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第二章 探索者フェンリル

2-12 狩りの女神達

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「今日のメインの獲物は、エレラビットだ。みんな耐エレ装備はいいな」

 皆は何かの、もふっとしたようなコートを身に纏っている。白い毛皮っぽい物でなかなか見栄えもいいが、どうやらファッションではなくて何かの特殊装備のようだな。

 グリー達は今日お休みらしい。狭い森の中での狩りになるようだ。昨日散々働いたしな。

「なんだい、それ」
「こいつは、今日の得物であるエレラビットの革で作られたコートさ。ここの宿に預けてある装備の一つだ。お前はいらないよな」

「へえ、ウサギ狩りねえ」
 ウサギやアナグマなどの穴に潜っている獲物を追うために、改良された特殊な体系の犬なんかもいる。生憎と俺にはそういう役割はできそうもないのだが。

「言っておくが、狼。ここのウサギは巣穴に潜っているような柔な連中じゃないからな。ビリビリくる魔法を使うから。お前みたいに何も通さないような頑丈な毛皮に覆われていれば問題はないさ。ここはしょせん五階層なのだから」

 何か自嘲めいた口調のミル。こいつって本当はもっと上の階層へ行きたいんじゃないだろうか。

「さあ、行くぞ。全員、気を引き締めていけよ」

 だが、俺はベルミの奴に訊いた。
「なあ、やけに神経質だな、あいつ」

「ああ、ちょっと色々あってな。まあ気にするな。それより、ここのウサギは肉もまずくはないぞ。革も肉も、そこそこの値段で売れる」

「へえ」
 ウサギ肉の唐揚げか。まあ異世界での定番って感じじゃないか。子供なら絶対に鳥よりも、ウサギを罠で獲った方がいい。

『じゃあ、ロイ。ウサギさんを探してくれよ。いっぱい獲るぞオ』
『お任せください。ああ、凄い。ウサギさんだらけだ。他の魔物もいるようですが、どうしますか』

『本日の獲物はウサギだから、そっちで頼む。他の冒険者のいないあたりがいいな』

『かしこまりました。では、あそこに見える森の中で一本高い木が見えますので、あの辺がいい感じではないかと』

「よーし、行くか。おい、ミル。ロイの話だとあっちの方がいい感じらしいぜ」
「へえ、じゃあベルバードの思し召しに従ってみるとしようか」

 そして俺達はそこへ移動した。すべてが森になっているわけではないが、魔物は元々生息しているわけではなく『出現』するそうなので、塔の迷宮が意地悪したりさえされなければ獲物に困る事はあるまい。

 むしろ素人の初心者冒険者が来ると、相手の弱さに付け込んで大量に湧くらしい。俺の強さに魔物どもがビビって出てこないとマズイのだがな。

「さあて、かかってこいやあ、ウサギども!」
「あ、馬鹿。やたらと挑発するな。そういう事をするとヘイトを溜めてしまって」

 そこへ、すかさずロイが警告を発する。
『あ、凄い数。ウサギの凄い群れが湧き上がっています。どんどん出現してきます。これはもう凄い数ですよ。数えきれません』

「そうか。おい、何かウサギが超大量に湧いたらしいぞ。よかったな」
「ええっ」
 何故か全員の顔色が青くなる。え、ウサギなんでしょ?

「馬鹿馬鹿、この馬鹿狼、逃げるぞ」
「あ、駄目、もう来た」
「なんだ、あの数は~」

 なんと、砂塵を上げてというか、森の中なので木の枝や草などを蹴り上げる感じで土埃の中、ウサギの凄まじい大群がこちらへ向かって突き進んできた。

「奴らはあの耳で自分達の悪口とかを敏感に拾い上げるんだ。そしてエキサイトしてバーサーカーモードとなり、大量の仲間を呼んで出現させるんだよ。普通は、皆で囲んで倒すというのに。おい、お前が責任を取れ!」

 それはいいんだけど。いやそれにしてもでかいな、このウサギ。しかし、へたな戦い方をして毛皮を傷つけるとマズイ、それに肉も損傷があると唐揚げにできんじゃないか。

「ようし。それなら、これしかないな」
 俺はロキの鎧、草薙を呼び出して装着、そしてベスマギルの刃は出さずにナックルモードで飛び掛かった。

 ベノムのじっちゃんにより手を入れてもらった、新生草薙の猛烈な加速効果により、俺はウサギどもに殴りかかった。

 これしかないよな。昔からウサギなんて棒きれで殴り殺していたんだから。俺のパワーを軽く込めたベスマギルのナックルで、その体長二メートルにも達さんばかりの巨躯を殴って回ったのだ。

 殴っては収納し、殴っては収納し、そしてまた殴った。人生でここまで誰かを何かを殴った事は初めてだ。

 いつ終わるのかもわからぬ、ウサギのデスマーチ。これ、お替りと言うか追加の出現(ポップ)があるんじゃないのか。

 これ終わりがあるのかどうか、ちょっと心配になってきたな。俺は四人を守りながら、ただただ殴り続けた。

 相手は何か電撃を放ってきていたが、知ったこっちゃないわ。この俺に生半可な物理攻撃が通じるもんか。

 ロイたちはミルに預けてあるから大丈夫だ。ロイとて俺の眷属なのだから、この程度では死にはしないが、何かこう絵面的にマズイというか。

 ボクシングとは違ってラウンドなんてものはないので、神の子の持久力と破壊力を見せつけて、相手の心を折るより他にない。

 というか、このダンジョンなんていう相手に心なんてあるのか?

 だが、何事にも終わりはあるものだ。ウサギどもはその凶悪そうな面構えとは裏腹にピーピーと可愛く鳴きながら退却していった。まあ、いっぱい獲れたからいいか。俺の分も大枚ありそうだ。

「よお、どうだい。いっぱい獲れたぜ」
 だが、四人は青ざめたまま俺を見ていたが、俺はウサギとの根競べに勝ったので、余は満足じゃという感じに毛繕いなどしてみたのだった。
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