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第一章 荒神転生
1-46 お座り
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そして、俺を睨んでいた第一王妃ジルは、ぷいっと横を向くと、文句を言い並べ始めた。
「この私をいつまで立たせておくつもりなのですか。無礼にもほどがあります。これだから第三王妃などという卑しき身分の者は」
おやおや、お客様がお怒りだな。俺はにやにやと笑いながら、悠々と町内のお祭りで出すような長机とパイプ椅子を取り出してズラリと並べてみせた。
「ささ、第一王妃様。どうぞ、ご遠慮なく」
そう言ってパイプ椅子を恭しく後ろへ引いた俺。
もちろん、彼女が座ろうとした時にさっと椅子をはずそうとか考えているわけではない。だが、彼女はたちまち怒りに頬を染めた。
「何ですか、この粗末な椅子は。この私を愚弄するのですか!」
怒ってる、怒ってる。しかし、俺は平然とこう言った。
「よしましょうや、ジル王妃様。本日は『敵同士』の初顔合わせと言う事で、このような宴席にご招待させていただいたわけでして。
これはね、そういう気兼ねのないような時に使う物なのですよ。それにこれは決して粗末な物ではございませんよ。こいつはね、この国でもあなたの国でも絶対に作る事のできない高品質かつロングセラーな、ベストセラー商品なのです」
そう、あの頑強な肉体を誇るプロレスラーでさえ、相手を殴る小道具として使うので有名なのだからな。その丈夫さと耐久性は折り紙付きなのさ。コスパも抜群だし。
そう言われて、驚いて椅子や机を見直す第一王妃様ご一行。
「お妃さま、これは凄いです。この品質は実に均一です。まるで判で押したように同じような具合にできています」
「しかも、この材質ときた日には、今までどこでも見た事がないものです」
「この鉄も素晴らしい出来具合だ。我が国では絶対に作れないものですよ」
「そして、このクッションは一見薄くありますが、なかなかの性能なのでは!? これこそ第一王妃に相応しい逸品ではないかと」
おい、最後の奴。適当な『おべんちゃら』など言うもんじゃないよ。第一王妃の奴が半分その気になっているじゃあないか。こいつは高級家具店で売っているような物じゃあないのだからな。
「さあさあ、皆さま。今日はまあ日頃の殺伐とした空気は忘れて、飲み食いしておきましょうや。どうせまた今晩から堂々とした殺し合いなんでしょ。今日からはこちらにも襲撃できるタマはあるのですから」
俺の前半後半に激しくギャップのある台詞に、ぎょっとした第一王妃と顔を顰めた第一王女、そして面白そうに見ている『私は部外者宣言』を父親に提出済みの第三王女様。
彼女はリタイヤしているために、そうそう毒殺されるような心配はない。はっきり言って毒殺対象になっているのは、第五王女ならびに第一王子と、その母親だけである。
それ以外の王女は唐揚げを食べる気満々なのだ。いや、第五王女様も食べる気満々なのだが。
幸いな事に唐揚げを作るのは、主に彼女の従魔を務める俺だし、頼まれてもいないのに毒見役を務める騎士団長と副騎士団長もいるのだから安心なのですがね。
「ささ、皆さま。お座りなさいな」
だが、まだ睨んでいる第一王妃。第一王女も馬鹿馬鹿しくなったのか、とうに座って唐揚げが運ばれてくるのを待っている。一人だけ立ちっぱなしなので、仕方がないから俺は言ってやった。
「第一王妃様、お座りっ!」
俺は『お座り』の見本を見せてやった。ただのワンコ座りだけどな。
顔を真っ赤かにして怒っている第一王妃。だが、その裾を引っ張る人物がいた。
「お母様、あんな犬っころの言う事にいちいち腹を立てていては神経が持ちませんことよ。それより、お母様があれに構っていると、いつまで待っても唐揚げが届かないじゃありませんか。今日はアレを食しに来たのでしょう? アレはあの犬っころが作るらしいですから」
それを聞いて、さっきとは少し違う意味で赤くなる第一王妃。そう、彼女はいつものような嫌がらせに来たのではなく、単に唐揚げを食いに来ただけなのだから。
しかし第一王女の奴め、清々しいほどに実利一本だな。そういうところは妹の第三王女とそっくりだ。
母親と父親のどちらに似たのだろうか。通常ならば、同腹の姉妹なのだから母親のはずなんだがな。母親の方も今は妙なプライドが邪魔をしているが、本来はああいう性格なのかもしれない。
この第一王妃様ったら、娘に言われて渋々と席についたのだが、いざ唐揚げが届いた途端に打って変わった態度だ。
文句のもの字もなく、唐揚げに齧り付いていた。この人って唐揚げを食わせておいたら、文句なんか永遠に封じられるのではないのだろうか。
これだけ食い意地は張っていそうなのに、いいプロポーションを保っているんだな。血統のような体質のせいなのか、蔭で頑張っているのか。そのあたりは、たいしたものだ。若い第三王妃に負けまいとするプライドの為せる技なのか。
俺は次々と唐揚げを出していく。カレー味唐揚げ、そして豚の唐揚げ、俺はこれが結構好きなんだ。魚の唐揚げにかかる。
まずは魚のカレイの丸揚げ、こいつがまた堪らん俺の大好物だったりする。そして、タコに河豚。やはり、唐揚げときたらこうでないとな。
もちろん、河豚は河豚調理免許を持った調理人が捌いてくれた奴なのだが。こいつが希代の毒魚だと知ったら、あの王妃め、一体何と言うだろうか。いつか教えてやるとしよう。どんな顔をするのか、今から楽しみでしょうがねえや。
それはもう、はふはふと食いまくっていて、こう唐揚げだけで終わってしまったな。白米も召喚しておいたのだが。そちらはサリーやルナ姫様のような白米がないと駄目な人たちのお腹に収まった。
フィアの奴も、あれこれとつまみ食いをしている。妖精の奴等も案外と食い意地が張っているんだよな。時々、餌に釣られて人間に捕まっている間抜けな奴もいるらしい。
日本食が美容にいいと聞いたら、第一王妃陣営の連中も態度を改めるのかもしれないがな。彼女は文句の一つも残さずに小姓に両側を支えられながら帰っていった。
もちろん唐揚げも一個たりとも残しちゃあいないのだが。敵地のど真ん中でこれとは、もはや敵ながらあっぱれとしか言いようがねえぜ。
「この私をいつまで立たせておくつもりなのですか。無礼にもほどがあります。これだから第三王妃などという卑しき身分の者は」
おやおや、お客様がお怒りだな。俺はにやにやと笑いながら、悠々と町内のお祭りで出すような長机とパイプ椅子を取り出してズラリと並べてみせた。
「ささ、第一王妃様。どうぞ、ご遠慮なく」
そう言ってパイプ椅子を恭しく後ろへ引いた俺。
もちろん、彼女が座ろうとした時にさっと椅子をはずそうとか考えているわけではない。だが、彼女はたちまち怒りに頬を染めた。
「何ですか、この粗末な椅子は。この私を愚弄するのですか!」
怒ってる、怒ってる。しかし、俺は平然とこう言った。
「よしましょうや、ジル王妃様。本日は『敵同士』の初顔合わせと言う事で、このような宴席にご招待させていただいたわけでして。
これはね、そういう気兼ねのないような時に使う物なのですよ。それにこれは決して粗末な物ではございませんよ。こいつはね、この国でもあなたの国でも絶対に作る事のできない高品質かつロングセラーな、ベストセラー商品なのです」
そう、あの頑強な肉体を誇るプロレスラーでさえ、相手を殴る小道具として使うので有名なのだからな。その丈夫さと耐久性は折り紙付きなのさ。コスパも抜群だし。
そう言われて、驚いて椅子や机を見直す第一王妃様ご一行。
「お妃さま、これは凄いです。この品質は実に均一です。まるで判で押したように同じような具合にできています」
「しかも、この材質ときた日には、今までどこでも見た事がないものです」
「この鉄も素晴らしい出来具合だ。我が国では絶対に作れないものですよ」
「そして、このクッションは一見薄くありますが、なかなかの性能なのでは!? これこそ第一王妃に相応しい逸品ではないかと」
おい、最後の奴。適当な『おべんちゃら』など言うもんじゃないよ。第一王妃の奴が半分その気になっているじゃあないか。こいつは高級家具店で売っているような物じゃあないのだからな。
