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第一章 荒神転生
1-38 生贄の悲歎
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俺達は、呆れてその軍勢を見ていた。ざっと見て五千はいるか。まあ大軍勢といえなくもないが、地球の軍隊と比べれば数も装備も貧弱という他はない。
「なあ、大将。あれどうするの」
「いやー、どうしようかなー。先に進みたかったら、皆殺しにでもしないと通れないのだが。やっぱりマズイよな」
「当り前だ。それをネタにへたすれば第三王妃自体が王家から追放されるぞ。あれは、この国の軍勢なんだ。雑魚でもいい、あいつらは俺達に殺される事が任務なんだから。
それでも、あいつらは拒否できない。遺族が国に不満を持つだろうな。あの第三王妃は自国の貴族の娘だったから、帰る事ができる国はない。
それがわかっているから、あいつらもこういう悪辣な手に出るのだ。おいたわしいな。なんか俺もだいぶ腹が立ってきたぞ」
そう、宿を出立して幾ばくかも絶たないうちに前方から雲霞のように現れた軍勢があり、それがあいつらだったという訳だ。皆、自分の役割はわかっているとみえて、一様にその表情は悲壮感を帯びて暗い。おいおい。
「やあ、諸君、お困りのようだね」
「あ、フィア。どこへ行っていたんだ、お前。まあ確かに、ただ今絶賛お困り中なんだけど」
「ちょうどいいアイテムを持ってきたよ。はい、これ」
「なんだ、こりゃあ」
それは、なんだかよくわからないリングのような物だった。
「何かの魔道具なのか?」
「ふふ。良かったら使ってみなよ。ロキが仕立てさせてくれたものだよ。僕は今までずっと、そいつのお守りをしていたんだからね」
「はあ? お前がこんなリングのお守りをしてただと」
「まあまあ、使ってみればすぐにわかるよ」
俺は首を捻ったが、こいつが言うのだからいい物なのだろう。父も一枚噛んでいるのだろうし。使い方は特に教えられていないので、とりあえずリングを開いて、前足の具合の良さそうな場所に嵌めてみた。
「それ、魔法のリングさん。なんか芸があるのなら、やってみせてちょうだいなー」
「はあい、ではお言葉に甘えて~」
「うわ、こいつ喋りやがった」
喋るアクセサリー。ITだのAIだのが溢れる現代社会なら、楽勝で有り得る話だが、この世界だとなあ。
「では、行きますよー。ペンペンペンペンペンペンペンペン」
それは三味線のつもりなのか?
「生まれいずる所、はああーあーあー、神のおおくうにいー。ペペン」
琵琶法師なのか講談なのか詩吟なのかよくわからんな。それで?
「呼び出したるわあー、神域のおー」
「あ、ちょっとタンマ」
こいつが何をやりたいのかわかってきた。それは『援軍』なのだ。フィアが手を離せなかったというのなら、『そういう物』なのだろう。
だが、こいつ。装着者たる俺の言う事など聞いていなかった。自分に酔いしれていやがる。また黒小人どもが遊んでやがるな。帰ったら〆ておくとするか。
「出でよ、神龍『ファフニール』よ」
ちっ、あれか。
元がドワーフであったというドラゴンか。うちでいうところの黒小人だよ。父ったら悪ふざけが過ぎるんじゃないのか。たまには、あの白髭巨人も悪戯したくなるものなのかねえ。
じゃあ小人さんよ、お手並み拝見といこうか。
そして、点は一瞬のうちに沸いた黒雲に覆われた。稲光がその真っ黒なスクリーンを埋め尽くし、世界は黙示録、いやラグナロクかと思うような光景に満たされた。
オーディンの息子トールの怒りに触れたのかと、人々は恐れ慄いたかもしれない。そして、その派手な背景を眷属とするかのように現れた巨大な影。それは巨大な龍だった。
心なしか人相や顔色なんかが悪い。まるで黒小人であるかのようだ。見ていると、なんかこうムカつくな。そして、フィアがくすくす笑っているのが気になった。
「どうかしたか?」
「いや別に。ほら、ファフニールの口上が始まるよ」
また面倒な奴だな。起動の遅すぎるパソコンのようにイラっとくるぜ。しかも、こんな事を言っていやがるしな。
「いよう、ロキの息子の糞狼~。この俺様がわざわざ助けに来てやったぜ~。感謝しなあ。こいつはでっかい貸しだぜー、うっひょうー」
ああっ、こいつはー。
「こら、フィア。なんでこんな奴を連れてきた!」
「だって、ロキの子供達って気まぐれなのばっかりでさ、捕まらないのよ。あんただって旅に出ちゃったじゃないのさ。あと、手持ちの魔物っていうか、番人なんかもたまたま、あれこれ駆り出されていたから連れてこられなかったのよ。
今、ロキからの仕事がないからって、棟梁が結構暇だったからさ。ロキより人使いが荒いって評判のあんたもいないしねー」
ぐふう。そう、こいつは父のところにいる黒小人の棟梁なのだ。いつも俺に踏まれている奴だった。
嫌な奴が来たな。この機に何か日頃の仕返しをされそうな嫌な予感がするぜ。まあ、ルナ王女のためだから仕方がないのだが。
