フェンリル転生 神の子に転生しましたが残念な事に魔法が使えません、魔道具と物理で頑張ります

緋色優希

文字の大きさ
上 下
40 / 107
第一章 荒神転生

1-40 大空の旅

しおりを挟む
「うわあ、たかーい。それに、いい景色だー」

 ご機嫌な幼女様と愉快な仲間達を全員乗せてというか、載せてというか、ベノムは悠々と大空の覇者となっていいた。

 かなりのスピードで飛んでくれているはずなのだが、俺達は風や加速などを特に感じない。たぶん、魔法か何かだろう。

 鳥類、飛行竜などは比較的縄張り意識が高いのだが、さすがにこいつに喧嘩を売ってくる奴はいないようだった。たまに遠目に小さく見かけるくらいだ。

 こいつはとにかくでかい。体長五十メートルはあり、馬車は収納したので四頭いた大きめの馬まで乗っている。

 連中は冒険者ギルドの馬なので肝が据わっており、この優雅な空の旅を堪能していた。滅多に使えない龍の背中というベッドの上で寝そべってみたり、背中をこすってみたり。やるなあ、馬も。

「ところで、坊はまだ神殿には帰ってこんのかい?」

「ああ、この騒動が終わるまではな。ああ、そうだ。結局、バリスタの装備を作れず仕舞いで王都に行く事になってしまったな。即興でいいから、向こうで何か鎧を作れないか」

「それなら、収納に既製品がいくらかある。今回はそれの手直しくらいでいいじゃろ」
「うん、それでいいや。いくらなんでも、そのバーバリアンみたいな恰好ではちょっとなあ」

「おい! いくらなんでもバーバリアンはねえだろう。これでもお気に入りのファッションで素材には気を使ったものなんだぞ」

「馬鹿野郎。どう見たって騎士団長には見えないだろうが。王宮は素材だのなんだのの中身よりも、見てくれが大事なんだよ」

 そう言い返すと、奴も首を竦めて唐揚げを食い出した。
「うむ、やはり大空で食う唐揚げは美味い」

「まったくですな、騎士団長殿」
「この唐揚げ騎士団めが!」

「ほほう、そいつは本望ですな。いっそ、そう名乗りますか、バリスタ団長」
「そうだな、それもよし」

「よしじゃねえ、まったく」
「ルナも唐揚げ食べたいー」

 そう言って幼女様がサリーのお膝に上ったので、俺は唐揚げを追加で召喚した。
『旦那、あっし達にも』

『あいよ』
 かくも、大空の旅のお伴には唐揚げが大人気なのであった。

 大空から眺める景色は次々と移り変わっていき、やがて段々と都会度を増していった。

 特に赤などを基調とした比較的派手な色調が増えていき、色彩豊かになっていくのを見るにつけ、塗料や色合いの豊かな素材は、まだまだ高価という事だろうか。

 だが、ふと気になったのだが、下の方で大勢の人達がこちらを指差して騒いでいる。そりゃあ、騒ぐだろうな、こんなにでかいドラゴンがいたんじゃあ。ヤベエかもしれない。

「なあ、ベノム」
「なんじゃい、坊」

「他から見えないように魔法で姿を隠したりできる?」
「別にできん事もないが、何故わしがそんな事をせねばならんのだ?」

「まず、そこからだったか」
「それに手遅れのようだの。ほれ」

 見ると、どうやら竜騎兵を乗せた飛竜のようなものが、何騎かこちらへ向かってくるのが見えた。

 何かの飛行魔物のような物の上に、キラリと光る物が見えた。騎士の鎧または何かの武具だろう。空を飛んでいるのだから重量のあるフルプレートではないはずだが。

「あー、領空侵犯というか、王都へ近づいたんだからな」
「あ、飛竜隊ですね。ほら、ルナ姫様の大好きな飛竜隊ですよ~」

「わー、飛竜ちゃんだー」
 無邪気に手を振るルナ姫と一緒に手を振るサリー。あいつらも敵じゃないと限ったものではないのだが。

「おい、お前らもみんな手を振っておけ。楽しそうにな」
「え、なんで俺達が、そんな子供のような真似をしないといけないんだ」

 さすがにバリスタが文句を言ってきた。確かに、このバーバリアンに無邪気な笑顔で手を振られたら先方も困るだろうがな。

「いいから、やれよ。あいつら敵に回すと面倒くさいから。『俺達への』攻撃命令が出ているのかどうか見たい」

「ああ、ドラゴンにじゃあなくって、ルナ姫に対しての暗殺指令が出ていないかどうかって話だな」
 アレンは、あっさりと話を飲み込んだ。

「ああ、そうだ。あとちょいでゴールなのだからな。ここで戦闘は避けたい。向こうに口実を与える事になりかねん。それに飛竜を落としたりすれば、後が面倒になりそうだ」

 そして兄弟達に手を振るように促した。
「えー、やるのかよ」
「勘弁だなあ」

 マルーク兄弟の弟二人は、凄く引きつらせた笑顔を彼らに向けていた。うわあ、なんて微妙な笑顔だ。

 俺だったら付き返すぜ。俺はルナ姫の隣に陣取って、得意の奴『へっへっへっへ&尻尾ふりふり』を、いつもにもましてご披露した。

 バックではグリーどもが羽根をばたばたさせて、くるくると楽し気なダンスを踊っている。

 接近してきた飛竜に対して、ベノムが軽く翼を振って敵意が無い事を示した。これは、いわば人間界の飛竜の流儀だ。

 これを飛竜にやらせられない未熟者は飛竜に乗せてもらえない。他国との抗争の火種になりかねないからだ。

 過去には、どこかの国で亡命してきた王族の飛竜を誤って撃墜したケースもあるという。何らかの理由で領空を侵犯してくる場合もあるので、むやみな戦闘は行わないのが暗黙のルールだ。

 それ以来各国間で制定された、この翼を振る合図を行った竜を安易に攻撃する事は許されない。とはベノムの説明だ。

「間もなく王都じゃの」
 それから体長格と思われる、やや大きめの飛竜が一騎近づいてきて、ベノムの右の翅上方にやってきて飛行し『乗客』の姿を確認した。

「第五王女ルナ様ご騎乗のドラゴンとみましたが」
 大声でそう誰何してきたので、サリーも両手を口元に添えて大声で叫び返す。

「いかにも、ルナ姫一行だ。乗っているものは騎士サリー他、全員彼女の警護を担当する者及び従魔である」

「王都への侵入及び着陸を許可いたします。大きなドラゴンですので、着陸できる場所を選びますから後についてきてください」

 そして、報告のために先を急ぐ一騎を見送り、隊長機を先頭に護衛機が両側についた。どうだい、このVIPぶりは。アメリカ大統領並みの待遇だな。『エアフォース・ベノム』とでも称するかね。

 ルナ姫が可愛らしく笑顔で手を振ると、若い竜騎士も同じく手を振り返してくれた。彼らはルナ王女の事をどう思っているのだろうか。

 制空権を握る精鋭と思われる彼らが、第一王妃の息がかかっていたりすると後で面倒かもしれない。あるいは、まだ幼いのに国を追われようとしているルナ王女とアルス王子に憐憫の情を抱くものか。

 いずれにせよ、彼らは王国騎士であり、第一王妃の私兵ではない。王命に従う義務があるのだ。だがまあ彼らとの戦闘を避けられてよかった事だ。王宮へ入ってしまえば、後はなんとでもなるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢に転生できたのに、結婚相手は前世のモラハラ夫だった。ピンチから助けてくれたのはイケメン辺境伯でした

はなたろう
ファンタジー
家に帰ると真っ暗だった。夫も生後6ヶ月の娘もいない。テーブルには離婚届。慌てて義実家に行くと「あなたはもう不要です」と、姑が言った。閉められる前に見えた玄関には、見覚えのある女物のパンプスがあった。 絶望して歩いていたら車に引かれ、あっけなく死んでしまった…。 目が覚めると異国のお城にいた。侯爵令嬢だという私。 しかも、その日は伯爵家に嫁ぐ日だった。 結婚前だというのに、義母様は強引に初夜を押し付けられる。 旦那様は私をあまり歓迎されていないらしいが、とりあえずベッドに押し倒される。そのとき、前世の記憶がフラッシュバック! ああ、異世界転生したんだ! でも、待って。目の前の旦那様なんだか、顔や声は違うのに、知ってる気がして仕方ない。 もしかして、転生したのは私だけじゃなかったの? ここでも姑にいびられ、モラハラ夫に抱かれ、泣いて過ごすことになるの? そんな私を救ってくれたのは、夫の弟だという、銀髪の美男子たった。 その彼もまた、どこかで会ったような……

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

咲阿ましろ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助
ファンタジー
 清水悠里は先輩に苛められ会社を辞めてしまう。異世界生活研修所の広告を見て10日間の研修に参加したが、女子率が高くテンションが上がっていた所、異世界に連れて行かれてしまう。現地実習する普通の研修生のつもりだったが事故で帰れなくなり、北欧神話の中の人に巻き込まれて強くなっていく。ただ無事に帰りたいだけなのだが。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

悪役令嬢の流れ弾をくらって貧乏クジを引く――俺達愉快なはみ出し者小隊

JUN
ファンタジー
 貧乏弱小貴族の三男から王家に次ぐ権力を持つ侯爵家に養子に入った俺ことフィー。これで安心と思いきや、義姉は世に言う悪役令嬢。やりたい放題の末、国を裏切って他国の王妃となる。残った親族はこれまでの罪が我が身に返る。養子に入った翌日であるフィーまでも、とばっちりで借金の山。運の悪さはどこまで続く。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...