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第二章 探索者フェンリル

2-26 異世界の渋み

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 とりあえず、ギルマスに断ってから解体係のところへ行って肉をもらい、他のメガロホーンを渡しておいた。彼らは宴会には参加しない方針のようだ。

「素材は一応預からせてもらってありますが、買い取りできるかどうかは不明です。買い手がおらずに駄目だった時は返却になりますね」

 そんな物を俺が持っていても仕方がないのだが。神の子としては、できれば世の中のために役立てておいてもらえると助かる。

「ギルマスがギルドで何かに加工したくて欲しがるんじゃないか。まあ使い道が無いんなら、うちの黒小人に何か加工させてもいいんだが」

「はは、そいつは羨ましいですね。彼らには、うちで仕事を頼んだ事もありますが、相手にされてませんでしたよ」

「まあ神だって苦労する相手だからね。しかし、あんたら。よくあんなにでかい魔物を解体できるもんだな」

「ああ、それはちゃんと解体専門の魔導設備があるんです。これくらいの奴らならなんとか」
「すげえな、プロの解体人」

 俺は彼らが解体スペースに浄化をかけてから出してくれた肉をたっぷりと収納して、また来ると言い残して去った。

 当分、ギルドの飲食スペースではメガロ・ステーキがメニューに載る事になるだろう。全長百メートルの極上の和牛。ありえねえ。

 この俺の存在よりも、ありえない連中だ。とりあえず用は済んだので、ギルドはお暇した。明日はまた塔へ行くのだ。

 王宮へ戻ると、王宮ど真ん中のテラス沿いの通路で、うちのセメダルに跨った第二王妃様と出会った。

 美しい真っ白な大理石の柱と床が、中庭と見事なコントラストを織りなす風景の中で、一際異彩を放っている。

 何というか、砂漠のど真ん中をF1マシンが爆走しているような感じであろうか。

 何しろ、グリーという魔物は馬車の護衛をしたり、迷宮のお供をしたりというタイプの役割で、『足の速い戦えるロバ』みたいな立ち位置にあるのだ。

 本来なら王宮の中には大変似つかわしくない存在なのだ。まあなんというか、この状況を一言で言い表すのであればRPGの中の一コマが実写化しているような感じだろうか。

 当然跨っているのは非常に濃い人物という事になる。一応、ドレス姿で優雅に横座りをなさっておられるのですが。うちのセメダルは、そういう乗せ方もよく心得ている。

「ハンナ様、うちのセメダルと一体何をやっていらっしゃるのですか?」
「ちょっと、もふもふを」

 意味わかんねえよ。ただ、なんとなくわからないでもない。このセメダルは歴戦の強者で、なんというか風格がある。

 その上、なんというか普通のグリーにはないような不思議な貫禄がある。一体どのような経歴を積んできたものやら。

 殺し屋軍団に狙われながら命懸けの旅をしなければならないお姫様付きにするために、冒険者ギルドのギルマスから指名されたような奴なのだ。

 またこのグリーという生き物は気遣いなど出来る能力が半端ではないのであるが、その中でも、こいつはそれも非常に優れていた。

 なんというか、海賊船の副長が務まって荒くれ者を仕切れるようなタイプか。

 けして船長の器ではなく、船長の無茶ぶりな命令に対して「相変わらずですなあ、船長は。それでは、ようそろ」と命令に従い、嵐の中で船員どもをだみ声で従えさせ、雲に着くかというような強烈な向かい波の中へ突っ込んでいき、見事に乗り切ってニヤリと笑ってみせる。

 あるいは女王陛下からの御指名で、スペイン艦隊から追われながら、またとびっきりの殺し屋にも追われ、同業者からも賞金目当てに狙われながらも、涼しい顔でお姫様を目的地にまで見事に運んでみせる。そんな渋い性格をした、太々しい野郎なのである。

 そのようなキャラ、ましてや『もふもふ』であるならば、このお方が見逃すはずはないのであるが。

「ハンナ様、明日はそいつを塔に連れていきますからね」
「塔に?」

 いささか、不思議そうに訊き返す第二王妃様。そんな理由で、この私からこの『お気に入り』を取り上げようというのですか、この駄犬め。そのような視線を高みからくれてくるハンナ様。

 本当は敵に回すと、この方は第一王妃などよりもずっと怖いのを知っているので逆らうつもりなど毛頭ない。

 俺は大人しく恭順の意を示して、なおかつフレンドリーな雰囲気も醸し出すという事で、伏せや仰向けではなく、可愛いお座りで対応した。

 この方には、なるべくこちらサイドについてもらわないといけないし。本当にあの第一王妃が大人しくすっこんでしまったものか自信はない。

 彼女自身はどうあれ、母国の意向というものもあるのだから。あの第一王女が嫁に行くまで安心できんわ。

 それすら、おかしなところへ行かれると、あの王女を女王に据えるという形で攻めてきたりして。

 まあ俺がいる間は守ってやるつもりだが。万が一、俺とベノムで戦力が足りないような事があるなら、まだ見ぬ姉弟を援軍に呼ぶぜ。

 だが気をつけないと、その場合には脳筋で俺の言う事を聞いてくれない奴が来てしまう危険性もあるのだが。

 冗談抜きで神の子というものは、たとえ姉弟といえども洒落にならない奴もいるのだ。俺はロキから見ても、ちゃんと物を考えられる貴重なタイプの息子であるらしい。

「ただのピクニックですよ。ルナ王女とアルス王子を連れて行く約束をしたもので」

「私も行きます」
 この方がきっぱりと、にべもなくおっしゃられたので、この場でそう決定した。

「わかりました。明日は早めに出ますから」
「わかったわ。娘も連れていきますので」

 まあ、あの王女達なら喜ぶだろう。特に下の子は。なんたって年嵩のルナと父親から言われちゃうような子なのだから。
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