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第二章 探索者フェンリル
2-1 平穏な時
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あれから、ルナママ第三王妃様の陣営はすっかり安泰だ。もう国が決定した事なので、世継ぎはアルス王子で決定なのだ。
もうどこの陣営も口出しはできない。おそらくもう暗殺の心配もないだろう。大勢は決したというか、今まで第一王妃にすり寄っていた連中も、大半がこっちサイドに鞍替えしたし。
曲がりなりにも彼女の騎士団も誕生した。あれから、あちこちの騎士がすり寄ってきて、二人しかいなかった騎士団も大層な人数になった。
今まで修羅場を何度も潜って来たバリスタなので、びしびしと連中を鍛えている最中だ。風に乗って騎士達の悲鳴が俺のフェンリルイヤーに届く。思わず、ゆさゆさと楽し気に揺れる尻尾は仕方がないよな。
「俺達は、もうお役御免ですかね」
いつもの塔で寝そべっている俺にアレン達が訊いてきた。
「まあ、そんなようなものだが、まだ何かあるかしれん。もう少し睨みを効かせておいてくれ。本当に信用できるのは、あの二人くらいのものだからな」
「しゃあねえなあ」
「それと、誰があの装束を脱いでいいといった」
「わあ、勘弁してくれよ。周り中が、格好いい騎士の鎧を着ているのに俺達だけがあれなんだぜ。マジで勘弁してくれ」
頭をぼりぼりとかきながらアレンもボヤく。
「せっかく希代の鍛冶師、ファフニールのベノム様が作ってくれた『鎧』だというのに。神の子の眷属のくせに、この罰当たりどもめが」
「騎士団の連中だって、俺達の事を騎士だなんて思っちゃいないさ。所詮は胡散臭い仕事師だからな。あんたの眷属だから喧嘩は売られないけど」
「くっくっく。喧嘩なんぞ売ってこようものならなあ」
それはもう盛大に買わせていただきますわ。この俺自らな。
『王都に巨大狼男再び』
そんなシーンもあってもいいくらい、俺は退屈していた。
その尻尾を素晴らしい笑顔を浮かべながら虎視眈々と狙っているのは、可愛らしい赤ちゃん装束で座り込んでいるアルス王子だ。
一緒になって遊んでくれているのは、もちろんルナ姫様だ。彼女も実に楽しそうだった。赤ちゃんはいつだって天使なのさ。
御世話は大変だけどな。今も新しく就任した世話係の乳母さんがついてくれている。
「ふっふっふ、そーれそれ」
俺の自在な尻尾にもう夢中なアルス王子。
這い這いしながら、一生懸命にそれを掴もうとなさっておられる。前足に準じるほどに器用な俺の尻尾は、ありえないような動きを体現し、子供をじゃらすには最高のアイテムだ。
そのような平穏な時に身を委ねながらも、俺は頭の上で寝そべっているフィアに訊ねてみた。
「なあ、なんかさ、退屈凌ぎになるような楽しいイベントとかないの?」
「ふうん、ジャンルは?」
「問わず。バーリトゥード、何でもありで」
「そうかあ、スサノオの場合ならなあ」
そう言って人(狼)を値踏みするように見ていたが、思いついたように言った。
「じゃあ、ダンジョン探索なんてどうかな」
「お、あるのか、ダンジョン」
「うん、塔の奴と洞窟の奴が近場にあるのかな。結構にぎわっているよ」
「へえ」
俺はチラっと眷属どもを見た。
「ダンジョンって入った事あるか?」
「そりゃあ、あるさ。まあ、ああいうところは冒険者の行くところなんで、普通は俺達が依頼を受ける事はないが、中にはギルドを通せないような訳ありの仕事なんかあってね。あと、秘密厳守の仕事とかでお付き合いする事もあるな」
さすが、真っ当な冒険はしないわけだ。そういうお仕事は腕に覚えのある、音に聞こえたマルーク兄弟の出番というわけだ。
「どっちが楽しいの? 塔と洞窟」
「まず、第一にダンジョンというのは楽しみに行く場所じゃあないんだが、それを旦那に言っても仕方がない。
それはもう、好みによるしかないな。地底ダンジョンはわくわくするし、何とも言えない味があるというか、雰囲気があるよな。あれこそダンジョンという感じだろう。
塔の方は随所で外の眺めが見られるから、上がるたびに攻略感が景色で体感できる。俺の好みとしては洞窟だが、旦那なんか塔の方が好きなんじゃないのか? ほら、狼ってば高い崖の上や山の上で遠吠えしているじゃないか」
「言われてみれば、もっともな話だな。だが、それとは別に俺は人間の時分から高い所が大好きでな。新しくタワーができる度に上ったもんだ。よし、まずは天空の塔を目指すぜ。俺こそ登頂者の中の登頂者だ!」
「ルナも行くー!」
それに同意するかのように、アルス王子があうあう言っていた。さすがに俺も苦笑して二人に鼻面を寄せる。
「ルナ、さすがにそれはな。というか、もうこの前に目一杯大冒険してきたよな」
「えー、最近お城でお勉強ばかりでつまらないの。一緒に塔に上りたいなあ」
「じゃあさ、俺が様子を見てくるから、大丈夫そうなら『爺』を呼んで上まで送ってもらおうよ。塔の気の利いたテラスでランチと洒落込もうぜ」
「本当~。じゃあ唐揚げも持って行かなくっちゃあ」
唐揚げは異世界では、既に市民権を得たようだった。世継ぎの王子を守る騎士団からして唐揚げ騎士団を名乗っているしな。
「俺達はどうするんだ?」
「ああ、お前らは俺がいないんだから、ルナ姫達を頼む。何かあったら念話で呼べ。ベノムに頼んで迎えに来てもらうからよ。まあ騎士団も稼働したのだし、そうそう何事かがあるとは思わないのだがな」
「あ、そう」
なんか気の無い返事だな。こいつらも退屈しているから一緒に行きたいんじゃないのか?
「まあ、またそのうちに落ち着いたら探索に行こうぜ。騎士団の訓練も兼ねて、お姫様達を連れて迷宮ピクニックと洒落込んでも面白いしな」
「そんな事を考えるような奴は、あんたくらいのもんだ。まあ、それも悪くはないな。ダンジョンには肉が美味い奴もいるし」
「どうせなら唐揚げにしようよ」
「それもいいかもしれん」
幼女姫様は魔物の唐揚げをご所望だった。じゃあ一つ、お土産用に狩りと洒落込むかな。
もうどこの陣営も口出しはできない。おそらくもう暗殺の心配もないだろう。大勢は決したというか、今まで第一王妃にすり寄っていた連中も、大半がこっちサイドに鞍替えしたし。
曲がりなりにも彼女の騎士団も誕生した。あれから、あちこちの騎士がすり寄ってきて、二人しかいなかった騎士団も大層な人数になった。
今まで修羅場を何度も潜って来たバリスタなので、びしびしと連中を鍛えている最中だ。風に乗って騎士達の悲鳴が俺のフェンリルイヤーに届く。思わず、ゆさゆさと楽し気に揺れる尻尾は仕方がないよな。
「俺達は、もうお役御免ですかね」
いつもの塔で寝そべっている俺にアレン達が訊いてきた。
「まあ、そんなようなものだが、まだ何かあるかしれん。もう少し睨みを効かせておいてくれ。本当に信用できるのは、あの二人くらいのものだからな」
「しゃあねえなあ」
「それと、誰があの装束を脱いでいいといった」
「わあ、勘弁してくれよ。周り中が、格好いい騎士の鎧を着ているのに俺達だけがあれなんだぜ。マジで勘弁してくれ」
頭をぼりぼりとかきながらアレンもボヤく。
「せっかく希代の鍛冶師、ファフニールのベノム様が作ってくれた『鎧』だというのに。神の子の眷属のくせに、この罰当たりどもめが」
「騎士団の連中だって、俺達の事を騎士だなんて思っちゃいないさ。所詮は胡散臭い仕事師だからな。あんたの眷属だから喧嘩は売られないけど」
「くっくっく。喧嘩なんぞ売ってこようものならなあ」
それはもう盛大に買わせていただきますわ。この俺自らな。
『王都に巨大狼男再び』
そんなシーンもあってもいいくらい、俺は退屈していた。
その尻尾を素晴らしい笑顔を浮かべながら虎視眈々と狙っているのは、可愛らしい赤ちゃん装束で座り込んでいるアルス王子だ。
一緒になって遊んでくれているのは、もちろんルナ姫様だ。彼女も実に楽しそうだった。赤ちゃんはいつだって天使なのさ。
御世話は大変だけどな。今も新しく就任した世話係の乳母さんがついてくれている。
「ふっふっふ、そーれそれ」
俺の自在な尻尾にもう夢中なアルス王子。
這い這いしながら、一生懸命にそれを掴もうとなさっておられる。前足に準じるほどに器用な俺の尻尾は、ありえないような動きを体現し、子供をじゃらすには最高のアイテムだ。
そのような平穏な時に身を委ねながらも、俺は頭の上で寝そべっているフィアに訊ねてみた。
「なあ、なんかさ、退屈凌ぎになるような楽しいイベントとかないの?」
「ふうん、ジャンルは?」
「問わず。バーリトゥード、何でもありで」
「そうかあ、スサノオの場合ならなあ」
そう言って人(狼)を値踏みするように見ていたが、思いついたように言った。
「じゃあ、ダンジョン探索なんてどうかな」
「お、あるのか、ダンジョン」
「うん、塔の奴と洞窟の奴が近場にあるのかな。結構にぎわっているよ」
「へえ」
俺はチラっと眷属どもを見た。
「ダンジョンって入った事あるか?」
「そりゃあ、あるさ。まあ、ああいうところは冒険者の行くところなんで、普通は俺達が依頼を受ける事はないが、中にはギルドを通せないような訳ありの仕事なんかあってね。あと、秘密厳守の仕事とかでお付き合いする事もあるな」
さすが、真っ当な冒険はしないわけだ。そういうお仕事は腕に覚えのある、音に聞こえたマルーク兄弟の出番というわけだ。
「どっちが楽しいの? 塔と洞窟」
「まず、第一にダンジョンというのは楽しみに行く場所じゃあないんだが、それを旦那に言っても仕方がない。
それはもう、好みによるしかないな。地底ダンジョンはわくわくするし、何とも言えない味があるというか、雰囲気があるよな。あれこそダンジョンという感じだろう。
塔の方は随所で外の眺めが見られるから、上がるたびに攻略感が景色で体感できる。俺の好みとしては洞窟だが、旦那なんか塔の方が好きなんじゃないのか? ほら、狼ってば高い崖の上や山の上で遠吠えしているじゃないか」
「言われてみれば、もっともな話だな。だが、それとは別に俺は人間の時分から高い所が大好きでな。新しくタワーができる度に上ったもんだ。よし、まずは天空の塔を目指すぜ。俺こそ登頂者の中の登頂者だ!」
「ルナも行くー!」
それに同意するかのように、アルス王子があうあう言っていた。さすがに俺も苦笑して二人に鼻面を寄せる。
「ルナ、さすがにそれはな。というか、もうこの前に目一杯大冒険してきたよな」
「えー、最近お城でお勉強ばかりでつまらないの。一緒に塔に上りたいなあ」
「じゃあさ、俺が様子を見てくるから、大丈夫そうなら『爺』を呼んで上まで送ってもらおうよ。塔の気の利いたテラスでランチと洒落込もうぜ」
「本当~。じゃあ唐揚げも持って行かなくっちゃあ」
唐揚げは異世界では、既に市民権を得たようだった。世継ぎの王子を守る騎士団からして唐揚げ騎士団を名乗っているしな。
「俺達はどうするんだ?」
「ああ、お前らは俺がいないんだから、ルナ姫達を頼む。何かあったら念話で呼べ。ベノムに頼んで迎えに来てもらうからよ。まあ騎士団も稼働したのだし、そうそう何事かがあるとは思わないのだがな」
「あ、そう」
なんか気の無い返事だな。こいつらも退屈しているから一緒に行きたいんじゃないのか?
「まあ、またそのうちに落ち着いたら探索に行こうぜ。騎士団の訓練も兼ねて、お姫様達を連れて迷宮ピクニックと洒落込んでも面白いしな」
「そんな事を考えるような奴は、あんたくらいのもんだ。まあ、それも悪くはないな。ダンジョンには肉が美味い奴もいるし」
「どうせなら唐揚げにしようよ」
「それもいいかもしれん」
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