74 / 107
第二章 探索者フェンリル
2-23 やっぱりいましたね
しおりを挟む
結局、魔物退治に来た王都の軍勢は引き返していき、俺は当事者ということで事情聴取のために引き立てられていった。
まあ引き立てられたというか、俺が尻尾を振ってついていったのだが。まあ、俺がやらかしたと言えば、そう言えない事もないのだが、出現した幾多のメガロホーンを俺が退治しまくったのは事実なので。
連れていかれるのは王宮なので、今いる家に帰るだけなんだから、俺は特に困らないしね。
「しかし、フェンリルというものは凄いものですなあ。あの伝説の怪物をいとも簡単に倒してしまわれるとは」
「ふふ。こう見えても神の子にございますれば」
結構騎士団の人は俺を好意的に見てくれているようだ。案外と第三王妃についても悪く思っていなかったのかもしれない。
途中の街の警備兵たちもそうだったが、強い勢力には逆らえないようなムードもあったのだろう。
本来ならアルス王子が王太子になって当然の話なのだから。あの状態では騎士団が一番頭を痛めていたのかもしれない。
この立派な人物のように見える騎士団長を見ているとそのように思える。政略結婚で迎えた、やむをえない第一王妃ではあったが、俺が騎士団でもあれの勢力が実権を握るのは勘弁してくれと思うだろう。
性質の良くない勢力が跋扈する事になっただろうし。第三王妃は優しくて人柄もいいからな。
王宮へ向かう大通りの途中で、冒険者ギルドの前まで来た時に俺達の前に立ちはだかった人物がいた。
いつもの格好のピンキー、もといギルマスが堂々と道の真ん中で待ち構えていて、俺の身柄はそちらへ引き渡された。
騎士団の連中も最初は渋っていたのだが、彼女は強引にギルドによる監督責任を口実に引き取った。
「そいつは、うちの監督範囲の奴だから勝手に連れていかれては困るな」
強気な口調で楽し気にイチャモンをつけに来た。これは面倒な奴があらわれたといった感じに、顎髭を生やしまくった王国騎士団長も、その髭を右手で何度も弄りながら難しい顔をしている。
騎士団にもメンツってものがあるのだから。だから俺は『ここまでは』大人しく一緒に来てやったのだ。
多分、どこかでこいつが引き取りに来るだろうと思って。ベタ過ぎる対応がむしろ清々しい。この国は女の方が逞しいな。
「しかし、ギルマス」
「何を言ってんの。怪物を退治したのは、そいつなんでしょ。それは冒険者ギルドで従魔登録されている奴なんだから、うちで調書取るのよ。書類なら、後で王宮まで回してやるわよ。何か文句あんの?」
彼女が言い出したらきかないのは知れ渡っているので、ついに騎士団も諦めたらしい。まあ王都まで共に凱旋してきたのだから騎士団としても格好だけはついた。
その強弁に首を竦めるに留め、あっさりとギルマスに譲る騎士団長。その行軍をギルマスと一緒に見送る俺に彼らは挙手で持って別れの挨拶としてくれた。
まあ予定調和の世界だな。それに、俺が神の子で、いわば国王付きみたいな感じで王宮にいるので連中も手が出せないのは最初からわかっているのだし。
ま、ギルマスの狙いは聞かなくたって、わかりきっているのだ。そして開口一番にこうきたもんだ。
「でかしたぞ、犬」
これだもんなあ。建前とか調書はどうしたんだよ。後で係の人が書類を作って形だけ送るのだろう。この方はあれの肉さえ手にはいればいいのだから。
「お肉は味見しましたけど、メガロホーン大変美味しゅうございました。つきましては解体をお願いしたいのですが」
「うむ。あれは図体がでかいので手間がかかる。手数料はたっぷりと貰うぞ」
「はいはい、わかっていますよ。一緒に討伐した子達に肉をやる約束になっていますので、十分な肉さえあれば。あと、うちの関係とか王家の関係とか。それに俺が作った騎士団にも食わせてやらにゃあならんので」
手数料は体で払うさ、あのメガロどもがね。あれだけありゃあ、半分としたってギルマスも当分の間は酒池肉林だろう。
「まあいいさ。ところで塔では誰と討伐していたんだ」
「ミルっていう子のチームですよ。凄く実力があるのに、五階層でずっと狩りをしているみたいで」
