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第二章 探索者フェンリル
2-19 我は……では最弱なり
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姿を現したのは、やはり牛だった。しかも一回りも二回りもでかい牛達だ。およそ五メートル近いものが殆どで、しかもそのうちの一頭は五メートルではきくまい。
しかもご丁寧な事にきっかり四頭だ。一番でかい奴は、ごつい三トンフォークで掬おうとすれば、重すぎてフォークリフトのケツが持ち上がってしまうだろう。
奴が四つの蹄で大地に踏ん張れば、公園工事で駆り出されるクラスの、コンクリートをバリバリと壊せるやや小ぶりなパワーショベルで、深く根っこが生えた木を引き抜こうとしてキャタピラーの前方を支点に車体が持ち上がってしまう、そのような現象と同じような羽目に鋼鉄の塊であるパワーショベルでさえ陥るだろう。そこまでの強者ではないか。
「なあ、俺の分は?」
「あるとでも思ってるの?」
「それに、あんたに回すとその後が怖いじゃないのさ」
「そうそう、ウサギの件は忘れちゃあいないわよ」
なんかプレミアムな魔物達のお相手はお嬢様方がおやりになられるものらしい。ちぇっ、拗ねちゃおうっと。
俺はででんと伏せの姿勢で尻尾による応援をするに留めた。一番でかい奴は当然シンディがお相手するものらしい。
突進。何かのスキルを用いているのではないかというような、凄まじい突進。こいつが体当たりすれば、レールガンの発射実験や自動車の衝突実験に使うような厚手のコンクリート壁さえ耐えられずに粉々になるのではないかという猛突を、少女たちは鮮やかに躱した。
うん、腕はいいようだな。俺は回復薬を準備して、いつでもサポートできる体制を整えるに留めた。
その際にヒラリっと飛び乗った戦士は、その大剣を奴の脳天に突き立てた。残念ながらその見事過ぎる角は首の後ろに陣取った敵には威力を発揮しなかったようだ。ロデオ勝負に持ち込む前にあっさり絶命した。
だが言い残した言葉があった。
『わ、我は四天王の中では最弱なり』
定番の台詞を、苦しい中でも言い残したところは、あっぱれという他はない。
次に魔法剣士のアマンダは自慢のベスマギル、彼女にはやや大きめのそいつを苦も無く振るい、首を落とした。
あっさりと後方から追撃して倒すあたり、足元にも魔法がかかっているな。魔法剣士にはそういう事が武器を振るうのと同じようにできるとは聞いていたのだが、あれじゃ辞世の句も残せないね。
そしてミル。こいつは何の職業なのかと思っていたが、魔法使いだったらしい。髪留めをはずすと、そいつがみるみるうちに大きくなり、魔法の杖として復元した。
なるほど、剣などと違って収納性を重要視しているわけだな。戦闘用にも使える、頑丈そうな木製のスタッフだ。
木の棒を甘く見てはいけない。打撃武器は結構な威力なのだ。見るからに堅そうな木でできているようだ。
生半可な剣で切りつければ、剣の方が折れそうな代物だな。そして、突進を避けたその場から一歩も動かずに、短く簡単な呪文を放った。
【デス】
そして走っている途中で心臓でも止まったものか、足から崩れ落ちる巨牛。おっかねえな、こいつ。
これ、神の子にも通用するのかね。俺の場合、魔法耐性のレベルが違いすぎるからブロックされると思うのだけど。
確かに牛の屠殺には向いた魔法ではないかなとは思うのだが。俺は彼女達に促されて、次々に牛たちを収納していった。そして、お次は。皆、どっかりと腰を下ろして、観戦と洒落込んでいる。
「おーい、シンディ。そいつを逃がすんじゃねえぞー」
「あたしが、そんなヘマなんてするものかー。ウサギならいざ知らず、こんな一番美味しそうな大物を~」
それを聞いて、笑いさざめく女の子達。こいつら、ここまで強者なのに、何故こうまで五階層に拘るのだろうか。
そして、シンディは飛んだ。電光の流星となって、真正面から奴の額を目がけて。通常なら無謀としか言いようがない攻撃だ。
だが、突進中の敵のボスは怒りに燃えてその一際立派な角を突き出し、さらに突進力を追加した。加速、加速、力任せの加速、後方に草の塊ごと大量の土を蹴り上げて。
そして激突。飛んだのは、なんと巨大な雄牛の方だった。はじけ飛ぶ巨体の頭蓋骨は完全に陥没していた。角には当てなかったようだ。高く売れるんだろう。
「ふう、片付いた。スサノオ、そいつもしまっておいて」
「へいへい」
それから意気揚々と宿に引き上げようとした途端、何かの地響きが聞こえてきた。
「な、何?」
「地震? ダンジョンの内部で?」
「違う。これは何かが出現しようとしている兆候じゃないのかな」
「馬鹿な、こんなでかいの、何が湧いてくるっていうんだよ~」
だがロイは言った。
