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第二章 探索者フェンリル
2-7 ダンジョン観光
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俺がワクワクし過ぎて、あっちの店こっちの店を除いて回っているので一向に先に進まない。
それに、ここは観光客も多いので、ごったがえしているしな。その上、ここは俺がいたってそれほど何も言われないのだ。
従魔連れの客も多いし、荷物持ちでグリーを連れている奴らも多い。うちのパーティにも四羽いるのだ。ここも住居を構えるなら悪くない場所だ。物価が高いのが玉に瑕なのだが。
「おい、この狼。さっさと歩けよ。まあ、物珍しいのはわかるんだが」
「首輪しているからさ、紐つけて引っ張ればいいんじゃない」
「あ、そこに紐と鎖を売っているよ」
「わかったわかった、勘弁してくれ。ちゃんと歩くから。俺は紐・鎖アレルギーなの。放し飼い専門の狼なんだからね」
嬉しそうに紐や鎖を手に持って振り回し、こちらに熱い視線を送ってくる美女・美少女達。あまり嬉しくない。
地球にいた頃ならば、その美貌に負けて尻尾を振ってついていってしまったかもしれないが。
この大木と言うか、縦長ダンジョンは、その根元だけでも直径一キロメートルはありそうなほどだった。少々の建物など豆粒ほどにしか見えない。
通常、ダンジョンというものは地下に潜り込んでいるため、その大きさを衆目に晒すという事はあまりないのだが、こいつはいわば土中にある蛹が剥き身で外にあるような物なので、その巨大さは一目瞭然だ。
この一番下層の空間は大きいらしく、反対側の壁が街並みを通り越して楽々と見えてしまう。中央にはかなり太い柱のような物があって、上へと向かって伸びている。
地面から、またあるいは天井から生えている、なんというかアメリカの国立公園にある長細い太鼓のような形の奇岩を上下合わせてくっつけたような形の柱だ。
なんというか、西部劇や原始時代なんかの背景に使われたような奇岩だな。これが本物の樹木であったのなら、このような形に洞(うろ)ができてしまうことはないのだが、こいつは鉱物質の塊なので。
「あそこの柱から上に上がるのよ。二階からはね、階層の周りに昇降口はあるの。危険なもっと上へと誘うようにね。でも、ここの入り口だけは真ん中にあるの。わかる? いざとなったら、ここを閉めてしまえば出られなくなるって事よ」
おっと。そいつはなかなか剣呑な場所だな。
「そこをぶち破ったら、どうなるんだい」
「あっという間に再生するから、通り抜けるのは、まず無理でしょうね。運が悪いと中に挟まってそれっきりよ。あたしもまだそんな馬鹿は見た事がないわね」
もし俺が壁と言うか床の中に挟まってしまって、中でフェンリルマンに変身したら、出てこられるのか。それとも、押し潰されてぐちゃぐちゃになってしまうものか。どこかで一度壁の強度とやらを確認しておくかな。
「おい、何を考えている?」
「ん? 別に~」
ちょっと黒い笑いでも浮かべていたかな。自分じゃ制御できなくてね、こればかりは。本当に困ったものだが。
そして中心部に向かって二百メートルばかり歩いて、そこへ辿り着いた。
「見てろよ、面白いから」
「へえ」
そして、俺は彼女達に続いて、その柱の中へと入った。そこは直系百メートルほどのホールになっており、そこにいくつかの円形の岩がある。おや、こいつはまさか。
俺達がそれに乗ると、高さ五百メートルはあるのではないかという上の階まで、そいつは軽快に上っていった。
「こいつはまた」
「面白いだろう」
「これはダンジョンができた時からあったのかい? それとも後で作られた?」
「最初からあったと言われているがね。なんというか、ダンジョンと一体化しているというか、拒否反応のような物はないし。人工物を埋め込むと拒否反応が出て、ダンジョンの自己回復機能によりはじき出されてしまうんだ。だから建物も基礎は打ち込めないんだ」
そいつはまた。かなりハイテクだね、このダンジョンさんとやらは。上の方で穴になっているのが、今下にある奴か上下に移動中の奴で、穴がふさがっているのが二階で待機中というわけか。
面白いもんだ。落ちたりせんのかなと思って、円形の岩から外へ尻尾の先を出してみようと思ったら見えない壁にぶつかった。面白いので、あれこれ遊んでいるとシンディから声がかかる。
「これはポータルと呼ばれているものだが、二階は人間の浸食が進み過ぎて魔物が出ないので観光客もこれを体験するのは非常に楽しみにしているわよ。
特に貴族のお子様には大人気で、そういう依頼専門の観光案内専門の冒険者もいるくらいさ。あれがまた馬鹿にならない収入でね。あたしらはそういうのは面倒くさいし、腕に覚えもあるから魔物相手にしてるけど。上へ行けば結構稼げるし」
「へー、いいなあ、それ。俺がやったら人気にならないかねー。巨大狼に乗れるダンジョン観光って感じでさ」
「あんたって、パッと見に強そうに見えて案外としみったれているわね」
「そ、そう?」