「む、あいつらか」
この、いつだってどんと構えていそうなギルマスが微妙な表情をしているので、あの子達はやはり何か訳ありな子達らしい。
まあ無理には聞かないさ。いつか、あの子達が自分から話してくれるといいな。人には話せないような事でも、この神の子なら聞いてあげてもよくてよ。
「まあ、悪い連中じゃないんだが、ちょっとな」
ギルマスが言葉を濁すところを見ると、かなりプライベートに関わる話なのだろう。
「じゃあ、メガロは引き渡しますが、その前に国王一家や眷属に見せておきたいんだけど」
「何頭かいるだろう。とりあえず一頭を置いていけ」
「ほいさ」
俺はギルド裏手のでかいスペースに、どんっと最終の四天王のうちの一頭を出した。
何しろ全長百メートルくらいあるからな。どうやって解体する気なんだろうな。見て見たい気もするのだが。
「むう、こいつはでかいな。よくまあ、こんなもんとやりあったもんだ」
「へっへー、俺は巨人族だから奥の手でね。まああまり変身したくはないんだけど。せっかくできた友達が減りそうだし」
「あっはっは、ありゃあちょっとな。大体、お前と友達になるようなのは最初から肝も据わっているだろう。お前、そのままでも相当きてるぞ。真っ黒な巨大狼だからな」
「う、人(狼)が気にしている事をよくもまあ、すっぱりと言ってくれるもんだ」
「おまけにぺらぺらと喋りまくるときたもんだ」
「お陰様で、人とも魔物ともコミュニケーションは十分にできますけどね」
それから俺は石畳を軽快に蹴って尻尾を王都の風に靡かせた。時折、その姿に振り向く人を置き去りにして、あっという間に王宮まで戻ったのであった。
まあ引き立てられたというか、俺が尻尾を振ってついていったのだが。まあ、俺がやらかしたと言えば、そう言えない事もないのだが、出現した幾多のメガロホーンを俺が退治しまくったのは事実なので。
連れていかれるのは王宮なので、今いる家に帰るだけなんだから、俺は特に困らないしね。
「しかし、フェンリルというものは凄いものですなあ。あの伝説の怪物をいとも簡単に倒してしまわれるとは」
「ふふ。こう見えても神の子にございますれば」
結構騎士団の人は俺を好意的に見てくれているようだ。案外と第三王妃についても悪く思っていなかったのかもしれない。
途中の街の警備兵たちもそうだったが、強い勢力には逆らえないようなムードもあったのだろう。
本来ならアルス王子が王太子になって当然の話なのだから。あの状態では騎士団が一番頭を痛めていたのかもしれない。
この立派な人物のように見える騎士団長を見ているとそのように思える。政略結婚で迎えた、やむをえない第一王妃ではあったが、俺が騎士団でもあれの勢力が実権を握るのは勘弁してくれと思うだろう。
性質の良くない勢力が跋扈する事になっただろうし。第三王妃は優しくて人柄もいいからな。
王宮へ向かう大通りの途中で、冒険者ギルドの前まで来た時に俺達の前に立ちはだかった人物がいた。
いつもの格好のピンキー、もといギルマスが堂々と道の真ん中で待ち構えていて、俺の身柄はそちらへ引き渡された。
騎士団の連中も最初は渋っていたのだが、彼女は強引にギルドによる監督責任を口実に引き取った。
「そいつは、うちの監督範囲の奴だから勝手に連れていかれては困るな」
強気な口調で楽し気にイチャモンをつけに来た。これは面倒な奴があらわれたといった感じに、顎髭を生やしまくった王国騎士団長も、その髭を右手で何度も弄りながら難しい顔をしている。
騎士団にもメンツってものがあるのだから。だから俺は『ここまでは』大人しく一緒に来てやったのだ。
多分、どこかでこいつが引き取りに来るだろうと思って。ベタ過ぎる対応がむしろ清々しい。この国は女の方が逞しいな。
「しかし、ギルマス」
「何を言ってんの。怪物を退治したのは、そいつなんでしょ。それは冒険者ギルドで従魔登録されている奴なんだから、うちで調書取るのよ。書類なら、後で王宮まで回してやるわよ。何か文句あんの?」
彼女が言い出したらきかないのは知れ渡っているので、ついに騎士団も諦めたらしい。まあ王都まで共に凱旋してきたのだから騎士団としても格好だけはついた。
