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第二章 探索者フェンリル

2-15 唐揚げの刻

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「ただいまー」
「お、帰ったか、狼。で、どうだった?」

「もちろん二種類とも全滅さ。大猟大猟」
「あんた、本当にとんでもないわねえ。ねえ、うちの従魔になりなさいよ」

「えー、どうしようかな。従魔証くれる飼い主はたくさん集めておきたいところなのだが」
「逆ハーなのかい!」

 ミルと、そんな馬鹿な会話をしていたが、主人が来たので獲物を渡すか訊いてみた。
「追加の獲物はいる?」

「いやあ、無理だな。他の冒険者の分の買い取りができなくなっちまう。さっき貰った分だって、まともには買い取りできない量があるんだからな。

 いくらかを支払って逆のツケにさせてもらったよ。当分、嬢ちゃんたちからは宿代なんか貰えねえ。とても、お前さんの追加収穫分まで預かれねえよ。収納があるんだ。王都にでも持って帰るんだな」

「そうかー、相場が値崩れしちまうと、他の連中も困るしな」
「聞き分けてくれて嬉しいよ。あんた、本当に頭がいいな」

 ふふ。犬族にござりますれば。まあ、うちは食える魔物なら大歓迎さ。この俺自身が大食漢なのだからな。

 アポックスでアポートすればいいのだが、あれも万引きボックスだからな。いくら加護を与えるといっても多少は気が引けているのだ。

「じゃあ、お昼は戦勝パーティと行こうぜ」
「パーティかあ。悪くないわね。メニューは?」

 食う事には割と乗り気なミル。こいつは中学生かと見間違えるような金髪ロリなのだが、食う方は一人前以上に食う。

「肉」
「えー、ここは違う物にしましょうよー。あんた、違う食い物も持っているわよね」

「何の肉かしら」
 冷静にツッコミを入れてくる黒髪剣士のアマンダ。

「もちろん、今日の獲物さ」
「わーい」

「うわー、よりによって一番よく出るポピュラーな奴じゃないか」
 ベルミが頭を抱えた。

 この女、一番肉を食いそうなのに、何故そんなに肉を嫌いなのか。俺やグリーなんかは毎日肉でも一向に平気なのだが。

 まあ俺は他の物も食いたいがね。夜食はお茶漬けに限るぜ。肉で大喜びしているのは相変わらずシンディだけだ。

「ふ、ただの肉だと思うなよ!」
 そして、俺はおやっさんに頼んで小広場のような場所を借りた。

 やはりパーティなどをしたがる連中もいるとみえて、竈などの用意もあったが、俺が出したのはもちろん唐揚げ屋台だ。

「へえ、何これは」
 ミルが首をひねっていたので俺は黙って唐揚げの幟を立てた。

 この国の言葉で唐揚げと書いてある。何故か唐揚げ騎士団で使っているので、俺も貰ってあるのだ。

 最初はルーンで書かれた神の子仕様で使っていたのだが、騎士団で発注して特別に作ったのだ。

 唐揚げを国の象徴的な食い物として広めたい考えらしい。首謀者は当然、あの騎士団長と女副騎士団長だ。

 俺も反対はしない。というか、あちこちにご当地唐揚げに登場してもらいたいのだ。やはり食う楽しみは大きい。

 唐揚げ騎士団には相当のレシピ本を渡してある。ある程度の文字は解説してやったので、奴らは日本語の料理本がもう半分くらい読める。まさに食い意地の勝利だ。

「唐揚げねえ」
「唐揚げっ!」
 肉食少女の本能なのか、シンディは唐揚げに興味津々といった感じだ。

「唐揚げかあ」
「まずは食べてみてからね」

 言われずとも、当初からその予定さ、アマンダ。グリー達もフィアを使いに出して呼んでやる。連中は働き者なので、俺はグリーという生き物には親切にしてやる習慣がある。

 大概の奴が俺と気が合い、よくしてくれるしな。連中は鳥でもなんでもお構いなしだ。今日の鳥は厳密には鳥ではないような気もするのだが。

 俺はさっそく屋台に火を入れて、すでに張られてある油を加熱した。唐揚げ専用の設備なので、基本的に自動で温度は調節できる。

 誰でもすぐ使えるようにできているのだ。うちのは大量に揚げていくために、二つに分かれていて、最初の油槽が一五〇度、次の油槽が一九〇度に設定されている。

 次々と挙げられて積み上げられていく唐揚げ。最初はウサギ肉から、そしてそいつが積みあがった頃にティラノ鳥を揚げていく。

 軽く味見をしたら、案外といける。ダンジョンで湧いたものなので、俺の知っているウサギ肉と違い、弾力が強く噛みしめるとよく味が出る。

 なんといったらいいのか難しいが、日本のプレミアム地鶏と比べても損傷はない美味さだ。鶏肉とは少し違うのだが。

 日本にはない味だな。しかも唐揚げと相性がいい肉質だ。こいつはいい拾い物だ。普通に焼くよりはるかに美味くなっているのではないか。

 鳥の方は、やや癖が強いが、上等の鶏肉といった感じだろうか。そこいらのスーパーの特売じゃ、まるで相手にならない。日本でこれを食するならば贅沢というものの範疇に入るかもしれない。

 ティラノに取りかかっているうちに、他の連中はウサギに取りついている。
「美味いな、こいつは」

 あまり気乗りしてなそうだったミルもぱくぱくと食っている。傍から見ると育ちざかりががっついているようにしか見えないが、もう二十一歳なので油断するとお肉がつくだろう。胸とかじゃないところに。

 でも冒険者だから基礎代謝は凄そうだし、唐揚げが好きな女の子は胸が大きいとはよく言われる事だし、いいのか。

 シンディは何も言わずにがっついているし。こいつこそ、格闘少女なので基礎代謝は半端ないだろう。神官服を着ているので、ちょっとその、がっつきように違和感があるのだが。

 突っ込み屋のアマンダも文句なしに食いまくっているし、肉と聞くと涙目になるベルミも、がつがつ食っていた。

「いや、こいつは驚いた。これをうちでやるのは難しいかね」
 おやっさんが訊いてきたので、俺は指を立て(たつもり)言った。

「レシピは教えてあげるけど、美味しいのはスパイスとかも使うから、ここだと手に入りにくいかも」

「なあに、頼んでおけば王都からいくらでも入るさ。少々高くはなるが、ここは実入りのいい街だからな」

「へえ、じゃあ当分は五階層名物という事で。ここは食肉魔物には事欠かないみたいだしな。俺の唐揚げ粉をいくらか渡しておくよ。また研究しておいてちょうだいな」

「そいつはありがたい。冒険者どもも美味い物を食わせてやれば張り切るだろうし」

 こうして、この階層には『唐揚げ冒険者』が、あの挑発されたウサギであるかのように大量に発生したのであった?
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