『あたーりー。出現します。これはまた、とんでもない。我が主よ。ダンジョンが、あなたに挑戦してくるようです。たぶん、変身が必要な相手ではないかと』
「マジか!」
どんな大物が現れるというのだ。
しかもご丁寧な事にきっかり四頭だ。一番でかい奴は、ごつい三トンフォークで掬おうとすれば、重すぎてフォークリフトのケツが持ち上がってしまうだろう。
奴が四つの蹄で大地に踏ん張れば、公園工事で駆り出されるクラスの、コンクリートをバリバリと壊せるやや小ぶりなパワーショベルで、深く根っこが生えた木を引き抜こうとしてキャタピラーの前方を支点に車体が持ち上がってしまう、そのような現象と同じような羽目に鋼鉄の塊であるパワーショベルでさえ陥るだろう。そこまでの強者ではないか。
「なあ、俺の分は?」
「あるとでも思ってるの?」
「それに、あんたに回すとその後が怖いじゃないのさ」
「そうそう、ウサギの件は忘れちゃあいないわよ」
なんかプレミアムな魔物達のお相手はお嬢様方がおやりになられるものらしい。ちぇっ、拗ねちゃおうっと。
俺はででんと伏せの姿勢で尻尾による応援をするに留めた。一番でかい奴は当然シンディがお相手するものらしい。
突進。何かのスキルを用いているのではないかというような、凄まじい突進。こいつが体当たりすれば、レールガンの発射実験や自動車の衝突実験に使うような厚手のコンクリート壁さえ耐えられずに粉々になるのではないかという猛突を、少女たちは鮮やかに躱した。
うん、腕はいいようだな。俺は回復薬を準備して、いつでもサポートできる体制を整えるに留めた。
その際にヒラリっと飛び乗った戦士は、その大剣を奴の脳天に突き立てた。残念ながらその見事過ぎる角は首の後ろに陣取った敵には威力を発揮しなかったようだ。ロデオ勝負に持ち込む前にあっさり絶命した。
だが言い残した言葉があった。
『わ、我は四天王の中では最弱なり』
定番の台詞を、苦しい中でも言い残したところは、あっぱれという他はない。
次に魔法剣士のアマンダは自慢のベスマギル、彼女にはやや大きめのそいつを苦も無く振るい、首を落とした。
あっさりと後方から追撃して倒すあたり、足元にも魔法がかかっているな。魔法剣士にはそういう事が武器を振るうのと同じようにできるとは聞いていたのだが、あれじゃ辞世の句も残せないね。
そしてミル。こいつは何の職業なのかと思っていたが、魔法使いだったらしい。髪留めをはずすと、そいつがみるみるうちに大きくなり、魔法の杖として復元した。
なるほど、剣などと違って収納性を重要視しているわけだな。戦闘用にも使える、頑丈そうな木製のスタッフだ。
木の棒を甘く見てはいけない。打撃武器は結構な威力なのだ。見るからに堅そうな木でできているようだ。
生半可な剣で切りつければ、剣の方が折れそうな代物だな。そして、突進を避けたその場から一歩も動かずに、短く簡単な呪文を放った。
【デス】
そして走っている途中で心臓でも止まったものか、足から崩れ落ちる巨牛。おっかねえな、こいつ。
これ、神の子にも通用するのかね。俺の場合、魔法耐性のレベルが違いすぎるからブロックされると思うのだけど。
確かに牛の屠殺には向いた魔法ではないかなとは思うのだが。俺は彼女達に促されて、次々に牛たちを収納していった。そして、お次は。皆、どっかりと腰を下ろして、観戦と洒落込んでいる。
「おーい、シンディ。そいつを逃がすんじゃねえぞー」
「あたしが、そんなヘマなんてするものかー。ウサギならいざ知らず、こんな一番美味しそうな大物を~」
それを聞いて、笑いさざめく女の子達。こいつら、ここまで強者なのに、何故こうまで五階層に拘るのだろうか。
そして、シンディは飛んだ。電光の流星となって、真正面から奴の額を目がけて。通常なら無謀としか言いようがない攻撃だ。
だが、突進中の敵のボスは怒りに燃えてその一際立派な角を突き出し、さらに突進力を追加した。加速、加速、力任せの加速、後方に草の塊ごと大量の土を蹴り上げて。
そして激突。飛んだのは、なんと巨大な雄牛の方だった。はじけ飛ぶ巨体の頭蓋骨は完全に陥没していた。角には当てなかったようだ。高く売れるんだろう。
「ふう、片付いた。スサノオ、そいつもしまっておいて」
「へいへい」
それから意気揚々と宿に引き上げようとした途端、何かの地響きが聞こえてきた。
「な、何?」
「地震? ダンジョンの内部で?」
「違う。これは何かが出現しようとしている兆候じゃないのかな」
「馬鹿な、こんなでかいの、何が湧いてくるっていうんだよ~」
だがロイは言った。
『あたーりー。出現します。これはまた、とんでもない。我が主よ。ダンジョンが、あなたに挑戦してくるようです。たぶん、変身が必要な相手ではないかと』
「マジか!」
どんな大物が現れるというのだ。
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