上 下
65 / 107
第二章 探索者フェンリル

2-14 残党狩り

しおりを挟む
「なあなあ、次はー」
「ええい、今日はもう疲れたから帰るわ。何か判断ミスもあったし。お肉の換金よ」

「へえ、そっちも見たいな」
 俺達は宿屋に戻ると、眼帯の主人が出迎えてくれた。

 このダンジョンはワンフロアが直径一キロメートル前後なので帰るのは楽だ。洞窟ダンジョンだと、そのあたりが洒落にならないところもあるらしい。

「おや、ミルさん。お早いお帰りで」
「ただいま。もう今日は散々だったわ」

「おやおや、まあそういう日もありますて」
 そして奥へ行ってしまおうとする。どうやら、戦果が坊主だと思われたらしい。

「あ、待って待って。買い取りをしてほしいの」
「おや、獲物は獲れましたので?」

「あー、獲れたというか、なんというか。スサノオ、見せてやって」
「こんなところで?」
 こんな玄関口で、あの量を出したら凄い事になってしまう。

「あう、えーと。すみません、解体場の方でいいですか?」
「ええ、よろしいですが」

 おっさんは不思議そうな顔で訊き返してくる。まあ、わかんないだろうな。そしてそこで出してやった魔物の山。

 解体場と呼ばれた、やや広めの石造りの床の上にスペースを埋め尽くしていく、ウサギと鳥(爬虫類系)。

「こ、これは。まさか、やっちまったのかい? お嬢ちゃん達」
「あ、うん。そこの馬鹿狼が」

「残党は?」
「まだいると思う」
 あれ、なんか妙な雰囲気。俺が首を傾げているとシンディが説明してくれた。

「一旦出現した魔物は消えないんだよ。ああやって現れた大量の魔物はトルネードと言って、根絶やしにする決まりなのさ。そうしないと、駆け出しなんかがやられちまう。ウサギは特にここでは強者だからな」

「へー、じゃあ俺はもう一回行ってくるよ」
「大丈夫かあ。あんたが行くと、また余計に魔物が湧いてくるんじゃないの~」
 ミルがこっちをジト目で見ている。

「相手を挑発しなきゃあいいんだろう?」
「まあ、そうなんだけどさ」

 まあ、鳥みたいに勝手に湧いてくる可能性もあるんだけど。最初に激しく刺激しちまったみたいでなあ。

「ところで、そっちの獲物達は出しっぱなしでいいのかい」
「ああ、わしは収納持ちだから、この体でも仕事を任されておる」

「そうかい。じゃあ追加分の狩り取りに行くかな。しっかりと勘定しておいてくれよ」
「あれを雑草扱いなのかよ……」

 呆れたようなベルミの声に見送られて、いそいそと出かける俺。一緒に行きたそうにしていたシンディを年下のアマンダが窘めていた。

 俺は草薙を装着し、今度は無言で足元の音を立てないようにロイに視させた場所を襲撃した。なんとウサギの奴ら集まって休憩していやがった。

 ああやって座り込んでいると、あいつらも可愛らしいよな。だが遠慮なく狩る。

 突然の襲撃に奴らはパニックになった。思い思いの方向に跳ねようとして互いにぶつかり互いに失神する奴。

 そして何を思ったか、仲間に向かって放電している奴。大概は無駄に終わるのだが、強烈なのを食らって失神している奴もいる。

 そいつらは後回しにして、跳ねている連中が逃げ出さないうちに手早く倒す。電光石火の早業でとにかく狩りまくって、一割ほどの数が依然として失神したままなので遠慮なく撲殺していった。

『どうだ、ロイ』
 おれは退避させておいたロイを呼んで視させた。

『ええ、もうあの大量出現する前の状態に戻っています。もしかすると、ああやって纏めて出現した連中は、あいつらだけで固まっているのかもしれませんね。あとは鳥連中ですか。探しますか』

『頼む』
 すぐにロイが見つけてくれたので、あっさりと急襲した。

 そして俺が走り回らなくていい分、早々と決着した。数が多いだけの相手で思いっきり油断しているからな。

 こんなに楽な仕事はない。あの第一王妃の手の者と比べれば、なんという事もない相手だ。悪辣過ぎて人間の相手は疲れる。

 あの王妃ってば、もう牙を抜かれて大人しくなったかねえ。バックについてた母国も執念深そうだしな。

 こいつらは針の雨をリサイクルしながら降らせるだけなので、相手の場所さえわかっていれば物陰に隠れたままやれる、楽しいというか楽なお仕事だった。

『終わったかな』
『大丈夫です。後は正常な魔物分布ですね』
『そうか、じゃあ帰るか』

 お昼は、さっそく唐揚げを試してみるか。果たして、あの唐揚げ通の、うちの連中に通用するだけの肉なのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】僕とシロの異世界物語。 ボクはシロ。この世界の女神に誘われてフェンリルへと転生した犬のシロ。前回、ボクはやり遂げた。ご主人様を最後まで守り抜いたんだ。「ありがとう シロ。楽しかったよ。またどこかで……」ご主人様はそう言って旅立たっていかれた。その後はあっちこっちと旅して回ったけど、人と交われば恐れられたり うまく利用されたりと、もうコリゴリだった。そんなある日、聞こえてきたんだ、懐かしい感覚だった。ああ、ドキドキが止まらない。ワクワクしてどうにかなっちゃう。ホントにご主人様なの。『――シロおいで!』うん、待ってて今いくから…… ……異世界で再び出会った僕とシロ。楽しい冒険の始まりである………

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...