その強弁に首を竦めるに留め、あっさりとギルマスに譲る騎士団長。その行軍をギルマスと一緒に見送る俺に彼らは挙手で持って別れの挨拶としてくれた。
まあ予定調和の世界だな。それに、俺が神の子で、いわば国王付きみたいな感じで王宮にいるので連中も手が出せないのは最初からわかっているのだし。
ま、ギルマスの狙いは聞かなくたって、わかりきっているのだ。そして開口一番にこうきたもんだ。
「でかしたぞ、犬」
これだもんなあ。建前とか調書はどうしたんだよ。後で係の人が書類を作って形だけ送るのだろう。この方はあれの肉さえ手にはいればいいのだから。
「お肉は味見しましたけど、メガロホーン大変美味しゅうございました。つきましては解体をお願いしたいのですが」
「うむ。あれは図体がでかいので手間がかかる。手数料はたっぷりと貰うぞ」
「はいはい、わかっていますよ。一緒に討伐した子達に肉をやる約束になっていますので、十分な肉さえあれば。あと、うちの関係とか王家の関係とか。それに俺が作った騎士団にも食わせてやらにゃあならんので」
手数料は体で払うさ、あのメガロどもがね。あれだけありゃあ、半分としたってギルマスも当分の間は酒池肉林だろう。
「まあいいさ。ところで塔では誰と討伐していたんだ」
「ミルっていう子のチームですよ。凄く実力があるのに、五階層でずっと狩りをしているみたいで」
「む、あいつらか」
この、いつだってどんと構えていそうなギルマスが微妙な表情をしているので、あの子達はやはり何か訳ありな子達らしい。
まあ無理には聞かないさ。いつか、あの子達が自分から話してくれるといいな。人には話せないような事でも、この神の子なら聞いてあげてもよくてよ。
「まあ、悪い連中じゃないんだが、ちょっとな」
ギルマスが言葉を濁すところを見ると、かなりプライベートに関わる話なのだろう。
「じゃあ、メガロは引き渡しますが、その前に国王一家や眷属に見せておきたいんだけど」
「何頭かいるだろう。とりあえず一頭を置いていけ」
「ほいさ」
俺はギルド裏手のでかいスペースに、どんっと最終の四天王のうちの一頭を出した。
何しろ全長百メートルくらいあるからな。どうやって解体する気なんだろうな。見て見たい気もするのだが。
「むう、こいつはでかいな。よくまあ、こんなもんとやりあったもんだ」
「へっへー、俺は巨人族だから奥の手でね。まああまり変身したくはないんだけど。せっかくできた友達が減りそうだし」
「あっはっは、ありゃあちょっとな。大体、お前と友達になるようなのは最初から肝も据わっているだろう。お前、そのままでも相当きてるぞ。真っ黒な巨大狼だからな」
「う、人(狼)が気にしている事をよくもまあ、すっぱりと言ってくれるもんだ」
「おまけにぺらぺらと喋りまくるときたもんだ」
「お陰様で、人とも魔物ともコミュニケーションは十分にできますけどね」
それから俺は石畳を軽快に蹴って尻尾を王都の風に靡かせた。時折、その姿に振り向く人を置き去りにして、あっという間に王宮まで戻ったのであった。
0
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】
時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」
俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。
「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」
「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」
俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。
俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。
主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる