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第一章 荒神転生
1-39 八百長
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「ようしっ、ここは対決しかないな、ベノムっ!」
最初は北欧神話なのに何でそんな名前なんだよっ、て突っ込んだものだがな。あまりにもぴったりだったんで納得したのさ。
何が神龍だよ。実に悪辣な、ドラゴンが悪役をやっている国ロシアなどにでもいそうなタイプだ。
この悪魔ベノムを退治すれば俺の名声は上がり、この連中も俺を神の子フェンリルとして崇めまくり、俺の名声も鰻上りだぜ。そして、聖書に記述された十戒の世界のように、道は開けるのだ!
あれ? 何故か周り全部が沈黙している。目の前で悲嘆に暮れていた奴らも、俺の仲間達も当のベノム本人も。ベノム以外は、かなり腰がヒケているようだった。
「あのう、スサノオ。一応、今日は味方で来てやったんだからな。な? まあ、日頃はあれな感じだけど、お前の事も、わし一応は評価をしとるんやで?」
だが、俺はお砂場で転げまわる馬のように転がって駄々を捏ねた。
「えー、せっかく俺の活躍の場面だっていうのに、ベノムったら酷いよー。もう、あの地球の酒を取り寄せてあげないからねー。何がファフニールだー。お前なんか、ただの首一つの八岐大蛇じゃないかー。退治するのに酒一本で十分だー」
「ま、待てやー、坊。それは堪忍やでー。酒一本だけなんていうのも堪忍やでー。わかった、わかったから。じゃあ、ここは坊の好きな『プロレスルール』でいこか」
俺はむくりっと起き上がって訊いた。
「ホント?」
だがそこで、無粋な奴が声をかける。
「やめーい。アホか、あんたらは。神の子フェンリルと神龍ファフニールが八百長試合なんかやってみい。いくらプロレスがショービジネスや八百長や言うても技は全力で受け切らなあかんルールなんやろがー。
本人たちは楽しいかもしれんけどなあ、周りに被害が出まくりやないけー。お前ら、どこのダイダラボッチや。お前らにしてみれば、じゃれた程度でも、周りが死屍累々やないか」
おのれ、フィーめ。なんて正論な事をー! 余計な真似をしおってからに。さては父の差し金だな。
まあ、こいつって俺が取り寄せたプロレスビデオの大ファンなんだけどな。本心から言えば、俺とベノムの取り組みは絶対見てみたいのに決まっているのだが。
「じゃあ、どないすんねん。こいつら上官命令で、ここからどいてくれへんねんど?」
「ああ、それにつきましては、全員ベノムの背中に乗ってこのまま王都までワープという事で。まあ、これを相手に戦いを挑んでくる馬鹿がこの国にいるのであれば、その時こそ神の軍勢が姿を現す時よ」
そこまで言うか。王国の軍勢どもが困っているが、こいつらは雰囲気からして農村から集められた、ただの農民なのだろう。この時期は、まだまだ農村は忙しいというのに。
第一王妃はこの国に置いて好き勝手にさせておくと、まるでマリーアントワネットのように国の財政を傾かせて滅ぼしそうだな。
「じゃあ、行きましょうか」
そう、あっさりと言い放ったのはサリーだった。
「お前、やけに乗り気だな」
「だって、あれ」
そう言って彼女がそっと指し示したものは、それはもうわくわくして、『あれ』に乗らないと気が済まないという態度を全身で示した状態のルナ姫だった。
手を小学校の駆け足モードで腰に当て、見開いた目をキラキラさせて鼻腔を膨らませて、一生懸命に待ち切れなそうに足踏みをしていらっしゃる。
「あー、そう。ねえルナ姫様。あの龍に乗ってみたいですか?」
「あいっ」
ああ、元気よく挨拶ができましたね。はいはい。
「そっか。じゃあ、しょうがないねー」
俺は格好のいい大戦闘を演じるのは諦めた。幼女があの状態だと、もう絶対に諦めてくれないだろうしなあ。
「という訳で、皆の衆。そういう事に決定しましたので」
「そういう事って……」
アレン何かは文句を言いたそうだったが、バリスタは煙草を燻らせながら達観した笑みを浮かべた。こいつって、実力以上に精神的に余裕のあるムードを醸し出すんだよね。
「まあ仕方がないな。この展開で前にいる腰を抜かした連中を大虐殺して通るわけにもいかんのだろう?」
「そりゃあ、そうなんだがな」
グレンはボヤいたが、ウォーレンは面白そうに言った。
「俺としちゃあ、そのプロレスとかいうのを見てみたかった気がするな」
「それには小生も少しばかり同意ですな」
ヘルマスまで、そのような事を言っている。
ここで幸いな事といえば、ルナ姫がプロレスには興味が湧いていない事だろう。女の子は大体そうだよな。
まあこの子だって王族なので、いつかは世継ぎの誕生、即ち国家存続を賭けて、どこかの王子様と大人のプロレスをしなければならない運命なのかしれないが、今は俺が全力で守ってやるぜ。
「よおし、ルナ姫。今度、その辺にいる連中でプロレス興行しようぜ。お前さんの弟であるアルス王子の王太子就任祝いなんかでどうだい」
「本当ー」
「ほう、それは面白そうですな」
おお、やる気だな、ヘルマス。鍛えているからなー、案外といけるかもしれない。
「なんだよ、俺達を混ぜない気じゃあないだろうな」
ウォーレン、お前が主役になる日がくるのかもしれないな。
「騎士団長としては聞き捨てならねえイベントの発生だな。てめえら、まとめてかかってきやがれ」
なんか異世界でプロレスが人気の興行になってきそうだな。俺も頑張れば出られなくもなくてよ。結構人化した邪神モードなんですけどね。
最初は北欧神話なのに何でそんな名前なんだよっ、て突っ込んだものだがな。あまりにもぴったりだったんで納得したのさ。
何が神龍だよ。実に悪辣な、ドラゴンが悪役をやっている国ロシアなどにでもいそうなタイプだ。
この悪魔ベノムを退治すれば俺の名声は上がり、この連中も俺を神の子フェンリルとして崇めまくり、俺の名声も鰻上りだぜ。そして、聖書に記述された十戒の世界のように、道は開けるのだ!