あー、生贄として差し出された連中が『鳴いて』いる。更なる絶望に泣きわめいているわー。ないわー、これはないわー。俺の方が泣きたいわー。
「なあ、大将。あれどうするの」
「いやー、どうしようかなー。先に進みたかったら、皆殺しにでもしないと通れないのだが。やっぱりマズイよな」
「当り前だ。それをネタにへたすれば第三王妃自体が王家から追放されるぞ。あれは、この国の軍勢なんだ。雑魚でもいい、あいつらは俺達に殺される事が任務なんだから。
それでも、あいつらは拒否できない。遺族が国に不満を持つだろうな。あの第三王妃は自国の貴族の娘だったから、帰る事ができる国はない。
それがわかっているから、あいつらもこういう悪辣な手に出るのだ。おいたわしいな。なんか俺もだいぶ腹が立ってきたぞ」
そう、宿を出立して幾ばくかも絶たないうちに前方から雲霞のように現れた軍勢があり、それがあいつらだったという訳だ。皆、自分の役割はわかっているとみえて、一様にその表情は悲壮感を帯びて暗い。おいおい。
「やあ、諸君、お困りのようだね」
「あ、フィア。どこへ行っていたんだ、お前。まあ確かに、ただ今絶賛お困り中なんだけど」
「ちょうどいいアイテムを持ってきたよ。はい、これ」
「なんだ、こりゃあ」
それは、なんだかよくわからないリングのような物だった。
「何かの魔道具なのか?」
「ふふ。良かったら使ってみなよ。ロキが仕立てさせてくれたものだよ。僕は今までずっと、そいつのお守りをしていたんだからね」
「はあ? お前がこんなリングのお守りをしてただと」
「まあまあ、使ってみればすぐにわかるよ」
俺は首を捻ったが、こいつが言うのだからいい物なのだろう。父も一枚噛んでいるのだろうし。使い方は特に教えられていないので、とりあえずリングを開いて、前足の具合の良さそうな場所に嵌めてみた。
「それ、魔法のリングさん。なんか芸があるのなら、やってみせてちょうだいなー」
「はあい、ではお言葉に甘えて~」
「うわ、こいつ喋りやがった」
喋るアクセサリー。ITだのAIだのが溢れる現代社会なら、楽勝で有り得る話だが、この世界だとなあ。
「では、行きますよー。ペンペンペンペンペンペンペンペン」
それは三味線のつもりなのか?
「生まれいずる所、はああーあーあー、神のおおくうにいー。ペペン」
琵琶法師なのか講談なのか詩吟なのかよくわからんな。それで?
「呼び出したるわあー、神域のおー」
「あ、ちょっとタンマ」
こいつが何をやりたいのかわかってきた。それは『援軍』なのだ。フィアが手を離せなかったというのなら、『そういう物』なのだろう。
だが、こいつ。装着者たる俺の言う事など聞いていなかった。自分に酔いしれていやがる。また黒小人どもが遊んでやがるな。帰ったら〆ておくとするか。
「出でよ、神龍『ファフニール』よ」
ちっ、あれか。
元がドワーフであったというドラゴンか。うちでいうところの黒小人だよ。父ったら悪ふざけが過ぎるんじゃないのか。たまには、あの白髭巨人も悪戯したくなるものなのかねえ。
じゃあ小人さんよ、お手並み拝見といこうか。
そして、点は一瞬のうちに沸いた黒雲に覆われた。稲光がその真っ黒なスクリーンを埋め尽くし、世界は黙示録、いやラグナロクかと思うような光景に満たされた。
オーディンの息子トールの怒りに触れたのかと、人々は恐れ慄いたかもしれない。そして、その派手な背景を眷属とするかのように現れた巨大な影。それは巨大な龍だった。
心なしか人相や顔色なんかが悪い。まるで黒小人であるかのようだ。見ていると、なんかこうムカつくな。そして、フィアがくすくす笑っているのが気になった。
「どうかしたか?」
「いや別に。ほら、ファフニールの口上が始まるよ」
また面倒な奴だな。起動の遅すぎるパソコンのようにイラっとくるぜ。しかも、こんな事を言っていやがるしな。
「いよう、ロキの息子の糞狼~。この俺様がわざわざ助けに来てやったぜ~。感謝しなあ。こいつはでっかい貸しだぜー、うっひょうー」
ああっ、こいつはー。
「こら、フィア。なんでこんな奴を連れてきた!」
「だって、ロキの子供達って気まぐれなのばっかりでさ、捕まらないのよ。あんただって旅に出ちゃったじゃないのさ。あと、手持ちの魔物っていうか、番人なんかもたまたま、あれこれ駆り出されていたから連れてこられなかったのよ。
今、ロキからの仕事がないからって、棟梁が結構暇だったからさ。ロキより人使いが荒いって評判のあんたもいないしねー」
ぐふう。そう、こいつは父のところにいる黒小人の棟梁なのだ。いつも俺に踏まれている奴だった。
嫌な奴が来たな。この機に何か日頃の仕返しをされそうな嫌な予感がするぜ。まあ、ルナ王女のためだから仕方がないのだが。
あー、生贄として差し出された連中が『鳴いて』いる。更なる絶望に泣きわめいているわー。ないわー、これはないわー。俺の方が泣きたいわー。
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