や、やっぱり、せっかくのダンジョンなんだから冒険しないとな。退屈しのぎにならないじゃないか。でも、観光狼の商売も捨てがたい魅力があるねえ。きっと、お子様に大人気だぜ。
それに、ここは観光客も多いので、ごったがえしているしな。その上、ここは俺がいたってそれほど何も言われないのだ。
従魔連れの客も多いし、荷物持ちでグリーを連れている奴らも多い。うちのパーティにも四羽いるのだ。ここも住居を構えるなら悪くない場所だ。物価が高いのが玉に瑕なのだが。
「おい、この狼。さっさと歩けよ。まあ、物珍しいのはわかるんだが」
「首輪しているからさ、紐つけて引っ張ればいいんじゃない」
「あ、そこに紐と鎖を売っているよ」
「わかったわかった、勘弁してくれ。ちゃんと歩くから。俺は紐・鎖アレルギーなの。放し飼い専門の狼なんだからね」
嬉しそうに紐や鎖を手に持って振り回し、こちらに熱い視線を送ってくる美女・美少女達。あまり嬉しくない。
地球にいた頃ならば、その美貌に負けて尻尾を振ってついていってしまったかもしれないが。
この大木と言うか、縦長ダンジョンは、その根元だけでも直径一キロメートルはありそうなほどだった。少々の建物など豆粒ほどにしか見えない。
通常、ダンジョンというものは地下に潜り込んでいるため、その大きさを衆目に晒すという事はあまりないのだが、こいつはいわば土中にある蛹が剥き身で外にあるような物なので、その巨大さは一目瞭然だ。
この一番下層の空間は大きいらしく、反対側の壁が街並みを通り越して楽々と見えてしまう。中央にはかなり太い柱のような物があって、上へと向かって伸びている。
地面から、またあるいは天井から生えている、なんというかアメリカの国立公園にある長細い太鼓のような形の奇岩を上下合わせてくっつけたような形の柱だ。
なんというか、西部劇や原始時代なんかの背景に使われたような奇岩だな。これが本物の樹木であったのなら、このような形に洞(うろ)ができてしまうことはないのだが、こいつは鉱物質の塊なので。
「あそこの柱から上に上がるのよ。二階からはね、階層の周りに昇降口はあるの。危険なもっと上へと誘うようにね。でも、ここの入り口だけは真ん中にあるの。わかる? いざとなったら、ここを閉めてしまえば出られなくなるって事よ」
おっと。そいつはなかなか剣呑な場所だな。
「そこをぶち破ったら、どうなるんだい」
「あっという間に再生するから、通り抜けるのは、まず無理でしょうね。運が悪いと中に挟まってそれっきりよ。あたしもまだそんな馬鹿は見た事がないわね」
もし俺が壁と言うか床の中に挟まってしまって、中でフェンリルマンに変身したら、出てこられるのか。それとも、押し潰されてぐちゃぐちゃになってしまうものか。どこかで一度壁の強度とやらを確認しておくかな。
「おい、何を考えている?」
「ん? 別に~」
ちょっと黒い笑いでも浮かべていたかな。自分じゃ制御できなくてね、こればかりは。本当に困ったものだが。
そして中心部に向かって二百メートルばかり歩いて、そこへ辿り着いた。
「見てろよ、面白いから」
「へえ」
そして、俺は彼女達に続いて、その柱の中へと入った。そこは直系百メートルほどのホールになっており、そこにいくつかの円形の岩がある。おや、こいつはまさか。
俺達がそれに乗ると、高さ五百メートルはあるのではないかという上の階まで、そいつは軽快に上っていった。
「こいつはまた」
「面白いだろう」
「これはダンジョンができた時からあったのかい? それとも後で作られた?」
「最初からあったと言われているがね。なんというか、ダンジョンと一体化しているというか、拒否反応のような物はないし。人工物を埋め込むと拒否反応が出て、ダンジョンの自己回復機能によりはじき出されてしまうんだ。だから建物も基礎は打ち込めないんだ」
そいつはまた。かなりハイテクだね、このダンジョンさんとやらは。上の方で穴になっているのが、今下にある奴か上下に移動中の奴で、穴がふさがっているのが二階で待機中というわけか。
面白いもんだ。落ちたりせんのかなと思って、円形の岩から外へ尻尾の先を出してみようと思ったら見えない壁にぶつかった。面白いので、あれこれ遊んでいるとシンディから声がかかる。
「これはポータルと呼ばれているものだが、二階は人間の浸食が進み過ぎて魔物が出ないので観光客もこれを体験するのは非常に楽しみにしているわよ。
特に貴族のお子様には大人気で、そういう依頼専門の観光案内専門の冒険者もいるくらいさ。あれがまた馬鹿にならない収入でね。あたしらはそういうのは面倒くさいし、腕に覚えもあるから魔物相手にしてるけど。上へ行けば結構稼げるし」
「へー、いいなあ、それ。俺がやったら人気にならないかねー。巨大狼に乗れるダンジョン観光って感じでさ」
「あんたって、パッと見に強そうに見えて案外としみったれているわね」
「そ、そう?」
や、やっぱり、せっかくのダンジョンなんだから冒険しないとな。退屈しのぎにならないじゃないか。でも、観光狼の商売も捨てがたい魅力があるねえ。きっと、お子様に大人気だぜ。
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