじゃないの?」
俺は、本人の目の前で辛辣な意見を述べてくれる彼女、アマンダの頭の上でさえずって挨拶してくれているロイを細目で眺める。
『ああ、スサノオ様。お帰りなさい。とりあえず、彼女達の狩りのお手伝いをしております』
『ああ、ご苦労さん。こいつら、またなんで上で狩りを?』
『それは彼女達が自分で話すべきことでしょうから、私の口からはなんとも』
『そうか、わかった』
「なあなあ、スサノオ、肉は?」
「お前、俺の顔を見る度に肉しか言わんなあ。ちゃんと持ってきたから安心しろよ」
「やったあ、みんな肉あるってさ」
肉と聞いて小躍りするシンディ。
「まあ、メガロの肉なら歓迎だけどね」
肉があまり好きそうではないベルミも、あれの肉ならば歓迎のようだ。
「ねえ、ポテトチップスないの? もう貰った奴は全部食べちゃったよ」
ミル、あれは確か十袋くらい渡しておいたはずなのだが。
「みんな、さっさと剥ぎ取りを終わらせて早く宿に戻りましょう」
「アマンダ、みんな一体どういう風の吹き回しなんだい。上の階にいるとは思わなかったぜ」
「ええ、ちょっとした心境の変化よ。後で話すわ」
そして、俺達は宿へ戻った。グリー達を連れているので、あっと言う間に戻っていける。まだ街が見えるところにある山だしな。
ここの宿の主人は老人だった。彼は五階宿の主人とは違い五体満足だが、年齢的に引退したものだろう。そいつは幸運な事だ。
みんな結構、体がきつくなっても潰しが利かなくなっても、この仕事にしがみついている奴らが多く、けがで引退する奴らも少なくないそうだ。
「おや、お帰り。その狼は?」
初めて見る俺の姿に動じる事もなく、彼は両手を後ろに組み、平然と俺を眺めている。現役時代は、それなりにやる人だったのかもしれない。
「ああ、知り合いなんだ。ほら、この間出たメガロどもと一戦交えていた神の子フェンリルさ」
「メガロの肉もあるんだよ!」
嬉しそうに付け加えるシンディ。
「ほっほっほ、そいつはまた。神の子とはまた縁起の良い」
この俺が初対面で、そんな風に言ってもらえた事って初めてなんじゃないのか!
俺は鼻を鳴らして会釈をして礼に代えた。そんな俺の様子を、彼は好々爺のような感じで見ていた。
「さあさ、こんなところで話もなんだ。中へ入ろうじゃないかね」
俺は王族の護衛は騎士団とうちの連中に任せて、俺はひょいひょいと空気の階段を駆け上がり、上の連中の様子を見に行った。
昇降通路の出入り口前にある街のあの宿を訪ねたのだが、驚く事に彼女達はここを引き払ったらしい。
「よお、親父さん。あいつらは?」
「ああ、ミルちゃん達かい。あの子達は今六階に行っているよ」
「あれ? 毒の魔物が出るから行かないって言っていなかったか」
「ああ、少し心境が変わったらしいね。まあいい事さ。あんたの眷属の小鳥も一緒だから大丈夫そうじゃないかね」
「へえ」
この前の、あの神話の中の戦いのような戦闘を見て何か思ったものかね。まあロイがついているのなら、そうそうおかしな事にはなっていまい。
俺が行くと、また変な魔物が湧くといけないので気が引けるのだが、ちょっと様子を見に行くとするか。
「ああ、親父さん。それとこれ、メガロの肉。もう熟成させてあるから気をつけて」
ギルドの職員の中には『肉の熟成』を行える者もいるので、あれから更に美味くなったメガロ肉なのだ。その代わり、やたらと収納から出し入れしていると肉が痛みやすくなる。
「おお、こりゃあ結構な量があるな。小分けにしておいたら大丈夫だろう。嬢ちゃんたちもまだ昔の装備は置いたままで、ダンジョン探索自体はここをベースにしていて、そのうちに戻ってくるはずだから、その時に食わせてやろう」