「さあさあ、皆さま。今日はまあ日頃の殺伐とした空気は忘れて、飲み食いしておきましょうや。どうせまた今晩から堂々とした殺し合いなんでしょ。今日からはこちらにも襲撃できるタマはあるのですから」
俺の前半後半に激しくギャップのある台詞に、ぎょっとした第一王妃と顔を顰めた第一王女、そして面白そうに見ている『私は部外者宣言』を父親に提出済みの第三王女様。
彼女はリタイヤしているために、そうそう毒殺されるような心配はない。はっきり言って毒殺対象になっているのは、第五王女ならびに第一王子と、その母親だけである。
それ以外の王女は唐揚げを食べる気満々なのだ。いや、第五王女様も食べる気満々なのだが。
幸いな事に唐揚げを作るのは、主に彼女の従魔を務める俺だし、頼まれてもいないのに毒見役を務める騎士団長と副騎士団長もいるのだから安心なのですがね。
「ささ、皆さま。お座りなさいな」
だが、まだ睨んでいる第一王妃。第一王女も馬鹿馬鹿しくなったのか、とうに座って唐揚げが運ばれてくるのを待っている。一人だけ立ちっぱなしなので、仕方がないから俺は言ってやった。
「第一王妃様、お座りっ!」
俺は『お座り』の見本を見せてやった。ただのワンコ座りだけどな。
顔を真っ赤かにして怒っている第一王妃。だが、その裾を引っ張る人物がいた。
「お母様、あんな犬っころの言う事にいちいち腹を立てていては神経が持ちませんことよ。それより、お母様があれに構っていると、いつまで待っても唐揚げが届かないじゃありませんか。今日はアレを食しに来たのでしょう? アレはあの犬っころが作るらしいですから」
それを聞いて、さっきとは少し違う意味で赤くなる第一王妃。そう、彼女はいつものような嫌がらせに来たのではなく、単に唐揚げを食いに来ただけなのだから。
しかし第一王女の奴め、清々しいほどに実利一本だな。そういうところは妹の第三王女とそっくりだ。
母親と父親のどちらに似たのだろうか。通常ならば、同腹の姉妹なのだから母親のはずなんだがな。母親の方も今は妙なプライドが邪魔をしているが、本来はああいう性格なのかもしれない。
この第一王妃様ったら、娘に言われて渋々と席についたのだが、いざ唐揚げが届いた途端に打って変わった態度だ。
文句のもの字もなく、唐揚げに齧り付いていた。この人って唐揚げを食わせておいたら、文句なんか永遠に封じられるのではないのだろうか。
これだけ食い意地は張っていそうなのに、いいプロポーションを保っているんだな。血統のような体質のせいなのか、蔭で頑張っているのか。そのあたりは、たいしたものだ。若い第三王妃に負けまいとするプライドの為せる技なのか。
俺は次々と唐揚げを出していく。カレー味唐揚げ、そして豚の唐揚げ、俺はこれが結構好きなんだ。魚の唐揚げにかかる。
まずは魚のカレイの丸揚げ、こいつがまた堪らん俺の大好物だったりする。そして、タコに河豚。やはり、唐揚げときたらこうでないとな。
もちろん、河豚は河豚調理免許を持った調理人が捌いてくれた奴なのだが。こいつが希代の毒魚だと知ったら、あの王妃め、一体何と言うだろうか。いつか教えてやるとしよう。どんな顔をするのか、今から楽しみでしょうがねえや。
それはもう、はふはふと食いまくっていて、こう唐揚げだけで終わってしまったな。白米も召喚しておいたのだが。そちらはサリーやルナ姫様のような白米がないと駄目な人たちのお腹に収まった。
フィアの奴も、あれこれとつまみ食いをしている。妖精の奴等も案外と食い意地が張っているんだよな。時々、餌に釣られて人間に捕まっている間抜けな奴もいるらしい。
日本食が美容にいいと聞いたら、第一王妃陣営の連中も態度を改めるのかもしれないがな。彼女は文句の一つも残さずに小姓に両側を支えられながら帰っていった。
もちろん唐揚げも一個たりとも残しちゃあいないのだが。敵地のど真ん中でこれとは、もはや敵ながらあっぱれとしか言いようがねえぜ。
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