あれ? 何故か周り全部が沈黙している。目の前で悲嘆に暮れていた奴らも、俺の仲間達も当のベノム本人も。ベノム以外は、かなり腰がヒケているようだった。
「あのう、スサノオ。一応、今日は味方で来てやったんだからな。な? まあ、日頃はあれな感じだけど、お前の事も、わし一応は評価をしとるんやで?」
だが、俺はお砂場で転げまわる馬のように転がって駄々を捏ねた。
「えー、せっかく俺の活躍の場面だっていうのに、ベノムったら酷いよー。もう、あの地球の酒を取り寄せてあげないからねー。何がファフニールだー。お前なんか、ただの首一つの八岐大蛇じゃないかー。退治するのに酒一本で十分だー」
「ま、待てやー、坊。それは堪忍やでー。酒一本だけなんていうのも堪忍やでー。わかった、わかったから。じゃあ、ここは坊の好きな『プロレスルール』でいこか」
俺はむくりっと起き上がって訊いた。
「ホント?」
だがそこで、無粋な奴が声をかける。
「やめーい。アホか、あんたらは。神の子フェンリルと神龍ファフニールが八百長試合なんかやってみい。いくらプロレスがショービジネスや八百長や言うても技は全力で受け切らなあかんルールなんやろがー。
本人たちは楽しいかもしれんけどなあ、周りに被害が出まくりやないけー。お前ら、どこのダイダラボッチや。お前らにしてみれば、じゃれた程度でも、周りが死屍累々やないか」
おのれ、フィーめ。なんて正論な事をー! 余計な真似をしおってからに。さては父の差し金だな。
まあ、こいつって俺が取り寄せたプロレスビデオの大ファンなんだけどな。本心から言えば、俺とベノムの取り組みは絶対見てみたいのに決まっているのだが。
「じゃあ、どないすんねん。こいつら上官命令で、ここからどいてくれへんねんど?」
「ああ、それにつきましては、全員ベノムの背中に乗ってこのまま王都までワープという事で。まあ、これを相手に戦いを挑んでくる馬鹿がこの国にいるのであれば、その時こそ神の軍勢が姿を現す時よ」
そこまで言うか。王国の軍勢どもが困っているが、こいつらは雰囲気からして農村から集められた、ただの農民なのだろう。この時期は、まだまだ農村は忙しいというのに。
第一王妃はこの国に置いて好き勝手にさせておくと、まるでマリーアントワネットのように国の財政を傾かせて滅ぼしそうだな。
「じゃあ、行きましょうか」
そう、あっさりと言い放ったのはサリーだった。
「お前、やけに乗り気だな」
「だって、あれ」
そう言って彼女がそっと指し示したものは、それはもうわくわくして、『あれ』に乗らないと気が済まないという態度を全身で示した状態のルナ姫だった。
手を小学校の駆け足モードで腰に当て、見開いた目をキラキラさせて鼻腔を膨らませて、一生懸命に待ち切れなそうに足踏みをしていらっしゃる。
「あー、そう。ねえルナ姫様。あの龍に乗ってみたいですか?」
「あいっ」
ああ、元気よく挨拶ができましたね。はいはい。
「そっか。じゃあ、しょうがないねー」
俺は格好のいい大戦闘を演じるのは諦めた。幼女があの状態だと、もう絶対に諦めてくれないだろうしなあ。
「という訳で、皆の衆。そういう事に決定しましたので」
「そういう事って……」
アレン何かは文句を言いたそうだったが、バリスタは煙草を燻らせながら達観した笑みを浮かべた。こいつって、実力以上に精神的に余裕のあるムードを醸し出すんだよね。
「まあ仕方がないな。この展開で前にいる腰を抜かした連中を大虐殺して通るわけにもいかんのだろう?」
「そりゃあ、そうなんだがな」
グレンはボヤいたが、ウォーレンは面白そうに言った。
「俺としちゃあ、そのプロレスとかいうのを見てみたかった気がするな」
「それには小生も少しばかり同意ですな」
ヘルマスまで、そのような事を言っている。
ここで幸いな事といえば、ルナ姫がプロレスには興味が湧いていない事だろう。女の子は大体そうだよな。
まあこの子だって王族なので、いつかは世継ぎの誕生、即ち国家存続を賭けて、どこかの王子様と大人のプロレスをしなければならない運命なのかしれないが、今は俺が全力で守ってやるぜ。
「よおし、ルナ姫。今度、その辺にいる連中でプロレス興行しようぜ。お前さんの弟であるアルス王子の王太子就任祝いなんかでどうだい」
「本当ー」
「ほう、それは面白そうですな」
おお、やる気だな、ヘルマス。鍛えているからなー、案外といけるかもしれない。
「なんだよ、俺達を混ぜない気じゃあないだろうな」
ウォーレン、お前が主役になる日がくるのかもしれないな。
「騎士団長としては聞き捨てならねえイベントの発生だな。てめえら、まとめてかかってきやがれ」
なんか異世界でプロレスが人気の興行になってきそうだな。俺も頑張れば出られなくもなくてよ。結構人化した邪神モードなんですけどね。
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