「そうか。じゃあ俺は上まで行って見てくるよ」
挨拶すると、また空気階段ワープにより空中を駆けあがり、一階上へと上がった。
他の地道に三十キロ歩いて登っている奴らが「何だあれ」と言った感じに見ている。
上の階層は森やなだらかな山といった感じの完全な森林層だった。
「さて、ロイの気配はと」
ミル達の気配も魔力紋探査で読めるが、一緒にいるのなら眷属の方を捜した方がわかりやすい。
「お、いたいた。あそこに見える山のあたりか」
慎重な奴らだから、ここのベースゾーンである街からあまり離れたりはしないだろう。俺は魔物を刺激したりしないように、そっと近寄っていった。
「おーい、そっちへいったぞー」
「任せてー、そりゃあ」
声を掛け合って魔物を狩っているようだ。いかにも毒をもっていそうな、けばけばしい色合いの長物の虫のような奴を囲んで狩っている。シンディがスタッフの頭で殴り潰していた。
さすがに手で触るのは嫌なようだ。あいつのスタッフって、そういう時に魔物を殴るためだけに持っているんじゃないのか。
「よお、お前ら。元気そうじゃねえか」
狩り終わった獲物の剥ぎ取りをやっていた連中の前に、のそっと現れて声をかける。
「あ、狼。やっと来たのか~」
「肉~!」
「お前なんかより、この眷属の小鳥のほうが役に立つんじゃないの?」
俺は、本人の目の前で辛辣な意見を述べてくれる彼女、アマンダの頭の上でさえずって挨拶してくれているロイを細目で眺める。
『ああ、スサノオ様。お帰りなさい。とりあえず、彼女達の狩りのお手伝いをしております』
『ああ、ご苦労さん。こいつら、またなんで上で狩りを?』
『それは彼女達が自分で話すべきことでしょうから、私の口からはなんとも』
『そうか、わかった』
「なあなあ、スサノオ、肉は?」
「お前、俺の顔を見る度に肉しか言わんなあ。ちゃんと持ってきたから安心しろよ」
「やったあ、みんな肉あるってさ」
肉と聞いて小躍りするシンディ。
「まあ、メガロの肉なら歓迎だけどね」
肉があまり好きそうではないベルミも、あれの肉ならば歓迎のようだ。
「ねえ、ポテトチップスないの? もう貰った奴は全部食べちゃったよ」
ミル、あれは確か十袋くらい渡しておいたはずなのだが。
「みんな、さっさと剥ぎ取りを終わらせて早く宿に戻りましょう」
「アマンダ、みんな一体どういう風の吹き回しなんだい。上の階にいるとは思わなかったぜ」
「ええ、ちょっとした心境の変化よ。後で話すわ」
そして、俺達は宿へ戻った。グリー達を連れているので、あっと言う間に戻っていける。まだ街が見えるところにある山だしな。
ここの宿の主人は老人だった。彼は五階宿の主人とは違い五体満足だが、年齢的に引退したものだろう。そいつは幸運な事だ。
みんな結構、体がきつくなっても潰しが利かなくなっても、この仕事にしがみついている奴らが多く、けがで引退する奴らも少なくないそうだ。
「おや、お帰り。その狼は?」
初めて見る俺の姿に動じる事もなく、彼は両手を後ろに組み、平然と俺を眺めている。現役時代は、それなりにやる人だったのかもしれない。
「ああ、知り合いなんだ。ほら、この間出たメガロどもと一戦交えていた神の子フェンリルさ」
「メガロの肉もあるんだよ!」
嬉しそうに付け加えるシンディ。
「ほっほっほ、そいつはまた。神の子とはまた縁起の良い」
この俺が初対面で、そんな風に言ってもらえた事って初めてなんじゃないのか!
俺は鼻を鳴らして会釈をして礼に代えた。そんな俺の様子を、彼は好々爺のような感じで見ていた。
「さあさ、こんなところで話もなんだ。中へ入ろうじゃないかね」
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