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第二章 探索者フェンリル

2-31 待望の時

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 俺はフェンリル離宮の構想を練っていた。建設許可をいただくための説明会を行うためのプランとして少し考えがあるので、後でベノムに頼むとしよう。

 彼はしばらくここに逗留する予定である俺の面倒を見るつもりでいるようで、俺があの国王から許可をもらい、王宮内に専用の区画を宛がわれ、収納から出した設備であれこれと何かをやっているらしい。この前の戦闘の様子を伝えたら、大笑いされてしまった。

「はっはっは。このダンジョンめ、よっぽど坊を仕留めたいらしいのう。強い挑戦者が現れれば現れるほど燃え、そして強い魔物を生み出していくのがダンジョンの性というものじゃが、坊が上まで行くのが待てずに、辛抱堪らず待ちどおしかったとみえる。

 そうじゃな、神の子なのだから、あやつらめも更に楽しませてやるがよい。また何か考えておこう」

 そう言ってベノムのじっちゃんは、俺が取り寄せてやった酒を山盛り抱えて『工房』に消えて行って、それっきりなのだ。

 あの脳筋な王様は、神話の世界、あるいは吟遊詩人の詩の中に謳われる、神の鍛冶師の手によって何が出来上がってくるのか楽しみでしょうがないらしい。

 また何か武装を頼んでおこうかな。ここのダンジョンはむきになって俺に突っかかってくるので、もうちょい戦闘武装を強化しておきたいところなのだ。

 まあそれは置いておいて、お昼御飯の支度だ。もうさっきから、唐揚げ唐揚げと煩い事ばかり言う連中が多くて敵わん。景色を楽しむのもピクニックの醍醐味の一つと何故わからんのか。

「なあ、スサノオさんよ」
「スサノオ殿」

「なあ、主さまよ」
「なあ、大将」
「そろそろ飯の時間だぜ、狼の旦那」

「ねえねえ、スサノオ。育ち盛りの子供はおやつだけじゃだめだと思うんだけど」
「右に同じ、育ち盛りの子供がもう一名」

「あらあらあらあら、そろそろお弁当の時間なのではなくて」
「あらあらあらあら、お母様に同じなのです」

 しまいには執事役のヘルマスも笑顔で催促しだした。彼も唐揚げには目が無いのを俺も熟知している。

 あの苦難の旅を共にしたのだから。経験深く、主に旅の安全に気を配ってくれていた彼を俺も大いに労ったものだったのだ。

「スサノオ様。皆さま、お腹を空かせていらっしゃるようで」

 エバンスをはじめとする新参の騎士達も、俺を見つめるその視線は熱い。基礎代謝は素晴らしい連中だからな。そんなに男連中に見つめられてもな。仕方がないので、俺は唐揚げ屋台を引っ張り出した。

「さあ、じゃんじゃん行くぞ。まずここは定番の鳥からだな」

 定番というか、実を言えば必殺というのに近い代物なのだが。どこの世界にも定番の鳥というものがあったりする。

 俺がかつて住んでいた名古屋近辺の地域では名古屋コーチン、比内鶏に薩摩地鶏と。他にもブランド鳥はたくさんある。

 このアクエリア王都付近においては、レイクバードと呼ばれる種類なのだ。もっぱら、この湖の水と、その厳しい規制に保護された清浄な気に満ちた土地で大切に育てられた鳥なのだ。

 大変香りがよく、また噛むと決してしつこくない旨味の塊のような脂がじゅわっと染み出して、なんともいえない味わいなのだ。

 王侯貴族を招く晩餐においては、国威を表す食材として必ず前菜に出されるという、ある意味で国鳥といってもいい地位を確立している。

 俺も名古屋コーチンで有名な土地から来たので、こいつには正当な評価を与えており、衣にこいつの新鮮な卵を絡めて唐揚げにしてあるのだ。

 またそれが、なんとも美味い味わいを与えてくれていた。名古屋コーチンの肉と卵で作られた親子丼は超絶品。

 一つ難があるのは、高くて量も少ないので大食漢には辛いという事だ。まあ、そいつばかりは仕方がない。美味いものは高いのだから。

 このレイクバードの値段もまた極上なのだ。普通の鳥の五倍はする逸品だ。名古屋コーチンだって、そこまでぼったくりではないのだ。だが、それだけの事はあった。

「美味しい、スサノオ、これ美味しいよ」
「ほっぺたが落ちそう~」

 サリーなど、感想戦は幼い姫君達に任せて、本人様は『戦』に熱中している。もちろん、バリスタも同様であるので、騎士団も全員がその後に続いた。

 そして食いっぷりでは負けていない第二王妃様と第二王女様。そして案外と驚いたのが第二王妃アルカンタラ様だ。

 もくもくと唐揚げを食しなさっている。食いっぷりが半端じゃねえ。俺が唐揚げを作りながら、じっとそれを観察していたが、その視線に気がついたのか、少し顔を赤らめた。

「あらやだ、私とした事が。実は、このレイクバードを創り上げ、世に出荷しているのはうちの実家なのです。子供の頃から食べていますので、これだけはどうにも止まらなくって」

 そいつはまた驚きだ。だが、彼女が落とした爆弾はそれだけではなかった。

「実家にはまだ幻の鳥と言われるものがありましてね。それがまた滅多に増えないものですから商品として外に出す事ができなくて。

 でも本当に絶品なんですよね、あれ。あら、皆さん、何をそのように怖い顔をなさっておいでなの。え、ルナまで」

 だが取り囲んだ人々は言った。
「「「そいつの唐揚げを食わせろー‼」」」
「ええっ!?」

 特に第二王妃はキスしそうになるまでにじり寄って、アルカンタラ王妃様にドン引きされていた。そしてルナ姫も、母親の服を真剣な表情で、ぐいぐいと引っ張るのであった。

「まさか、このあたしのルーツにそのような秘密があったなんて。これまで知らなかったなんて一生の不覚だわー」

 いや、君はまだ五歳だよね。でも、俺もその鳥に興味が湧いてきたな。どうして増えないのだろう。

 俺なら何か解決策を見つけられるかもしれない。次の攻略目標が決まったな。とりあえずダンジョンには、俺の盗伐はお預けを食わせておくとするか。

 本来は、ダンジョンの魔物を登頂者が退治するのであって、登頂者をタワー・ダンジョンが退治するものではないのだがね。
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