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第二章 探索者フェンリル

2-23 やっぱりいましたね

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 結局、魔物退治に来た王都の軍勢は引き返していき、俺は当事者ということで事情聴取のために引き立てられていった。

 まあ引き立てられたというか、俺が尻尾を振ってついていったのだが。まあ、俺がやらかしたと言えば、そう言えない事もないのだが、出現した幾多のメガロホーンを俺が退治しまくったのは事実なので。

 連れていかれるのは王宮なので、今いる家に帰るだけなんだから、俺は特に困らないしね。

「しかし、フェンリルというものは凄いものですなあ。あの伝説の怪物をいとも簡単に倒してしまわれるとは」
「ふふ。こう見えても神の子にございますれば」

 結構騎士団の人は俺を好意的に見てくれているようだ。案外と第三王妃についても悪く思っていなかったのかもしれない。

 途中の街の警備兵たちもそうだったが、強い勢力には逆らえないようなムードもあったのだろう。

 本来ならアルス王子が王太子になって当然の話なのだから。あの状態では騎士団が一番頭を痛めていたのかもしれない。

 この立派な人物のように見える騎士団長を見ているとそのように思える。政略結婚で迎えた、やむをえない第一王妃ではあったが、俺が騎士団でもあれの勢力が実権を握るのは勘弁してくれと思うだろう。

  性質の良くない勢力が跋扈する事になっただろうし。第三王妃は優しくて人柄もいいからな。

 王宮へ向かう大通りの途中で、冒険者ギルドの前まで来た時に俺達の前に立ちはだかった人物がいた。

 いつもの格好のピンキー、もといギルマスが堂々と道の真ん中で待ち構えていて、俺の身柄はそちらへ引き渡された。

 騎士団の連中も最初は渋っていたのだが、彼女は強引にギルドによる監督責任を口実に引き取った。

「そいつは、うちの監督範囲の奴だから勝手に連れていかれては困るな」

 強気な口調で楽し気にイチャモンをつけに来た。これは面倒な奴があらわれたといった感じに、顎髭を生やしまくった王国騎士団長も、その髭を右手で何度も弄りながら難しい顔をしている。

 騎士団にもメンツってものがあるのだから。だから俺は『ここまでは』大人しく一緒に来てやったのだ。

 多分、どこかでこいつが引き取りに来るだろうと思って。ベタ過ぎる対応がむしろ清々しい。この国は女の方が逞しいな。

「しかし、ギルマス」

「何を言ってんの。怪物を退治したのは、そいつなんでしょ。それは冒険者ギルドで従魔登録されている奴なんだから、うちで調書取るのよ。書類なら、後で王宮まで回してやるわよ。何か文句あんの?」

 彼女が言い出したらきかないのは知れ渡っているので、ついに騎士団も諦めたらしい。まあ王都まで共に凱旋してきたのだから騎士団としても格好だけはついた。

 その強弁に首を竦めるに留め、あっさりとギルマスに譲る騎士団長。その行軍をギルマスと一緒に見送る俺に彼らは挙手で持って別れの挨拶としてくれた。

 まあ予定調和の世界だな。それに、俺が神の子で、いわば国王付きみたいな感じで王宮にいるので連中も手が出せないのは最初からわかっているのだし。

 ま、ギルマスの狙いは聞かなくたって、わかりきっているのだ。そして開口一番にこうきたもんだ。
「でかしたぞ、犬」

 これだもんなあ。建前とか調書はどうしたんだよ。後で係の人が書類を作って形だけ送るのだろう。この方はあれの肉さえ手にはいればいいのだから。

「お肉は味見しましたけど、メガロホーン大変美味しゅうございました。つきましては解体をお願いしたいのですが」

「うむ。あれは図体がでかいので手間がかかる。手数料はたっぷりと貰うぞ」

「はいはい、わかっていますよ。一緒に討伐した子達に肉をやる約束になっていますので、十分な肉さえあれば。あと、うちの関係とか王家の関係とか。それに俺が作った騎士団にも食わせてやらにゃあならんので」

 手数料は体で払うさ、あのメガロどもがね。あれだけありゃあ、半分としたってギルマスも当分の間は酒池肉林だろう。

「まあいいさ。ところで塔では誰と討伐していたんだ」

「ミルっていう子のチームですよ。凄く実力があるのに、五階層でずっと狩りをしているみたいで」
「む、あいつらか」

 この、いつだってどんと構えていそうなギルマスが微妙な表情をしているので、あの子達はやはり何か訳ありな子達らしい。

 まあ無理には聞かないさ。いつか、あの子達が自分から話してくれるといいな。人には話せないような事でも、この神の子なら聞いてあげてもよくてよ。

「まあ、悪い連中じゃないんだが、ちょっとな」
 ギルマスが言葉を濁すところを見ると、かなりプライベートに関わる話なのだろう。

「じゃあ、メガロは引き渡しますが、その前に国王一家や眷属に見せておきたいんだけど」
「何頭かいるだろう。とりあえず一頭を置いていけ」

「ほいさ」
 俺はギルド裏手のでかいスペースに、どんっと最終の四天王のうちの一頭を出した。

 何しろ全長百メートルくらいあるからな。どうやって解体する気なんだろうな。見て見たい気もするのだが。

「むう、こいつはでかいな。よくまあ、こんなもんとやりあったもんだ」

「へっへー、俺は巨人族だから奥の手でね。まああまり変身したくはないんだけど。せっかくできた友達が減りそうだし」

「あっはっは、ありゃあちょっとな。大体、お前と友達になるようなのは最初から肝も据わっているだろう。お前、そのままでも相当きてるぞ。真っ黒な巨大狼だからな」

「う、人(狼)が気にしている事をよくもまあ、すっぱりと言ってくれるもんだ」
「おまけにぺらぺらと喋りまくるときたもんだ」

「お陰様で、人とも魔物ともコミュニケーションは十分にできますけどね」

 それから俺は石畳を軽快に蹴って尻尾を王都の風に靡かせた。時折、その姿に振り向く人を置き去りにして、あっという間に王宮まで戻ったのであった。
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